【完結】革命を起こされた王女は敵の司令官に一途に愛される

十井 風

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第1話 王朝、崩壊す。

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「この騒ぎは何だ、一体何が起こっている!?」
 王国軍の兵士が突然、慌てた様子で謁見の間に国王とその家族を集めた。事態が全く飲み込めていない国王と王子二人とは対照的に、ヴェリティアナはただ静かに窓から空を眺めていた。
 
 今宵も曇り。一年の多くが曇りであるこの国にとって、星空を眺めることが出来るのは稀だ。今晩くらい綺麗な星空を見たかったものである。
 隣で震えながらヴェルの手を握り締める侍女ダリアの背中を優しく撫でてやりながら、取り乱す父と兄二人をじいっと見つめていた。

 謁見の間は豪奢な意匠に繊細な調度品が置かれた、荘厳な雰囲気のある部屋だが、今は物々しい雰囲気によって不気味さを醸し出している。

「報告します!」
 息を上がらせながら慌てて謁見の間にやって来た王国軍の兵士は、国王の面前で跪いて言う。
「王都で内乱が勃発! 反乱軍と王国軍が宮殿前で衝突しています!」
 兵士の言葉に国王と兄二人は言葉を詰まらせた。

「反乱軍だと?」
「はい。彼らの勢いはすさまじく、もう間もなく宮殿を護る兵達が押され、ここにやって来ると思われます。陛下を始めとする皆様には、今のうちに隠し通路からお逃げいただきたく存じます」
 兵の言葉に誰一人動こうとはしなかった。
「あり得ない、内乱など。余の何が誤っていたというのだ?」
 国王は頭を抱え、呻くように呟く。ヴェルは父の様子に諦めたような表情を浮かべていた。

(本当に何ひとつ思い当たらないのかしら……)
 ヴェルは気付かれないようにため息をつく。この数年間、何度も嵐に見舞われ不作が続いた上に、高い税率をかけたままではいつか国民の怒りは爆発する。過去の王朝が何度か内乱で崩壊した。国史を見れば想像するのは容易いはず。父が受けていたはずの、民を導いていくための教育は無意味なものだった。

(わたくし達には逃げ場などない。兵はあのように言っているけれど、王国軍の数が少なすぎるということは寝返った者が多いか、反乱軍に押されてしまったか。隠し通路の存在はとっくに気付かれて、待ち伏せされているでしょうね)
 ヴェルは謁見の間に集まっている兵士を目で数えていく。平時に見る時よりもかなり少ない。王族の護衛には心もとないくらいの人数だが、それでも割けるだけ人員を割いているのだろう。

 何よりも、とヴェルは隣でがたがたと震えるダリアを見やる。
(彼女はわたくしに仕えていただけの使用人。どうにかして助けてやらねば……)
 ヴェルが考えるのは自分の延命ではなく、ダリアや他の使用人の無事をどのように保証するかということ。彼らは王族に振り回されていただけの存在であり、王族が背負うべき罪は背負わなくていい。自分は死ぬ覚悟はとっくに出来ている。覚悟をしなければならない立場の人間だからだ。しかし、死ぬ覚悟が出来ている使用人(彼ら)はいない。死ぬ必要のない人間の命まで巻き添えには出来なかった。

 周りの者の安全をどうするか悩むヴェルと対照的なのはやはり、国王と兄二人だ。彼らはどうにかして自分達が助かろうとしているのか、案を出せと周りの者に怒鳴り散らしている。次兄などは隠し通路のある部屋までどのように向かうかを近くにいる兵に話していた。
 ヴェルが軽蔑した視線を向けるのもつかの間、謁見の間の扉が勢いよく開けられた。複数の足音が空間に響き渡る。剣を携え、甲冑を身に纏っている集団の中から男が二人、一歩前へ出る。

「反乱軍というのは貴様らか!」
 国王の狂ったような叫び声が響く。目は憎悪で血走り、口の端からは泡が出ている。興奮しているようでひゅうひゅうと息をしながら罵声を浴びせていた。ヴェルは、いつも見ていた父の姿とは全く違う王の様子に言葉を失う。

「我々は革命を起こす者達だ。この時より現王政は打ち破られたことを宣言する」
 二人組のうち、雪のように真っ白な長い髪を、後ろでひとつに束ねて流している男性が一歩前に歩み寄って国王に宣言する。隣に立つ眼帯をした大男は、腹の内が探れないような薄っぺらい笑みを浮かべていた。

「何が革命だ、貴様らがやっていることは王室に対する侮辱罪だ。おい、衛兵! こいつらを捕らえて打ち首にしろ!」
 長兄が叫ぶも誰ひとりやって来ない。己の命令が初めて無視されたことにようやく事態が飲み込めたのか、長兄の顔色が真っ青に変化していく。
「ハッ、誰も来ねえよ。無駄、無駄。王国軍はいま革命軍に制圧されている。叫んだって誰も来やしない」
 眼帯をした大男が乾いた笑い声を上げながら話した。彼の声で正体に気付いたのか、国王は震える手で大男を指差した。

「お前は……見た事がある顔だ。そうだ、王国騎士団の団長ブレンドンじゃないか……!」
 王の言葉に兄二人が歪んだ表情でブレンドンと呼ばれた大男を睨みつける。
「裏切者……!!」
 ブレンドンは答えることなく、王と兄二人の憎悪の視線を肩をすくめて受け流す。
「俺は革命軍総司令官セドリック・デュース。今ここでハンプソン王朝の崩壊を宣言する」
 淡々と話すセドリックに、王は殴りかからんとする勢いで怒鳴り返した。
「王が居なくなれば誰が民を率いるのだ!」
 国王の叫びにセドリックは晴れた空のような瞳を静かに向ける。

「今日このときより、ツィベローズ国の民は自らの力で国を導いていく」
「世迷言を……王族への忠義を忘れた畜生どもめ……!!」
「捕らえろ」
 国王が漏らした怨嗟の声に耳を貸すことなく、セドリックは革命軍の兵士に指示を出す。甲冑の擦れる音が響き、やがて国王、王太子、王子の順番で捕縛されていく。ヴェルも例外なく、腕を後ろ手に縛られた。不思議と心の内は穏やかだった。生に執着して醜態を晒す家族のように、死に怯えるようなことはない。ただ一つ、気がかりなことといえば。

「ひとつよろしいかしら?」
 凛とした声が響く。真っ直ぐ顔を上げていたヴェルと、セドリックの視線が交錯する。
「なんだ?」
 セドリックは淡々と問いかける。ヴェルの瞳に彼が映り込む。澄んだ空のような瞳をしているのね、と場違いな感想が思い浮かんだ。
「わたくしの侍女や使用人は悪政には関わっておりません。ですから、彼らの命だけは救っていただけませんか」
 ヴェルの言葉に父が「悪政だと!?」と怒りに満ちた声をぶつけたが、すぐに革命軍の兵士に小突かれ、黙り込んだ。父の治世を悪政と呼んだのは敢えてそうしたのである。民を苦しめ、死に追いやるような政策をとった王の治世は今ここで評価しても、後世で評価をしても悪政と呼ばれることだろう。父には最期くらい、自分がそれだけのことをしたのだと少しでも分かってもらいたかった。

 ヴェルの願いにセドリックとブレンドンは顔を見合わせた。不安になってヴェルが頭を下げる。
「姫様、あたし達の為にそこまでなさらないでください。あたし達はどこまでも姫様のおそばにおりますから……!」
 隣でダリアが顔を上げさせようとする。しかし、ヴェルは首を横に振る。貴方達は死んではならない、と諭すようにダリアを見つめて、気持ちが伝わるようにゆっくりと、はっきりと言った。
「いいえ、無実の人間が死ななくてはいけない理由がありません」
 ヴェルの言葉に対して、父王が馬鹿にしたような表情で鼻を鳴らす。父王の目には“女のくせに生意気な”と言葉にしなくても伝えたがっているだろう意識が見えた。

「ふん、甘いわ。王族が下級の存在に甘くては示しがつかぬ。この内乱もきっとお前のせいだ、ヴェリティアナ」
 父の言葉に兄達がそうだと野次を飛ばす。言い返す気力もないヴェルは黙って聞き流していたが、どういうわけか一瞬セドリックの瞳に怒りの色が見えた。どうして貴方が怒っているの、とヴェルは彼を見やるが視線が交わることは無かった。

「連れていけ」
 セドリックの氷のように冷たい声が謁見の間に響き渡る。誰も口を開かない。甲冑のこすれる音がこだまする。がちゃがちゃと耳元で大きな音を立てる。音はあるのに空気が死んだようだと、ヴェルは革命軍の兵に連れられながら思ったのだった。
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