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異世界放浪篇
第13話 戸惑いの代償
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「ついたね」
シノアとフィリアは森の中を進み、とうとう村を襲った魔物の棲み処を発見した。
「どうやら寝てるみたいですね。どうしますか?もう少し近付いて様子を見ますか?」
「ううん、たぶん近くに連れていかれた人たちがいるだろうから探そう。ジャバウォックの習性、ばっちりだよね?」
「はい!まかせてください」
ジャバウォックは食糧としてとってきた獲物を一時期的に保存するために穴を掘り、その中に入れることが多い。棲み処の周辺には無数の穴があり、どこかに連れてこられた村人たちがいると考えられた。そっと足音を立てないように穴の中を見て回るシノアとフィリア。ジャバウォックの寝息だけが辺りに響く。
(トントン)
突然、肩を叩から振り向くシノア。そこには人差し指を口に当て静かについてきてとジェスチャーで表すフィリアがいた。そっとうなずきフィリアの後を追う。
ついていくと、ジャバウォックのすぐ近くの穴に何人かの人影が見えた。おそらく連れてこられた村人たちだろう。
(一旦、離れる。結界を張る。ジャバウォック討伐。救出。いい?)
(了解)
ジェスチャーでお互いの意思を伝えあうと息を殺しながらジャバウォックから離れていく。だが、そこでお約束の音が響く。
パキッ!
「っ!」
シノアから声になっていない悲鳴が発せられる。後ろ向きで移動したため、近くにあった小枝に気付かず、踏み折ってしまったのだ。
「ヴゥ?グオ!グオォォォン!!」
その音に目を覚ましたジャバウォックは眠そうに目を開けるとその巨大な瞳にシノアを映し、次の瞬間には獰猛な鳴き声をあげた。
「くっ!“ここに聖母の癒し、そして女神の祝福を!神の守護!」
フィリアは速攻で回復魔法と結界がセットになった神聖魔法を発動させ、穴の中の村人たちの安全を確保する。
「す、すみません!僕のせいで―」
「謝るのは後!まずは目の前に集中!どうやら追い剥ぎ達も来たみたいだよ」
シノアが周囲を見渡すと最初に村で出会ったのと同じ種類の魔物たちが自分たちを取り囲んでいた。ジャバウォックだけに集中とはいかないようだ。
「シノア、周りのちっちゃいのをお願い。私は大きいのを相手するから、早めに終わらせて加勢してね。さすがに私一人だと厳しいかもだから」
そういうとフィリアは、鞄から美しい彫刻がなされ柄の部分に宝石があしらわれた剣を取り出す。彼女が全力戦闘の時のみ使用する隠し玉、神剣エルペーだ。
ファルシオンに分類されるその剣は神すら切り裂くといわれる伝説上の代物で、神話にも実際に登場し、あまりの切れ味を恐れ、とある神が自ら封印したとされる最高峰の剣だ。超一流の剣士にしか使いこなせないその武器には魂が宿るとされ、使い手が気に食わなければ襲い掛かってくるといわれているいわく付きの代物だったりする。
神々しいとしか言えないオーラを放つその剣を構え、ジャバウォックへ立ち向かっていくフィリア。その姿を見て、覚悟を決めたシノアは腰に差していたショートソードを抜き、下段の構えをとる。
「わかりました、すぐにでも加勢します」
その言葉を皮切りに戦闘が始まる。
フィリアはジャバウォックの前脚や翼、尻尾から繰り出される攻撃を華麗に躱し、ヒットアンドアウェイの要領で着実に傷を負わせていく。さらには―
「剣術、絶技・転地俊刃」
絶技と呼ばれる、術系スキルを極めた、つまりLevelを10まで上げた者のみ使用できるとされる高等戦闘技術を用いてジャバウォックを翻弄する。だが、それでも決定打に欠けるようで攻め切れないといった様子だった。
一方、シノアは小型の魔物たちにてこずっていた。勝てないというわけではない。今のシノアならばこの程度の魔物ならば10匹同時に相手をしたとしても苦戦はしても負けはしないだろう。
ならば、なぜ?
答えは簡単だ。シノアはいまだに恐れていた。自分が魔物とはいえ生物を殺すことを。自分の命が危ないということも、戦闘が長引けばフィリアが傷付いてしまうかもしれないということも、全てわかっているのだ。それでも、いざ剣を握り生命を奪う瞬間が訪れると恐れから逡巡してしまう。それはシノアの優しさ故、虐げられる者の苦しみを知っているが故に、力を振るうことを恐れるのだ。
(覚悟は決めたはずなのに!このままじゃフィリアさんが危ないのに!僕は!)
外面で魔物たちの攻撃を捌きながら、内面では自身の中に生まれた葛藤と戦う。
そんなとき、ジャバウォックの攻撃を防ぎきれなかったのか、フィリアがシノアの元まで吹き飛ばされる。
思わず駆け寄り具合を見るシノア。
「フィリアさん!」
「私は大丈夫。さすがに硬いね…攻撃がなかなか通らないよ」
周りの魔物の攻撃を捌きながら会話する二人。フィリアは攻撃が自分に向かうようにと激しい攻防を繰り広げる。
「フィリアさんの剣でも通らないってことは…防御特化の変異種ってことですか?」
ジャバウォックは本来、極彩色の鱗を持つカラフルな竜のような魔物だ。しかし、シノアたちの目の前にいるジャバウォックは灰色の鱗に禍々しいオーラを纏っていてとても通常種には見えなかった。
「たぶんね。高威力の魔法で消し飛ばしたいんだけど、詠唱する暇なんて与えてくれないし…」
その言葉は暗にシノアが抑えてくれないと魔法を撃てないと示しているのだと解釈するシノア。フィリアにそんなつもりは毛頭なく、単純にジャバウォックの強さを愚痴っただけなのだが…
「どうにかして、ヤツを抑えないと…穴を守ってる結界はもうしばらくは大丈夫だけど、早く方を付けなくちゃ…」
「はい…」
自分が足手まといになっているのでは――いや確実になっているだろうと思い、暗い気持ちになるシノア。だが、そんな隙を見逃してくれるほど魔物たちは甘くはない。油断しきっているシノアの背中にジャバウォックの鉤爪が迫る。
「シノア!」
シノアを庇ったために、ジャバウォックの攻撃はフィリアの華奢な背中に直撃する。
シノアの眼前が真っ赤に染まる。
「ふ、フィリアさん!!」
事切れた人形のようにフィリアは俯せに地面に倒れこんだ。
シノアとフィリアは森の中を進み、とうとう村を襲った魔物の棲み処を発見した。
「どうやら寝てるみたいですね。どうしますか?もう少し近付いて様子を見ますか?」
「ううん、たぶん近くに連れていかれた人たちがいるだろうから探そう。ジャバウォックの習性、ばっちりだよね?」
「はい!まかせてください」
ジャバウォックは食糧としてとってきた獲物を一時期的に保存するために穴を掘り、その中に入れることが多い。棲み処の周辺には無数の穴があり、どこかに連れてこられた村人たちがいると考えられた。そっと足音を立てないように穴の中を見て回るシノアとフィリア。ジャバウォックの寝息だけが辺りに響く。
(トントン)
突然、肩を叩から振り向くシノア。そこには人差し指を口に当て静かについてきてとジェスチャーで表すフィリアがいた。そっとうなずきフィリアの後を追う。
ついていくと、ジャバウォックのすぐ近くの穴に何人かの人影が見えた。おそらく連れてこられた村人たちだろう。
(一旦、離れる。結界を張る。ジャバウォック討伐。救出。いい?)
(了解)
ジェスチャーでお互いの意思を伝えあうと息を殺しながらジャバウォックから離れていく。だが、そこでお約束の音が響く。
パキッ!
「っ!」
シノアから声になっていない悲鳴が発せられる。後ろ向きで移動したため、近くにあった小枝に気付かず、踏み折ってしまったのだ。
「ヴゥ?グオ!グオォォォン!!」
その音に目を覚ましたジャバウォックは眠そうに目を開けるとその巨大な瞳にシノアを映し、次の瞬間には獰猛な鳴き声をあげた。
「くっ!“ここに聖母の癒し、そして女神の祝福を!神の守護!」
フィリアは速攻で回復魔法と結界がセットになった神聖魔法を発動させ、穴の中の村人たちの安全を確保する。
「す、すみません!僕のせいで―」
「謝るのは後!まずは目の前に集中!どうやら追い剥ぎ達も来たみたいだよ」
シノアが周囲を見渡すと最初に村で出会ったのと同じ種類の魔物たちが自分たちを取り囲んでいた。ジャバウォックだけに集中とはいかないようだ。
「シノア、周りのちっちゃいのをお願い。私は大きいのを相手するから、早めに終わらせて加勢してね。さすがに私一人だと厳しいかもだから」
そういうとフィリアは、鞄から美しい彫刻がなされ柄の部分に宝石があしらわれた剣を取り出す。彼女が全力戦闘の時のみ使用する隠し玉、神剣エルペーだ。
ファルシオンに分類されるその剣は神すら切り裂くといわれる伝説上の代物で、神話にも実際に登場し、あまりの切れ味を恐れ、とある神が自ら封印したとされる最高峰の剣だ。超一流の剣士にしか使いこなせないその武器には魂が宿るとされ、使い手が気に食わなければ襲い掛かってくるといわれているいわく付きの代物だったりする。
神々しいとしか言えないオーラを放つその剣を構え、ジャバウォックへ立ち向かっていくフィリア。その姿を見て、覚悟を決めたシノアは腰に差していたショートソードを抜き、下段の構えをとる。
「わかりました、すぐにでも加勢します」
その言葉を皮切りに戦闘が始まる。
フィリアはジャバウォックの前脚や翼、尻尾から繰り出される攻撃を華麗に躱し、ヒットアンドアウェイの要領で着実に傷を負わせていく。さらには―
「剣術、絶技・転地俊刃」
絶技と呼ばれる、術系スキルを極めた、つまりLevelを10まで上げた者のみ使用できるとされる高等戦闘技術を用いてジャバウォックを翻弄する。だが、それでも決定打に欠けるようで攻め切れないといった様子だった。
一方、シノアは小型の魔物たちにてこずっていた。勝てないというわけではない。今のシノアならばこの程度の魔物ならば10匹同時に相手をしたとしても苦戦はしても負けはしないだろう。
ならば、なぜ?
答えは簡単だ。シノアはいまだに恐れていた。自分が魔物とはいえ生物を殺すことを。自分の命が危ないということも、戦闘が長引けばフィリアが傷付いてしまうかもしれないということも、全てわかっているのだ。それでも、いざ剣を握り生命を奪う瞬間が訪れると恐れから逡巡してしまう。それはシノアの優しさ故、虐げられる者の苦しみを知っているが故に、力を振るうことを恐れるのだ。
(覚悟は決めたはずなのに!このままじゃフィリアさんが危ないのに!僕は!)
外面で魔物たちの攻撃を捌きながら、内面では自身の中に生まれた葛藤と戦う。
そんなとき、ジャバウォックの攻撃を防ぎきれなかったのか、フィリアがシノアの元まで吹き飛ばされる。
思わず駆け寄り具合を見るシノア。
「フィリアさん!」
「私は大丈夫。さすがに硬いね…攻撃がなかなか通らないよ」
周りの魔物の攻撃を捌きながら会話する二人。フィリアは攻撃が自分に向かうようにと激しい攻防を繰り広げる。
「フィリアさんの剣でも通らないってことは…防御特化の変異種ってことですか?」
ジャバウォックは本来、極彩色の鱗を持つカラフルな竜のような魔物だ。しかし、シノアたちの目の前にいるジャバウォックは灰色の鱗に禍々しいオーラを纏っていてとても通常種には見えなかった。
「たぶんね。高威力の魔法で消し飛ばしたいんだけど、詠唱する暇なんて与えてくれないし…」
その言葉は暗にシノアが抑えてくれないと魔法を撃てないと示しているのだと解釈するシノア。フィリアにそんなつもりは毛頭なく、単純にジャバウォックの強さを愚痴っただけなのだが…
「どうにかして、ヤツを抑えないと…穴を守ってる結界はもうしばらくは大丈夫だけど、早く方を付けなくちゃ…」
「はい…」
自分が足手まといになっているのでは――いや確実になっているだろうと思い、暗い気持ちになるシノア。だが、そんな隙を見逃してくれるほど魔物たちは甘くはない。油断しきっているシノアの背中にジャバウォックの鉤爪が迫る。
「シノア!」
シノアを庇ったために、ジャバウォックの攻撃はフィリアの華奢な背中に直撃する。
シノアの眼前が真っ赤に染まる。
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