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異世界転生篇
第8話 新たなる自分
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「わ、わかった…」
突然、出会ったばかりの少年の名前を決めることになり戸惑うフィリア。しばらく考え込み、ふと思いついたように神愛に問いかけた。
「君の名前って確か、神様から愛されるって意味で付けられたんだったよね」
そして、先ほど、出生を語る際に神愛が語ったことを口にする。
「はい、祖父母からはそう聞いてます」
嫌な思い出に顔をしかめそうになるのを堪え答える。
「そっか。だったら名前はそのまま“シノア”でいいんじゃないかな。せっかくご両親が付けてくれた素敵な名前なんだから。なんだか、逃げたみたいでごめんね」
少し申し訳なさそうに神愛に言うフィリア。それに対し神愛は―
「ありがとうございます。たしかに両親からの名前だけど、今の僕は“僑國 神愛”。フィリアさんから名前をもらって新しく生まれ変わろうと思います。“シノア”として。」
決意を胸に堂々と宣言するシノア。
「そっか。うん、よかった。それじゃあ始めようか」
安心したようにフィリアがステータスチェックを促す。
「はい。“我、真名の変換を望む”」
ペンと羊皮紙が眩い光を放ち始める。
「“ステータスチェック”」
光を放ちながらシノアの周りを回りだし、とてつもないスピードで回転していく。
「あ、あれ?おかしいな…名前変更ってこんなに回ったっけ…」
戸惑いながらフィリアがつぶやく。だが、シノアにはそんな声は届かない。魔道具が織りなす光の膜に包まれ、周囲から一時的に隔離されていた。
(僕の名前はシノア、僕の名前はシノア、僕の名前はシノア)
言われたとおりに自分の新しい名前を強くイメージするシノア。徐々に魔道具が放つ光が弱まるとともに回転も収まってきた。そして、完全に光が消え、回転も止まるとゆっくりとその場に着地した。
シノアの手にはいまだ光の残滓が残る紙が一枚。ゆっくりと目を開けるシノア。
「大丈夫?痛みとか違和感はない?」
心配そうにシノアを見つめるフィリア。
「いえ、大丈夫です」
自分の身体の調子を確かめながら答えるシノア。その様子に安心したように息をつくフィリア。
「よかった。それじゃあステータス見てみようか。ちゃんと名前変わってるよね?」
そして、シノアの持つステータスが描かれた紙をのぞき込み、絶句した。なにせそこには―
名前:シノア
レベル:1
スキル:神の器
魔法:
属性適性:
と、書かれていたからだ。
フィリアはこう見えて長い間旅をしている。その間、多くの人と触れ合い、身分証やステータスを見てきた。その中には固有名を持つスキルを持つ者もごく少数だがいたのだ。
だが、その中にさえ神の名を冠するスキルなど見たこともない。そして、何よりシノアの持つステータスの描かれた羊皮紙に残る光の残滓から感じる力に覚えがあったのだ。
それは神々しいと表するにふさわしい圧倒的なまでの存在力、神格と呼ばれるモノ。
一度に起きたとは思えない出来事に情報過多で眩暈を感じるフィリア。
そんなフィリアを心配そうにのぞき込むシノア。
「あ、あの大丈夫ですか?僕のステータス…なにかおかしいですか?」
「う、ううん、大丈夫。初めて見るスキルだったから少し驚いただけ」
動揺を悟られないように言葉を繋ぐフィリア。
「そうなんですか…でもこのスキルよくわからないんです…なにか能力が使えるわけじゃないし、どういうものか全然わからないんです」
スキル欄に新しいスキルが追加されていることに歓喜したシノアだったがそれが使えない、少なくとも今の自分にはその効能さえ理解できないということが分かると再び項垂れることとなった。
そんなシノアをフィリアが慰める。
「大丈夫だよ。スキルっていうのは覚えた手じゃ意味がないから。段々身体になじんできて初めて使いこなせるようになるものだよ」
フィリアの優しい言葉に嬉しそうに目を細めて笑うシノア。
「ふふ、そうそう、君笑ってる顔のほうが似合ってるんだからもっと笑って?」
「え?!僕…今までずっと不機嫌そうな顔でしたか?」
「違うけど、なんかこう、影があるっていうか、トラウマ背負ってそうっていうか、ね?」
「そ、そんな…き、気を付けます」
「あ、ほらほら、また影できてるよ。ふっふっふっ、そんな悪い子にはお仕置きだね?」
「え、ちょっ、な、なんですかその手の形は、なんで僕の脇腹を狙ってるんですか!」
「くらえ!秘儀、くすぐりの手!」
「なにしょーもない技に魔法にありそうな名前つけてるんですか!あ、ちょ、やめ、て、あ、あははは!」
「ほれほれーここがええんか?ここがええんやろー?」
「いや、なんで関西弁―ひぃぃい、もう、やめてぇえええ」
しばらくの間、森の中に笑い声が響き渡っていた。
◇◇◇
「さて、今度こそ本当に出発―って言いたいけどその前に」
「まだ何かあるんですか?」
フィリアにさんざん好き放題されたシノアは若干ジト目になりながらもフィリアのつぶやきに反応する。
「うん、君のその髪と服がね。この世界じゃ目立ちすぎるから、変えようかと思ってね」
シノアは今、学校指定のブレザーを着ており、かなりボロボロでみすぼらしい。
それに服を変えたとしても黒髪のままでは姿絵だけで召喚者の僑國神愛だとバレてしまう恐れがある。
旅をする以上、身だしなみは整えなければならないし、髪の色も変えたほうが良いだろう。
「わ、わかりました。でも、髪の色ってどう変えたらいいんですか?」
思っていたよりも真剣な内容だったために、少々拍子抜けするシノア。
「色素変換っていう一種の職業魔法を使うんだけどね、痛みとかはないから安心して」
「魔法か…あの、この髪の色を変える前にこの世界についてもっと詳しく聞いてもいいですか?」
突如出てきた謎用語に戸惑い、この際なので今まで疑問に思っていたこともまとめて聞こうと思うシノア。
「あぁ…この世界に来て間もないもんね。そうだね…それじゃあこの世界ができた歴史そのものから教えようかな」
そういって可愛らしい咳払いの後、フィリアが語ったのは創世記というこの世界の始まりや大陸の形成、人間という種族や亜人族、魔人族の起源まで、さまざまなことだった。
「おっほん!…この世界は最初、何もない無の状態だった。そこに光、後に創造神と呼ばれるものが生まれ、それと同時に影、後に破壊神、または魔神と呼ばれるものが生まれたの」
光あるところに影あり、表と裏、陽と陰を司る二柱の神は初めは手を取り合い、世界の創造と破壊、そして再構築を営んだ。
「最初、二柱の神は仲が良かったとされている。けれど、創造神が人間を作ったころから破壊神は人間という種族そのものの愚かさに呆れ、やがてそれを放置している創造神にも愛想をつかし始めた」
そして、二柱の神は戦った。兄妹喧嘩といえばかわいいものだが、それは神々の戦い。天が裂け、大地は悲鳴を上げ、いつしか地上は人どころか生物すらも存在できない死地へと変わった。
「創造神と破壊神の戦いで世界は壊れかけたけれど、創造神がなんとか破壊神を封印し、地上を浄化していったの」
もちろんそれ相応の代償を払った。
気の遠くなるような時間と膨大な神のエネルギー、神格。
一部の土地にはその力が残っており、神に祝福された土地、オアシスと呼ばれている。
そこでは食物は季節など関係なく育ち、人々は土地を踏んでいるだけで癒されるとさえ、言われている。
「そして、ようやく人が生きられるようになったころ、破壊神を封印した土地から人間と似た何かが生まれ始めたの」
それは今の時代では魔人族と呼ばれるもの。人間族よりも魔力の扱いに長け、身体能力も人を凌駕していた。
「創造神は止めようとしたけれど、この世に誕生したすべてを愛でるのが創造を司り、慈愛を司る彼の役目。魔人族が人間族と手を取り合い、共存の道を選び始めたため、放置した」
そして、長い時、平穏が訪れる。人々の間で戦争や略奪は起きるがそれも自然の摂理と切り捨て、それすらも愛でた。そして、人が増えるとともに世界の規模は広がり始めた。
「自分ひとりでの管理が億劫になり始めた創造神は自らの眷属を生み出した」
それは生まれて間もない頃創り出した属性という概念。それらを司る神を生み出した。
「火の下級神、サラマンダー。水の下級神、ウンディーネ。土の下級神、ノーム。風の下級神、シルフィード。木の下級神、ドライアド。ほかにも様々な神を生み出し、世界の管理をさせ始めた」
「あの…下級ってことは上級とかもいるんですか?」
シノアがふと疑問に思い、合いの手を入れる。
「下級のほかにも中級、上級の神がいる。ほかにもたくさんの神がいるんだけれど…長くなるからここでは割愛するね」
シノアの疑問に丁寧に答え、フィリアは続きを話し出す。
「そして、創造神なしでも世界の運営が可能となり、創造神は人々の信仰を直に確かめるため、力を極限まで抑えて、自らが作り出した仮初の生命体、ホムンクルスに憑依して地上を旅し始めた」
一世紀というと人からすれば長い時間のように思えるが、創世記から存在する創造神には一瞬だった。
突然、出会ったばかりの少年の名前を決めることになり戸惑うフィリア。しばらく考え込み、ふと思いついたように神愛に問いかけた。
「君の名前って確か、神様から愛されるって意味で付けられたんだったよね」
そして、先ほど、出生を語る際に神愛が語ったことを口にする。
「はい、祖父母からはそう聞いてます」
嫌な思い出に顔をしかめそうになるのを堪え答える。
「そっか。だったら名前はそのまま“シノア”でいいんじゃないかな。せっかくご両親が付けてくれた素敵な名前なんだから。なんだか、逃げたみたいでごめんね」
少し申し訳なさそうに神愛に言うフィリア。それに対し神愛は―
「ありがとうございます。たしかに両親からの名前だけど、今の僕は“僑國 神愛”。フィリアさんから名前をもらって新しく生まれ変わろうと思います。“シノア”として。」
決意を胸に堂々と宣言するシノア。
「そっか。うん、よかった。それじゃあ始めようか」
安心したようにフィリアがステータスチェックを促す。
「はい。“我、真名の変換を望む”」
ペンと羊皮紙が眩い光を放ち始める。
「“ステータスチェック”」
光を放ちながらシノアの周りを回りだし、とてつもないスピードで回転していく。
「あ、あれ?おかしいな…名前変更ってこんなに回ったっけ…」
戸惑いながらフィリアがつぶやく。だが、シノアにはそんな声は届かない。魔道具が織りなす光の膜に包まれ、周囲から一時的に隔離されていた。
(僕の名前はシノア、僕の名前はシノア、僕の名前はシノア)
言われたとおりに自分の新しい名前を強くイメージするシノア。徐々に魔道具が放つ光が弱まるとともに回転も収まってきた。そして、完全に光が消え、回転も止まるとゆっくりとその場に着地した。
シノアの手にはいまだ光の残滓が残る紙が一枚。ゆっくりと目を開けるシノア。
「大丈夫?痛みとか違和感はない?」
心配そうにシノアを見つめるフィリア。
「いえ、大丈夫です」
自分の身体の調子を確かめながら答えるシノア。その様子に安心したように息をつくフィリア。
「よかった。それじゃあステータス見てみようか。ちゃんと名前変わってるよね?」
そして、シノアの持つステータスが描かれた紙をのぞき込み、絶句した。なにせそこには―
名前:シノア
レベル:1
スキル:神の器
魔法:
属性適性:
と、書かれていたからだ。
フィリアはこう見えて長い間旅をしている。その間、多くの人と触れ合い、身分証やステータスを見てきた。その中には固有名を持つスキルを持つ者もごく少数だがいたのだ。
だが、その中にさえ神の名を冠するスキルなど見たこともない。そして、何よりシノアの持つステータスの描かれた羊皮紙に残る光の残滓から感じる力に覚えがあったのだ。
それは神々しいと表するにふさわしい圧倒的なまでの存在力、神格と呼ばれるモノ。
一度に起きたとは思えない出来事に情報過多で眩暈を感じるフィリア。
そんなフィリアを心配そうにのぞき込むシノア。
「あ、あの大丈夫ですか?僕のステータス…なにかおかしいですか?」
「う、ううん、大丈夫。初めて見るスキルだったから少し驚いただけ」
動揺を悟られないように言葉を繋ぐフィリア。
「そうなんですか…でもこのスキルよくわからないんです…なにか能力が使えるわけじゃないし、どういうものか全然わからないんです」
スキル欄に新しいスキルが追加されていることに歓喜したシノアだったがそれが使えない、少なくとも今の自分にはその効能さえ理解できないということが分かると再び項垂れることとなった。
そんなシノアをフィリアが慰める。
「大丈夫だよ。スキルっていうのは覚えた手じゃ意味がないから。段々身体になじんできて初めて使いこなせるようになるものだよ」
フィリアの優しい言葉に嬉しそうに目を細めて笑うシノア。
「ふふ、そうそう、君笑ってる顔のほうが似合ってるんだからもっと笑って?」
「え?!僕…今までずっと不機嫌そうな顔でしたか?」
「違うけど、なんかこう、影があるっていうか、トラウマ背負ってそうっていうか、ね?」
「そ、そんな…き、気を付けます」
「あ、ほらほら、また影できてるよ。ふっふっふっ、そんな悪い子にはお仕置きだね?」
「え、ちょっ、な、なんですかその手の形は、なんで僕の脇腹を狙ってるんですか!」
「くらえ!秘儀、くすぐりの手!」
「なにしょーもない技に魔法にありそうな名前つけてるんですか!あ、ちょ、やめ、て、あ、あははは!」
「ほれほれーここがええんか?ここがええんやろー?」
「いや、なんで関西弁―ひぃぃい、もう、やめてぇえええ」
しばらくの間、森の中に笑い声が響き渡っていた。
◇◇◇
「さて、今度こそ本当に出発―って言いたいけどその前に」
「まだ何かあるんですか?」
フィリアにさんざん好き放題されたシノアは若干ジト目になりながらもフィリアのつぶやきに反応する。
「うん、君のその髪と服がね。この世界じゃ目立ちすぎるから、変えようかと思ってね」
シノアは今、学校指定のブレザーを着ており、かなりボロボロでみすぼらしい。
それに服を変えたとしても黒髪のままでは姿絵だけで召喚者の僑國神愛だとバレてしまう恐れがある。
旅をする以上、身だしなみは整えなければならないし、髪の色も変えたほうが良いだろう。
「わ、わかりました。でも、髪の色ってどう変えたらいいんですか?」
思っていたよりも真剣な内容だったために、少々拍子抜けするシノア。
「色素変換っていう一種の職業魔法を使うんだけどね、痛みとかはないから安心して」
「魔法か…あの、この髪の色を変える前にこの世界についてもっと詳しく聞いてもいいですか?」
突如出てきた謎用語に戸惑い、この際なので今まで疑問に思っていたこともまとめて聞こうと思うシノア。
「あぁ…この世界に来て間もないもんね。そうだね…それじゃあこの世界ができた歴史そのものから教えようかな」
そういって可愛らしい咳払いの後、フィリアが語ったのは創世記というこの世界の始まりや大陸の形成、人間という種族や亜人族、魔人族の起源まで、さまざまなことだった。
「おっほん!…この世界は最初、何もない無の状態だった。そこに光、後に創造神と呼ばれるものが生まれ、それと同時に影、後に破壊神、または魔神と呼ばれるものが生まれたの」
光あるところに影あり、表と裏、陽と陰を司る二柱の神は初めは手を取り合い、世界の創造と破壊、そして再構築を営んだ。
「最初、二柱の神は仲が良かったとされている。けれど、創造神が人間を作ったころから破壊神は人間という種族そのものの愚かさに呆れ、やがてそれを放置している創造神にも愛想をつかし始めた」
そして、二柱の神は戦った。兄妹喧嘩といえばかわいいものだが、それは神々の戦い。天が裂け、大地は悲鳴を上げ、いつしか地上は人どころか生物すらも存在できない死地へと変わった。
「創造神と破壊神の戦いで世界は壊れかけたけれど、創造神がなんとか破壊神を封印し、地上を浄化していったの」
もちろんそれ相応の代償を払った。
気の遠くなるような時間と膨大な神のエネルギー、神格。
一部の土地にはその力が残っており、神に祝福された土地、オアシスと呼ばれている。
そこでは食物は季節など関係なく育ち、人々は土地を踏んでいるだけで癒されるとさえ、言われている。
「そして、ようやく人が生きられるようになったころ、破壊神を封印した土地から人間と似た何かが生まれ始めたの」
それは今の時代では魔人族と呼ばれるもの。人間族よりも魔力の扱いに長け、身体能力も人を凌駕していた。
「創造神は止めようとしたけれど、この世に誕生したすべてを愛でるのが創造を司り、慈愛を司る彼の役目。魔人族が人間族と手を取り合い、共存の道を選び始めたため、放置した」
そして、長い時、平穏が訪れる。人々の間で戦争や略奪は起きるがそれも自然の摂理と切り捨て、それすらも愛でた。そして、人が増えるとともに世界の規模は広がり始めた。
「自分ひとりでの管理が億劫になり始めた創造神は自らの眷属を生み出した」
それは生まれて間もない頃創り出した属性という概念。それらを司る神を生み出した。
「火の下級神、サラマンダー。水の下級神、ウンディーネ。土の下級神、ノーム。風の下級神、シルフィード。木の下級神、ドライアド。ほかにも様々な神を生み出し、世界の管理をさせ始めた」
「あの…下級ってことは上級とかもいるんですか?」
シノアがふと疑問に思い、合いの手を入れる。
「下級のほかにも中級、上級の神がいる。ほかにもたくさんの神がいるんだけれど…長くなるからここでは割愛するね」
シノアの疑問に丁寧に答え、フィリアは続きを話し出す。
「そして、創造神なしでも世界の運営が可能となり、創造神は人々の信仰を直に確かめるため、力を極限まで抑えて、自らが作り出した仮初の生命体、ホムンクルスに憑依して地上を旅し始めた」
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