無能な神の寵児

鈴丸ネコ助

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番外篇

クラスメイトside 中編 与えられた力

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メイドに案内された場所に到着し、一行は思わず息を呑んだ。
その場所は壁際にショーウィンドーが大量に備え付けられており、その中には甲冑や剣、盾、槍や杖などが無数に飾られていた。豪華な彫刻がなされた品々はとてつもない財力の元、制作されたことが素人目にもはっきりとわかるほどだった。ファンタジーRPGのような光景に興奮を隠しきれない一行。

「ほっほっほっ、気に入っていただけましたかな?」

そんな彼らに入り口から声がかかる。

「メリギトスさん!えぇ、驚きました」
「ほんとですよ!夢みたいです」

口々に褒め称える各々。そんな彼らに笑顔を向けるメリギトスだったが、思い出したように部屋の中央へ彼らを集める。

「実は陛下から召喚者の皆様に武器を与えるようにといわれておりますので…」

そういうとメイドたちが武器を丁寧に両手に持ってやってきた。

「まず、榊原様には古来より伝わる伝説の聖剣、アロンダイトを」

メイドが差し出した長剣を両手で受け取る榊原。その美しさと秘めたる力に声も出ないようだった。
榊原が知るところではなかったが、この聖剣は別名、裏切りの聖剣とも呼ばれ、皇帝の地位を狙った弟が皇帝を暗殺したという、いわく付きの武器だった。

「次に、朱雀様には我が第二師団と第四師団にて共同開発が行われた魔銃を仕込んだ刀を」

榊原の次は朱雀だった。榊原のように古代から伝わる武具ではなくメリギトスが団長を務める第二師団―別名魔術師団―と錬成士や錬金術師、土魔法使いで構成される第四師団によって共同で開発が行われた新時代の武器が朱雀には手渡された。

この武器は魔銃と呼ばれる魔力を弾にして撃ち出す新型兵器と国宝級アーティファクトである刀剣が巧な技により組み合わされている。この武器は少々特殊で、鞘に入れた状態でしか弾の発射はできず、抜刀状態では魔力を流しても刀身が魔力でコーティングされ刀の強度が増す程度の効果しかない。

「銘はありませんので、ご自由につけられてください」

メリギトスの言葉に感無量といった様子だった朱雀だったが小さく―

鎬藤四郎しのぎとうしろう…」

とつぶやいた。どうやら銘は決まったようだ。

「次に九重様。貴方様にはかつて勇者が携えたといわれる二振りの短剣を」

九重には二刀流の短剣、干将かんしょう莫邪ばくやが渡された。

「次に、今井様にはこちらの杖を」

神聖魔法に適性を持ち、将来有望な治療師になれるだろう今井には杖、アロンが授けられた。この杖の銘はモーゼが海を割ったとされる杖と同じ名なのだが、今井は知る由もなかった。
ほかの面々にもそれぞれ、水無瀬には大杖、黒瀬には槍、田中にはナックルが渡された。

「あ、あの…僕には…」

一向に武器が渡される気配がない佐藤が恐る恐るといった感じで自分の武器の有無を尋ねる。

「あぁ、佐藤様にはこちらを」

そして手のひらサイズの十字架が渡された。

「え、あの…これ…」

自分の武器のしょぼさに佐藤が思わず、メリギトスを見る。

「それは武器というわけではありませんが、持つ者の魔力を上昇させ、魔法の威力を上昇させる護符アミュレットです。佐藤様のスキルと非常に相性がいいかと思いますぞ」

佐藤に渡されたのは簡素な彫刻が施された十字架だった。これは所有者の魔力を上昇させるだけでなく、魔法発動に必要な魔力や魔法制御力を肩代わりしてくれたりとかなり優秀なお守りだったりする。だが、ほかの面々が強力武器を賜っている中で、自分だけ武器ですらないただの護符アミュレットだったため、かなり落胆していた。

「さて、各々方武器の性能を確かめたいでしょうからこの先の訓練場をお使いください。対人戦をしたい場合は近くに第一師団の騎士を待機させておりますので、ご利用ください」
「あ、あの!魔法学びたいんですけど…どうしたらいいですか?」

訓練場へと案内しようとするメリギトスを止め、魔法について尋ねる田中。

「おぉ、これは失礼しました。では訓練前に魔法の講義といたしましょうか」

そういうと、メリギトスは部屋の出口に向かい歩き出した。
そして、訓練場を抜けた先にあった大学の講義室のような場所に一行を案内した。
かなり広いスペースで100人分の椅子がおいてあり、普段から活発に使われているようで黒板は白い消し後が残っていた。

「皆様、お好きな席へどうぞ」

メリギトスに促され、それぞれ席に着く。全員が席に着いたことを確認すると講義を始める。チョークのようなものを手に取り、黒板にせっせと文字を書き始める。ちなみに榊原たちには昨日の訓練の時点で、“語らいの指輪”が渡されており、読み書きに関しては完璧だ。

「まず、魔法という概念そのものからお話ししましょう。魔法とは神代―神と人間がより近かった時代―に神から授けられたとされる究極の法則制御の術です。“神の奇跡”と呼ばれていた当時、神々にしか使うことができなかった魔法の原初を人間に合わせ、改良されたものが今の魔法でございます。魔法には属性により、異なる種類があります。元素属性を利用したものは元素魔法、その上位の原初魔法、ほかにも主に神聖属性を利用した神聖魔法、精霊や悪魔、幻獣を召喚する召喚魔法などが主ですかな。何か質問はございますかな?」
「えっと、属性ってどんなのがあるんですか?」

メリギトスの問いかけに榊原が挙手をし、質問を口にする。

「まず、最初に誕生したとされる元素属性、次に魔法の原初に近い力を発揮することができる原初魔法の属性、原初属性、混沌から生まれたとされる光と闇の混沌属性、混沌属性とは別ですが光と闇を司る神聖属性、そして、この世の流れそのものを支配する時空間属性、時と空が存在します」

榊原の質問に丁寧に答えるとさらに詳しい情報を伝える。

「あぁ、それから属性にはそれぞれ魔法名からとった別名のようなものがありまして、元素属性は“エレメント”、原初属性は“オリジン”、混沌属性は“カオス”、神聖属性は“ホーリー”などですな。時空間属性はそもそも馴染みがありませんから別名はありません。一般的にはひとつの属性にしか適性を持たず、一生をかけてそれを極めていくものですが、中には数種類の属性に適性を持つ者も若干ですが存在します。そういったものたちは大抵、王宮魔術師として国に仕えるか、危険分子として排除されるかですな」
「なるほど…」

メリギトスの説明に納得する一行。

「魔法の発動には通常、詠唱と魔法陣、そしてイメージが必要です。魔法陣は竜脈との接続、すなわち扉の役割を果たし、詠唱は竜脈と魔法陣を接続させる役割を担い、イメージは魔法の制御において重要な役割を持っています。ですが、簡単な魔法ならば詠唱は省略可能ですし、スキル持ちならばさらに簡単に詠唱なしで魔法を発動させることができます。魔法陣も自身の身体を媒体とすることにより無しでも発動自体は可能です。」

魔法の具体的な話に目を輝かせる一行に、メリギトスが注意をする。

「ただし、これらは身体への負担が大きく、自分に見合わない力の魔法を無詠唱、無魔法陣で発動しようとした場合、最悪の場合は死に至ります。膨大な魔力が自身の身体に流れ込むことにより、魔力過剰症を引き起こし、身体が崩壊するのです。魔法は威力が大きい分、危険も大きいので自分の力に見合った術を使うようにしてくださいませ」

魔法の危険性などを説明し終えたメリギトスは魔法の格について語り始めた。

「さて、魔法の威力についてですがこれにも格付けというものが存在します。元素魔法エレメントマジック原初魔法オリジンマジック混沌魔法カオスマジックですが、それぞれ初級、中級、上級、最上級、そして禁術というものが存在します。原初魔法は元素魔法の上位と考えていただいて結構です。簡単に言えば、原初魔法オリジンマジックの中級は元素魔法エレメントマジックの上級とほぼ同威力、といった具合でしょうかね」

さて、といった様子で黒板を書いていた手を止め榊原たちの方を振り返るメリギトスだったが、全員がぽかんと口を開けており、どうしたのかと首をかしげる。
そんなメリギトスの視線にこたえるように九重が発言する。

「メリギトスさんってすごくお上手なんですね。もしかして先生をしていたりするんでしょうか?」
「お褒めいただいて光栄ですな。実は私は王国に属する魔術師たちの指南を仰せつかっておりましてな、よくこのような講義を行うのですよ」

ほっほっほっ、と言いながら自慢の髭を撫でるメリギトス。
それから1時間ほど講義は続いたが一人を除いた全員が眠ることなく集中して聞き入っていた。

そして、その日から毎日剣術や魔法の訓練が始まった。常人ならばすぐに力尽きてしまうような過酷な訓練の連続だったが、召喚者ゆえのポテンシャルの高さで全員難なくついてきた。佐藤と今井は戦闘向きではなかったため、神殿で治癒術と神聖魔法について学んでいた。それぞれが自分の長所を伸ばし、戦闘能力を向上させていった。
それから一週間後、とうとう召喚者たちが脚を踏み入れる時がやってきた。
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