無能な神の寵児

鈴丸ネコ助

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異世界放浪篇

第21話 一文無し

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「…フィリアさん、こんなところで食べてお金は大丈夫なんですか…」
「た、たぶん大丈夫。ほら、前の街で魔物の素材たくさん売ったから余裕な…はず」
 
ふたりは海鮮料理を食べるべく紹介された店の前へとやってきていた。
いざ到着したはいいものの、入ることを渋っていた。
なぜなら、店の外観があまりにも煌びやかで
 
“貴族おいでませ!平民?帰れ帰れ!ぺっぺっ!”
 
といった様子だったからだ。
 
「どうしましょう…近くに飲食店は見つからないし…ここに入るしか…」
「だ、大丈夫だよ。美味しい…らしいし…た、食べ物に妥協したらだめって誰かも言ってた気がするし…」
「そ、そうですね」
 
とうとう覚悟を決めると二人は扉の前まで踏み出した。すると―
 
「オキャクサマ、ニメイサマ、ゴライテン、デスカ?」
 
扉の横に置かれていた彫刻がしゃべりだした。
 
「「?!」」
 
思わず驚愕する二人。
この店は世界的にも珍しく店の入り口前に石像型のゴーレムを配置していたのだ。煌びやかに飾られており、ある意味悪趣味だ。
 
余談だが、ゴーレムは本来、用心深い貴族が護衛として錬成士に作らせるか、ソロで活動している熟練の冒険者などが夜の番をまかせたりして使うものだ。凄腕の錬成士が大型の魔物の魔核を贅沢に使い、3か月かけてようやく造り出せるものなので、値段も非常に高い。
 
この店の前に置いてある“もてなし機能搭載型ゴーレムGK-34”は宝石類も相まってとんでもない値が付く代物だ。これ一体でアルゴネアの高級住宅街に家を建てられるレベルだ。
 
「ふ、フィリアさん…ゴーレムです…眩しいです…」
「し、シノア落ち着いて、ここで取り乱したらだめ。き、きっとこれが普通なんだよ…」
 
動揺する二人だったが気を落ち着け、冷静に対処するよう心掛ける。
 
「に、二名でお願いします」
「カシコマリマシタ。ドウゾ、ナカヘ」
 
すると、扉がひとりでに開き始め中の様子が見え始める。
 
「…フィリアさん。ここ、大丈夫ですか、王族専用とかじゃないですよね」
「………」
「フィリアさん?!なんとかいってください?!」
 
店の内装はこれでもかというほど豪華だった。
王宮のパーティーホールを思わせる広々とした内装、そこら中に飾られた絵画、フロア全体に敷かれたレッドカーペット、上を見上げればダイヤモンド製といわれたほうが納得するほど輝いているシャンデリア、豪華絢爛なテーブルやイスなど、どこの王侯貴族が利用する食事場だとツッコみたくなる内装だった。
 
「いらっしゃいませ、この度はル・ポリテリアへようこそおいでくださいました。お席へご案内いたしますのでどうぞこちらへ」
 
入り口で呆けているとかすかに輝く紳士服を着こなしたウェイターが声をかけてきた。テーブルへ案内し始めたため、されるがままになる二人。
 
「お荷物をお預かりいたします。保管は当店自慢の金庫にて保存させていただきますのでどうぞご安心を」
 
身に着けていた鞄とリュックサックがなくなり身軽になった二人はさっそく案内されたテーブルに着く。座っている後ろには配膳係がおり、なにかあればすぐに対応できるようになっているようだ。
 
「ふ、フィリアさん…ここ本当に大丈夫ですか?絶対高いですよ…周り貴族みたいな人しかいないし…」
「だ、大丈夫。ここまでなら“ただサービスが過剰なほど良い”ってだけでプラスポイントだから」
「それ値段高騰の理由にしかならない気が…」
「…と、とにかくまだ大丈夫。こういうとこはね、見掛け倒しが多いの。本当に高い店ってのはメニューに料金描かれてないから。ほら!メニュー来たよ。さっそくチェックしよう」
 
傍から聞けば完全にフラグを立てたフィリアだった。そのことを不安に思いつつもシノアは運ばれてきたメニューを開きかける。
 
「本日のおすすめは旬野菜、トメイトゥのブルスケッタ、バジルソース添えでございます。ご注文がお決まり次第お呼びくださいませ」
 
ウェイターの言葉にさらに不安になるシノア。
 
「…フィリアさん、今の言葉、理解できました?僕バジルソースしか聞き取れませんでした」
「…シノアすごいね。私、本日のおすすめ旬野菜しか聞き取れなかったよ」
「「………」」
 
思わず無言になる二人。ちなみにブルスケッタとはイタリア料理の一種で、焼いたパンの上にニンニクなどをすりこませ熱であぶり、その上にトマトなどの野菜とオリーブオイルを和えたものを載せた料理のことだ。イタリア料理としてはかなり有名な軽食の一種なのだが、シノアはもちろんのこと、フィリアも知らなかったようだ。
 
「と、とりあえず、メニューを見よう。きっと私たちのわかる言葉で書かれてるは―」
 
突然フィリアがメニューを見て絶句する。それに追随するようにシノアもメニューに目を通す。
 
「フィリアさん?なんで固まってるんですか?なにか変なものでも―」
 
そして絶句する。
なんとそこにはシノアたちの理解の及ばない品名ばかりだったのだ。
 
“新鮮な魚介類のフリッティ”、“オッソ・ブーコ サフランのリゾットを添えて”、“アゲラダのステーキ ポレンタ和え”などなど、“どこの国の言語ですか?”と問いたくなる品名ばかりだった。
だが、シノアたちが言葉を失ったのはそれだけが理由ではない。
 
「…値段…書かれてないですね…」
「…うん…」
 
そう、値段が書かれていなかったのだ。フィリア、見事なフラグ回収である。
 
「…フィリアさん…」
 
泣きそうな目でシノアがフィリアを見つめるが、それに返ってきたのは残酷な言葉だった。
 
「シノア。たぶん無銭飲食は2、3日拘留されて終わりだと思うから大丈夫だよきっと」
「そ、そんなぁ……」
 
◇◇◇
 
「この度はご利用ありがとうございました。またの御来店、心よりお待ちしております」
 
ドアマンと共に頭を下げるのは来店時テーブルまで案内したウェイターだ。
 
「ありがとうございました」
「とてもおいしかったです」
 
笑顔で答えるシノアとフィリアだったがその心には固い決意が交わされていた。
すなわち―
 
((二度と来たくない…この店…))
 
二人は値段の書かれていないメニューにビビりながらもなんとか雰囲気で注文をし、食事をした。だが、所持金が足りるかどうか、無銭飲食は衛兵に捉えられてしまうのか、などといったことばかり考えていたため碌に味わうことができず、腹だけ満たす形となってしまった。
 
ちなみに、二人ともアゲラダのステーキを注文した。触感は牛に近く、程よく脂がのっていて極上のステーキなのだが、所持金のことで頭がいっぱいの二人には何の味もしなかった。最終的な二人の会計は12000フェンスだった。散々心配していたが結局はぎりぎり足りた。だが、たった一日それも昼で120万円という大金を使ってしまった二人は金銭的な冬が到来していた。
 
「うぅ…前の街で稼いだドワーフ通貨がほぼなくなっちゃった…」
「どうしましょう…」
 
前の街で魔物の素材を売って稼いだドワーフ通貨は宿代に回す分を引くとほとんどなくなっていた。
 
「…仕方ない。先に冒険者ギルドに行こうか。なにか依頼あるかもしれないし、シノアも登録したがってたでしょ?」
「!…そうですね、この際、武器より先に冒険者ギルドに行きましょう!」
「そもそも武器買うお金もなくなっちゃったからね」
 
思わず顔を合わせ苦笑する二人。若干重い足取りで冒険者ギルドへ向かうこととなった。
 
「はぁ…にしても高かったなぁ…ライデンさんあんなに高いなんていってなかったのに…」
 
◇◇◇
 
時を同じくして、ライデン・ゾーシモスの錬金術の館。
 
「へっくしょい!」
 
大きなくしゃみが室内に響く。
 
「おかしいっすね、今なぜか、責任を押し付けられてる気がするっす。はっ!まさか…あの美少年…あのレストランに――行ってるわけないっすね。馬鹿みたいに高いってちゃんと教えたし」
 
シノアはどうやら人の話をよく聞かないようだ。
 
「さーて、依頼されてる分の薬仕上げるっすかね」
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