大魔女アナスタシアの悪戯 ~運命の矢が刺さったらしいのですが、これ、間違いなんです!~

三沢ケイ

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こじらせる二人

将軍が負けるなど、万に一つもあり得ない

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 ガングニールズは舞花が去った後も放心状態だった。

 ついこの間、泣きながら走り去る舞花を見た。そしてその日の夜、ガングニールズは屋敷の自室まで舞花がやってくるという幻をみた。

 幻の舞花はスデリファンと酒を飲んだガングニールズが自宅に戻り、軍服を脱ぎ捨てて風呂に入って戻ってくると自室にいるという都合の良さだった。据え膳もいいところだ。思わずその体を撫で回してしまったが、これは完全なる不可抗力である。

 そして、その幻の舞花は幻にも関わらず、あらゆる場所が柔らかく温かく、滑らかで魅惑的だった。しかも、幻の舞花は抵抗することも無く請われるがままにガングニールズを愛称の『リーク』と呼び、あの細腕でガングニールズを抱きしめた。

 さすがは幻だ。ガングニールズの願望を的確に実現させている。

 しかし、現実は違った。

 舞花が何処の馬の骨とも知れぬ男のものになる。しかも、スデリファンに聞くところによるともやしのようなひ弱な男だ。きっと苦労するに違いない。

 ガングニールズはぐっと拳を握り締めた。

 先ほど、舞花はやはりガングニールズに特製回復薬を持ってきた。そして、マシュマロを奪い取ってガングニールズに食べさせてきた。

 結婚するというのに、一体これはどういうことだ?

 ガングニールズはじっと考え込み、一つの可能性に突き当たった。

 先ほど、舞花は去り際に『ガングニールズ将軍もおめでとうございます』と言いながら涙目になっていた。
 これは、『やっと私の猛アタックから解放されるわよ、おめでとう』と言う意味ではないか? そしてこの特製回復薬とマシュマロの意味は、『結婚前の最後に思い出を作って欲しい』ということだったのでは?

「なんてことだ……」

 ガングニールズはがっくりと机の上に項垂れた。と、その時、執務室の机がバシンと開く。

「リーク! もう出発準備が終わってるぞ。……って、お前なにしてるんだ? 回復薬はまだ来ないのか??」

 いつまでも姿を現さない将軍を探しに執務室に入ってきたスデリファンは、机に向かって項垂れるガングニールズを見つけて怪訝な表情をした。

「リーク?」

 スデリファンの呼びかけにガングニールズはゆっくりと顔を上げる。

「フィン。マイカは結婚するそうだ」

 それを聞いたスデリファンは目を見開くと、すぐに満面に笑みを浮かべた。

「なんだと? やったじゃ無いか! おめでとう、リーク!」

 自分の事のように大喜びしてガングニールズの肩を叩き、健闘を祝う。ガングニールズはそんなスデリファンに首を振って見せた。

「俺じゃない」
「なに?」
「マイカの相手は俺じゃない」

 そう言って下を向き項垂れるガングニールズを見て、スデリファンは呆然とした。スデリファンにとって、マイカの相手がガングニールズでは無いなどとは完全に予想外だった。

「おい! リーク!! お前はそれでいいのか?」

 スデリファンは項垂れるガングニールズの軍服の襟首を掴むと、グイッと自分の方に寄せて怒鳴りつけた。

「将軍ともあろうものが酷い面だな」

 顔を歪めるガングニールズに、スデリファンはなおのこと畳みかける。

「将軍は負けられないんじゃ無かったのか? もやしみたいな男に負けるなんて情けない奴だ」

 不敵に嗤うわらうスデリファンに、ガングニールズは眉を寄せた。

「なんだと?」
「お前は負け犬だって言ったんだ。もやしみたいな男にマイカをかっさわれた」

 ガングニールズの表情は途端に厳しいものに変わった。襟首を掴むとスデリファンの手を乱暴に振り解くと、いつも以上に鋭い目つきでスデリファンを睨み据える。

「ふざけるな。俺を誰だと思っている? 俺が負けるなど万に一つも有り得ない」
「じゃあマイカは?」
「無論、俺のものだ。もやし男にはやらん」

 ガングニールズは先ほどとは別人のような態度でそう言いきった。さっきまで舞花が他人と結婚すると言って落ち込んでいたくせに、いまや『俺のもの』よばりしている。

「もう遠征訓練に出発なんだけど? 戻るのは終戦十周年記念の式典ぎりぎりだぞ?」

 やる気を出したのはいいのだが、スデリファンはそのことが心配だった。これから北方軍は短期の遠征訓練に二週間ほど出掛ける。既に兵士達は準備が整い将軍のガングニールズ待ちだ。今から口説きに行く暇をガングニールズに与えることは出来ない。

「問題ない。何故ならば、俺は絶対に負けることなどありえないからだ」

 自信満々にそう言いきったガングニールズにスデリファンは肩を竦める。
 だったら最初からちゃんと掴まえておけよ、人騒がせな奴だな、という言葉は何とか飲み込んだ。
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