【完結】サーラの結婚

十井 風

文字の大きさ
18 / 33

第18話

しおりを挟む
 ラソの翌日、サーラがいつものように館の近くで武術の練習をしているとブレイブもやって来た。二人で稽古をした後、汗を拭きながらサーラは聞く。
「この後は何をして過ごすんですか?」
「国境付近の襲撃で怪我をした者の見舞いに行く」
「それならわたしも行きます」
 サーラは言ったが、ブレイブは首を横に振る。
「シュトルツ族のスフェール人に対する感情はまだ良くない。お姫さんは行かない方が良い」
「……それもそうね。わたしは館で過ごすわ」
 スフェール人として被害者に会って謝罪をしようとしたのだが、相手の心情をサーラが行かない方が良いだろう。
「お姫さんはスフェール人だが、襲ったのはお姫さんじゃない。気に病むな」
 ブレイブは優しい言葉を掛けてくれる。スフェール人がシュトルツ族を襲ったと信じているわけではないが、事実ではないと否定も出来ない。
 謝ることで自分の不安を払拭させようとしていたのかもしれない、とサーラは思った。

 ブレイブとは別れ、大人しく館に戻る。
 部屋に入るとアニーサが昼食の準備を始めようとしていたところだった。
「わたしも手伝うわ。何をすれば良い?」
 服の裾を捲りあげながらアニーサの隣に立つ。
「大丈夫ですよ、お部屋でゆっくり休んでください」
「そういえば、わたしは手伝わない方が良いわね」
 この間のラソを思い出し、サーラは苦い顔をする。ジャリーラ達は笑って許してくれたが、材料を無駄にしてしまった。今もアニーサの手伝いをすれば、ラソの時のようになるかもしれない。
「わたし、本当に料理が下手なの」
 サーラが苦笑するとアニーサは首を傾げた。
「ラソの時、じゃがいもの芽を取り除く仕事をやらせてもらったんだけど、芽だけじゃなく食べられる部分までごっそり削ってしまって……」
 恥ずかしい思い出を包み隠さずアニーサに話す。彼女は準備をする手は休めずに、楽しそうに笑った。彼女の髪から覗く飾り羽が揺れる。飾り羽は髪の毛のように頭部から生えていた。気になってサーラはアニーサに問う。

「気を悪くさせてしまったら本当に申し訳ないのだけど……獣の方の孔雀は雄しか美しい飾り羽を持たないけれど、その……アニーサの飾り羽って……」
 聞きにくい事を聞いてしまった、とサーラは口にして後悔する。アニーサが嫌な気持ちになってしまったらどうしようと慌てたが、彼女は気にしていないようで笑顔で答えてくれた。
「私は"両性"と言って、人の姿をとる"人化"の性別と獣の姿をとる"獣化"の性別が違うんです」
 アニーサによると、シュトルツ族にも"両性"で生まれる者は数少ないと言う。
「私にとってはどちらも自分ですし、性別はほんの自分の一部でしかないから気にしない人が多いんです」
「ごめんなさい、変な事を聞いてしまって。でも、シュトルツ族のこと知れて嬉しいわ」
 サーラが言うとアニーサは嬉しそうに笑ってくれた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

【完結】嫌われ公女が継母になった結果

三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。 わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

完璧な政略結婚のはずでしたが、宰相閣下の“私の妻”扱いが甘すぎます

星乃和花
恋愛
政略結婚のはずでした。 家同士の利も、立場の釣り合いも、全部きちんと整った、完璧に合理的な結婚。 ……なのに、夫となった冷徹宰相は、なぜか人前で私を「最高の妻」と紹介し、暮らしを完璧に整え、他人に近づかれると不機嫌になってしまいます。 “天使”と噂される穏やかな令嬢フィオナもまた、 そんな不器用な優しさに少しずつ心をほどかれて――。 これは、条件で選ばれたはずの夫婦が、 いつの間にかお互いを“ただ一人”として欲しくなるまでの、甘くてやさしい政略結婚物語。 (毎日21:50更新ー全8話)

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

花言葉は「私のものになって」

岬 空弥
恋愛
(婚約者様との会話など必要ありません。) そうして今日もまた、見目麗しい婚約者様を前に、まるで人形のように微笑み、私は自分の世界に入ってゆくのでした。 その理由は、彼が私を利用して、私の姉を狙っているからなのです。 美しい姉を持つ思い込みの激しいユニーナと、少し考えの足りない美男子アレイドの拗れた恋愛。 青春ならではのちょっぴり恥ずかしい二人の言動を「気持ち悪い!」と吐き捨てる姉の婚約者にもご注目ください。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

処理中です...