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5.対岸の町
26.新たな船出
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「ん……」
すべてが終わり、リルティヤに取り憑かれていたトゥリンがゆっくりと目を覚ます。
体はいつの間にか縮み、元の小さいトゥリンに戻っている。
「目を覚ましたか!」
「良かったです!」
「ワン!」
俺たちがトゥリンに駆け寄ると、トゥリンは顔を真っ赤にする。
「ハッ……ここは、シバタのベッド!? まさか私たち、ついに一線を」
「いや、超えてない」
全く、起き抜けに一体何を言っているんだ?
「魔王四天王とかいうのに操られていたのよ」
セーブルが説明する。
トゥリンは不思議そうに首を傾げた後、天井を見上げながら語りだした。
「そうだ……私は妖しい女に、大人っぽくなりたくないかと聞かれて、なりたいと答えたら急に意識が遠く……」
「その女、四天王のうちの一人だったんだ。セーブルさんのおかげで何とか撃退したけど」
「いえ、私は何も!」
謙遜するセーブルさん。
俺はこれまでのあらましや、セーブルさんのことについてトゥリンに話して聞かせた。
「そうだったのか、ありがとう」
話を聞き、しゅんとなるトゥリン。
「セーブルさんは立派な志を持ついい人だ。疑ってすまない。自分が情けないよ」
「そんなことないです!」
モモがトゥリンの手を握る。
「トゥリンは長生きだし強くて賢いのに、自分の間違いをそうやって認めて、ボクは凄いと思うです! ごはんおいしいし!」
「モモ……」
俺もうなずいた。
「まあ、そうだな。時々暴走するけど……トゥリンが居なきゃ俺もとっくに死んでたし」
「そ、そうか! 実は私も常々自分は出来た女房じゃないかと思っていた」
トゥリンの顔がパァッと明るくなる。
全く調子がいい。
――が、その表情がいきなり険しくなる。
「それよりこの部屋、なんだか臭くないか??」
眉間に皺を寄せてクンクン部屋の臭いを嗅ぎ出すトゥリン。
「ははは」
「そ、そうです?」
「き、気のせいじゃないかしら」
俺たちは素知らぬ顔をしてそっぽを向いた。
◇◆◇
「じゃあ、シバタさんたちは魔王を退治しに鬼ヶ島に向かう途中なのね?」
一夜明け、セーブルさんとともに朝食を取っていた。
「ああ、そうなんだ。変な女神にそう約束させられて」
「そうなのね。それは大変だわ。よちよち」
セーブルさんがサブローさんの首を撫でるとサブローさんはゴロリと横になり腹を出した。
「サブローさん、すっかりセーブルさんに懐いたですね」
「だな」
モモとトゥリンは目を丸くする。
つい最近まで「お注射をするこわいひと」だったはずなのに、おやつを何回かあげただけでこんなにも懐いてしまうなんて……サブローさん、チョロすぎる!
「でも、もう四天王も二人倒したということだし、皆さんならきっと大丈夫だわ。魔王城のある鬼ヶ島まですぐそこだし」
ニコリと微笑むセーブルさん。
「ありがとう」
俺はサブローさんの綱をギュッと握りしめた。
今まで、俺は女神の言われるがままに魔王退治という目的のため旅をしてきた。
向こうからやってくる敵をがむしゃらに倒すうちに、四天王も残り二人となり、魔王城まであと少しのところまで来た。
旅の終着点に着々と近づいているように感じる。
「……セーブルさん、魔王っていうのはどんな奴なのか知ってますか?」
俺はセーブルさんに尋ねた。
「私も良くは分からないけど、初めは鬼ヶ島一国の王だったのが、次第に悪の心に取り憑かれ、周りの国を侵略したり、多くの人間を攫い、虐殺したり人体実験を行ったりしたらしいわ」
「そうなのか」
唾をゴクリと飲み込む。話し合いで解決できないかと思ったけど、普通に悪い奴っぽいな。というか思った以上に危ない奴だ。
「やはり魔王は人間に恨みを持つ魔族だったのだろうか?」
尋ねると、今度はトゥリンが答える。
「いや、聞いたところによると魔王は元は人間だったらしい。人間にも関わらず、周りの人間を嫌悪し、獣にしか心を開かなかったそうだ」
「そうなのか」
俺はなんとなく、動物好きな人には悪い人はいないと思っていた。
だけどよく考えたら、あのヒトラーですら大の犬好きだったし、動物好きと人の善し悪しは関係ないのかもしれない。
「あのっ……もしよろしければ、私も一緒に鬼ヶ島に連れて行ってくれないかしら。私、治癒魔法《ヒール》くらいなら使えますし、元々鬼ヶ島に行く予定でしたから!」
セーブルさんが懇願する。
「えっ……そりゃ、仲間が多い方がいいけど、二人はどうだ?」
「別に構わない」
「ボクもセーブルさんがいたら嬉しいです!」
トゥリンとモモが返事をすると、セーブルさんは目を輝かせて立ち上がる。
「私の目標は、この世界の隅々まで予防接種を行き渡らせること」
大きな身振り手振りで熱弁するセーブルさん。
「それは立派な心がけだ」
ウンウンと頷いていると、セーブルさんはニコリと笑った。
「ですから、魔王を退治して鬼ヶ島を統治したあかつきには、是非とも政策に獣や獣人たちの伝染病対策を加えてください!」
え?
何言ってるんだろう。俺が鬼ヶ島を統治する??
俺の頭の中にム〇ゴロウさんの動物王国のような光景が思い浮かぶ。
いやいや、ありえないぞ!
「いや、俺は領地の経営とか、そういうのは興味ないし」
「何言ってるの。魔王が居なくなったら勇者たるあなたがそこを統治するのは当たり前よ?」
首を傾げるセーブルさん。トゥリンとモモもウンウンと頷いている。
え~っ!?
俺の目標は、魔王退治が終わったらトリマーになって、プードルにテディベアカットを流行らせることなんだけど!?
◇◆◇
そして俺たちは、海辺の町にやってきた。
「うわぁー、天気が良いですね!」
モモが尻尾を振りながらはしゃぐ。
今日は船出日和の晴天。青い空が眩しい。
「あそこに見えるのが鬼ヶ島です」
カモメが飛ぶ空の向こうにうっすらと見える黒い影。思った以上に鬼ヶ島は近い。
俺は鬼ヶ島ってもっと狭いのかと思っていたが、地図によると北海道くらいの広さはあるように見える。
町があるのは沿岸部だけで人口は少ないらしいが、もし魔王を仕留め損なって町以外に逃げたりしたら、見つけられないんじゃないだろうか。
俺が地図を片手に悩んでいると、トゥリンが見知らぬ漁師風のおじさんを連れてきた、
「おーいシバタ、この人が鬼ヶ島への船を出してくださるそうだ」
ペコリと頭を下げる男性。
「以前はここらの漁師は鬼ヶ島の魔族と共存しながら漁をしていたんだが、新魔王軍がクーデターを起こしてから、やつら協定を破って漁場を荒らしたり船を襲ったり、酷いもんだ」
「そうなんですね」
聞けば、新魔王軍が政権を奪って以来、魔族たちは統率を失い海賊行為をしたり漁師を襲って海産物を奪ったりと統制が取れなくなってきているらしい。
それに前まで鬼ヶ島に住んでた人間やコボルトもどんどん対岸のこちら側に亡命を始めていていて、ヨルベにまで混乱が押し寄せてきているのだとか。
俺を真っ直ぐに見つめる漁師。
「あんたは伝説の勇者なんだろう? 早いとこ魔王を退治して、ここを前みたいに平和な海にしてくれ」
「分かった」
俺は頷いた。
「……最善を尽くす」
そして俺たちは、魔王の待つ鬼ヶ島へと向かったのであった。
すべてが終わり、リルティヤに取り憑かれていたトゥリンがゆっくりと目を覚ます。
体はいつの間にか縮み、元の小さいトゥリンに戻っている。
「目を覚ましたか!」
「良かったです!」
「ワン!」
俺たちがトゥリンに駆け寄ると、トゥリンは顔を真っ赤にする。
「ハッ……ここは、シバタのベッド!? まさか私たち、ついに一線を」
「いや、超えてない」
全く、起き抜けに一体何を言っているんだ?
「魔王四天王とかいうのに操られていたのよ」
セーブルが説明する。
トゥリンは不思議そうに首を傾げた後、天井を見上げながら語りだした。
「そうだ……私は妖しい女に、大人っぽくなりたくないかと聞かれて、なりたいと答えたら急に意識が遠く……」
「その女、四天王のうちの一人だったんだ。セーブルさんのおかげで何とか撃退したけど」
「いえ、私は何も!」
謙遜するセーブルさん。
俺はこれまでのあらましや、セーブルさんのことについてトゥリンに話して聞かせた。
「そうだったのか、ありがとう」
話を聞き、しゅんとなるトゥリン。
「セーブルさんは立派な志を持ついい人だ。疑ってすまない。自分が情けないよ」
「そんなことないです!」
モモがトゥリンの手を握る。
「トゥリンは長生きだし強くて賢いのに、自分の間違いをそうやって認めて、ボクは凄いと思うです! ごはんおいしいし!」
「モモ……」
俺もうなずいた。
「まあ、そうだな。時々暴走するけど……トゥリンが居なきゃ俺もとっくに死んでたし」
「そ、そうか! 実は私も常々自分は出来た女房じゃないかと思っていた」
トゥリンの顔がパァッと明るくなる。
全く調子がいい。
――が、その表情がいきなり険しくなる。
「それよりこの部屋、なんだか臭くないか??」
眉間に皺を寄せてクンクン部屋の臭いを嗅ぎ出すトゥリン。
「ははは」
「そ、そうです?」
「き、気のせいじゃないかしら」
俺たちは素知らぬ顔をしてそっぽを向いた。
◇◆◇
「じゃあ、シバタさんたちは魔王を退治しに鬼ヶ島に向かう途中なのね?」
一夜明け、セーブルさんとともに朝食を取っていた。
「ああ、そうなんだ。変な女神にそう約束させられて」
「そうなのね。それは大変だわ。よちよち」
セーブルさんがサブローさんの首を撫でるとサブローさんはゴロリと横になり腹を出した。
「サブローさん、すっかりセーブルさんに懐いたですね」
「だな」
モモとトゥリンは目を丸くする。
つい最近まで「お注射をするこわいひと」だったはずなのに、おやつを何回かあげただけでこんなにも懐いてしまうなんて……サブローさん、チョロすぎる!
「でも、もう四天王も二人倒したということだし、皆さんならきっと大丈夫だわ。魔王城のある鬼ヶ島まですぐそこだし」
ニコリと微笑むセーブルさん。
「ありがとう」
俺はサブローさんの綱をギュッと握りしめた。
今まで、俺は女神の言われるがままに魔王退治という目的のため旅をしてきた。
向こうからやってくる敵をがむしゃらに倒すうちに、四天王も残り二人となり、魔王城まであと少しのところまで来た。
旅の終着点に着々と近づいているように感じる。
「……セーブルさん、魔王っていうのはどんな奴なのか知ってますか?」
俺はセーブルさんに尋ねた。
「私も良くは分からないけど、初めは鬼ヶ島一国の王だったのが、次第に悪の心に取り憑かれ、周りの国を侵略したり、多くの人間を攫い、虐殺したり人体実験を行ったりしたらしいわ」
「そうなのか」
唾をゴクリと飲み込む。話し合いで解決できないかと思ったけど、普通に悪い奴っぽいな。というか思った以上に危ない奴だ。
「やはり魔王は人間に恨みを持つ魔族だったのだろうか?」
尋ねると、今度はトゥリンが答える。
「いや、聞いたところによると魔王は元は人間だったらしい。人間にも関わらず、周りの人間を嫌悪し、獣にしか心を開かなかったそうだ」
「そうなのか」
俺はなんとなく、動物好きな人には悪い人はいないと思っていた。
だけどよく考えたら、あのヒトラーですら大の犬好きだったし、動物好きと人の善し悪しは関係ないのかもしれない。
「あのっ……もしよろしければ、私も一緒に鬼ヶ島に連れて行ってくれないかしら。私、治癒魔法《ヒール》くらいなら使えますし、元々鬼ヶ島に行く予定でしたから!」
セーブルさんが懇願する。
「えっ……そりゃ、仲間が多い方がいいけど、二人はどうだ?」
「別に構わない」
「ボクもセーブルさんがいたら嬉しいです!」
トゥリンとモモが返事をすると、セーブルさんは目を輝かせて立ち上がる。
「私の目標は、この世界の隅々まで予防接種を行き渡らせること」
大きな身振り手振りで熱弁するセーブルさん。
「それは立派な心がけだ」
ウンウンと頷いていると、セーブルさんはニコリと笑った。
「ですから、魔王を退治して鬼ヶ島を統治したあかつきには、是非とも政策に獣や獣人たちの伝染病対策を加えてください!」
え?
何言ってるんだろう。俺が鬼ヶ島を統治する??
俺の頭の中にム〇ゴロウさんの動物王国のような光景が思い浮かぶ。
いやいや、ありえないぞ!
「いや、俺は領地の経営とか、そういうのは興味ないし」
「何言ってるの。魔王が居なくなったら勇者たるあなたがそこを統治するのは当たり前よ?」
首を傾げるセーブルさん。トゥリンとモモもウンウンと頷いている。
え~っ!?
俺の目標は、魔王退治が終わったらトリマーになって、プードルにテディベアカットを流行らせることなんだけど!?
◇◆◇
そして俺たちは、海辺の町にやってきた。
「うわぁー、天気が良いですね!」
モモが尻尾を振りながらはしゃぐ。
今日は船出日和の晴天。青い空が眩しい。
「あそこに見えるのが鬼ヶ島です」
カモメが飛ぶ空の向こうにうっすらと見える黒い影。思った以上に鬼ヶ島は近い。
俺は鬼ヶ島ってもっと狭いのかと思っていたが、地図によると北海道くらいの広さはあるように見える。
町があるのは沿岸部だけで人口は少ないらしいが、もし魔王を仕留め損なって町以外に逃げたりしたら、見つけられないんじゃないだろうか。
俺が地図を片手に悩んでいると、トゥリンが見知らぬ漁師風のおじさんを連れてきた、
「おーいシバタ、この人が鬼ヶ島への船を出してくださるそうだ」
ペコリと頭を下げる男性。
「以前はここらの漁師は鬼ヶ島の魔族と共存しながら漁をしていたんだが、新魔王軍がクーデターを起こしてから、やつら協定を破って漁場を荒らしたり船を襲ったり、酷いもんだ」
「そうなんですね」
聞けば、新魔王軍が政権を奪って以来、魔族たちは統率を失い海賊行為をしたり漁師を襲って海産物を奪ったりと統制が取れなくなってきているらしい。
それに前まで鬼ヶ島に住んでた人間やコボルトもどんどん対岸のこちら側に亡命を始めていていて、ヨルベにまで混乱が押し寄せてきているのだとか。
俺を真っ直ぐに見つめる漁師。
「あんたは伝説の勇者なんだろう? 早いとこ魔王を退治して、ここを前みたいに平和な海にしてくれ」
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