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異世界放浪篇
第11話 フィリアの実力
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「シノア、水系の回復魔法どれくらい使えるようになった?」
「え…あ、えっとまだ複数人同時に癒すのはちょっと…中級で詠唱省略無しでぎりぎり…」
「そう…まぁ仕方ないよ。それじゃあ治癒術で村人さんたちを癒してあげて。私はこっち片付けるから」
「りょ、了解です!お気をつけて…」
実はフィリアは自分が村人たちを回復させシノアに戦わせよう、とも考えていたりした。だが、シノアは旅を始めてから魔物どころか動物を殺すことも忌避していた。
現代っ子だった中学二年生がいきなり異世界に来たから冷酷な殺戮ができる…などというのはご都合過ぎるというものだろう。シノアはウサギを殺すことすら忌避した。自分が一つの命を奪うということを考えるだけで震えが止まらなくなり、胃の中がぐるぐるし始めるのだ。そのためフィリアは戦闘は自分が行い、シノアには回復兼神聖魔法の練習をさせようと思ったのだ。
「ま、待て!お前さんのような小娘に何ができ―」
「剣術奥義、殺戮之刃」
村長の言葉はフィリアの口ずさむような奥義発動の鍵言にかき消された。
剣術スキルLevel7奥義の一つ、殺戮之刃。
超高速の剣捌きにより多数の敵を一瞬で灰塵と化す、一撃必殺の技だ。本来熟練ハンターでも使うことがないような超高等戦闘技術に村人たちは唖然としていた。それを見るシノアも―
(相変わらず、出鱈目に強いなー。いつまでたっても一本どころか触れられもしないわけだ…)
と若干自暴自棄になっていた。結局、30体はいたと思われる魔物たちは5分もかからず全滅した。フィリアの圧倒的な剣術の前には追いはぎ魔物ごとき敵ではなかったのだ。“チンッ”と心地の良い音を響かせ納刀し、シノアの下へ戻る。
「どう?おわった?」
「あ、はい。さすがに部位欠損までは今の僕では無理なので消毒と止血、痛み止めは済ませておきました」
「うん、上出来。あとは私が」
そういうと鞄から錫杖を取り出し、胸の前に構える。そして、一瞬目を伏せたかと思うと―
「“恵みの喜雨”」
神聖魔法を発動させた。
恵みの喜雨は範囲系の回復魔法で範囲内の人々の病気、怪我、生まれつきの障害すら治してしまうという高い効果を持ったものだ。
当然その発動難易度は高く、詠唱だけでも20句はあり、魔法陣も半径2メートルの円に複雑な神聖文字を描いて構築しなければならないという発動だけでも困難な魔法だ。それを無詠唱かつ無魔法陣、何より戦闘終了後という通常ならば息と心を乱している状況で発動できるというのは異常だった。
元傭兵の村長はそのことに畏怖を感じながらも傷を治してくれたシノアとフィリアに感謝の意を伝える。
「助かりました。反抗的な態度をとってしまい申し訳ありません。村が襲われて気が動転していたもので…」
「いえ、この周辺では魔物を利用して悪さをする盗賊もいると聞きます。村の長として正しい対応だと思います」
フィリアの擁護するような言葉に胸をなでおろす村長。だが、次にフィリアの口から放たれた言葉に狼狽する。
「それでは私たちは村を襲った魔物を追いますので、詳しい情報を教えていただけますか?」
「な、なにをいっているのですか!あれは人が相手取れるものではありませんぞ!いくらあなたがお強いとはいっても―」
「大丈夫です、狩りは幾度となく経験していますから。もし私たちが失敗してもただのお節介焼きの旅人が死ぬだけで胸を痛めることはありません。それに――約束してしまいましたから」
そういうとフィリアは母親を助けてほしいと懇願してきた幼女にしがみつかれているシノアを見る。神聖魔法で癒す間、幼女はずっとシノアにくっついていたようだった。
「この子は約束を守ります。一度約束したからにはたとえ無理に思える事でも立ち向かっていきます。私が止めようとしても無駄ですから」
少し困ったような笑みを浮かべながら村長を説得するフィリア。その笑みに気づいたシノアは頬をかきながらフィリアに同調する。
「村長さん、僕たちなら大丈夫です。何度か大型の魔物の狩りも経験していますし、フィリアさんはすごく強いですから。それに僕もフィリアさんも回復魔法には自信がありますから」
シノアの言葉に村長は自分たちの傷を一瞬で治した魔法を思い出す。シノアが使った回復魔法もすさまじかったがフィリアの魔法はもっとすさまじかった。部位欠損が治るどころか生まれつき目が不自由だったものさえ見えるようになったのだ。
そんな奇跡のような光景を目の当たりにし、それを可能にしたフィリアたちに縋るような目を向ける村人たちも少なくない。むしろほとんどがそうだ。かくいう村長もそうだった。今すぐにでも縋りつき助けを乞いたいところだった。しかし一匹狼で名を上げた元傭兵としてのプライドか、できるだけ毅然とした態度を保つよう努力しながらフィリアたちに助けを求める。
「そこまでおっしゃるのなら、止めはしません。しかしどうか無理だけはなさらないでください。恩人様方への歓迎と礼がまだですからな」
そういうと村を襲った魔物の情報、行先などを事細かに伝える。体長や体の特徴、攻撃手段などを詳しく知ることができ、さっそく魔物が向かったとされる方角へ向かうシノアたち。
村人たちの期待を背に魔物討伐へと向かったのだった。
「え…あ、えっとまだ複数人同時に癒すのはちょっと…中級で詠唱省略無しでぎりぎり…」
「そう…まぁ仕方ないよ。それじゃあ治癒術で村人さんたちを癒してあげて。私はこっち片付けるから」
「りょ、了解です!お気をつけて…」
実はフィリアは自分が村人たちを回復させシノアに戦わせよう、とも考えていたりした。だが、シノアは旅を始めてから魔物どころか動物を殺すことも忌避していた。
現代っ子だった中学二年生がいきなり異世界に来たから冷酷な殺戮ができる…などというのはご都合過ぎるというものだろう。シノアはウサギを殺すことすら忌避した。自分が一つの命を奪うということを考えるだけで震えが止まらなくなり、胃の中がぐるぐるし始めるのだ。そのためフィリアは戦闘は自分が行い、シノアには回復兼神聖魔法の練習をさせようと思ったのだ。
「ま、待て!お前さんのような小娘に何ができ―」
「剣術奥義、殺戮之刃」
村長の言葉はフィリアの口ずさむような奥義発動の鍵言にかき消された。
剣術スキルLevel7奥義の一つ、殺戮之刃。
超高速の剣捌きにより多数の敵を一瞬で灰塵と化す、一撃必殺の技だ。本来熟練ハンターでも使うことがないような超高等戦闘技術に村人たちは唖然としていた。それを見るシノアも―
(相変わらず、出鱈目に強いなー。いつまでたっても一本どころか触れられもしないわけだ…)
と若干自暴自棄になっていた。結局、30体はいたと思われる魔物たちは5分もかからず全滅した。フィリアの圧倒的な剣術の前には追いはぎ魔物ごとき敵ではなかったのだ。“チンッ”と心地の良い音を響かせ納刀し、シノアの下へ戻る。
「どう?おわった?」
「あ、はい。さすがに部位欠損までは今の僕では無理なので消毒と止血、痛み止めは済ませておきました」
「うん、上出来。あとは私が」
そういうと鞄から錫杖を取り出し、胸の前に構える。そして、一瞬目を伏せたかと思うと―
「“恵みの喜雨”」
神聖魔法を発動させた。
恵みの喜雨は範囲系の回復魔法で範囲内の人々の病気、怪我、生まれつきの障害すら治してしまうという高い効果を持ったものだ。
当然その発動難易度は高く、詠唱だけでも20句はあり、魔法陣も半径2メートルの円に複雑な神聖文字を描いて構築しなければならないという発動だけでも困難な魔法だ。それを無詠唱かつ無魔法陣、何より戦闘終了後という通常ならば息と心を乱している状況で発動できるというのは異常だった。
元傭兵の村長はそのことに畏怖を感じながらも傷を治してくれたシノアとフィリアに感謝の意を伝える。
「助かりました。反抗的な態度をとってしまい申し訳ありません。村が襲われて気が動転していたもので…」
「いえ、この周辺では魔物を利用して悪さをする盗賊もいると聞きます。村の長として正しい対応だと思います」
フィリアの擁護するような言葉に胸をなでおろす村長。だが、次にフィリアの口から放たれた言葉に狼狽する。
「それでは私たちは村を襲った魔物を追いますので、詳しい情報を教えていただけますか?」
「な、なにをいっているのですか!あれは人が相手取れるものではありませんぞ!いくらあなたがお強いとはいっても―」
「大丈夫です、狩りは幾度となく経験していますから。もし私たちが失敗してもただのお節介焼きの旅人が死ぬだけで胸を痛めることはありません。それに――約束してしまいましたから」
そういうとフィリアは母親を助けてほしいと懇願してきた幼女にしがみつかれているシノアを見る。神聖魔法で癒す間、幼女はずっとシノアにくっついていたようだった。
「この子は約束を守ります。一度約束したからにはたとえ無理に思える事でも立ち向かっていきます。私が止めようとしても無駄ですから」
少し困ったような笑みを浮かべながら村長を説得するフィリア。その笑みに気づいたシノアは頬をかきながらフィリアに同調する。
「村長さん、僕たちなら大丈夫です。何度か大型の魔物の狩りも経験していますし、フィリアさんはすごく強いですから。それに僕もフィリアさんも回復魔法には自信がありますから」
シノアの言葉に村長は自分たちの傷を一瞬で治した魔法を思い出す。シノアが使った回復魔法もすさまじかったがフィリアの魔法はもっとすさまじかった。部位欠損が治るどころか生まれつき目が不自由だったものさえ見えるようになったのだ。
そんな奇跡のような光景を目の当たりにし、それを可能にしたフィリアたちに縋るような目を向ける村人たちも少なくない。むしろほとんどがそうだ。かくいう村長もそうだった。今すぐにでも縋りつき助けを乞いたいところだった。しかし一匹狼で名を上げた元傭兵としてのプライドか、できるだけ毅然とした態度を保つよう努力しながらフィリアたちに助けを求める。
「そこまでおっしゃるのなら、止めはしません。しかしどうか無理だけはなさらないでください。恩人様方への歓迎と礼がまだですからな」
そういうと村を襲った魔物の情報、行先などを事細かに伝える。体長や体の特徴、攻撃手段などを詳しく知ることができ、さっそく魔物が向かったとされる方角へ向かうシノアたち。
村人たちの期待を背に魔物討伐へと向かったのだった。
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