52 / 72
こじらせる二人
将軍が負けるなど、万に一つもあり得ない
しおりを挟む
ガングニールズは舞花が去った後も放心状態だった。
ついこの間、泣きながら走り去る舞花を見た。そしてその日の夜、ガングニールズは屋敷の自室まで舞花がやってくるという幻をみた。
幻の舞花はスデリファンと酒を飲んだガングニールズが自宅に戻り、軍服を脱ぎ捨てて風呂に入って戻ってくると自室にいるという都合の良さだった。据え膳もいいところだ。思わずその体を撫で回してしまったが、これは完全なる不可抗力である。
そして、その幻の舞花は幻にも関わらず、あらゆる場所が柔らかく温かく、滑らかで魅惑的だった。しかも、幻の舞花は抵抗することも無く請われるがままにガングニールズを愛称の『リーク』と呼び、あの細腕でガングニールズを抱きしめた。
さすがは幻だ。ガングニールズの願望を的確に実現させている。
しかし、現実は違った。
舞花が何処の馬の骨とも知れぬ男のものになる。しかも、スデリファンに聞くところによるともやしのようなひ弱な男だ。きっと苦労するに違いない。
ガングニールズはぐっと拳を握り締めた。
先ほど、舞花はやはりガングニールズに特製回復薬を持ってきた。そして、マシュマロを奪い取ってガングニールズに食べさせてきた。
結婚するというのに、一体これはどういうことだ?
ガングニールズはじっと考え込み、一つの可能性に突き当たった。
先ほど、舞花は去り際に『ガングニールズ将軍もおめでとうございます』と言いながら涙目になっていた。
これは、『やっと私の猛アタックから解放されるわよ、おめでとう』と言う意味ではないか? そしてこの特製回復薬とマシュマロの意味は、『結婚前の最後に思い出を作って欲しい』ということだったのでは?
「なんてことだ……」
ガングニールズはがっくりと机の上に項垂れた。と、その時、執務室の机がバシンと開く。
「リーク! もう出発準備が終わってるぞ。……って、お前なにしてるんだ? 回復薬はまだ来ないのか??」
いつまでも姿を現さない将軍を探しに執務室に入ってきたスデリファンは、机に向かって項垂れるガングニールズを見つけて怪訝な表情をした。
「リーク?」
スデリファンの呼びかけにガングニールズはゆっくりと顔を上げる。
「フィン。マイカは結婚するそうだ」
それを聞いたスデリファンは目を見開くと、すぐに満面に笑みを浮かべた。
「なんだと? やったじゃ無いか! おめでとう、リーク!」
自分の事のように大喜びしてガングニールズの肩を叩き、健闘を祝う。ガングニールズはそんなスデリファンに首を振って見せた。
「俺じゃない」
「なに?」
「マイカの相手は俺じゃない」
そう言って下を向き項垂れるガングニールズを見て、スデリファンは呆然とした。スデリファンにとって、マイカの相手がガングニールズでは無いなどとは完全に予想外だった。
「おい! リーク!! お前はそれでいいのか?」
スデリファンは項垂れるガングニールズの軍服の襟首を掴むと、グイッと自分の方に寄せて怒鳴りつけた。
「将軍ともあろうものが酷い面だな」
顔を歪めるガングニールズに、スデリファンはなおのこと畳みかける。
「将軍は負けられないんじゃ無かったのか? もやしみたいな男に負けるなんて情けない奴だ」
不敵に嗤うスデリファンに、ガングニールズは眉を寄せた。
「なんだと?」
「お前は負け犬だって言ったんだ。もやしみたいな男にマイカをかっさわれた」
ガングニールズの表情は途端に厳しいものに変わった。襟首を掴むとスデリファンの手を乱暴に振り解くと、いつも以上に鋭い目つきでスデリファンを睨み据える。
「ふざけるな。俺を誰だと思っている? 俺が負けるなど万に一つも有り得ない」
「じゃあマイカは?」
「無論、俺のものだ。もやし男にはやらん」
ガングニールズは先ほどとは別人のような態度でそう言いきった。さっきまで舞花が他人と結婚すると言って落ち込んでいたくせに、いまや『俺のもの』よばりしている。
「もう遠征訓練に出発なんだけど? 戻るのは終戦十周年記念の式典ぎりぎりだぞ?」
やる気を出したのはいいのだが、スデリファンはそのことが心配だった。これから北方軍は短期の遠征訓練に二週間ほど出掛ける。既に兵士達は準備が整い将軍のガングニールズ待ちだ。今から口説きに行く暇をガングニールズに与えることは出来ない。
「問題ない。何故ならば、俺は絶対に負けることなどありえないからだ」
自信満々にそう言いきったガングニールズにスデリファンは肩を竦める。
だったら最初からちゃんと掴まえておけよ、人騒がせな奴だな、という言葉は何とか飲み込んだ。
ついこの間、泣きながら走り去る舞花を見た。そしてその日の夜、ガングニールズは屋敷の自室まで舞花がやってくるという幻をみた。
幻の舞花はスデリファンと酒を飲んだガングニールズが自宅に戻り、軍服を脱ぎ捨てて風呂に入って戻ってくると自室にいるという都合の良さだった。据え膳もいいところだ。思わずその体を撫で回してしまったが、これは完全なる不可抗力である。
そして、その幻の舞花は幻にも関わらず、あらゆる場所が柔らかく温かく、滑らかで魅惑的だった。しかも、幻の舞花は抵抗することも無く請われるがままにガングニールズを愛称の『リーク』と呼び、あの細腕でガングニールズを抱きしめた。
さすがは幻だ。ガングニールズの願望を的確に実現させている。
しかし、現実は違った。
舞花が何処の馬の骨とも知れぬ男のものになる。しかも、スデリファンに聞くところによるともやしのようなひ弱な男だ。きっと苦労するに違いない。
ガングニールズはぐっと拳を握り締めた。
先ほど、舞花はやはりガングニールズに特製回復薬を持ってきた。そして、マシュマロを奪い取ってガングニールズに食べさせてきた。
結婚するというのに、一体これはどういうことだ?
ガングニールズはじっと考え込み、一つの可能性に突き当たった。
先ほど、舞花は去り際に『ガングニールズ将軍もおめでとうございます』と言いながら涙目になっていた。
これは、『やっと私の猛アタックから解放されるわよ、おめでとう』と言う意味ではないか? そしてこの特製回復薬とマシュマロの意味は、『結婚前の最後に思い出を作って欲しい』ということだったのでは?
「なんてことだ……」
ガングニールズはがっくりと机の上に項垂れた。と、その時、執務室の机がバシンと開く。
「リーク! もう出発準備が終わってるぞ。……って、お前なにしてるんだ? 回復薬はまだ来ないのか??」
いつまでも姿を現さない将軍を探しに執務室に入ってきたスデリファンは、机に向かって項垂れるガングニールズを見つけて怪訝な表情をした。
「リーク?」
スデリファンの呼びかけにガングニールズはゆっくりと顔を上げる。
「フィン。マイカは結婚するそうだ」
それを聞いたスデリファンは目を見開くと、すぐに満面に笑みを浮かべた。
「なんだと? やったじゃ無いか! おめでとう、リーク!」
自分の事のように大喜びしてガングニールズの肩を叩き、健闘を祝う。ガングニールズはそんなスデリファンに首を振って見せた。
「俺じゃない」
「なに?」
「マイカの相手は俺じゃない」
そう言って下を向き項垂れるガングニールズを見て、スデリファンは呆然とした。スデリファンにとって、マイカの相手がガングニールズでは無いなどとは完全に予想外だった。
「おい! リーク!! お前はそれでいいのか?」
スデリファンは項垂れるガングニールズの軍服の襟首を掴むと、グイッと自分の方に寄せて怒鳴りつけた。
「将軍ともあろうものが酷い面だな」
顔を歪めるガングニールズに、スデリファンはなおのこと畳みかける。
「将軍は負けられないんじゃ無かったのか? もやしみたいな男に負けるなんて情けない奴だ」
不敵に嗤うスデリファンに、ガングニールズは眉を寄せた。
「なんだと?」
「お前は負け犬だって言ったんだ。もやしみたいな男にマイカをかっさわれた」
ガングニールズの表情は途端に厳しいものに変わった。襟首を掴むとスデリファンの手を乱暴に振り解くと、いつも以上に鋭い目つきでスデリファンを睨み据える。
「ふざけるな。俺を誰だと思っている? 俺が負けるなど万に一つも有り得ない」
「じゃあマイカは?」
「無論、俺のものだ。もやし男にはやらん」
ガングニールズは先ほどとは別人のような態度でそう言いきった。さっきまで舞花が他人と結婚すると言って落ち込んでいたくせに、いまや『俺のもの』よばりしている。
「もう遠征訓練に出発なんだけど? 戻るのは終戦十周年記念の式典ぎりぎりだぞ?」
やる気を出したのはいいのだが、スデリファンはそのことが心配だった。これから北方軍は短期の遠征訓練に二週間ほど出掛ける。既に兵士達は準備が整い将軍のガングニールズ待ちだ。今から口説きに行く暇をガングニールズに与えることは出来ない。
「問題ない。何故ならば、俺は絶対に負けることなどありえないからだ」
自信満々にそう言いきったガングニールズにスデリファンは肩を竦める。
だったら最初からちゃんと掴まえておけよ、人騒がせな奴だな、という言葉は何とか飲み込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる