転生したらうちの柴犬が最強でした

深水えいな

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1.一匹と一人、転生する

1.転生は愛犬とともに

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「単刀直入に言うわ。あなたは死んだの。これから異世界に転生して魔王を倒してきて貰うわ!」

 金髪露出狂女は、突然そんな事を言い放った。

 訳が分からない。
 そもそもここはどこなのか、お前は誰なのか、分からないことだらけだったが――とりあえず相槌を打つ。

「そうか」

「そうかって」

 イライラした様子の女。

「でも魔王とか言うのは訳がわからない。ゲームじゃないんだから。というか、そもそもお前は誰だ?」

 女はフフン、と鼻で笑った。

「あら、ごめんあそばせ。そうね、まずは名乗るのがそちらの世界の礼儀かしら? 私は女神ミアキス」

 髪をかきあげ、セクシーなポーズをとるミアキス。

「ミアキスだって!?」

 思わず身を乗り出すと、ミアキスは嬉しそうに顔をほころばせる。

「あら、私の名を知っているの? ホホホ、やはり私ぐらい力のある女神ともなれば、異界にまでその名が轟いて」

「犬の祖先の名前と同じだ!!」

 俺が叫ぶと、ミアキスは眉間に深いシワを刻んだ。

「は!?」

「知らないのか? ミアキスとは、犬や猫、クマやアシカなどネコ目の祖先になった動物で」

「知らないわよ」

「およそ約6500万前から4800万年前、暁新世から始新世中期にかけて生息した小型哺乳類だ。体調はおよそ30cm、テンやイタチに似た細長い姿をしていたとされ、生息域はヨーロッパから北米。活動場所は主に樹上で、森林に住み主に爬虫類や鳥類を捕食していたとされ」

「だから知らないって!」

 語気を強め説明を遮るミアキス。

「話を元に戻すわ。あなたには、魔王退治に行ってもらいます!」

「え?」

 ミアキスはニコリとわざとらしい笑みを作る。

「あら、もしかして危険だと思ってる? でも大丈夫。素晴らしいチート能力を手にして無双できるわ。剣と魔法の支配するファンタジー世界よ。男の子なら誰だって――」

「断る」

「なんでよ! ファンタジー世界よ? チートよ? ハーレムだって作れるのよ!?」

「俺が興味があるのは犬だけだ」

「はあ? おかしいわね。最近の若者はこういうのが好きだってマニュアルにも書いてあるのに~」

 胸元から何やら冊子を取り出しパラパラめくり出すミアキス。

 サブローさんの頭を撫でる。

「俺はサブローさんと静かに暮らせればそれでいいんだ」

 ミアキスは盛大に息を吐いた。

「何、アンタ今流行りの草食系男子ってやつ? ゆるぐだスローライフがご希望!? かーっ、男の癖にタマついてんのかって感じ!」

「ん? 去勢の話か?」

「誰も去勢の話はしてないから!」

 ミアキスが唾を飛ばす。

「でもご生憎様。この子、サブローちゃんはあんたの転生に巻き込まれてここに来てしまったけど、私が責任を持ってちゃんと飼うことにしたから!」

 ミアキスはサブローさんの首元にガバリと抱きついた。

「は!?」

「だからあんたは安心して魔王退治に行ってきて。もう女神のペットに相応しい力も授けてるしぃ。ねー、サブローちゃん!」

 こいつ、女神だか何だか知らんが勝手なこと言いやがって。

「サブローさんは俺の犬だぞ」

 ミアキスは鼻で笑う。

「魔王を退治してくれたら返してあげてもいいわよ?」

 何だ、それは。
 どうやらこいつはどうしても俺を魔王退治に行かせたいらしい。でも俺はサブローさんと一緒でなければ嫌だし。

 そうだ。

「分かった。行ってもいいけど、サブローさんと一緒でなければダメだ。その代わり、俺が死んだらサブローさんはお前にくれてやるから。それでいいだろ」

 ミアキスは言葉に詰まった。が、俺が一歩も引かないので、観念したようにその条件を飲んだ。

「分かったわ。どうせあんたなんかすぐ死ぬだろうし」

「どうも」

 俺が頭を下げると、ミアキスは舌打ちをして何かの書類を空中から取り出した。

「これは契約書よ」

 書類を受け取る。

「契約書? そんなもんまであるのか」

「そう。最近はコンプライアンスとか色々と厳しくって」

 苛立たしげにミアキスは説明を始める。

「いい? 貴方に倒してもらう魔王ってのは世界を暴力で支配しようとするヤバいやつ」

「ヤバいやつなのか」

「約千年前に勇者によって封印されたんだけど、最近封印していた岩が、崖崩れで割れて封印が解かれたの」

「ふーん」

「だけど最近、勇者の生まれ変わりがいることが分かったの。それがあなた」

 何だか眉唾な話だ。

「それは確かなのか」

「ええ。検証によると、約60%の確率であなたは勇者の生まれ変わりよ」

 高いんだか低いんだかよく分からない数字だ。

 ミアキスは、契約書の一番下を指差した。

「と言うわけで、説明したからここにサインお願い」

 渡されたペンを片手に契約書をじっくりと読む、どうもミアキスの説明だけだと不安だ。

 契約書の一番上には俺の名前や年齢、生前の住所が書かれている。俺はそこに間違いがないかじっくりと確認をした。

「ちょっと、どうでもいいから早くサインしてよ」

「まぁ待てって」

--------------------------

◇柴田犬司《しばたけんじ》 18歳

(中略)

職業:勇者
所持金:金貨3枚  
通常スキル:言語適応、ステータス・オープン
特殊スキル:なし
装備:柴犬

--------------------------


「装備の欄の『柴犬』って何だ?」

 俺がサブローさんを見ると、サブローさんは不思議そうに首を傾げた。

「仕方ないでしょ。異世界にペットを持ち込むにはその方法しかないの」

「なるほど」

「その代わりチートは無いからそのつもりで。女神が転生者に与えられるのは装備か能力か、どちらか一つだから」

「なんてケチなんだ」

 再び契約書に目を通す。

「じゃあ、この金貨三枚ってのは何?」

 ミアキスは胸元から金貨を三枚取り出し、風呂敷みたいな青っぽい薄布に包んで俺に手渡した。

「これが最初の持ち金よ。当面の宿代と食事代にするといいわ」

「どうも」

 俺は金貨三枚をポケットに入れた。
 危ない。俺が聞かなければ所持金0からスタートするところだった。こいつ本当に大丈夫か? 

「じゃあこのスキルってのは」

「スキルも知らないの? 魔法みたいなものよ」

「なるほど。じゃあ、この『言語適応』というのは、異世界でも言葉が通じる魔法ってことか」

「ええ。早くサインを」

「このステータス・オープンっては?」

 俺が聞きなれない単語を指でトントンと叩くと、イライラ口調でミアキスが答える。

「相手の情報を見れる力よ」

「情報と言うと?」

「名前とか強さとかそういう情報よ。例えばHP体力MP魔力ATK攻撃力DEF防御力INT知力……」

 訳の分からないアルファベットを並べ立てるミアキス。何となくゲーム用語だということは分かるが、俺は犬にしか興味が無いので全然分からない。

「よく分からないな」

「とにかく情報よ。相手がどんな奴か分かるの」

 情報。情報ねぇ。

「血統書みたいなものかな」

 犬の情報と言えば、血統書である。
 ミアキスはますます険しい顔になる。

「うるさいわね。向こうの世界に行ったら試しに『ステータス・オープン』と叫んでみなさい。そうすればどんなものか分かるわ」

 確かに、説明されるより実際にやってみたほうがいいかもしれない。ミアキスは説明下手だし。

「分かった」

「あと質問はない? 無かったら早くサインして」

 不安ではあるけど、渋々契約書にサインをして母印を押す。

 ミアキスはほっとした顔で床に何やら奇っ怪な図形を書き始めた。

「この魔法陣は異次元への扉。ここから先はもう引き返せないからそのつもりで」

 怪しげな紫の光を放つ魔法陣。
 俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
 
 異世界か。何だか少し緊張してきた。だけどサインしてしまったし、ここで引き返す訳には行かない。

 戸惑っていると、サブローさんがつぶらな瞳でこちらを見つめてくる。

「くーん?」

 そうだ。

 何を戸惑うことがある。
 俺は一人じゃない。
 死んでからもサブローさんと過ごせるなんて最高じゃないか。

「よし、じゃあ行くか!」

「ワン!」

 光の中へ身を投げ入れる。
 どうせもう終わった人生だ。せいぜい楽しんでやろうじゃないか。

「頑張ってね~!」

 手を振るミアキス。

 こうして、僕とサブローさんの冒険の旅が始まったのであった。






 --------------------------
◇柴田のわんわんメモ🐾

◼ミアキス

・イヌやネコの祖先となった動物。森で生活していたが、寒冷化で森林が減ると、草原に適応したミアキスはイヌ科に、森に残ったミアキスはネコ科に進化していったという


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