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八章 Return 11月
第101話 虚実
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「先生はね。
猿田先生が自殺したなんて
どうしても信じられないの。
見つかった遺書にしても、
あれは彼が書いたモノじゃない」
突然ナカマイ先生はそんなことを言った。
恋人が自殺をしたというだけでも
その悲しみは筆舌に尽くし難いのに、
その恋人は教え子と関係をもっていた。
教え子といってもまだ子供である。
そして教え子の妊娠がわかると、
非情にもその命を奪った。
そんな事実から目を背けたい
ナカマイ先生の気持ちは理解できる。
しかし。
「猿田先生はね。
悩みを抱えていた葉山さんの
相談に乗っていたの」
ぼんやりと考え事をしていた俺は
ナカマイ先生の言葉に
すぐに反応することができなかった。
そして俺は洋が屋上で目撃したという
ボス猿と葉山の様子を思い出した。
洋は葉山が泣いていたと言った。
それを見た洋は
ボス猿が葉山を泣かせたと思った。
実際、
同じような状況に出くわせば
多くの人間がそう考えるに違いない。
しかし。
もしそれを別の角度から見た場合、
全く違った構図が浮かび上がるのではないか。
例えば泣いていた葉山を
ボス猿が励ましていたのだとすれば。
「・・せ、先生。
葉山さんは何を悩んでいたの?」
「・・こんなことを君に話していいのかしら」
ナカマイ先生はそう呟くと口元に手を当てて
考え込んだ。
俺はそんなナカマイ先生の姿を
ただじっと見つめた。
しばらくすると覚悟を決めたのか
ナカマイ先生は頷いてから徐に口を開いた。
「君は他の子に比べて賢いから話すけど、
実は葉山さんはこの学校の誰かから
嫌がらせを受けていたようなの」
「い、嫌がらせ・・」
俺は無意識にその単語を繰り返した。
「ええ。
猿田先生は
いち早く葉山さんの変化に気付いたの。
ある時、
猿田先生は葉山さんを呼び出して訊ねたの。
彼女は『困っている』と言ったらしいわ。
でも何に困っているのか
具体的なことは一切言わなかったそうなの。
猿田先生も無理には聞き出そうとせずに、
しばらく様子を見ることにしたの」
ナカマイ先生の声が
ぼんやりと俺の耳に入ってくる。
「そんな中、
夏休みになってあんなことが起こった・・」
あんなこと・・。
「猿田先生は無理にでも
葉山さんの悩みを聞き出しておくんだったと
自分を責めていたわ」
これは夢か。
はたまた俺は狐に化かされているのか。
俺は目の前に立つ
ナカマイ先生の顔をじっと見た。
その表情は
とても嘘を吐いているように見えなかった。
そもそも。
ナカマイ先生が俺に嘘を吐く理由がない。
ならば。
ボス猿がナカマイ先生に嘘を吐いていたのか。
何のために?
自分と葉山の関係を隠すため?
しかしそれは
ナカマイ先生が2人の関係を疑っていた
ということが前提になる。
だがナカマイ先生は
遺書に書かれたような2人の関係を
信じていない。
つまり。
ボス猿がナカマイ先生に嘘を吐く理由もない。
では葉山がボス猿に嘘を吐いていた
という可能性はあるだろうか。
それこそ無意味である。
「せ、先生、その話は本当なの?
何かの間違いじゃないの?」
それでも俺は確認せずにはいられなかった。
「それは本当のことよ。
私も一度、
猿田先生に頼まれて葉山さんに確かめたの。
同性だから
私には話してくれるんじゃないかって、
猿田先生はそう考えたのね」
しかし葉山はナカマイ先生にも
詳しいことは話さなかった。
「私は葉山さんから
信用されてなかったのかな」
そう言ってナカマイ先生は
目尻にそっと指を這わせた。
俺は息苦しさを感じた。
全身の毛穴から
じっとりと汗が吹き出してくるのがわかった。
「遺書は偽物。
猿田先生は絶対に葉山さんを殺してないし、
遺書に書いてあったような
不適切な関係にはなっていないことだけは
断言できる」
ナカマイ先生の目が俺の目を正面から捉えた。
恋人を信じたいというナカマイ先生の想いが
痛いほどに伝わってきた。
だが。
葉山の妊娠は事実なのだ。
そのことだけが引っかかっていた。
「だって、
彼には子供を作ることができなかったのよ」
続くその言葉は
俺の目の前の景色から
色という色をすべて奪っていった。
猿田先生が自殺したなんて
どうしても信じられないの。
見つかった遺書にしても、
あれは彼が書いたモノじゃない」
突然ナカマイ先生はそんなことを言った。
恋人が自殺をしたというだけでも
その悲しみは筆舌に尽くし難いのに、
その恋人は教え子と関係をもっていた。
教え子といってもまだ子供である。
そして教え子の妊娠がわかると、
非情にもその命を奪った。
そんな事実から目を背けたい
ナカマイ先生の気持ちは理解できる。
しかし。
「猿田先生はね。
悩みを抱えていた葉山さんの
相談に乗っていたの」
ぼんやりと考え事をしていた俺は
ナカマイ先生の言葉に
すぐに反応することができなかった。
そして俺は洋が屋上で目撃したという
ボス猿と葉山の様子を思い出した。
洋は葉山が泣いていたと言った。
それを見た洋は
ボス猿が葉山を泣かせたと思った。
実際、
同じような状況に出くわせば
多くの人間がそう考えるに違いない。
しかし。
もしそれを別の角度から見た場合、
全く違った構図が浮かび上がるのではないか。
例えば泣いていた葉山を
ボス猿が励ましていたのだとすれば。
「・・せ、先生。
葉山さんは何を悩んでいたの?」
「・・こんなことを君に話していいのかしら」
ナカマイ先生はそう呟くと口元に手を当てて
考え込んだ。
俺はそんなナカマイ先生の姿を
ただじっと見つめた。
しばらくすると覚悟を決めたのか
ナカマイ先生は頷いてから徐に口を開いた。
「君は他の子に比べて賢いから話すけど、
実は葉山さんはこの学校の誰かから
嫌がらせを受けていたようなの」
「い、嫌がらせ・・」
俺は無意識にその単語を繰り返した。
「ええ。
猿田先生は
いち早く葉山さんの変化に気付いたの。
ある時、
猿田先生は葉山さんを呼び出して訊ねたの。
彼女は『困っている』と言ったらしいわ。
でも何に困っているのか
具体的なことは一切言わなかったそうなの。
猿田先生も無理には聞き出そうとせずに、
しばらく様子を見ることにしたの」
ナカマイ先生の声が
ぼんやりと俺の耳に入ってくる。
「そんな中、
夏休みになってあんなことが起こった・・」
あんなこと・・。
「猿田先生は無理にでも
葉山さんの悩みを聞き出しておくんだったと
自分を責めていたわ」
これは夢か。
はたまた俺は狐に化かされているのか。
俺は目の前に立つ
ナカマイ先生の顔をじっと見た。
その表情は
とても嘘を吐いているように見えなかった。
そもそも。
ナカマイ先生が俺に嘘を吐く理由がない。
ならば。
ボス猿がナカマイ先生に嘘を吐いていたのか。
何のために?
自分と葉山の関係を隠すため?
しかしそれは
ナカマイ先生が2人の関係を疑っていた
ということが前提になる。
だがナカマイ先生は
遺書に書かれたような2人の関係を
信じていない。
つまり。
ボス猿がナカマイ先生に嘘を吐く理由もない。
では葉山がボス猿に嘘を吐いていた
という可能性はあるだろうか。
それこそ無意味である。
「せ、先生、その話は本当なの?
何かの間違いじゃないの?」
それでも俺は確認せずにはいられなかった。
「それは本当のことよ。
私も一度、
猿田先生に頼まれて葉山さんに確かめたの。
同性だから
私には話してくれるんじゃないかって、
猿田先生はそう考えたのね」
しかし葉山はナカマイ先生にも
詳しいことは話さなかった。
「私は葉山さんから
信用されてなかったのかな」
そう言ってナカマイ先生は
目尻にそっと指を這わせた。
俺は息苦しさを感じた。
全身の毛穴から
じっとりと汗が吹き出してくるのがわかった。
「遺書は偽物。
猿田先生は絶対に葉山さんを殺してないし、
遺書に書いてあったような
不適切な関係にはなっていないことだけは
断言できる」
ナカマイ先生の目が俺の目を正面から捉えた。
恋人を信じたいというナカマイ先生の想いが
痛いほどに伝わってきた。
だが。
葉山の妊娠は事実なのだ。
そのことだけが引っかかっていた。
「だって、
彼には子供を作ることができなかったのよ」
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