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淡いモスグリーン色の扉を開けたその先に、ジルが立っていた。
光沢のある白い夜着に、濃い青の上着を袖を通さずに両肩にかけて、そこにいた。
いつもはきっちり上げている髪は自然に流していて、深い緑の瞳が穏やかに俺を見ていた。
「起きてて良いんですかぁ? また医者に文句言われますよぉ」
「寝てばかりだと治るものも治らなくなる。多少動いた方が良いんだ」
久しぶりに聞くジルの声はいつも通りに低くて、落ち着いてて、耳に心地良い。
「貴方は動き出すと加減が分からなくなるから、少しくらいじっとしてる方が丁度良いと思いますけどねぇ」
「ひたすら寝っ転がってるなど、体が鈍って仕方ない」
「いや、怪我してるんですよぉ。今は鍛える必要ないんですってぇ」
この部屋に一歩足を踏み入れてからまるで金縛りにあったように動けなくなって、俺は扉の近くでジルとディランさんのやり取りを見てた。
正確には、ジルから目が離せなかった。
何故なら、ディランさんと話しながらもジルもまた、ずっと俺を見ていたから。
「ディラン。細かい報告は後で聞く」
ジルは少しも俺から視線をそらさない。
「はいはい。了解です。それじゃエリオット君、またねぇ」
「えっ、はい。ありがとうございました」
片手をひらひらと振って部屋を出ていくディランさんに、慌ててお礼を言う。
ずっとジルを見てたけど、この時ばかりはディランさんの背中を見送る。
そして扉が閉まるそのわずかな間に、ジルは俺のすぐそばまで来ていた。
体の温もりを感じられる距離に。
「っ!」
全く気配を感じなかったから、振り向いたとたんにジルの分厚い胸板があって驚いた。
「エリー……」
俺を呼ぶジルの声が少しかすれてる。
見上げて、視線を絡ませる。
ジルがいつも使っている香水の匂いが、呼吸をするたびに俺の脳を甘く溶かしていくようだ。
お互い無言のまま。
ジルが目だけで聞いてくる。
だから俺も一言も喋らないまま、手の平をジルの腹辺りにそっと這わせて応える。
顔が自然に近づいて、触れた唇はとても熱かった。
角度を変えながら、感触を確かめるように何度も唇だけを合わせる。
やがてジルの手が俺の後頭部を包むように添えられる。それを合図に、俺は口を開いてジルの舌を迎え入れた。
唾液をまとわせた舌をすり合わせて、まるで蛇の交合のように絡ませる。
「んっ……ふっ」
舌の裏側をさぐられてゾクゾクする。腰の辺りに熱が集まっていくのが分かる。
ヤバいなあ。このままだとジルも俺も止められなくなる。
何も準備してないし、一階に家族がいるの分かっててヤルのはさすがに気が引ける。
でも、触れていたい。
もっとたくさん。
体の奥深くまで、触られたい。
「んんぅ」
俺の耳から頬にかけて、もう一方の手が当てられる。その指先は俺の性感帯のひとつである耳の裏をくすぐってくる。
そっと離れる唇。でも鼻先は近いまま、猫の挨拶のように擦りつける。
「エリー、会いたかった」
「うん。俺も」
「巻き込んでしまって、すまない」
「助けてもらったから、平気。家族のことも、ありがとう」
「うん」
「怪我の具合は?」
「そう深い傷じゃない。大丈夫だ」
「良かった……」
ジルの体温、匂い、声。
全部、俺の大好きなもの。
どうしよう。やっぱりずっと一緒にいたい。
「エリー。俺と別れたい気持ちは変わらないまま?」
「……だって、俺は……」
俺は平民で、ジルは貴族なうえに騎士団長で、この屋敷を見ても分かるように住む世界が全く違ってて……て、なんだか言い訳ばかりだな。
俺はジルが好きなのに。
「俺ね。ジルの人生の邪魔になりたくなかったから、別れようと思った。本当は、ジルのとこが好きだ」
「エリー」
俺の頬にあるジルの手に自分のも重ねて、その手の平にそっとキスを落とす。
「ジルが刺されたって聞いて、もう二度と会えないかもって思ったら、心臓がわし掴みにされたみたいに苦しかった。ジルは戦うのが仕事だし、これから先も怪我したり、それ以上のこともあるかもしれない……でも」
「……」
ジルの腕が俺の背中に回って優しく包まれる。
高い体温。消毒と薬とジルの匂い。
「でも、だからこそ、少しでもそばにいたい。俺は、どうしたらいい?」
「エリー。どうか俺に機会を与えてほしい」
「機会?」
「ああ。エリーの思いに応え続ける機会を。決して失望させない」
強く、ジルに抱きしめられる。
「愛してるエリー」
ごちゃごちゃと考えても、駄目な理由ばかり探してきっと答えは出ない。
だったら、自分の気持ちに素直に従った方が良いのかもしれない。その方が、少なくとも自分に嘘はついていない。何かあったら、それはその時に考えればいい。訪れてもいない未来に不安をいだくより、今を大切にしよう。
そう、自分に言い聞かせてみる。
だって、俺はジルと一緒にいたいから。
「愛してるよ、ジル」
「!!」
抱きしめ返すと、さらにジルの腕に力がこもる。
再び唇を合わせる。俺の口内を動くジルの舌が熱い。
いや。
さっきからずっと熱いなと思ってるんだよね。
少しだけ離れた唇のタイミングを逃さず、俺は素早くジルの顔面を両手で掴んで動きを強制的に止める。
「……エリー?」
「やたら熱いけど、もしかして熱がある?」
「……へ、平熱の範囲かと」
「……」
無言のまま、ジロリと睨み上げる。
「や……、その、相手の使ってた短剣がどうやらサビてたようで……」
「今すぐ寝ろ! チョロチョロ動くな!」
俺は筋肉のかたまりのようなジルの体を寝台までぐいぐい押して行った。
体を横たえたジルの顎先まで掛布団を引き上げる。
「薬は?」
「飲みました」
「とにかく、おとなしくする! しっかり治るまでヤラないからな」
「!!」
「ふははっ」
目を見開いて驚愕、という顔をしたジルに笑ってしまった。
ジルといいディランさんといい、俺が想像している貴族の姿をとことん壊してくる。
貴族という生き物じゃなくて、ちゃんと人間なんだって思える。
「エ、エリオットさん」
「ん?」
「実は私、半勃ちなのですが」
「完全に勃ってないじゃん」
「……はい」
しょーがないなぁ、もう。
笑いをかみ殺しつつ、俺はジルの耳元に顔を寄せて、わざと息を吹きかけるように喋った。
「手と口でご奉仕しましょうか、ジェラルド団長?」
「ぜひ、お願いします!」
光沢のある白い夜着に、濃い青の上着を袖を通さずに両肩にかけて、そこにいた。
いつもはきっちり上げている髪は自然に流していて、深い緑の瞳が穏やかに俺を見ていた。
「起きてて良いんですかぁ? また医者に文句言われますよぉ」
「寝てばかりだと治るものも治らなくなる。多少動いた方が良いんだ」
久しぶりに聞くジルの声はいつも通りに低くて、落ち着いてて、耳に心地良い。
「貴方は動き出すと加減が分からなくなるから、少しくらいじっとしてる方が丁度良いと思いますけどねぇ」
「ひたすら寝っ転がってるなど、体が鈍って仕方ない」
「いや、怪我してるんですよぉ。今は鍛える必要ないんですってぇ」
この部屋に一歩足を踏み入れてからまるで金縛りにあったように動けなくなって、俺は扉の近くでジルとディランさんのやり取りを見てた。
正確には、ジルから目が離せなかった。
何故なら、ディランさんと話しながらもジルもまた、ずっと俺を見ていたから。
「ディラン。細かい報告は後で聞く」
ジルは少しも俺から視線をそらさない。
「はいはい。了解です。それじゃエリオット君、またねぇ」
「えっ、はい。ありがとうございました」
片手をひらひらと振って部屋を出ていくディランさんに、慌ててお礼を言う。
ずっとジルを見てたけど、この時ばかりはディランさんの背中を見送る。
そして扉が閉まるそのわずかな間に、ジルは俺のすぐそばまで来ていた。
体の温もりを感じられる距離に。
「っ!」
全く気配を感じなかったから、振り向いたとたんにジルの分厚い胸板があって驚いた。
「エリー……」
俺を呼ぶジルの声が少しかすれてる。
見上げて、視線を絡ませる。
ジルがいつも使っている香水の匂いが、呼吸をするたびに俺の脳を甘く溶かしていくようだ。
お互い無言のまま。
ジルが目だけで聞いてくる。
だから俺も一言も喋らないまま、手の平をジルの腹辺りにそっと這わせて応える。
顔が自然に近づいて、触れた唇はとても熱かった。
角度を変えながら、感触を確かめるように何度も唇だけを合わせる。
やがてジルの手が俺の後頭部を包むように添えられる。それを合図に、俺は口を開いてジルの舌を迎え入れた。
唾液をまとわせた舌をすり合わせて、まるで蛇の交合のように絡ませる。
「んっ……ふっ」
舌の裏側をさぐられてゾクゾクする。腰の辺りに熱が集まっていくのが分かる。
ヤバいなあ。このままだとジルも俺も止められなくなる。
何も準備してないし、一階に家族がいるの分かっててヤルのはさすがに気が引ける。
でも、触れていたい。
もっとたくさん。
体の奥深くまで、触られたい。
「んんぅ」
俺の耳から頬にかけて、もう一方の手が当てられる。その指先は俺の性感帯のひとつである耳の裏をくすぐってくる。
そっと離れる唇。でも鼻先は近いまま、猫の挨拶のように擦りつける。
「エリー、会いたかった」
「うん。俺も」
「巻き込んでしまって、すまない」
「助けてもらったから、平気。家族のことも、ありがとう」
「うん」
「怪我の具合は?」
「そう深い傷じゃない。大丈夫だ」
「良かった……」
ジルの体温、匂い、声。
全部、俺の大好きなもの。
どうしよう。やっぱりずっと一緒にいたい。
「エリー。俺と別れたい気持ちは変わらないまま?」
「……だって、俺は……」
俺は平民で、ジルは貴族なうえに騎士団長で、この屋敷を見ても分かるように住む世界が全く違ってて……て、なんだか言い訳ばかりだな。
俺はジルが好きなのに。
「俺ね。ジルの人生の邪魔になりたくなかったから、別れようと思った。本当は、ジルのとこが好きだ」
「エリー」
俺の頬にあるジルの手に自分のも重ねて、その手の平にそっとキスを落とす。
「ジルが刺されたって聞いて、もう二度と会えないかもって思ったら、心臓がわし掴みにされたみたいに苦しかった。ジルは戦うのが仕事だし、これから先も怪我したり、それ以上のこともあるかもしれない……でも」
「……」
ジルの腕が俺の背中に回って優しく包まれる。
高い体温。消毒と薬とジルの匂い。
「でも、だからこそ、少しでもそばにいたい。俺は、どうしたらいい?」
「エリー。どうか俺に機会を与えてほしい」
「機会?」
「ああ。エリーの思いに応え続ける機会を。決して失望させない」
強く、ジルに抱きしめられる。
「愛してるエリー」
ごちゃごちゃと考えても、駄目な理由ばかり探してきっと答えは出ない。
だったら、自分の気持ちに素直に従った方が良いのかもしれない。その方が、少なくとも自分に嘘はついていない。何かあったら、それはその時に考えればいい。訪れてもいない未来に不安をいだくより、今を大切にしよう。
そう、自分に言い聞かせてみる。
だって、俺はジルと一緒にいたいから。
「愛してるよ、ジル」
「!!」
抱きしめ返すと、さらにジルの腕に力がこもる。
再び唇を合わせる。俺の口内を動くジルの舌が熱い。
いや。
さっきからずっと熱いなと思ってるんだよね。
少しだけ離れた唇のタイミングを逃さず、俺は素早くジルの顔面を両手で掴んで動きを強制的に止める。
「……エリー?」
「やたら熱いけど、もしかして熱がある?」
「……へ、平熱の範囲かと」
「……」
無言のまま、ジロリと睨み上げる。
「や……、その、相手の使ってた短剣がどうやらサビてたようで……」
「今すぐ寝ろ! チョロチョロ動くな!」
俺は筋肉のかたまりのようなジルの体を寝台までぐいぐい押して行った。
体を横たえたジルの顎先まで掛布団を引き上げる。
「薬は?」
「飲みました」
「とにかく、おとなしくする! しっかり治るまでヤラないからな」
「!!」
「ふははっ」
目を見開いて驚愕、という顔をしたジルに笑ってしまった。
ジルといいディランさんといい、俺が想像している貴族の姿をとことん壊してくる。
貴族という生き物じゃなくて、ちゃんと人間なんだって思える。
「エ、エリオットさん」
「ん?」
「実は私、半勃ちなのですが」
「完全に勃ってないじゃん」
「……はい」
しょーがないなぁ、もう。
笑いをかみ殺しつつ、俺はジルの耳元に顔を寄せて、わざと息を吹きかけるように喋った。
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