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第1話 同居は突然に
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ライラック・ノイスとアッシュ・オルデンブルクの結婚は、大恋愛の末のものであった。
仲睦まじい彼らには、どんな出来事も障壁にならないだろうと思われていた。そんなある年の秋。
王国と隣に位置する小国が戦争を始めたのだった。医師であるアッシュは、兵の救護活動を命じられ戦地に行くことになる。
「アッシュ君、いつでも良いから手紙書いて送ってね」
馬車に乗り込もうとする夫を目に涙を浮かべて見送るライラック。薄い紫色の髪には、夫が贈ってくれた一輪の花飾りが咲いている。桃色の瞳は大粒の雫が浮かんでいた。
「うん、離れていてもリラの事をずっと愛しているよ」
灰色の髪に輝くような黄金色の瞳を揺らしながら、アッシュは愛する妻を抱き締める。仲睦まじい夫婦を引き裂く戦の憎たらしさを口にはせず、ただ二人はお互いの体温を確かめ合っていた。
彼らが結婚に至るまでの話をしよう。
ライラックとアッシュが出会ったのは、王国でも有数の学び舎『王立メルスイェナ学院』である。
ノイス伯爵家の娘であるライラックは、兄と弟に囲まれたせいか、女性でありながら裁縫といった家事や勉学よりも剣の腕を磨くことを得意とした。王立メルスイェナ学院では、ほとんどの令嬢が家庭科に入学するのに対し、ライラックは貴族の令息や騎士の子どもがいる剣術科に進学する。もちろん、母親の強い反対もあったが、ライラックには剣の才能があり、このまま腐らせておくには勿体ないと思った父が説得してくれたおかげで入学する事が出来た。
ライラック以外はみな男であったが、紅一点でありながらも実技においては令息達よりも優秀な成績を収めていた。また、生まれ持った怪力を活かし、拳で語り合う事も出来たおかげで、女でありながら剣を扱えるライラックを目障りに思った輩たちをちぎっては投げていた。
男であっても歯が立たない程の強さを持つライラックを学生たちは畏怖の念を込めて『剣拳姫』と呼ぶ。
実技は得意でも座学はからっきしだったライラックは、時折授業を抜ける事があった。
アッシュと出会ったその日も座学が嫌で授業を抜け出していた時である。
剣術科の不良たちに囲まれ、お金を出すよう脅されていたアッシュをライラックが見つけ、その腕っ節で彼を助けたのであった。
医術科のアッシュは侯爵家の令息なので幼少期より剣術を習っていたが、人に危害を加える事をひどく嫌がっていたので不良たちに絡まれた時も、どうしようと慌てるしか出来なかった。
困ったアッシュの目の前に颯爽と現れた薄紫の髪を持つ乙女が、自分よりも体格のいい男たちを次々に投げ飛ばす様は、アッシュにとっては女神に見えたのである。
頼りがいのある背中に一目ぼれをしてしまったアッシュは、その日から自分の女神を守れる男になれるようライラックに剣の指導を願い出た。
ライラックは剣を教える事も大好きだったので快く引き受ける。二人はそうして交流を深めていき、いつしかライラックもアッシュに惹かれるようになり、交際が始まった。
学院を卒業して結婚したのは、お互いが二十歳になった時である。
そして、彼らが結婚して三年後――戦争が始まったのだ。
別れを惜しむ彼らに話は戻る。
涙ながら必ず帰って来ると約束し、アッシュは馬車へ乗り込み、戦地へと向かった。残されたライラックに出来る事は、オルデンブルク侯爵夫人として領地を守ること。
アッシュが帰って来る時までこの地を守ろうと決心したライラックに、アッシュの母であるマグノリアから手紙が届いた。
『アッシュが戦地に赴いたので、息子が帰って来るまでわたくしも屋敷に滞在します』
かくしてライラックと義母マグノリアの同居が始まったのである――。
仲睦まじい彼らには、どんな出来事も障壁にならないだろうと思われていた。そんなある年の秋。
王国と隣に位置する小国が戦争を始めたのだった。医師であるアッシュは、兵の救護活動を命じられ戦地に行くことになる。
「アッシュ君、いつでも良いから手紙書いて送ってね」
馬車に乗り込もうとする夫を目に涙を浮かべて見送るライラック。薄い紫色の髪には、夫が贈ってくれた一輪の花飾りが咲いている。桃色の瞳は大粒の雫が浮かんでいた。
「うん、離れていてもリラの事をずっと愛しているよ」
灰色の髪に輝くような黄金色の瞳を揺らしながら、アッシュは愛する妻を抱き締める。仲睦まじい夫婦を引き裂く戦の憎たらしさを口にはせず、ただ二人はお互いの体温を確かめ合っていた。
彼らが結婚に至るまでの話をしよう。
ライラックとアッシュが出会ったのは、王国でも有数の学び舎『王立メルスイェナ学院』である。
ノイス伯爵家の娘であるライラックは、兄と弟に囲まれたせいか、女性でありながら裁縫といった家事や勉学よりも剣の腕を磨くことを得意とした。王立メルスイェナ学院では、ほとんどの令嬢が家庭科に入学するのに対し、ライラックは貴族の令息や騎士の子どもがいる剣術科に進学する。もちろん、母親の強い反対もあったが、ライラックには剣の才能があり、このまま腐らせておくには勿体ないと思った父が説得してくれたおかげで入学する事が出来た。
ライラック以外はみな男であったが、紅一点でありながらも実技においては令息達よりも優秀な成績を収めていた。また、生まれ持った怪力を活かし、拳で語り合う事も出来たおかげで、女でありながら剣を扱えるライラックを目障りに思った輩たちをちぎっては投げていた。
男であっても歯が立たない程の強さを持つライラックを学生たちは畏怖の念を込めて『剣拳姫』と呼ぶ。
実技は得意でも座学はからっきしだったライラックは、時折授業を抜ける事があった。
アッシュと出会ったその日も座学が嫌で授業を抜け出していた時である。
剣術科の不良たちに囲まれ、お金を出すよう脅されていたアッシュをライラックが見つけ、その腕っ節で彼を助けたのであった。
医術科のアッシュは侯爵家の令息なので幼少期より剣術を習っていたが、人に危害を加える事をひどく嫌がっていたので不良たちに絡まれた時も、どうしようと慌てるしか出来なかった。
困ったアッシュの目の前に颯爽と現れた薄紫の髪を持つ乙女が、自分よりも体格のいい男たちを次々に投げ飛ばす様は、アッシュにとっては女神に見えたのである。
頼りがいのある背中に一目ぼれをしてしまったアッシュは、その日から自分の女神を守れる男になれるようライラックに剣の指導を願い出た。
ライラックは剣を教える事も大好きだったので快く引き受ける。二人はそうして交流を深めていき、いつしかライラックもアッシュに惹かれるようになり、交際が始まった。
学院を卒業して結婚したのは、お互いが二十歳になった時である。
そして、彼らが結婚して三年後――戦争が始まったのだ。
別れを惜しむ彼らに話は戻る。
涙ながら必ず帰って来ると約束し、アッシュは馬車へ乗り込み、戦地へと向かった。残されたライラックに出来る事は、オルデンブルク侯爵夫人として領地を守ること。
アッシュが帰って来る時までこの地を守ろうと決心したライラックに、アッシュの母であるマグノリアから手紙が届いた。
『アッシュが戦地に赴いたので、息子が帰って来るまでわたくしも屋敷に滞在します』
かくしてライラックと義母マグノリアの同居が始まったのである――。
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