ボクは名探偵?

Mr.M

文字の大きさ
16 / 57
四章 探偵と助手

第16話 会談

しおりを挟む
「あなたのせいよ!
 この役立たず!」
茶の間の障子戸を開けるとすぐに
罵声がボクの耳に飛び込んできた。
声のした方へ目を向けると
そこにはこちらを睨み付ける政子の姿があった。
彼女は腰を上げて
今にもボクへと飛び掛からんと息巻いていた。
隣の頼朝がそんな政子の腕を掴んでいた。
政子の真っ赤な目には
怒りと憎しみそして悲しみが混同していた。

「座りなさい、政子」
部屋の奥の姫子が静かに窘めた。
政子は糸の切れた操り人形のように
がくりと腰を落とした。
頼朝がすぐにその背を支えた。

部屋には夕食時と同じように
夜霧家の全員が揃っていたが、
そこに頼家の姿はなかった。

「頼家・・さんが殺されたというのは
 本当ですか?」
ボクが訊ねると姫子が大きく頷いた。
姫子は壁際に立っている福に目で合図を送った。
福が頷いて姫子に変わって口を開いた。


今から数十分前、
頼朝は入浴のために午の宅へ行った。
そして露天風呂で
変わり果てた息子の姿を発見した。
頼朝はすぐに裏道を駆けて巽の宅の戸を叩いた。
そして竹千代に
露天風呂で見た光景を早口で説明した。
頼朝は竹千代から着物を借りて
二人はそのまま卯の宅へ走った。
福は竹千代に
「お先生に
 お知らせして本宅へ
 お連れして下さい」
と命じて自分は頼朝と共に本宅へ向かった。


福が説明を終えると
茶の間には
政子のすすり泣く声だけが聞こえていた。

「リーリー。リーンリーン」
美しくも悲しげな虫の音が聞こえた。

「・・ということですが。
 どうしましょうか、先生?」
姫子のその口調は
まるで世間話でもするかのような
軽さを孕んでいた。

「・・そう、ですね」
ボクはコホンと大袈裟に咳をした。
「とりあえず警察に連絡を・・」
皆の視線が一斉にボクに向けられた。
「先生、ここには関係者の全員が揃っています。
 何か聞きたいことはありませんか?」
姫子がボクの言葉を無視して話を進めた。

わかってはいたが。
どうやらこの世界では
警察を頼ることも禁止されているようだ。
たしかに。
探偵が警察を頼る推理小説など
誰も読まないだろう。
ボクは皆に気付かれないように
小さく溜息を吐いた。

「頼家が死んで得をするのは誰か、
 それを考えれば犯人は明らかです」
頼朝に肩を抱かれていた政子が
恨みがましく富子と菊子を睨み付けた。
「何が言いたいのか、
 さっぱりわからないね」
富子が負けじと睨み返した。
「あなた達が結託して
 頼家を殺したのでしょう!」
政子がヒステリックに叫んだ。

「うふふふふ」
その時、富子の隣に座っていた菊子が
この場の空気にそぐわない笑い声をあげた。
「おかしなことを。
 政子姉さん、気でも触れたの?
 秀頼に限っては
 そんなことをする必要はないの。
 だってそうでしょ?
 五代が秀頼を選ぶことは必然なのよ。
 あら?
 ということは犯人は・・」
そこで菊子は富子の方にチラリと目を向けた。
「何だい、その目は?
 ウチの義尚が犯人とでも言いたいのかい?」
富子が今度は菊子を睨み付けた。
一方、菊子は富子の視線をさらりと受け流すと
徐に口を開いた。
「酒癖が悪く女好き。
 義尚の噂は嫌でも耳に入ってきますからね。
 村の娘達に酷いことをしていることも。
 本来なら夜霧の家に相応しくない人間。
 富子姉さんも尻拭いが大変でしょう?
 一体、
 どこの馬の骨の遺伝子を受け継いだのか。
 あら、御免なさい。
 父親が誰かもわからないほど
 富子姉さんも派手に遊んでたものね。
 この親にしてこの子あり。
 うふふふふ」
富子の顔が蛸のように真っ赤になって、
唇がワナワナと震えた。
「いい加減にしなっ!
 アンタこそ30も年上の爺ぃと結婚して
 後悔してるんだろ!
 夜の性活の方も秀頼が生まれてからは
 ご無沙汰らしいじゃないか!
 アンタが求めすぎるから
 爺ぃは家に寄りつかないって噂だよ。
 でもねぇ。
 いくら寂しいからって
 実の息子と懇ろな関係になるっていうのは
 褒められたものじゃないね。
 もしかしたら。
 息子とそんな関係になったから
 爺ぃが家を出てったのかもしれないね。
 五代のボートの件も
 息子を取られたくないと考えた
 アンタの仕業だろ!」
富子と菊子はお互いに睨み合ったまま
火花を散らした。

「あ、あの・・。
 と、とりあえず、
 お、落ち着きましょう」
ボクはこの場を宥めようと試みた。

「まさか、死人が出るとはなぁ。
 名探偵の先生は一体何をしてたんだ?」
その時、
義尚が口元を歪めて意地悪く微笑んだ。
「蛙」のような気味の悪い顔に
ボクは腹の下から何かが込み上げてくるような
不快感を覚えて咄嗟に口を押えた。
「でも。
 これではっきりしたじゃないか。
 どうやらあの脅迫状は本気のようだね」
それまで黙っていた秀頼が静かに口を開いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

彼女の離縁とその波紋

豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...