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異世界転生篇
第6話 聖母との出会い
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突然、森の奥から現れた美しい女性に神愛は目を奪われた。
腰まで伸びた美しいプラチナブロンドの髪、明るく澄んだ青空色の目は一度視線を捉えられたら、離すことはできないほどの魅力を醸し出している。
異世界に来てから町で外国人風の女性を見かけることは多かった神愛だが、目の前の女性の人智を超えた美貌に自分が死に直面していることも忘れて見惚れてしまう。
「やめなさい。人を喰らうほど餓えてはいないでしょう」
心地よく響く若干芝居がかったソプラノボイスに意識を吸い込まれそうになる神愛。
そして、「邪魔をするならてめぇからだぁ!」と言いたげな雄叫びを上げて女性に襲い掛かる獣達。
女性が獣たちに引きちぎられる場面を幻視し、思わず目を閉じる神愛。
だが、いつまでたっても肉を引きちぎる音も悲鳴も聞こえてこない。
恐る恐るといった様子で目を開けると驚きで目を見開いた。
女性が錫杖を持っている手とは反対の手を獣たちに向けており、獣たちはまるで見えない壁でもあるかのようにその場にとどまっていた。
「仕方ないかな。“汝に安らかなる眠りを与えよ、睡眠霧”」
神愛は知るところではなかったが女性が唱えたのは様々な属性を組み合わせた複合魔法。これを再現するには少なくとも、樹、風、水の三つの属性に適性がなければ不可能だ。それを威力を限定し、範囲も神愛に届かないよう、徹底的に操ったことから彼女の魔法の適性はとんでもないことがうかがえた。
「ふぅ…さて、君、大丈夫?どうしてこんなところにいたの?親はどこにいるの?」
獣たちを眠らせ安全を確保すると神愛の顔を伺いながら、質問攻めにする女性。
そして、神愛の顔色の悪さから何らかの毒を盛られているのだと察した。
「!…これは…相当に強い痺れ薬…一体誰がこんなことを…」
自然界にも痺れをもたらす植物などは多く存在する。だが、この迷いの森には致死性の毒は多くあるが、非致死性の痺れだけをもたらす薬草類などは存在しない。そこで彼女はこの痺れは人の手によるものだと判断し、毒を盛られた後、この森に連れてこられたのだと推測した。一刻も早く解毒しなければ身体に障害が残ると判断した彼女はさっそく行動を開始する。
「少し、変な感じがするかもしれないけれど我慢してね」
そう優しく告げると透き通るような声で詠唱を始めた。
「“聖母の微笑み、神々の加護、創造神の祝福、魂の救済、神聖を捧げる、崇高なる天人、我はここに癒しを望む、彼の者を救い賜え、慈愛の祝福”」
詠うような美しい詠唱が終わると神愛の身体が眩い光に包み込まれた。
そして、光が収まったかと思うと神愛の身体からは痺れが消え、感じていた倦怠感や飢餓感や痛みもきれいさっぱり消え去った。
「大丈夫?もう毒は消え去ったと思うんだけど…」
再びのぞき込むようにしてこちらを見ている美しい女性。神愛はかつて感じたことのないほどの優しさと慈しみに幸福感を感じ、毒が消え去った安心感もあり、つぶやきと共に意識を暗転させた。
「か、かあさ…ん…」
女性はそのつぶやきに目を白黒させた後、危険な魔物が徘徊する森に置いていくわけにもいかないと、神愛を抱きかかえると森の奥へと歩き出した。
◇◇◇
(神愛君、神愛君ってば、起きてよ~昼休み終わるよ~)
誰だろう。まだ眠いんだ。寝かせておいてよ。
(また榊原君たちに落書きされちゃうってばー)
いいんだよ…抵抗しても変わらないんだから…だからあと5分…
「君、ねぇ、起きてってば。そろそろ担いで移動するのはきついんだけど…」
ふと、美しい女性の声が神愛の耳に届いた。
そしてだんだんと自分の置かれていた状況を思い出す。
(そうだ…僕、異世界に召喚されて…それで無能だから捨てられて…それから…)
状況を整理しながらなぜ自分が寝ているのかを思い出す。
(そうだ…たしか獣みたいなのに襲われてたところを助けてもらって…)
ゆっくりと目を開けると目の前には獣に襲われたときにあらわれた美しい女性がいた。
さらさらと流れる白金色の髪は月光を反射して暴力的なまでの魅力を醸し出している。
思わず見惚れる神愛。
「大丈夫?記憶とかはある?」
心配そうに仰向けに寝かされた神愛の顔をのぞき込む女性。
「だ、大丈夫です!」
と、声を上げながら立ち上がろうとする神愛だったがすぐに足元が覚束なくなり尻もちをついてしまう。
「あぁ、まだ無理はしないでね。毒は消えたけど急速な解毒は身体が戸惑ってしまうことも多いから」
そういいながら、神愛に緑色の液体が注がれたコップを差し出す女性。
「あ、ありがとうございます…ところで、その…あなたは…」
差し出されたコップを受け取りながら誰何する神愛。
「私はフィリア、たまたま森で薬草を探していたら獣に襲われている君を見つけたの。ところで君、名前は?どうして、こんな森に一人で?」
「僕は…僑國神愛っていいます。毒を盛られて…森に捨てられて…その、助けていただいて本当にありがとうございます」
謎の女性、フィリアの誰何に素直に答え助けてもらったことにお礼を言う神愛。
問いかけの答えにはなっていないが神愛の名前を聞いたフィリアは―
「なるほどね…もしかして君、召喚者?」
驚くべきことに神愛の正体を言い当てた。
自分から話していないのになぜ、といった様子でフィリアを見つめる神愛。
「ど、どうしてそのことを…」
「この世界にそんな珍しい種類の名前の人は多くない。それに、この森の最寄りの国は神聖国家…あそこの国は神を祀っているように見えて中身は完全な軍事国家。昔から戦争のためと称して異世界から勇者や戦闘能力の高い人材を召喚していたの。たぶん君もそうなんでしょう?だけど、捨てられた…ということは召喚したはいいものの戦闘能力がなかったってこと…でいいのかな?」
冷静な推論に舌を巻く神愛。そして遠回しに無能と言われたことに少々落ち込む。
そんな神愛の雰囲気を察して苦笑いを浮かべるフィリア。
「戦闘能力がないからって捨てるあの国はおかしいのよ。君はたしかに戦闘はできないのかもしれないけれど、ほかのことで補えばいいの。人はだれしも苦手なことやできないことがあるんだから、他人から下された評価なんて気にして生きてちゃダメ」
生まれて初めてともいえる優しさに満ちた言葉に思わず泣きそうになる神愛。
「あ、ありがとうございます…ところで、フィリアさんはどうして僕なんかを助けてくれたんですか?」
自分を助けたところでメリットなど何もないだろうに、と不思議に思い疑問をぶつける。
「目の前で苦しんでいる人がいて、その人を救える力を持っていた。ただ、それだけ。残酷な世界だから、私みたいなお節介焼きが一人ぐらいいてもいいと思うの」
フィリアのはにかむような笑顔に思わず見惚れる神愛。フィリアの見た目は大人びた10代でも通りそうなほどに若いが、その身に纏う妖艶な雰囲気が彼女の年齢を上に見せる。
「そ、そうなんですか。す、すごく素敵だと思います」
「ふふ、ありがとう。ところで君、これからどうするの?どこか行く当てはある?」
「う…そ、それは…」
神愛は召喚されて間もない。行く当てどころか寝泊まりする場所さえ探さなければならない状況だ。
それを察したフィリアは―
「そっか。なら、私とおいで。右も左もわからない状態の君が一人で出歩くのは危険すぎるから」
「え!?で、でもそんな…フィリアさんにこれ以上迷惑をかけるわけには…」
「迷惑なんかじゃないよ。ちょうど一人で旅を続けるのに飽きてきたところだったから」
クスクスと笑いながら神愛を旅に誘った。
神愛としてはこれ以上フィリアに迷惑をかけたくはなかったが、かといって一人で辺りをうろついたとしても獣に襲われて喰われるのが落ちだろう。ならばフィリアと旅をし、この世界のことをもっとよく知ったほうがいいように思えた。
「そ、その…フィリアさんがそうおっしゃるなら…ぜひ」
「そうそう、遠慮しないで。子供は素直が一番だよ」
神愛の頭をポンポンとたたきながら言うフィリア。この時点で彼女は神愛のことを12歳ぐらいだと思っていた。実際の年齢と2歳しか違わないのだがこの世界で12歳と14歳とでは大きな差があった。
なにせこの世界の成人は15歳なのだ。成人間近の男の頭をたたくなど、それも知り合って間もない男となれば尚更あり得ない状況だろう。後に神愛の年齢を知り、アワアワすることになるのだが、それはまた別の話…
腰まで伸びた美しいプラチナブロンドの髪、明るく澄んだ青空色の目は一度視線を捉えられたら、離すことはできないほどの魅力を醸し出している。
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だが、いつまでたっても肉を引きちぎる音も悲鳴も聞こえてこない。
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「仕方ないかな。“汝に安らかなる眠りを与えよ、睡眠霧”」
神愛は知るところではなかったが女性が唱えたのは様々な属性を組み合わせた複合魔法。これを再現するには少なくとも、樹、風、水の三つの属性に適性がなければ不可能だ。それを威力を限定し、範囲も神愛に届かないよう、徹底的に操ったことから彼女の魔法の適性はとんでもないことがうかがえた。
「ふぅ…さて、君、大丈夫?どうしてこんなところにいたの?親はどこにいるの?」
獣たちを眠らせ安全を確保すると神愛の顔を伺いながら、質問攻めにする女性。
そして、神愛の顔色の悪さから何らかの毒を盛られているのだと察した。
「!…これは…相当に強い痺れ薬…一体誰がこんなことを…」
自然界にも痺れをもたらす植物などは多く存在する。だが、この迷いの森には致死性の毒は多くあるが、非致死性の痺れだけをもたらす薬草類などは存在しない。そこで彼女はこの痺れは人の手によるものだと判断し、毒を盛られた後、この森に連れてこられたのだと推測した。一刻も早く解毒しなければ身体に障害が残ると判断した彼女はさっそく行動を開始する。
「少し、変な感じがするかもしれないけれど我慢してね」
そう優しく告げると透き通るような声で詠唱を始めた。
「“聖母の微笑み、神々の加護、創造神の祝福、魂の救済、神聖を捧げる、崇高なる天人、我はここに癒しを望む、彼の者を救い賜え、慈愛の祝福”」
詠うような美しい詠唱が終わると神愛の身体が眩い光に包み込まれた。
そして、光が収まったかと思うと神愛の身体からは痺れが消え、感じていた倦怠感や飢餓感や痛みもきれいさっぱり消え去った。
「大丈夫?もう毒は消え去ったと思うんだけど…」
再びのぞき込むようにしてこちらを見ている美しい女性。神愛はかつて感じたことのないほどの優しさと慈しみに幸福感を感じ、毒が消え去った安心感もあり、つぶやきと共に意識を暗転させた。
「か、かあさ…ん…」
女性はそのつぶやきに目を白黒させた後、危険な魔物が徘徊する森に置いていくわけにもいかないと、神愛を抱きかかえると森の奥へと歩き出した。
◇◇◇
(神愛君、神愛君ってば、起きてよ~昼休み終わるよ~)
誰だろう。まだ眠いんだ。寝かせておいてよ。
(また榊原君たちに落書きされちゃうってばー)
いいんだよ…抵抗しても変わらないんだから…だからあと5分…
「君、ねぇ、起きてってば。そろそろ担いで移動するのはきついんだけど…」
ふと、美しい女性の声が神愛の耳に届いた。
そしてだんだんと自分の置かれていた状況を思い出す。
(そうだ…僕、異世界に召喚されて…それで無能だから捨てられて…それから…)
状況を整理しながらなぜ自分が寝ているのかを思い出す。
(そうだ…たしか獣みたいなのに襲われてたところを助けてもらって…)
ゆっくりと目を開けると目の前には獣に襲われたときにあらわれた美しい女性がいた。
さらさらと流れる白金色の髪は月光を反射して暴力的なまでの魅力を醸し出している。
思わず見惚れる神愛。
「大丈夫?記憶とかはある?」
心配そうに仰向けに寝かされた神愛の顔をのぞき込む女性。
「だ、大丈夫です!」
と、声を上げながら立ち上がろうとする神愛だったがすぐに足元が覚束なくなり尻もちをついてしまう。
「あぁ、まだ無理はしないでね。毒は消えたけど急速な解毒は身体が戸惑ってしまうことも多いから」
そういいながら、神愛に緑色の液体が注がれたコップを差し出す女性。
「あ、ありがとうございます…ところで、その…あなたは…」
差し出されたコップを受け取りながら誰何する神愛。
「私はフィリア、たまたま森で薬草を探していたら獣に襲われている君を見つけたの。ところで君、名前は?どうして、こんな森に一人で?」
「僕は…僑國神愛っていいます。毒を盛られて…森に捨てられて…その、助けていただいて本当にありがとうございます」
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それを察したフィリアは―
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「そ、その…フィリアさんがそうおっしゃるなら…ぜひ」
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