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四章 探偵と助手
第19話 見立て殺人
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「先生は、
何か気付かれたことはありますか?」
不意に五代の声がボクの思考を遮った。
五代が不安げな表情でこちらを見ていた。
ボクは一つ大きく咳払いをした。
「・・一つ。
わかったことがあります」
その時、部屋の壁時計が
ボーンボーンボーン・・
と21時を告げた。
「・・これは『見立て殺人』です」
『夜霧家の一族』は
さる高名な作家の有名な作品をオマージュした
推理小説である。
作品の紹介文にはそう書かれていた。
五代はボクの言葉に目を丸くした。
「え、えーっとですね。
見立て殺人というのは・・」
「それは知っています。
何かに見立てて殺人を犯したり、
死体や殺害現場に装飾を施すことですよね?」
ボクは頷いた。
「先生は頼家様の死体の様子が
何かの見立てだと仰るんですか?」
「・・はい。
彼の死体には
その名にちなんだ装飾がなされていました。
頼家と同じ名前の歴史上の人物は
修善寺の温泉で入浴中に
首を絞められて殺されたうえ、
陰嚢を斬り落とされたという説があるんです」
「リーリー。リーンリーン」
美しくも悲しげな虫の音が聞こえた。
五代が空になったボクのカップに
新しい紅茶を注いだ。
「五代さんは
誰が頼家を殺したと思いますか?」
長年夜霧家に仕えている五代には
何か心当たりがあるのではないか。
ボクは淡い期待を抱いて訊ねたが、
五代は大きく首を振っただけだった。
「では。
五代さんはあの遺言状について
どう思われますか?」
ボクは話題を変えた。
「・・わかりません。
どうして姫様があのような遺言状を
作られたのか・・」
入り婿である頼朝や秀吉の待遇を思えば、
血を大切にする夜霧家において、
姫子がどうして使用人の娘である五代を
後継者に選んだのか大きな疑問だった。
「まったく心当たりがないと?」
すると五代は躊躇いがちに口を開いた。
「・・先ほど話した夜霧の血にも
関係していますが、
もう一つ。
夜霧の家には秘密というか、
暗黙の了解のようなモノがあって・・」
そこで五代は一度言葉を止めた。
そして紅茶を一口飲んでから改めて先を続けた。
「・・夜霧の家では女の力が強いのです。
子を産んで次の世代に繋ぐのことができるのは
女ですから」
つまり。
大事なのは女であること。
姫子の遺言状にはそんな意味もあったのか。
しかし誰でも良いというわけではないだろう。
長年夜霧家に仕えている五代ならば。
姫子はそう判断したに違いない。
夜霧の血は3人の孫の内、
誰か一人から受け継がれる。
頼朝や秀吉が別宅暮らしという
使用人と同じ扱いを受けているのは
余所者ということに加えて、
男というその根本的問題のせいかもしれない。
何か気付かれたことはありますか?」
不意に五代の声がボクの思考を遮った。
五代が不安げな表情でこちらを見ていた。
ボクは一つ大きく咳払いをした。
「・・一つ。
わかったことがあります」
その時、部屋の壁時計が
ボーンボーンボーン・・
と21時を告げた。
「・・これは『見立て殺人』です」
『夜霧家の一族』は
さる高名な作家の有名な作品をオマージュした
推理小説である。
作品の紹介文にはそう書かれていた。
五代はボクの言葉に目を丸くした。
「え、えーっとですね。
見立て殺人というのは・・」
「それは知っています。
何かに見立てて殺人を犯したり、
死体や殺害現場に装飾を施すことですよね?」
ボクは頷いた。
「先生は頼家様の死体の様子が
何かの見立てだと仰るんですか?」
「・・はい。
彼の死体には
その名にちなんだ装飾がなされていました。
頼家と同じ名前の歴史上の人物は
修善寺の温泉で入浴中に
首を絞められて殺されたうえ、
陰嚢を斬り落とされたという説があるんです」
「リーリー。リーンリーン」
美しくも悲しげな虫の音が聞こえた。
五代が空になったボクのカップに
新しい紅茶を注いだ。
「五代さんは
誰が頼家を殺したと思いますか?」
長年夜霧家に仕えている五代には
何か心当たりがあるのではないか。
ボクは淡い期待を抱いて訊ねたが、
五代は大きく首を振っただけだった。
「では。
五代さんはあの遺言状について
どう思われますか?」
ボクは話題を変えた。
「・・わかりません。
どうして姫様があのような遺言状を
作られたのか・・」
入り婿である頼朝や秀吉の待遇を思えば、
血を大切にする夜霧家において、
姫子がどうして使用人の娘である五代を
後継者に選んだのか大きな疑問だった。
「まったく心当たりがないと?」
すると五代は躊躇いがちに口を開いた。
「・・先ほど話した夜霧の血にも
関係していますが、
もう一つ。
夜霧の家には秘密というか、
暗黙の了解のようなモノがあって・・」
そこで五代は一度言葉を止めた。
そして紅茶を一口飲んでから改めて先を続けた。
「・・夜霧の家では女の力が強いのです。
子を産んで次の世代に繋ぐのことができるのは
女ですから」
つまり。
大事なのは女であること。
姫子の遺言状にはそんな意味もあったのか。
しかし誰でも良いというわけではないだろう。
長年夜霧家に仕えている五代ならば。
姫子はそう判断したに違いない。
夜霧の血は3人の孫の内、
誰か一人から受け継がれる。
頼朝や秀吉が別宅暮らしという
使用人と同じ扱いを受けているのは
余所者ということに加えて、
男というその根本的問題のせいかもしれない。
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