Sexwork School〜氷を溶かして〜

1限目：性感実習基礎-1 実習開始

お腹の奥底から湧き出た快感が、そのまま胸をえぐって、頭の先から抜けていく。先輩の細く長い指に絡みつかれたモノは、何度も繰り返された寸止めでぐじゃぐじゃで、ビクビクと震えて今にも破裂しそうになっている。散々こすって、つねって、噛まれた乳首は真っ赤に腫れ、手で撫でられただけで全身がしなる。瞳をのぞき込まれて、頬を優しく撫でられ、「叩いてあげようか」と言ってそのまま返事も待たずに叩かれて、それで先走りを溢れさせる自分の体は、もう自分のものではとうになくなっている。あと、先っぽをひとこすり、たったそれだけでいい、いや、そんな贅沢いわない、耳元で、一言ささやいて、「イケ」って言ってくれるだけでいい、だから、だから……。

ー21××年、日本では「性」のあり方が大きく変わっていた。少子化、性病、性教育の遅れ、性暴力などが2000年代から指摘されていた問題が良い加減膨れ上がり、対処せざるを得なくなったのである。結果、シングルでの子育て支援、小学生からの性教育徹底、性病検査の一般化などが行われた。そして、これら以上に最も話題を呼んだのが「セックスワークスクール」だった。風俗で働くのにスクールで取得する免許が必要となったのであー

「おい、芝！次移動だぞ！」

声をかけられ、ハッと前を向く。休み時間が、残り5分を切っていた。

「ごめん、今行く！待って、タオルと着替えどこやったかな……」

ごそごそとやりつつ、先ほどまで書いていたレポートをまとめて机にしまう。実習に遅れて「罰当番」にでもなったらやりきれない。

「置いてくぞ芝！」と叫ぶクラスメイトの後を追いかけつつ、ずいぶん自分も慣れたなぁとひとりごちる。

入学したのは2ヶ月前の4月。自分の容姿と家の貧しさからこの学校を選んだ。「セックスワークスクール」通称「スクール」。

数十年前の「性改革」の時にできた学校で、できた当初は大騒ぎだったらしいが、今ではスクールがなかった時のことなんて想像もつかない。病気とか、技術面とか、色々大丈夫だったんだろうか。

あとは----と、自分の持っているピカピカの制服や筆箱を見る。どれも、全て国のお金で買ったものだ。中卒年齢から学用品や制服代も含めてタダで3年通えて、難関高校レベルの教育も受けられて、卒業したらお金に困らなくて、とここまで揃うと、もはや選ばない選択肢がない。希望すれば大学や大手企業への斡旋もしてくれるらしい。

最近ではセックスワーカー（昔で言う風俗嬢とか）の地位も高まっているようで、エリートらしき生徒もちらほら見かける。

昔は差別されていた職業だけど、自分はここで逆転してやるんだ。そう決意して校門をくぐったのはつい2ヶ月前のこと。

…でも、それにしてもコースだけでも変えられたらなぁ……。

そうぼやきたくなるのは、自分だけではないはずだ。

スクールにはコースがいくつかあり、「タチノーマルコース」「ネコノーマルコース」がメインである。そして、他にも少人数のコースがいくつかあって、その中でも比較的人気なのが「Sタチコース」「Mネココース」である。

ノーマルコースより、少人数コースの方が将来的に稼げるようになると聞いて、自分にまだ当てはまりそうな「Mネココース」を選択したのだが、思った以上のハードさに早くも逃げ出しそうだ。
そして、これから始まるのがまさにその「Mコース」必修授業「性感実習基礎 A」。しかも2コマ連続である。AがあるということはBがあるのかとか、これが基礎なら応用は一体何をやらされるんだとか、ツッコミどころが満載な授業。ギリギリまでレポートでもやって現実逃避したくなるのは当然である。

「セーフ……」

どうにか教室にすべりこんだところでチャイムが鳴った。あとはチャイムが鳴り終わるまでの一分足らずの間に席に着くだけだ。ここの先生は大体チャイムがちょうど鳴り終わる時間にやってくる。

「うし、みんな席ついてるな、じゃあ始めるぞー」

起立、礼、着席を済ませると、教室の半分に緊張が走る。Mコースのメンバーだ。もう半分に座っている上級生Sコースのメンバーはその様子を見てニコニコとしている。Sコースの上級生とMコースの下級生がペアを組んで実際にプレイをするのがこの授業のメイン。恐ろしいような、少し楽しみなような…いや、それはさすがに毒されすぎでは、とぐるぐる考えているうちにペア割りが発表されて席を並べ替える。

隣に座った相手を見て驚いた。スクールでは珍しい、エリート組の1人だ。真面目そうな髪型で、眼鏡をかけ、挨拶をしようと顔を伺っても、ピクリとも表情を動かさない。

なんか、怖い相手に当たったかなぁ……と、怯えつつ

「芝です、よろしくお願いします！」

と声をかけてみる。

「氷室だ」

と一言だけ返ってきた。どうやらそれが名前らしい。仲良くなりたいと思ったが、難しいかもしれない……。

「よし、じゃあ説明はここまで、んじゃペアでそれぞれ始めてみろ」

……しまった。ぐるぐる考えているうちに説明が終わっていたらしい。

黒板を見ると「射精管理」と書いてある。

「さっきも言ったけど、根本縛ったりするのはなしで自分で我慢すること。射精していい、させていいのはチャイムが鳴ってる間だけな。それより前でも後でもペナルティ。Mコースは次のコマお仕置きで、Sコースは成績減点なー」

先生の言葉を聞いて青ざめた。射精管理の中でも、自分の意思でのイキ我慢は一番苦手だ。しかも、今回の課題ではチャイムが鳴り始めてから鳴り終わるまでの1分足らずの間でちょうどイクしかないと言う無茶ぶりだ。しかも相手は……。


氷室先輩の顔を見ると、パチっと目が合った。

「じゃあ、始めるか」

先輩の声は、思ったより低くて、真面目な顔に似合わない色気に腰の奥がぞくりとした。