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敷地内にある離れでジルは養生している。
そう聞かされて、そっかぁ、離れがあるのかあ。やっぱ貴族は金持ちだなあと、それくらいの感想しか持ってなかった。
が、こっちもすげえなあ。白亜の豪邸って感じ。
ジルと身の回りのお世話をする人だけだと、ここ広すぎない? 何部屋あるの? 家の大きさと人数の比率がおかしくない?
てか、離れに行くのにも馬車を使うんだね。
もうお腹一杯で消化不良気味だよ。
「ぼんやりしてないで。ほら、入るよぉ」
ディランさんの声で遠くに行きかけた意識が戻って来た。
ジルには会いたいが、ちょっとだけ帰りたくなってきた。この場に慣れる気がしない。
使用人さんが開けてくれた、真っ白で大きな両開きの扉をディランさんに続いて入って行く。
広い玄関ホールの正面には二階への階段。ここは二階建てで、ホールは天井まで吹き抜けになっていた。
天井からぶら下がる見事なシャンデリアはどうやって掃除するんだろう……。
「いつまでぼーっとしてるのぉ。こっちだよぉ」
再び現実逃避しかかる俺にディランさんが声をかけてくれる。
さっき密かに計画した、靴のかかとを踏むは見事に失敗した。
母屋から馬車への移動時に実行したけど、何故か踏めない。目測とはいえ確実に仕留めたと思えたのに、不思議と足が逃げている。
さすが副団長だけあって、気配にも敏いようだ。
いつか絶対に踏む。
なんてアホなことを考えながら玄関入って左手に進み、その奥にある部屋に入って行った。
「エリオット!!」
「無事だったか!!」
そこにいたのは母親と兄貴だった。
「あ……」
驚いてとっさに声が出ない俺に母親が抱き着いてきた。
「良かった無事で!」
そう言いながら母親は俺の背中を撫でた。見ると、その両目から涙が溢れていて、俺が悪いことをしたわけではないのに、何故か罪悪感が込み上げてきた。
親を泣かせるのって、しんどいんだな。
何も言わずに俺の頭にぽんと手を置いた兄貴も、今にも泣きそうな顔だった。
ごめん。泣かせて。
ごめん。心配かけて。
そう謝りたかったけど、喉に何かつまったようになって言葉が出ない。
たぶん、喋ったら俺も泣いてしまいそうだからかな。
いくら不可抗力とはいえ、この二人に家族を失うかもしれない恐怖を与えてしまったことが申し訳なくて。
俺は下唇を噛みしめた。
ふと、少し離れて立つディランさんが視界に入った。
俺以上に唇噛みしめて、目をウルウルさせてた。
何故、あんたが泣く。
涙もろい人なの? もらい泣きだよね?
さっきはあんなにニタニタ笑ってたのに。
うん。あの人見たら急に気持ちが落ち着いてきた。
そっと、母親の肩に手を置く。
「俺は大丈夫だよ。心配かけてごめん」
「ちょっと、痩せたわ」
謝る俺の頬を撫でながら、俺よりも痩せてしまった母親が言う。
「大丈夫。本当に、大丈夫だから」
それ以外に言えなかった。胸が一杯になってしまうと、上手く言葉が出てこないようだ。
そして、ディランさんの涙腺が崩壊したのを視界の端で確認した。
ボタボタ涙を流すディランさんの代わりに、この家の人が俺達家族に座るよう勧めてくれた。
赤いビロードが貼られた豪華なソファーに、母親と兄貴は座るのを躊躇していた。その気持ちは良く分かる。
ここは俺がお手本にならねばと、なるべく普通の顔して腰を降ろした。そんな俺を母親と兄貴は驚いたように見ていた。再度勧められて、やっと二人は並んで座った。それでも深く腰掛けるのは無理だったようで、座面の端っこに軽く尻を乗せる程度だ。
俺の隣にはハンカチでしきりに目を押さえているディランさんが座った。
お茶を淹れてもらい、ようやっと落ち着いて俺達は離れていた間のお互いの様子を知ることができた。
俺の方は内容的に言えないこともあるので、その都度ディランさんの泣いて赤くなった目と視線だけで確認を取りながら話した。話の間にディランさんの補足を挟みながら。
ディランさんは俺の状況にも詳しかったが、俺の家族の様子についても良く知っていた。
どうやら俺が捕まったことを知ったジルがすぐさま使用人をやって母親と兄貴を保護したようだ。外の人間に見られないように、この屋敷の侍従が使う部屋で過ごしていたらしい。二人の勤め先にも人をやって、しばらく休めるように計らってもくれたという。
ちなみに保護をしに来た使用人というのはディランさんいわく、王都警備隊よりも腕が立ち、いつもは屋敷の警護をしてる人達なんだとか。
確かに、門のところに立ってた人、体格良かったもんなあ。
俺、逞しい人が好みなんだよね。ジルみたいな。
とにかく、お互いが無事で良かった。
「エリオット」
あらかた話し終わって、母親が静かに俺の名前を呼んだ。
「うん?」
「二階にいらっしゃるそうよ。お礼を言ってきなさい」
「……」
二階に、いる――。
「そうだったあ!」
「うわ!」
ディランさんが急に叫んで、反射的に声を上げてしまった。
母親と兄貴も体がビクッてなったし。
「エリオット君。すぐに行こう。家族の感動の再会に気を取られて、すっかり忘れてたなんてバレたら後が怖いからぁ」
真面目な顔して何を言ってるんだろう、この人。
そう聞かされて、そっかぁ、離れがあるのかあ。やっぱ貴族は金持ちだなあと、それくらいの感想しか持ってなかった。
が、こっちもすげえなあ。白亜の豪邸って感じ。
ジルと身の回りのお世話をする人だけだと、ここ広すぎない? 何部屋あるの? 家の大きさと人数の比率がおかしくない?
てか、離れに行くのにも馬車を使うんだね。
もうお腹一杯で消化不良気味だよ。
「ぼんやりしてないで。ほら、入るよぉ」
ディランさんの声で遠くに行きかけた意識が戻って来た。
ジルには会いたいが、ちょっとだけ帰りたくなってきた。この場に慣れる気がしない。
使用人さんが開けてくれた、真っ白で大きな両開きの扉をディランさんに続いて入って行く。
広い玄関ホールの正面には二階への階段。ここは二階建てで、ホールは天井まで吹き抜けになっていた。
天井からぶら下がる見事なシャンデリアはどうやって掃除するんだろう……。
「いつまでぼーっとしてるのぉ。こっちだよぉ」
再び現実逃避しかかる俺にディランさんが声をかけてくれる。
さっき密かに計画した、靴のかかとを踏むは見事に失敗した。
母屋から馬車への移動時に実行したけど、何故か踏めない。目測とはいえ確実に仕留めたと思えたのに、不思議と足が逃げている。
さすが副団長だけあって、気配にも敏いようだ。
いつか絶対に踏む。
なんてアホなことを考えながら玄関入って左手に進み、その奥にある部屋に入って行った。
「エリオット!!」
「無事だったか!!」
そこにいたのは母親と兄貴だった。
「あ……」
驚いてとっさに声が出ない俺に母親が抱き着いてきた。
「良かった無事で!」
そう言いながら母親は俺の背中を撫でた。見ると、その両目から涙が溢れていて、俺が悪いことをしたわけではないのに、何故か罪悪感が込み上げてきた。
親を泣かせるのって、しんどいんだな。
何も言わずに俺の頭にぽんと手を置いた兄貴も、今にも泣きそうな顔だった。
ごめん。泣かせて。
ごめん。心配かけて。
そう謝りたかったけど、喉に何かつまったようになって言葉が出ない。
たぶん、喋ったら俺も泣いてしまいそうだからかな。
いくら不可抗力とはいえ、この二人に家族を失うかもしれない恐怖を与えてしまったことが申し訳なくて。
俺は下唇を噛みしめた。
ふと、少し離れて立つディランさんが視界に入った。
俺以上に唇噛みしめて、目をウルウルさせてた。
何故、あんたが泣く。
涙もろい人なの? もらい泣きだよね?
さっきはあんなにニタニタ笑ってたのに。
うん。あの人見たら急に気持ちが落ち着いてきた。
そっと、母親の肩に手を置く。
「俺は大丈夫だよ。心配かけてごめん」
「ちょっと、痩せたわ」
謝る俺の頬を撫でながら、俺よりも痩せてしまった母親が言う。
「大丈夫。本当に、大丈夫だから」
それ以外に言えなかった。胸が一杯になってしまうと、上手く言葉が出てこないようだ。
そして、ディランさんの涙腺が崩壊したのを視界の端で確認した。
ボタボタ涙を流すディランさんの代わりに、この家の人が俺達家族に座るよう勧めてくれた。
赤いビロードが貼られた豪華なソファーに、母親と兄貴は座るのを躊躇していた。その気持ちは良く分かる。
ここは俺がお手本にならねばと、なるべく普通の顔して腰を降ろした。そんな俺を母親と兄貴は驚いたように見ていた。再度勧められて、やっと二人は並んで座った。それでも深く腰掛けるのは無理だったようで、座面の端っこに軽く尻を乗せる程度だ。
俺の隣にはハンカチでしきりに目を押さえているディランさんが座った。
お茶を淹れてもらい、ようやっと落ち着いて俺達は離れていた間のお互いの様子を知ることができた。
俺の方は内容的に言えないこともあるので、その都度ディランさんの泣いて赤くなった目と視線だけで確認を取りながら話した。話の間にディランさんの補足を挟みながら。
ディランさんは俺の状況にも詳しかったが、俺の家族の様子についても良く知っていた。
どうやら俺が捕まったことを知ったジルがすぐさま使用人をやって母親と兄貴を保護したようだ。外の人間に見られないように、この屋敷の侍従が使う部屋で過ごしていたらしい。二人の勤め先にも人をやって、しばらく休めるように計らってもくれたという。
ちなみに保護をしに来た使用人というのはディランさんいわく、王都警備隊よりも腕が立ち、いつもは屋敷の警護をしてる人達なんだとか。
確かに、門のところに立ってた人、体格良かったもんなあ。
俺、逞しい人が好みなんだよね。ジルみたいな。
とにかく、お互いが無事で良かった。
「エリオット」
あらかた話し終わって、母親が静かに俺の名前を呼んだ。
「うん?」
「二階にいらっしゃるそうよ。お礼を言ってきなさい」
「……」
二階に、いる――。
「そうだったあ!」
「うわ!」
ディランさんが急に叫んで、反射的に声を上げてしまった。
母親と兄貴も体がビクッてなったし。
「エリオット君。すぐに行こう。家族の感動の再会に気を取られて、すっかり忘れてたなんてバレたら後が怖いからぁ」
真面目な顔して何を言ってるんだろう、この人。
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