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DAY1
1-3 今日は何の日
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その後、三時間授業を受け、昼休み。
他のクラスメイトが仲のいい友達と昼食を摂るのを横目に眺めながら、花恋はそっと教室の外へ出た。
✾
「やっぱここは落ち着くなぁ……」
旧校舎裏。
花恋は裏口の階段に腰を下ろし、持参した弁当を広げる。
旧校舎は五年前に閉鎖されており、蔓が伸びっぱなしになっている。
花恋の背丈くらいまで高く伸びた草の間から陽光が差している。
その神秘的な雰囲気に惹かれ、一年半前から昼はここに入りびたっていた。
三十分間の昼休み、教室にいても話し相手が存在しない。
ここで弁当を食べたり風景画のスケッチをしていたり、課題に取り組んだり。
花恋にとって、自宅に次ぐ居心地の良い場所であった。
……居心地の良い場所であったのだが。
「あ、花恋じゃん」
花恋が弁当を前に手を合わせた時、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「げぇ……晴……」
「何が『げぇ』だよ」
丈の高い草をかき分けて花恋に声をかけた男子生徒──晴は不満げに唇を尖らせる。
そして晴の視線は花恋の手元にある弁当箱へと移される。
(あ、もしかしてこいつ……)
その視線にいち早く気づいた花恋が弁当箱を晴から遠ざけようとする。
……が、その抵抗も虚しく、晴の口に唐揚げが吸い込まれる。
「うまいな、これ。うまい」
「語彙が乏しいわね……って! それ二つしか入ってないのに……!」
「あと一つあるから、いいじゃねぇか」
「よくないわよ!」
二人は数十秒間取っ組み合いを続け、花恋のお腹が鳴ったと共に終了された。
「早く食べろよ」
「言っとくけどあんたのせいだかんね」
花恋は口を尖らせ米を口に運ぶ。
晴はそれを面白そうに眺めてから、自分が持ってきた包みを開ける。
「……あんた、またコンビニ弁当」
「いーだろ別に。作る時間ねーっつの」
晴はコンビニで買ったサンドイッチを手際良く開封し、大きく口を開けてかぶりつく。
「母さんに作ってもらうなんてできないし、俺は料理下手だから」
晴の家は母子家庭だ。晴が生まれるのと同時期に父が亡くなったそうだ。
毎日 母に弁当を作ってもらっている花恋は、俯いて黙りこくる。
しばらく無言で互いに昼食を口に運んでいると、晴が何かを思い出したように花恋の顔を覗き込む。
「おい花恋、今日何の日か知ってっか?」
「さぁ」
「………………」
花恋が視線を動かさずに言うと、晴はどこか不満げに花恋を見つめ、視線を逸らした。
(…………誕生日)
花恋は僅かに視線を落とす。
「…………何年一緒にいると思ってるのよ」
「何か言ったか?」
「別に」
知ってるけど照れ臭くて祝えない、なんて言えるはずもない。
他のクラスメイトが仲のいい友達と昼食を摂るのを横目に眺めながら、花恋はそっと教室の外へ出た。
✾
「やっぱここは落ち着くなぁ……」
旧校舎裏。
花恋は裏口の階段に腰を下ろし、持参した弁当を広げる。
旧校舎は五年前に閉鎖されており、蔓が伸びっぱなしになっている。
花恋の背丈くらいまで高く伸びた草の間から陽光が差している。
その神秘的な雰囲気に惹かれ、一年半前から昼はここに入りびたっていた。
三十分間の昼休み、教室にいても話し相手が存在しない。
ここで弁当を食べたり風景画のスケッチをしていたり、課題に取り組んだり。
花恋にとって、自宅に次ぐ居心地の良い場所であった。
……居心地の良い場所であったのだが。
「あ、花恋じゃん」
花恋が弁当を前に手を合わせた時、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「げぇ……晴……」
「何が『げぇ』だよ」
丈の高い草をかき分けて花恋に声をかけた男子生徒──晴は不満げに唇を尖らせる。
そして晴の視線は花恋の手元にある弁当箱へと移される。
(あ、もしかしてこいつ……)
その視線にいち早く気づいた花恋が弁当箱を晴から遠ざけようとする。
……が、その抵抗も虚しく、晴の口に唐揚げが吸い込まれる。
「うまいな、これ。うまい」
「語彙が乏しいわね……って! それ二つしか入ってないのに……!」
「あと一つあるから、いいじゃねぇか」
「よくないわよ!」
二人は数十秒間取っ組み合いを続け、花恋のお腹が鳴ったと共に終了された。
「早く食べろよ」
「言っとくけどあんたのせいだかんね」
花恋は口を尖らせ米を口に運ぶ。
晴はそれを面白そうに眺めてから、自分が持ってきた包みを開ける。
「……あんた、またコンビニ弁当」
「いーだろ別に。作る時間ねーっつの」
晴はコンビニで買ったサンドイッチを手際良く開封し、大きく口を開けてかぶりつく。
「母さんに作ってもらうなんてできないし、俺は料理下手だから」
晴の家は母子家庭だ。晴が生まれるのと同時期に父が亡くなったそうだ。
毎日 母に弁当を作ってもらっている花恋は、俯いて黙りこくる。
しばらく無言で互いに昼食を口に運んでいると、晴が何かを思い出したように花恋の顔を覗き込む。
「おい花恋、今日何の日か知ってっか?」
「さぁ」
「………………」
花恋が視線を動かさずに言うと、晴はどこか不満げに花恋を見つめ、視線を逸らした。
(…………誕生日)
花恋は僅かに視線を落とす。
「…………何年一緒にいると思ってるのよ」
「何か言ったか?」
「別に」
知ってるけど照れ臭くて祝えない、なんて言えるはずもない。
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