平民男子と騎士団長の行く末

きわ

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「どうしたエリオット! 揺れで酔ったか!?」
「いや、大丈夫だレオン。続けてくれ」

 俺の隣で幌馬車を操っている同僚のレオンになんとか返す。が、実のところ俺はそれどころじゃないし、酔ってもいない。

「でな、どうやら、あのオルタンナ公爵様が騎士団長の見合いを取り仕切るらしい」

 俺の動揺には気づかずにレオンは話し続ける。
 なぜだかこの男はとにかく情報通で、とりわけ貴族や王族のことに詳しい。身内に情報屋がいるとか貴族の知り合いがいるとかではないようだが、謎に色々と知っている。

「騎士団長って、あの第一の騎士団長?」
「おお。うちが商品納めに行くとよくいる、ジェラルド・ブレイ・ノールダム団長だよ」

 レオンがさらりと言う。
 うん。よくいる。てか、よっぽどのことがない限りほぼ毎回いる。納品日は全てチェックしてるって言ってたから。とは、声に出して言えない。

 落ち着け、俺。

「見合いかぁ。あの団長、今まで浮いた話ひとつ聞いたことなかったもんな」
「だろ? 三十も過ぎて婚約者どころか恋人も愛人もいなくて、いい加減に身を固めろって公爵がしびれを切らしたそうだ。相手が公爵だから、断れないだろうなぁ」

 三十二歳だよ。この間お祝いしたから。貴族なのに婚約者がいないことも知ってるし、気心の知れた人の前だと自分のことは『俺』で、それ以外は『私』を使っているのも知ってる。
 恋人と愛人は……。
 そこなんだよ。さっきから俺の心臓がバクバクしてる原因。

 俺は、ジェラルド団長と体の関係を持っている。

 今の仕事場に二十二歳のときに雇ってもらって三年になるから、関係は二年くらい。
 俺が務めている店は生活に必要な日用品や雑貨、武具や馬具を手入れするのに使う物まで、幅広く取り扱っていて、配達もする。
 そして王城にも出入りしている。
 さすがに城なだけあって働いている人数がものすごいので、消耗品も大量に必要になる。出入りしている店も複数あるが、うちは騎士団からの発注が主で、週に一回は配達に来ている。
 で、注文された商品を騎士団の訓練場まで届けるのだが、そこでジェラルド団長と会った。

 第一印象は筋肉すげぇ、だった。胸も腕も太い。もう筋肉の塊みたいなのに、背が高くてわりとウエストが引き締まってるから全体のバランスがすごくいい。もちろん美形。よく日に焼けた肌と、ダークブラウンの短めの髪に深い緑の瞳は眼光鋭く。凛々しい眉に通った鼻筋、少し厚めの唇で顎はしっかりした感じ。騎士団の団長だから怖そうかと思えばそんなことは全くなく、すごく優しい。

 そして、目が合った瞬間に分かった。

 同じ仲間だって。

 なんとなく、気が合うだろうなとも思った。

 だから遠回しに誘われたのも嫌じゃなかったし、その後に体を重ねたのも自然な流れだった。
 貴族とか権力者は基本的に嫌いだ。でも歴史ある伯爵家の次男坊とヤれるって、こんなめったなことはないと、いい思い出になると、どうせ次の声はかからないだろうと、楽しむことにした。
 相手もたまには苗字無し(平民のことで、揶揄するときにも使ったりする)と遊びたいだけだろうと思った。
 俺は抱いてもらうほうだが、すげえよかった。気持ちよすぎて死ぬかもしれないって感じたのは初めてだった。団長のほうでも俺の体がよかったみたいで、それからお互いに時間を見つけては会っている。
 だから、おれの立ち位置は愛人とかか?
 別に好きだって言われたことないし、言ったこともない。

 この国は同性婚は認められていないが同性カップルは普通にいるし、そんなに白い目で見られない。
 庶民は。
 やっぱり貴族は血筋を残さないといけないから、表立っては言わずに陰でこっそり付き合うらしい。
 で、子孫を残すために好きでもない相手と政略結婚をする。そこはきっちりと気持ちを割り切るそうだ。
 レオンから聞いた。

 まあ、どうして俺が動揺しているかというと。
 見合いのことを知らなかったからだ。
 
 いくら情報通とはいえ、レオンが知っているということはある程度すでに噂が流れているということだ。
 てことは、見合い話は結構前から出てたはず。
 でもジル(俺はジェラルド団長のことを愛称で呼んでいる)は、一言もその話題に触れなかった。

 俺に言わなかったのは、なぜだろう。

 ・しょせん俺は平民なので、その手の話をする必要性を感じなかった。
 ・見合いが実は嫌で、ヤッてるときは忘れていたかった。
 ・貴族が政略結婚するのが当たり前すぎて、なんとも思ってなかった。

 考えればほかにも思いつきそうな理由はあるが、ひとつだけ確かなことがある。

 ジルは俺との関係を終わらせる気がないということ。

 自分で言うのもなんだが、ジルは俺に執着気味だ。
 正確には俺の体なんだろうけど。

 関係を持ち始めた頃のことだが、ジルが忙しくてしばらく会えない日が続いたときがあった。
 ヒマだったからひとりで飲みに行って(そういう仲間が集まる店が何件かある。ちなみに女同士の店もある)行きずりでヤッた。で、次にジルに会ったらなぜかそのことを知ってた。
 ジルいわく、たまたま知り合いがその店にいて目撃したそうだ。
 その夜はもう、大変だった。
 めちゃくちゃに泣かされた。本当に泣いた。謝ってもなかなか許してもらえなくて、解放されたのは空が白み始めた頃だった。最後らへんはもう意識が飛んでて、足腰も立たないし、そのまま宿にご宿泊だ。
 仕事が休みで本当によかった。

 俺とジルが利用している宿は一階が酒場で二階と三階に部屋が並ぶ。そして四階は建物の床面積全部を使った豪華な一室になっている。
 金払いのいいジルのおかげで俺は四階の常連だ。
 ルームサービスも充実してて、頼めば馬車の手配もしてくれる。足腰立たなくなったあの日しか使ったことないけどな。
 
 そんなこともあって、ちょっと自惚れてるとは思うが、ジルは俺のことをすぐには手放さないだろう。
 結婚しても俺との関係を続けるつもりだろう。
 たぶん。

 でもそれ、俺が嫌なんだよ。
 一緒にいればどうしたって奥さんを意識する。翌日が休みだからって朝までふたりでベッドの中にいることもできなくなる。
 それに俺、嫉妬する。
 間違いなく、やきもちやく。

 ジルがどうかは分からないけど。


 俺はジルのことが好きだから。


 でも相手は貴族だし、今の形を崩したくなくてずっと黙ったままにしている。
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