33 / 34
6.いざ、魔王城
32.サブローさんVSシバタ
しおりを挟む俺とサブローさんは互いに見つめあったまま一歩も動かなかった。
凄まじい圧、凄いプレッシャーだ。
これが魔王。
額から汗が流れ落ちる。
永遠にも思えるほど長い沈黙。そして――
俺はサブローさんと初めて会った時のことを思い出していた。
サブローさんと出会ったのは、捨て犬の保護シェルターだった。
聞くところによると、サブローさんの前の飼い主は、最近のペットブームにあやかり、柴犬を繁殖させ利益を得ようとした悪徳ブリーダーの老人だったらしい。
彼は山奥に粗末な小屋を立て、柴犬の繁殖を行っていたが、ある日亡くなってしまう。
老人と連絡が取れなくなったことを疑問に思った親族が亡くなった老人を発見し、彼らが小屋の様子を見に行くと、小屋の中には痩せ細り、糞尿にまみれ、劣悪な環境に置かれた犬たちが沢山いたのだという。
その中の一匹がサブローさんだ。
年老いた親犬たちは新しい飼い主を見つけるのは難しかったが、子犬たちは次々に引き取り手が見つかっていった。
そんな中、唯一引き取り手が見つからず売れ残っていた子犬、それがサブローさんだった。
サブローさんはあまりにも攻撃的だった。
悪徳ブリーダーが死んでから親戚がやってくるまでの間、犬たちにエサをやる者は居なかった。
犬たちは、老いたり病気で亡くなった犬を食べ始めた。
力の弱い子犬たちもまた、危険にさらされていた。
サブローさんは、自分の身を守るため、兄弟の身を守るため、吠えたり噛んだり、威嚇することを覚えた。
恐らく、ネズミや小動物を捕る癖を覚えたのもそのせいだろう。
そんなわけで手に負えない子犬だったサブローさんだったけれど、俺は一目見てサブローさんを気に入った。
今でも覚えてる。
サブローさんの瞳を見た瞬間に体を走った稲妻のような衝撃を。
人と人との出会いが運命なように、人と犬との出会いもまた、運命なのだ。
うちに来てからは、サブローさんは人の言うことを聞くこと、芸をすること、そして人間を信頼することを覚え、会った時とまるで違う犬のように穏やかで人懐こい犬となった。
だが目の前にいるこのサブローさんは、まるで出会った頃に戻ってしまったかのように、人間を拒絶する目をしている。
ならば――
「簡単だ。またやり直せばいいんだ」
真っ直ぐにサブローさんを見据える。
「サブローさん、おすわり」
サブローさんの目が、ゆらりと動く。
俺は再度、強い調子で言った。
「サブローさん、おすわり」
「サブローさん、おすわりっ!!」
一瞬の間があった。
ズウウウウン。
大きな地響き。
それがサブローさんが巨大化した姿のままお座りをしたためだと気づいたのは数秒経ってから。
「サブローさんっ……」
サブローさんの体は、お座りをしたままどんどん縮んでいった。
そして――
「ゲエッ……ゲエッ!」
背中を揺らし、何かを吐き出すような仕草。
コロン。
出てきたのは、黒いぐにゃりとした塊だった。
しゃくとり虫のように、地面を這って逃げていく黒い塊。
もしかして、これが魔王?
こいつがサブローさんを操っていたのか!?
俺は反射的に腰の麻袋に入った黄金のウ〇チシャベルを抜くと、サブローさんが吐き出した黒い物体に思い切り突き立てた。
「グワアァァァァァァァ……」
叫び声のような音を立てながらグニャリグニャリと身をよじる黒い塊。
「このっ……くらえええええ!!」
俺は黒い魂に思い切りサブローさんのウ〇チシャベルを突き立てグリグリと回した。
「でやああああ!!」
閃光。
プチン、と何かが切れる感触がした。
「……やったか?」
黒い塊は動かない。
「し……死んだのか?」
トゥリンが恐る恐るのぞき込む。
「分からない。とりあえず、焼いておくか」
俺がサブローさんに炎のコマンド出そうとしたその手を、トゥリンは止めた。
「いや、この場で火を使うのはまずい」
確かに、ここは木造建築だった。
「こいつには……これだ」
トゥリンは懐から何かを取り出すと、ニヤリと笑った。
◇◆◇
「シバタさん、サブローさん! 無事だったのね!?」
城の入口へと戻ると、セーブルさんが涙を目に貯め出迎えてくれる。横ではすっかり元気になったムギちゃんが尻尾を振っている。
「ああ、魔王は倒したよ」
「サブローさんの尿をかけてやったら一発で溶けたです!」
モモが嬉しそうに飛び跳ねる。
そう、サブローさんの聖水は魔王に効果抜群だったのだ。
「そう、それじゃあ、四天王のゾーラも倒したのね?」
俺たちは顔を見合わせた。
「いや……」
「あいつ、いつの間にか居なくなっちゃって」
「恐れをなして逃げたですか?」
「フフフフフフフフフ」
毎度おなじみ、聞きなれた笑い声。
「ゾーラ!」
スカートを翻し、ドヤ顔をするゾーラ。
「誰が逃げたって? 聞き捨てならないな。私はただ、お前たちが遊んでいる間にこの体から秘められた力を引き出すべく、じっくりと解析していたのだ」
「何?」
「そして解析の結果――この体は物凄いスキルを秘めていることが分かった! 魔王様亡き今、私がこの体を使い、この国を、この世界を支配するのだ!!」
口を歪ませ高笑いするゾーラ。
「物凄いスキルだと?」
「そうだ! しかと見るがいい」
ゾーラは叫んだ。
「ステータス・オープン!!」
……は?
目の前に現れた半透明な窓。
そこにはサブローさんの名前、HP、MP、攻撃力や防御力などのデータが書かれている。
えっ? その子のスキルってそれ?
「他人のデータを見てどうする気だ?」
俺が言うと、ゾーラは鼻で笑う。
「ここまでが通常スキルよ。この娘の特殊スキルはここからが本番だ」
なっ……特殊スキル!?
ミアキスの奴、ペットを持ち込める代わりに特殊スキルは無いって言ってたのに、この子はペットも持ち込んでるし特殊スキルまであるってどういう事だよ!?
そう言えば「持ち込めるのはスキルか装備どちらかだけ」というのはミアキスが口頭で言ってただけで契約書にそう書いてあった訳じゃなかった。
クソッ、もしかして騙された!?
ゾーラは声高々に、少女の持つ特殊スキルを叫んだ。
「血統書開示!!」
……ええ????
言いながら、ゾーラは赤く光ったサブローさんの名前をタップした。
――が、何も起こらない。
「あ、あれ? おかしいな。これで名前を押せば相手の真名をゲット出来て、相手を意のままに操れる筈なのに!」
なるほど。
要するに、どうやらこの世界の人たちは、普段の呼び名の他に「真名」というその人本来の名前を持っているらしい。
「血統書開示」はその「真名」を知ることで相手を意のままに操るスキルだったのだ。
だが、サブローさんは血統書つきの犬ではないので「真名」なんてありはしない。もちろん俺にもそんなものは存在しない。
「く……ならばお前だ!」
ゾーラがムギちゃんに向き直る。
くそっ、今度はムギちゃんを操るつもりか!?
させるか!
俺は先手を打ち叫んだ。
「血統書開示!」
「何っ!?」
目の前に緑の窓が現れ、そこにムギちゃんの血統書が表示される。
そこに記されているのは春風之紬号という名前。
そうか、ムギちゃんの本当の名前は春風之紬号と言うんだな。
俺がステータス画面に浮かぶムギちゃんの名前をタップすると、文字が青く光った。
ピクリとムギちゃんの耳が動く。ムギちゃんのつぶらな瞳も同時に青く光る。
「ま、まさか、貴様もステータス・オープンを!? しかも段階を飛ばし一発で真名を出すだと!? ……く、くそっ血統書開示! 春風之紬号、シバタを……」
だが、ムギちゃんは不思議そうに首を傾げる。
俺の方が先にスキルを使ったから、後から干渉はできないのだろう。
俺は叫んだ。
「春風之紬号、ゾーラを捕らえろ!」
「ワン!」
ムギちゃんがゾーラの足に飛びつく。
「わっ」
不意をつかれたゾーラは、その場に尻餅をついた。
「今だ!」
俺が合図をすると、トゥリン、モモ、セーブルの三人は懐から一斉に黄色い小瓶を取り出し、中身をゾーラに向かってぶちまけた。
「くらえ! 聖水アタック!!」
「グオオオオオオオオオオ!!」
苦しげな呻き声。
ゾーラはしばらく尿の中でゴロゴロと転がりもがき苦しんだ。
そしてしばらくするとムギちゃんの飼い主の口から黒い煙がモワリと出てきた。
俺たちが固唾を飲んで見守っていると、黒い煙はやがてキラキラとした光の粒になり、天へと登っていった。
やった……のか?
呆然と天を仰ぐ俺に、トゥリンが抱きついてくる。
「やったな、シバタ!」
モモも抱きついてくる、
「やったです!」
セーブルさんも。
「ついに、魔王一味を倒しました!!」
「きゅん、きゅ~ん!」
サブローさんも俺に抱きつこうと俺たちの周りをグルグルと回っている。
俺はそんなサブローさんを抱き上げた。
サブローさんは、嬉しそうに俺の顔をベロリと舐めた。
良かった!
ついに……ついに魔王一味を……長い旅だった!
「ん……」
喜ぶ俺たちの横で、ムギちゃんの飼い主が目を覚ます。
「クウーン、クウーン……」
ムギちゃんが尻尾を振って飼い主の帰還に喜ぶ。
「良かったなあ……ムギちゃん……」
俺がホロリとしていると、ムギちゃんの飼い主はムギちゃんに顔を舐められながら、怪訝そうな顔をした。
「あれ……あたし、どうしてこんな所に? 確か異世界に……っていうか」
ムギちゃんの飼い主は怪訝そうにクンクンと自分の服の匂いを嗅いだ。
「あたし……何だか臭くない!?」
俺たちは黙って下を向いた。
--------------------------
◇柴田のわんわんメモ🐾
◼柴犬の「真名」
血統書つきの犬の場合、血統書には普段飼い主が呼んでいる名前では無い名前が書かれている。これは生まれた時にブリーダーがつけた名前である。柴犬の場合「〇〇号」という漢字の名前がつけられていることが多い。
◼黒柴と赤柴
柴犬は赤柴(茶色い柴犬)が八割で、残りの二割が黒と胡麻(茶色に黒い毛が混じった色)なのだという。白柴もいるが、犬種標準ではエラーカラーとされ、数も少ない。白は黒と黒を交配した時に産まれやすいそう
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
1歳児天使の異世界生活!
春爛漫
ファンタジー
夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。
※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる