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ルームナンバー315(4)
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「どの部屋にしましょうか?」
薄暗い室内の中、煌々と光る四角のパネル群を見つめる男女2人組。……私達のことである。
ここはいわゆる、ご休憩がメインに設定されているホテルのロビー。あの居酒屋から更に駅を離れた場所は実はホテル街だったのだ。
あれから「それでは善は急げですよね」などと言われて、イケメンに半ば引きずられるように店を出た私達は、ホテル街へと足を向けたのだった。
繋がれた手は、相変わらず逃げられないようにする為か、指と指を絡ませた恋人つなぎである。
傍からみれば、イチャイチャしたがるお盛んなカップルだが、その実はなんでも追求したがる研究マニアとそれに付き合わされる会社の同僚という色気の欠片もない組み合わせ。
「ホテル街が近くのお店を選ぶなんて、さすが先生。うまい選択でしたね」
こちらを見て意味深に、神山透はニッコリ笑う。
違う!断じてこんな展開は予想だにしていなかったよ!
下心ありきで店を選んだように思われるのは甚だ心外である。
思い切り恨みがましい目を向けると、イケメンはフフッと笑って「冗談ですって」と楽しそうに言うのだった。
よほど「真相探求」するのが楽しみなのか、終始ゴキゲンなイケメンにドナドナされながら、相変わらず酔ってポンコツな頭の私も一応考えてみた。
『このままこの状況に流されてよいものやら』
①私は処女ではない
(と、言ってもお察しの通り経験人数は豊富ではない)
②私は現在交際相手はいない
(この何年もいないじゃないかというツッコミは不可である)
③神山透も交際相手はいない
(……と、言い張っている)
そして④、
神山透が、どうやって女性を抱くのか興味がある。
……③は気になるところだが、紺野洋子の今までの所業を鑑みれば、まあ、ギリギリ問題ないってところだろうか。
やったことはないが、いわゆる一夜の関係的なものも、どこかの漫画で見たようなセリフだが「スポーツの一種」だと思えばなんとか割り切れなくもない。
そしてなにより、性的に偏った知識しかないと見受けられるこの残念なイケメンがどんなことをしようとしているのか、なんだかんだで私も興味があるのだ。
……よし腹はくくった。
拙いながらも、先生、講義頑張っちゃうぞ!!
酔った人間の行動ほど無敵なものはない。
シラフだったら絶対に選択しない行動を選ぶ私なのだった。
そして現在、パネルの前。
イケメンはのんびり「部屋ごとになにかオプションが変わるんですかね?」などと言って興味深くパネルを覗き込んでいる。さすがは研究マニアである。
そんな神山透を尻目に、なんとなく他の客と鉢合わせするのは恥ずかしい私は「この部屋にしましょう!」と数ある部屋の中、315と書かれたパネルのボタンをさっさと押すのだった。
「ところでどうしてこの部屋にしようとしたんですか?」
「まあ、なんとなくですかね。」
部屋まで移動するエレベーターの中、間を持たせるためか神山透はそんな事を聞いてくる。
強いて言えばルームナンバーの315は、ゴロあわせで言うと「さぁ行こう」となる。決意表明の表れであると伝えると、神山透はブフッっと吹き出し、「たまに山本さんて、おじさんみたいなこと言いますよね」と笑うのだった。
えー?そうかぁ?
こちらは地味とはいえ、まだまだ花ざかりの20代。
おじさんと言われて嬉しい要素は何もないが、そんなことを言う神山透は店を出てからというもの、箸が転がってもおかしい年頃、女子校生のようによく笑う。
ほんの少しのことでも楽しそうにする乙女感満載のイケメンの姿。それは仕事の場面と、先程の酔う前の打ちひしがれる神山透しか知らない私にとって、新たな発見なのでもあった。
そうして入った315号室は、ラベンダー色に淡く照らされた大きなベッドとソファー、そして事後に寛いでテレビを見られるようにか巨大なスクリーンがある、タバコの匂いがする部屋だった。
「えーと、早速ですけどどうします?」
「まずはシャワーだとは思いますが、そもそも男女どちらが先に入るものなんでしょう?」
神山透に声を掛けると早速生徒から質問が飛ぶ。
うーん。シャワーどっちが先か問題!
地味に悩ましい。乏しいながらも過去の経験を思い出すが、入りたい人が先に入っていたような。……これじゃいまいち説得力がない。
昔の映画なんかのワンシーンを思い起こすと、男性が先で次いで女性に「君も入っておいでよ」とか言ってたような。うん、これだな。
先にイケメンを浴室に誘導し、とりあえずベッドに座って一息つくが、酔っぱらいにはこの布団の柔らかさがたまらない。
……いかん、眠くなってきた。
数分後、イケメンがバスローブ姿で浴室から戻ってきたので、そそくさと自分も浴室に飛び込み、シャワーを浴びる。
念の為隅々まで綺麗に洗って浴室からでて、バスローブを羽織る。さあ、これからどうしよう。
ドキドキしながら寝室に戻ると、目の前に見えるは、ラベンダー色に照らされた、体を丸めて無邪気な顔でスヤスヤ眠るイケメンの姿。
目を何度も擦って確認しても、そこにいるのは薄紫色に染まる、寝ている神山透なのであった。
……えええええーーー?????
先程までの緊張感が一気にアホらしくなる。
それからしばらく寝顔を覗き込んでいたが、神山透は全く起きる気配がない。仕方がないので布団をかけてやると、ゴロリと私もその隣に横になってみる。
今日は色々な出来事がありすぎた。
ほぅとため息を一つついてみると緊張の糸が切れたせいか、再び眠気が襲ってくる。
そして私はふわり大きく欠伸をすると、そっと瞼を閉じるのだった。
薄暗い室内の中、煌々と光る四角のパネル群を見つめる男女2人組。……私達のことである。
ここはいわゆる、ご休憩がメインに設定されているホテルのロビー。あの居酒屋から更に駅を離れた場所は実はホテル街だったのだ。
あれから「それでは善は急げですよね」などと言われて、イケメンに半ば引きずられるように店を出た私達は、ホテル街へと足を向けたのだった。
繋がれた手は、相変わらず逃げられないようにする為か、指と指を絡ませた恋人つなぎである。
傍からみれば、イチャイチャしたがるお盛んなカップルだが、その実はなんでも追求したがる研究マニアとそれに付き合わされる会社の同僚という色気の欠片もない組み合わせ。
「ホテル街が近くのお店を選ぶなんて、さすが先生。うまい選択でしたね」
こちらを見て意味深に、神山透はニッコリ笑う。
違う!断じてこんな展開は予想だにしていなかったよ!
下心ありきで店を選んだように思われるのは甚だ心外である。
思い切り恨みがましい目を向けると、イケメンはフフッと笑って「冗談ですって」と楽しそうに言うのだった。
よほど「真相探求」するのが楽しみなのか、終始ゴキゲンなイケメンにドナドナされながら、相変わらず酔ってポンコツな頭の私も一応考えてみた。
『このままこの状況に流されてよいものやら』
①私は処女ではない
(と、言ってもお察しの通り経験人数は豊富ではない)
②私は現在交際相手はいない
(この何年もいないじゃないかというツッコミは不可である)
③神山透も交際相手はいない
(……と、言い張っている)
そして④、
神山透が、どうやって女性を抱くのか興味がある。
……③は気になるところだが、紺野洋子の今までの所業を鑑みれば、まあ、ギリギリ問題ないってところだろうか。
やったことはないが、いわゆる一夜の関係的なものも、どこかの漫画で見たようなセリフだが「スポーツの一種」だと思えばなんとか割り切れなくもない。
そしてなにより、性的に偏った知識しかないと見受けられるこの残念なイケメンがどんなことをしようとしているのか、なんだかんだで私も興味があるのだ。
……よし腹はくくった。
拙いながらも、先生、講義頑張っちゃうぞ!!
酔った人間の行動ほど無敵なものはない。
シラフだったら絶対に選択しない行動を選ぶ私なのだった。
そして現在、パネルの前。
イケメンはのんびり「部屋ごとになにかオプションが変わるんですかね?」などと言って興味深くパネルを覗き込んでいる。さすがは研究マニアである。
そんな神山透を尻目に、なんとなく他の客と鉢合わせするのは恥ずかしい私は「この部屋にしましょう!」と数ある部屋の中、315と書かれたパネルのボタンをさっさと押すのだった。
「ところでどうしてこの部屋にしようとしたんですか?」
「まあ、なんとなくですかね。」
部屋まで移動するエレベーターの中、間を持たせるためか神山透はそんな事を聞いてくる。
強いて言えばルームナンバーの315は、ゴロあわせで言うと「さぁ行こう」となる。決意表明の表れであると伝えると、神山透はブフッっと吹き出し、「たまに山本さんて、おじさんみたいなこと言いますよね」と笑うのだった。
えー?そうかぁ?
こちらは地味とはいえ、まだまだ花ざかりの20代。
おじさんと言われて嬉しい要素は何もないが、そんなことを言う神山透は店を出てからというもの、箸が転がってもおかしい年頃、女子校生のようによく笑う。
ほんの少しのことでも楽しそうにする乙女感満載のイケメンの姿。それは仕事の場面と、先程の酔う前の打ちひしがれる神山透しか知らない私にとって、新たな発見なのでもあった。
そうして入った315号室は、ラベンダー色に淡く照らされた大きなベッドとソファー、そして事後に寛いでテレビを見られるようにか巨大なスクリーンがある、タバコの匂いがする部屋だった。
「えーと、早速ですけどどうします?」
「まずはシャワーだとは思いますが、そもそも男女どちらが先に入るものなんでしょう?」
神山透に声を掛けると早速生徒から質問が飛ぶ。
うーん。シャワーどっちが先か問題!
地味に悩ましい。乏しいながらも過去の経験を思い出すが、入りたい人が先に入っていたような。……これじゃいまいち説得力がない。
昔の映画なんかのワンシーンを思い起こすと、男性が先で次いで女性に「君も入っておいでよ」とか言ってたような。うん、これだな。
先にイケメンを浴室に誘導し、とりあえずベッドに座って一息つくが、酔っぱらいにはこの布団の柔らかさがたまらない。
……いかん、眠くなってきた。
数分後、イケメンがバスローブ姿で浴室から戻ってきたので、そそくさと自分も浴室に飛び込み、シャワーを浴びる。
念の為隅々まで綺麗に洗って浴室からでて、バスローブを羽織る。さあ、これからどうしよう。
ドキドキしながら寝室に戻ると、目の前に見えるは、ラベンダー色に照らされた、体を丸めて無邪気な顔でスヤスヤ眠るイケメンの姿。
目を何度も擦って確認しても、そこにいるのは薄紫色に染まる、寝ている神山透なのであった。
……えええええーーー?????
先程までの緊張感が一気にアホらしくなる。
それからしばらく寝顔を覗き込んでいたが、神山透は全く起きる気配がない。仕方がないので布団をかけてやると、ゴロリと私もその隣に横になってみる。
今日は色々な出来事がありすぎた。
ほぅとため息を一つついてみると緊張の糸が切れたせいか、再び眠気が襲ってくる。
そして私はふわり大きく欠伸をすると、そっと瞼を閉じるのだった。
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