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DAY2
2‐3 今を
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昼休み。
花恋はいつも通り旧校舎に赴いた。
寝坊助な花恋のために母が作ってくれた弁当を開けると、既視感を覚える。
右から玉子焼き、サラダ、冷凍のハンバーグ、唐揚げ、混ぜご飯。
花恋はしばらく考え、思い当たる場面を思い出した。
(夢で見たんだ)
花恋は昨日見た夢を鮮明に覚えている。
授業の時間と流れ、教師が言った言葉、弁当のラインナップ、天気や気温、クラスメイトの言動まで。
全てが夢と一致している気がしてならない。
花恋の中に一つの不安な種が生まれた。
(いや、そんなまさか────)
ガサッ
不安を取り払おうとする花恋の後ろから、草を掻き分ける音が聞こえた。
「……?」
花恋がゆっくり振り返ると、そこには弁当の包みを持った男子生徒が立っていた。
「あ、花恋じゃん」
「……晴…………」
花恋が目を丸くしながら彼の名を呟くと、彼──晴は花恋の隣に腰を下ろした。
「お前なら絶対嫌な顔すると思ってたけど」
「……別に何でもいいじゃない」
こちとらそれどころじゃない、と思いながら玉子焼きを口に運ぶ。
花恋は昨日見た夢について整理した。
今のところ、花恋の言動が関わっていないところでの出来事はまるっきり夢と一緒だ。
正夢というには鮮明すぎて、正確すぎて──そして残酷だった。
鼓動が急に速くなる。
(もしこのままだったら……晴は、どうなるの?)
──また、事故に遭って死んでしまうのか?
震える手から、箸ごと玉子焼きがぽろりと落ちる。
目眩がする。
異変を感じた晴が横から声をかけているが、全て頭に入ってこない。雑音にしか聞こえない。
ヒュウ、ヒュウと浅い呼吸を続けていると、段々と目眩が収まってきた。
(所詮は正夢……現実になる、わけが、ない)
そう自分に言い聞かせながら、額の汗を拭う。
「おい、おまえ朝から体調おかしいんじゃねぇの」
隣から眉をひそめた晴の声がやっと耳に入ってくる。
「……ねぇ」
花恋は深呼吸をしてから晴に問いかけた。
「晴は、夢がそのまま現実になることって……あると思う?」
「…………」
晴はしばし黙り込み、首を傾げながら言った。
「俺はよく分かんないけど……花恋は夢とかに振り回されずに今を生きる方が似合ってるぜ?」
いつもの花恋なら「質問にちゃんと答えなさい!」と怒るだろう。
でも今は、今だけは、その言葉が力強くてならなかった。
「…………うん、そっか」
花恋は膝に落ちた箸を拾い、弁当を再び食べ始める。
そんな花恋を晴は数秒不思議そうに見ていたが、やがて晴も包みを広げて昼食を食べ始めた。
彼が広げた包みにはコンビニのサンドイッチだけがぽつんと入っている。
晴の昼食はいつも同じなので、なんら不審には思わなかった。
花恋は晴のサンドイッチをチラリと見てから、自分の弁当に入っている唐揚げに視線を移す。
「……ん」
花恋が箸でつまんだ唐揚げは、晴が開封したサンドイッチの上に乗る。
「んお?」と素頓狂な声を出した晴は唐揚げと花恋を交互に見る。
花恋は顔を動かすことなく、黙々と弁当を食べ進める。
晴は少しの間、花恋を不思議そうにじっと見つめていたが、やがて唇を緩めた。
「なんだおまえ、優しいとこもあるじゃんかよ」
ただのお礼だから、と花恋はそっぽを向いた。
少しだけ、本当に少しだけ前を向かせてくれたことに対する、ささやかな礼だ。
花恋はいつも通り旧校舎に赴いた。
寝坊助な花恋のために母が作ってくれた弁当を開けると、既視感を覚える。
右から玉子焼き、サラダ、冷凍のハンバーグ、唐揚げ、混ぜご飯。
花恋はしばらく考え、思い当たる場面を思い出した。
(夢で見たんだ)
花恋は昨日見た夢を鮮明に覚えている。
授業の時間と流れ、教師が言った言葉、弁当のラインナップ、天気や気温、クラスメイトの言動まで。
全てが夢と一致している気がしてならない。
花恋の中に一つの不安な種が生まれた。
(いや、そんなまさか────)
ガサッ
不安を取り払おうとする花恋の後ろから、草を掻き分ける音が聞こえた。
「……?」
花恋がゆっくり振り返ると、そこには弁当の包みを持った男子生徒が立っていた。
「あ、花恋じゃん」
「……晴…………」
花恋が目を丸くしながら彼の名を呟くと、彼──晴は花恋の隣に腰を下ろした。
「お前なら絶対嫌な顔すると思ってたけど」
「……別に何でもいいじゃない」
こちとらそれどころじゃない、と思いながら玉子焼きを口に運ぶ。
花恋は昨日見た夢について整理した。
今のところ、花恋の言動が関わっていないところでの出来事はまるっきり夢と一緒だ。
正夢というには鮮明すぎて、正確すぎて──そして残酷だった。
鼓動が急に速くなる。
(もしこのままだったら……晴は、どうなるの?)
──また、事故に遭って死んでしまうのか?
震える手から、箸ごと玉子焼きがぽろりと落ちる。
目眩がする。
異変を感じた晴が横から声をかけているが、全て頭に入ってこない。雑音にしか聞こえない。
ヒュウ、ヒュウと浅い呼吸を続けていると、段々と目眩が収まってきた。
(所詮は正夢……現実になる、わけが、ない)
そう自分に言い聞かせながら、額の汗を拭う。
「おい、おまえ朝から体調おかしいんじゃねぇの」
隣から眉をひそめた晴の声がやっと耳に入ってくる。
「……ねぇ」
花恋は深呼吸をしてから晴に問いかけた。
「晴は、夢がそのまま現実になることって……あると思う?」
「…………」
晴はしばし黙り込み、首を傾げながら言った。
「俺はよく分かんないけど……花恋は夢とかに振り回されずに今を生きる方が似合ってるぜ?」
いつもの花恋なら「質問にちゃんと答えなさい!」と怒るだろう。
でも今は、今だけは、その言葉が力強くてならなかった。
「…………うん、そっか」
花恋は膝に落ちた箸を拾い、弁当を再び食べ始める。
そんな花恋を晴は数秒不思議そうに見ていたが、やがて晴も包みを広げて昼食を食べ始めた。
彼が広げた包みにはコンビニのサンドイッチだけがぽつんと入っている。
晴の昼食はいつも同じなので、なんら不審には思わなかった。
花恋は晴のサンドイッチをチラリと見てから、自分の弁当に入っている唐揚げに視線を移す。
「……ん」
花恋が箸でつまんだ唐揚げは、晴が開封したサンドイッチの上に乗る。
「んお?」と素頓狂な声を出した晴は唐揚げと花恋を交互に見る。
花恋は顔を動かすことなく、黙々と弁当を食べ進める。
晴は少しの間、花恋を不思議そうにじっと見つめていたが、やがて唇を緩めた。
「なんだおまえ、優しいとこもあるじゃんかよ」
ただのお礼だから、と花恋はそっぽを向いた。
少しだけ、本当に少しだけ前を向かせてくれたことに対する、ささやかな礼だ。
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