残春はさ迷える子羊達のコンチェルト

Mr.M

文字の大きさ
82 / 114
第13楽章

第82話 疑心暗鬼と群集心理

しおりを挟む
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。

「くっくっく」
突然、西岡が笑い出した。
「残念ながら。
 あんたの考えていることは見当違いだ」
「何・・だって?」
「あんたは俺とお嬢ちゃんのどちらかが
 【犯人】と考えているんだろ?
 だがそれは見当違いだ。
 俺達はまんまと騙されていたのさ」
西岡がふたたび「くっくっく」と笑った。
「だ、誰に。
 な、何を・・。
 騙されていたと言うんですか?」
千雪が震える声で西岡に疑問を投げかけた。
西岡は大きく溜息を吐き出した。
「いいか、お嬢ちゃん。
 このゲームには元々、
 【犯人】なんて存在してないんだ」
そして西岡はジンジャーエールの瓶に
口をつけてゴクゴクゴクと飲み干した。

遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。

「郷田のカードは『クラブの2』だ。
 そしてあのおばさんは
 『クラブの8』を持っていた」
西岡は空瓶をトンッとカウンターに置いた。
千雪がハッと息を呑んだのがわかった。
「思い出したか?
 ”すべてのカードの数字は連続している。
 同じ役職のカードについても同様である”
 それがルールだったよな?
 つまり。
 【市民】のカードは2から8までの7枚。
 そして。
 【探偵】の宮崎は『ハートのA』だ」
「【犯人】のカードがない・・」
自然と声が漏れた。
「わかったか?
 俺達は存在しない【犯人】を
 追いかけていたというわけだ」
【犯人】はいない。
もしそれが本当なら・・。
「恐らく主催者は
 疑心暗鬼に陥った人間の行動を
 観察するために
 この舞台を用意したんじゃないのか?
 つまり。
 俺達は実験動物だったわけだ。
 実際。
 ルールには
 【市民】を煽るようなモノが多かった。
 覚えてるか?
 市民が全員生存の場合、報酬はなし。
 つまり。
 最低でも1人は死者が出るように
 【市民】の目の前には
 人参がぶら下げられていたんだ。
 1人が死ねば後はドミノ倒しのように
 不審と不信が連鎖する。
 1人の行動が恐怖を煽り、
 それが少しずつ他人を侵食していく。
 愚かな群集心理というわけだ」
そして西岡は大袈裟に前髪をかきあげた。
その仕草が鎌を振り上げた死神に見えて、
僕は思わず身震いした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...