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この独房みたいな取調室に入れられて、何日経ったのか分からなくなった。
何もやることがなくて日中でも寝てたりしていたら、三日目あたりから日にちの感覚がなくなった。
食事は一日に一回か二回くらいだと思う。鉄の扉の下の方に猫が出入り出来そうな小さな戸みたいなのがあって、そこから入ってくる。食べ終わったら、空になった容器をそこから外に出しておく。
献立は酷いものだった。
たまにカビが生えている固くなったパンが一個と具がほとんどない塩味のスープだけ。
部屋の隅に置いてある大きな壺に水が入っていてそれを飲んでいる。いつからそこに入っていたのかは不明だが、俺が来てから新しく取り換えられていない。仕方なく飲んでいるが、これまたカビ臭い。
はっきり言って、腹の調子がすこぶる悪い。
体に力が入らなくて、弱っていってるのが自分でも分かる。
「まいったなぁ」
俺は寝心地の悪い寝台に転がっていた。
ここに来た初日にあのギョロ目から『ジル殺害未遂』とか聞かされて、思わずあいつの胸倉掴んだら殴り飛ばされてしまった。手加減なかったからその衝撃で口の中噛んじゃって、痛いし血も出るし。その時の口内の傷がだいぶ治ってるから、あれから一週間くらいは過ぎたのかもしれない。
とにかくもう、不満と不安しかない。
右の足首には鎖付きの枷がはまってて重い。まるで罪人に対する扱いだ。
当然こんなところに風呂があるわけなく、体中が痒くて臭い。この寝台に蚤がいなかったことが唯一の救いだ。
母さんと兄貴は無事なのか。
全く身に覚えのない疑いをかけられているわけだが、その俺の身内として同じように捕まっていたらどうしよう。俺のせいで二人が辛い目にあっているかもと思うと、なにも出来ないのに気持ちばかりが焦る。
やっぱり、貴族と関わったらいけなかったんだ。
自分だけでなく家族まで危険にさらす。
もしここを出られたら、金輪際、貴族には近づかない。
兄貴はたぶん女性と結婚するだろうから、俺はずっと母さんのそばにいよう。父さんの代わりに、母さんを守っていこう。
それで、充分だ。
高望みはしない。
だから――。
「……ここから、出してくれよ」
俺のつぶやきは誰にも届かないまま、薄暗い空間に溶けて消えていく。
ジルの殺害未遂。
誰だよ、そんな意味分からないことしたヤツは。
反貴族運動なんて知らないよ。
レオンなんて、単なるお喋り野郎だよ。
俺は本当に関係ないのに。
全身を覆う倦怠感に抗えずに目を閉じる。
大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出していく。
脳裏に浮かぶのはジルの穏やかな笑顔。
ジルは無事だろうか――。
あのまま寝ていたようだ。
扉の錠を開ける音が響いて意識が覚醒した。
頭だけを動かしてそちらを見ると、四人の男が入って来るところだった。全員、警備隊の制服を着ている。
その中の一人が手に持ったランプをテーブルの上に置くと、寝台の脚を蹴った。
「起きろ!」
重だるい体をなんとか動かして起き上がる。でも立つ気力はないから寝台に座ったままだ。
蹴った男が俺の髪を掴んで上を向かせる。そして耳元に顔を近づけてきた。
「よく、聞いてろ」
「……っ」
耳に息を吹きかけるようにして言う。油断していたから、体が小さく跳ねてしまった。
「そのまま頭を固定していろ」
「はい。ビリー上官」
ギョロ目がいた。ビリーという名前で、しかも上官らしい。どうでもいいけど。
ギョロ目ことビリーは懐から白い紙を取り出して広げ、よく聞いてろよ、とおもむろに読み上げ始めた。
「王国民でありながら国を支える柱である貴族に憎悪を募らせ、さらには害そうとした罪は明白である。直接の実行犯ではないにせよ、そのためにとった行動は極刑に値する」
――は?
言ってる意味が理解できなくて、ビリーの顔をまじまじと見る。するとそいつはニヤリと笑った。
「このままだとお前死ぬぜ? おとなしく知ってること全部話せって。そうしたら命だけは助けてやるから」
死ぬ?
極刑って、死刑ってこと?
え? なんで?
知ってることって、ないよ。
本当に何も知らない。
「知ら……ない」
かすれた声で俺は答えた。
知らないのに、何を話せばいいんだ。
するとビリーは眉間にしわを寄せた険しい表情になり、舌打ちした。
「素直に言えばいいのによう。そんなに思想が大事か? 自分の身よりも」
「俺は、反貴族じゃない!」
「じゃあ団長にくっついてたのは何でだ? 他にも男好きな貴族なんていくらでもいるだろ!」
「き、貴族は嫌いだ!」
「ほら見ろ! 反貴族じゃないか!」
「だから! 違っ――!」
パアンッと小気味良い音が響いて、視界に火花が散った。。
俺の髪を掴んでたヤツにそのまま平手打ちされたようだ。
「いい加減にしろよクソビッチが。反貴族だかなんだか知らないが、やってることは犯罪なんだよ」
俺の髪を放さないままに、その男は真上から覗き込むようにして静かに喋る。その目が嫌な感じにギラギラしてて、たぶんこいつは加虐趣味の持ち主だ。
「しょうがねえなぁ。穏便に済ませてやろうとしたのに、お前が悪いんだぜ?」
ビリーがため息交じりに言う。人の話をまともに聞かないくせに、どうして俺が悪くなるんだ。
そうしてまた、ビリーはニタリと笑った。
「お前の穴、使いもんにならなくなるだろうなぁ」
「は?」
「ここの地下牢にいるヤツら。女じゃなくても突っ込める穴があればよだれ垂らして喜ぶぜ。しかもお前、可愛い顔してるからなぁ」
ザワリと鳥肌が立った。
地下牢? ちょっと待て。何する気だ。
「良いですね。あいつら犬みたいに必死に腰振るでしょうね」
四人の男達はゲラゲラと笑った。
何もやることがなくて日中でも寝てたりしていたら、三日目あたりから日にちの感覚がなくなった。
食事は一日に一回か二回くらいだと思う。鉄の扉の下の方に猫が出入り出来そうな小さな戸みたいなのがあって、そこから入ってくる。食べ終わったら、空になった容器をそこから外に出しておく。
献立は酷いものだった。
たまにカビが生えている固くなったパンが一個と具がほとんどない塩味のスープだけ。
部屋の隅に置いてある大きな壺に水が入っていてそれを飲んでいる。いつからそこに入っていたのかは不明だが、俺が来てから新しく取り換えられていない。仕方なく飲んでいるが、これまたカビ臭い。
はっきり言って、腹の調子がすこぶる悪い。
体に力が入らなくて、弱っていってるのが自分でも分かる。
「まいったなぁ」
俺は寝心地の悪い寝台に転がっていた。
ここに来た初日にあのギョロ目から『ジル殺害未遂』とか聞かされて、思わずあいつの胸倉掴んだら殴り飛ばされてしまった。手加減なかったからその衝撃で口の中噛んじゃって、痛いし血も出るし。その時の口内の傷がだいぶ治ってるから、あれから一週間くらいは過ぎたのかもしれない。
とにかくもう、不満と不安しかない。
右の足首には鎖付きの枷がはまってて重い。まるで罪人に対する扱いだ。
当然こんなところに風呂があるわけなく、体中が痒くて臭い。この寝台に蚤がいなかったことが唯一の救いだ。
母さんと兄貴は無事なのか。
全く身に覚えのない疑いをかけられているわけだが、その俺の身内として同じように捕まっていたらどうしよう。俺のせいで二人が辛い目にあっているかもと思うと、なにも出来ないのに気持ちばかりが焦る。
やっぱり、貴族と関わったらいけなかったんだ。
自分だけでなく家族まで危険にさらす。
もしここを出られたら、金輪際、貴族には近づかない。
兄貴はたぶん女性と結婚するだろうから、俺はずっと母さんのそばにいよう。父さんの代わりに、母さんを守っていこう。
それで、充分だ。
高望みはしない。
だから――。
「……ここから、出してくれよ」
俺のつぶやきは誰にも届かないまま、薄暗い空間に溶けて消えていく。
ジルの殺害未遂。
誰だよ、そんな意味分からないことしたヤツは。
反貴族運動なんて知らないよ。
レオンなんて、単なるお喋り野郎だよ。
俺は本当に関係ないのに。
全身を覆う倦怠感に抗えずに目を閉じる。
大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出していく。
脳裏に浮かぶのはジルの穏やかな笑顔。
ジルは無事だろうか――。
あのまま寝ていたようだ。
扉の錠を開ける音が響いて意識が覚醒した。
頭だけを動かしてそちらを見ると、四人の男が入って来るところだった。全員、警備隊の制服を着ている。
その中の一人が手に持ったランプをテーブルの上に置くと、寝台の脚を蹴った。
「起きろ!」
重だるい体をなんとか動かして起き上がる。でも立つ気力はないから寝台に座ったままだ。
蹴った男が俺の髪を掴んで上を向かせる。そして耳元に顔を近づけてきた。
「よく、聞いてろ」
「……っ」
耳に息を吹きかけるようにして言う。油断していたから、体が小さく跳ねてしまった。
「そのまま頭を固定していろ」
「はい。ビリー上官」
ギョロ目がいた。ビリーという名前で、しかも上官らしい。どうでもいいけど。
ギョロ目ことビリーは懐から白い紙を取り出して広げ、よく聞いてろよ、とおもむろに読み上げ始めた。
「王国民でありながら国を支える柱である貴族に憎悪を募らせ、さらには害そうとした罪は明白である。直接の実行犯ではないにせよ、そのためにとった行動は極刑に値する」
――は?
言ってる意味が理解できなくて、ビリーの顔をまじまじと見る。するとそいつはニヤリと笑った。
「このままだとお前死ぬぜ? おとなしく知ってること全部話せって。そうしたら命だけは助けてやるから」
死ぬ?
極刑って、死刑ってこと?
え? なんで?
知ってることって、ないよ。
本当に何も知らない。
「知ら……ない」
かすれた声で俺は答えた。
知らないのに、何を話せばいいんだ。
するとビリーは眉間にしわを寄せた険しい表情になり、舌打ちした。
「素直に言えばいいのによう。そんなに思想が大事か? 自分の身よりも」
「俺は、反貴族じゃない!」
「じゃあ団長にくっついてたのは何でだ? 他にも男好きな貴族なんていくらでもいるだろ!」
「き、貴族は嫌いだ!」
「ほら見ろ! 反貴族じゃないか!」
「だから! 違っ――!」
パアンッと小気味良い音が響いて、視界に火花が散った。。
俺の髪を掴んでたヤツにそのまま平手打ちされたようだ。
「いい加減にしろよクソビッチが。反貴族だかなんだか知らないが、やってることは犯罪なんだよ」
俺の髪を放さないままに、その男は真上から覗き込むようにして静かに喋る。その目が嫌な感じにギラギラしてて、たぶんこいつは加虐趣味の持ち主だ。
「しょうがねえなぁ。穏便に済ませてやろうとしたのに、お前が悪いんだぜ?」
ビリーがため息交じりに言う。人の話をまともに聞かないくせに、どうして俺が悪くなるんだ。
そうしてまた、ビリーはニタリと笑った。
「お前の穴、使いもんにならなくなるだろうなぁ」
「は?」
「ここの地下牢にいるヤツら。女じゃなくても突っ込める穴があればよだれ垂らして喜ぶぜ。しかもお前、可愛い顔してるからなぁ」
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