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運命構築篇
第49話 寛大な兄弟子
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「久しぶりだなシノア。元気だったか?」
ヴァルハザクの言葉に、深々と被っていたフードを外した謎の人物の相貌が明らかになる。
「お久しぶりです。ヴァルハザクさん」
そこにいたのは、長く美しい銀髪を束ね少女じみた顔の少年─ではなく、長めのショートヘアーをやつれさせた、眼光鋭いシノアだった。
「ずいぶん変わったな。目も鋭くなったし、何よりも匂いが変わった」
「すみません。水浴びはしていますが、そこまで気を使っているわけではないので」
「そういうことではない。刀に染み付いた血の匂いがここまで届いておるということだ。いったいどれだけ斬ったらそうなる?」
ヴァルハザクの言う通りシノアの持つ刀、桜小町からは微かに鉄臭い血の匂いが放たれている。
それは何度洗おうと消えることのない死の匂い、いわば殺気だ。
「ゲホッゲホッ…それに先程の技…とうとう“抜かずの極地”に辿り着いたか」
抜かずの極地─それは、文字通り刀を抜かずして敵を斬るという究極の技。
数々の死地、修羅場を潜ることにより研ぎ澄まされた殺気が、具現化し敵を葬る必殺の刃となる。
人斬りの最高峰の技をシノアはいとも簡単に操って見せた。
それだけで、シノアがこの1年どれほど自分を追い込み、地獄を見てきたのかを示唆していた。
「それで、今日はどうした?それにフィリア様の姿が見えんが…」
その言葉に顔を曇らせたシノアを見て、ヴァルハザクは彼を連れて自分の部屋へと戻る。
「ゲホッゲホッ…グフッ!ハァハァ…」
「…病気ですか?」
シノアの問いにヴァルハザクは、苦しそうに笑みを浮かべると首肯し肯定する。
「ふぅ…情けない話だ。病気のウェアベアを狩ったときに、もらってしまったようでな。長くないそうだ」
「そう…ですか」
申し訳なさそうにするシノアに気にするなといい、ヴァルハザクはここに来た目的などを問う。
「それで、ここに来た目的は?それにフィリア様はどうしたのだ?」
その問いにシノアは表情に陰を落とすと、ポツリポツリと話し始めた。
「ここに来た目的は“あの人”に会うためです。今の僕なら勝機があるかもしれないと思ったので─」
「そうか、挑むのか。確かに今のお前さんなら、いい勝負ができるだろう」
そして、最もヴァルハザクが聞きたいであろう話を、首に下げたロケットペンダントを握りながら話す。
「フィリアさんは…いません」
「いない?どういうことだ?別行動をしているのか?」
シノアはペンダントを握る力を強めると吐き出すように言葉を発した。
「フィリアさんは…死にました。僕が…殺しました」
その言葉にヴァルハザクの顔は険相なものになり、シノアに向けられる視線も鋭くなる。
「…どういうことだ?」
「そのままの意味ですよ」
二人の空気が張り詰めたものに変わり、息も凍りそうなほど冷たいものになる。
いつまでも続くかと思われた緊張状態は、不意に崩れた。
「お、お茶をお持ちしましたっ?!」
新人受付嬢が気を利かせて部屋にお茶を持ってきたのだが思い切りこけ、お茶をテーブルにぶちまけた。
重力に従い受付嬢もテーブルに激突する所だったが、とっさに動いたシノアに抱きかかえられ、事なきを得る。
「大丈夫ですか?」
「は、はい!あ、ありがとうございます!」
無表情で落ち着いた声のシノアに対して、受付嬢は顔を真っ赤に染めてあせり倒している。
「す、すぐに片付けます!」
「いえ、大丈夫ですよ。“清掃浄化”」
受付嬢がすぐに片付けようとするが、シノアが生活魔法でそそくさと終わらせてしまい、仕事がなくなってしまった。
シノアは綺麗になったテーブルに受付嬢が持ってきたコップを並べると、カバンから取り出した液体を注ぐ。
「ほう?酒か…いい香りだ」
シノアはヴァルハザクの言葉に気を利かせ、もう片方のコップに同じものを注いだ。
「すまんな。それでは頂くとしよう」
酒を口に含み転がすと、ゆっくりと惜しむように飲み込みお代わりを要求するヴァルハザク。
「随分、いい酒だな。それに…恐ろしく強い」
「通りかかった村を襲っていた盗賊たちのリーダーが命と引き換えに差し出してきたものです」
「ほう?それはそれは…生かしたのか?」
「まさか。四肢を引き裂いて棒に括りつけ、案山子にしてやりましたよ」
かつては獣を殺すことさえ忌避していたというのに、今では人間を殺すことなど道端の石を蹴飛ばす程度のことにしか思っていないかのような所行にヴァルハザクは思わず失笑する。
一方シノアは黙々と酒を口に運び体にアルコールを入れる。
「ふっ…本当に変わったな、お前さんは」
「飲まなきゃやってられないことだってあるでしょう。血を浴びている時と酒を飲んでいる時は、何もかも忘れられる気がするんですよ」
その言葉にシノアの内情を察したヴァルハザクは何も言わなくなる。
ただ静かに酒を飲みさらにおかわりを要求する。
「…先程の話だが」
「はい」
無言で酒を酌み交わしていた二人だったが、ヴァルハザクが静かに先程のシノアの発言を掘り返す。
「一つだけ言わせてもらおう」
どんな罵倒の言葉も、軽蔑の眼差しも覚悟してヴァルハザクを見ていたシノアだったが、彼から放たれた予想外の言葉に面食らうこととなる。
「あまり自分を責めるな」
「…え?」
予想を裏切られたシノアは思わず気の抜けた声を上げ、目を見開いた。
「そんなに自分を責めるなと言っているのだ。あんなに懐いていたお前が、フィリア様を殺すわけが無いだろう」
静かな口調で語るヴァルハザクにシノアは何も言えなくなり、その言葉に耳を傾ける。
「お前さんのことだ。おそらく自分を庇ったばかりにフィリア様が死んでしまったから、自分が殺したと思い込んでいるのだろう?」
「そんな…こと…」
内情をピタリと言い当てられ言い返せなくなるシノア。
ヴァルハザクは目を細めると立ち上がり、窓から外を眺める。
「シノアよ。人はいずれ死ぬものだ。フィリア様とて、それは同じ。ただ何もなさずに腐っていくのと、大切なものを守り散っていく、あの方がどちらを選ぶか、お前さんならわかるだろう?」
その言葉に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたシノアは、テーブルに残っていた酒を一気に飲み干し立ち上がる。
「ヴァルハザクさん」
「なんだ?」
ゆっくりと入口まで歩いていくシノアから放たれる言葉を聞くため、ヴァルハザクは耳を傾ける。
「…すみませんでした。それと…ありがとう…ございます」
消え入りそうなほど弱々しい声で発せられた言葉の意を汲んだヴァルハザクは、笑みを浮かべると酒を飲み干した。
ドアを閉める音が部屋に響き、沈黙が訪れる。
「…ワシの弟弟子は、随分立派になったものだ」
静かな部屋に、老人の独り言が響いた。
※次回以降の注意点※
皆様いつも”むのかみ”をお読み下さりありがとうございます
次回以降に過激な表現などがあるため注意を促したいと存じます
次回、以前登場した錬金術師であるライデン・ゾーシモスの過去が明らかになります
また少し性的に過激な表現が含まれます
苦手な方は御容赦ください
また、ライデン・ゾーシモスですが次回以降かなりキャラが崩壊します
この点もご注意ください
注意点は以上となります
今後も無能な神の寵児をよろしくお願い致します
ヴァルハザクの言葉に、深々と被っていたフードを外した謎の人物の相貌が明らかになる。
「お久しぶりです。ヴァルハザクさん」
そこにいたのは、長く美しい銀髪を束ね少女じみた顔の少年─ではなく、長めのショートヘアーをやつれさせた、眼光鋭いシノアだった。
「ずいぶん変わったな。目も鋭くなったし、何よりも匂いが変わった」
「すみません。水浴びはしていますが、そこまで気を使っているわけではないので」
「そういうことではない。刀に染み付いた血の匂いがここまで届いておるということだ。いったいどれだけ斬ったらそうなる?」
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それは何度洗おうと消えることのない死の匂い、いわば殺気だ。
「ゲホッゲホッ…それに先程の技…とうとう“抜かずの極地”に辿り着いたか」
抜かずの極地─それは、文字通り刀を抜かずして敵を斬るという究極の技。
数々の死地、修羅場を潜ることにより研ぎ澄まされた殺気が、具現化し敵を葬る必殺の刃となる。
人斬りの最高峰の技をシノアはいとも簡単に操って見せた。
それだけで、シノアがこの1年どれほど自分を追い込み、地獄を見てきたのかを示唆していた。
「それで、今日はどうした?それにフィリア様の姿が見えんが…」
その言葉に顔を曇らせたシノアを見て、ヴァルハザクは彼を連れて自分の部屋へと戻る。
「ゲホッゲホッ…グフッ!ハァハァ…」
「…病気ですか?」
シノアの問いにヴァルハザクは、苦しそうに笑みを浮かべると首肯し肯定する。
「ふぅ…情けない話だ。病気のウェアベアを狩ったときに、もらってしまったようでな。長くないそうだ」
「そう…ですか」
申し訳なさそうにするシノアに気にするなといい、ヴァルハザクはここに来た目的などを問う。
「それで、ここに来た目的は?それにフィリア様はどうしたのだ?」
その問いにシノアは表情に陰を落とすと、ポツリポツリと話し始めた。
「ここに来た目的は“あの人”に会うためです。今の僕なら勝機があるかもしれないと思ったので─」
「そうか、挑むのか。確かに今のお前さんなら、いい勝負ができるだろう」
そして、最もヴァルハザクが聞きたいであろう話を、首に下げたロケットペンダントを握りながら話す。
「フィリアさんは…いません」
「いない?どういうことだ?別行動をしているのか?」
シノアはペンダントを握る力を強めると吐き出すように言葉を発した。
「フィリアさんは…死にました。僕が…殺しました」
その言葉にヴァルハザクの顔は険相なものになり、シノアに向けられる視線も鋭くなる。
「…どういうことだ?」
「そのままの意味ですよ」
二人の空気が張り詰めたものに変わり、息も凍りそうなほど冷たいものになる。
いつまでも続くかと思われた緊張状態は、不意に崩れた。
「お、お茶をお持ちしましたっ?!」
新人受付嬢が気を利かせて部屋にお茶を持ってきたのだが思い切りこけ、お茶をテーブルにぶちまけた。
重力に従い受付嬢もテーブルに激突する所だったが、とっさに動いたシノアに抱きかかえられ、事なきを得る。
「大丈夫ですか?」
「は、はい!あ、ありがとうございます!」
無表情で落ち着いた声のシノアに対して、受付嬢は顔を真っ赤に染めてあせり倒している。
「す、すぐに片付けます!」
「いえ、大丈夫ですよ。“清掃浄化”」
受付嬢がすぐに片付けようとするが、シノアが生活魔法でそそくさと終わらせてしまい、仕事がなくなってしまった。
シノアは綺麗になったテーブルに受付嬢が持ってきたコップを並べると、カバンから取り出した液体を注ぐ。
「ほう?酒か…いい香りだ」
シノアはヴァルハザクの言葉に気を利かせ、もう片方のコップに同じものを注いだ。
「すまんな。それでは頂くとしよう」
酒を口に含み転がすと、ゆっくりと惜しむように飲み込みお代わりを要求するヴァルハザク。
「随分、いい酒だな。それに…恐ろしく強い」
「通りかかった村を襲っていた盗賊たちのリーダーが命と引き換えに差し出してきたものです」
「ほう?それはそれは…生かしたのか?」
「まさか。四肢を引き裂いて棒に括りつけ、案山子にしてやりましたよ」
かつては獣を殺すことさえ忌避していたというのに、今では人間を殺すことなど道端の石を蹴飛ばす程度のことにしか思っていないかのような所行にヴァルハザクは思わず失笑する。
一方シノアは黙々と酒を口に運び体にアルコールを入れる。
「ふっ…本当に変わったな、お前さんは」
「飲まなきゃやってられないことだってあるでしょう。血を浴びている時と酒を飲んでいる時は、何もかも忘れられる気がするんですよ」
その言葉にシノアの内情を察したヴァルハザクは何も言わなくなる。
ただ静かに酒を飲みさらにおかわりを要求する。
「…先程の話だが」
「はい」
無言で酒を酌み交わしていた二人だったが、ヴァルハザクが静かに先程のシノアの発言を掘り返す。
「一つだけ言わせてもらおう」
どんな罵倒の言葉も、軽蔑の眼差しも覚悟してヴァルハザクを見ていたシノアだったが、彼から放たれた予想外の言葉に面食らうこととなる。
「あまり自分を責めるな」
「…え?」
予想を裏切られたシノアは思わず気の抜けた声を上げ、目を見開いた。
「そんなに自分を責めるなと言っているのだ。あんなに懐いていたお前が、フィリア様を殺すわけが無いだろう」
静かな口調で語るヴァルハザクにシノアは何も言えなくなり、その言葉に耳を傾ける。
「お前さんのことだ。おそらく自分を庇ったばかりにフィリア様が死んでしまったから、自分が殺したと思い込んでいるのだろう?」
「そんな…こと…」
内情をピタリと言い当てられ言い返せなくなるシノア。
ヴァルハザクは目を細めると立ち上がり、窓から外を眺める。
「シノアよ。人はいずれ死ぬものだ。フィリア様とて、それは同じ。ただ何もなさずに腐っていくのと、大切なものを守り散っていく、あの方がどちらを選ぶか、お前さんならわかるだろう?」
その言葉に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたシノアは、テーブルに残っていた酒を一気に飲み干し立ち上がる。
「ヴァルハザクさん」
「なんだ?」
ゆっくりと入口まで歩いていくシノアから放たれる言葉を聞くため、ヴァルハザクは耳を傾ける。
「…すみませんでした。それと…ありがとう…ございます」
消え入りそうなほど弱々しい声で発せられた言葉の意を汲んだヴァルハザクは、笑みを浮かべると酒を飲み干した。
ドアを閉める音が部屋に響き、沈黙が訪れる。
「…ワシの弟弟子は、随分立派になったものだ」
静かな部屋に、老人の独り言が響いた。
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皆様いつも”むのかみ”をお読み下さりありがとうございます
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