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第21話
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ブレイブの青い瞳が揺れる。
「最初は角膜に白い斑点が浮かび上がったんだ。目が痒くて辛いとシャーリーは言っていた」
ブレイブは、シュトルツ族の医術師にシャーリーを診察してもらったという。
医術師は、シャーリーの症状を見るなり険しい表情を浮かべブレイブに告げた。
「シャーリーは星忘病に罹っていると医術師は教えてくれた。そして、症状が進行すれば自我が消えていくことも」
サーラはシャーリーに視線を移した。虚空を見つめ、何も反応しない彼女の自我はもう無いのだろうか。
「俺は必死に治療方法を探したんだ」
何度もシュトルヴァ領の外へ行き、星忘病についての情報を集めたという。治療法とされるものは全て試したが、どれも上手くいかなかった。その間も病はシャーリーを蝕んでいき、彼女はぼうっとする事が多くなった。
そんな中、有力な情報を国境付近に駐屯していたスフェール兵から聞いたという。
「星忘病の薬がサビアで開発された、とそいつは言っていた。だが、開発直後で数も少なくかなり高値で売買されると言っていた」
それからブレイブは、スフェールで宝玉を採掘する仕事に就き、毎日働いた。鉱夫だけでは稼げないので、夜は酒場の護衛をやったという。
昼も夜も働き続けて数年。やっと薬が買えるくらいまで金が貯まった。
「これで妹が助かると信じて、俺はサビアに向かった。だが、入国審査で『シュトルツ族』だからという理由で拒否されたんだ」
シュトルツ族が鉱夫として働く事が多いスフェールでは、スフェール人と同じように接する。少なくともサビアのように『シュトルツ族だから』という理由で入国を拒否することはない。
しかし、自国民が多いサビアでは、少数民族は冷遇される。
「妹が星忘病になったから薬を買いに来ただけだ、と何度説明しても危険人物をサビアに入国させることは出来ないと入国管理官は言うばかりだった。結局、俺は何も出来ずにシュトルヴァ領へ戻ったんだ」
彼が久しぶりにシュトルヴァ領に帰った時にはシャーリーは既に自我を失っていた。
「シャーリーはもう俺を見ない。認識も出来ない、ただ生きているだけの状態になってしまったんだ。俺は心から悔やんだよ。薬が手に入らないならずっとシャーリーの側に居てやれば良かった……」
ブレイブの大きな瞳から雫が溢れた。
「シュトルツ族だからなんだ、見た目が外界の人間と少し違うだけなのに。俺達も生きているのに、大陸の人間達はまるで異物のように扱う」
サーラは目を閉じる。彼は、自分が泣いているのを見られたくないように顔を伏せたからだ。
「……俺は、シュトルツ族が今よりも自由を許容される世界を目指したい」
シュトルツ族という理由だけで拒絶されない世界。サーラも頷いた。拒絶される悲しみはサーラも痛いほど分かる。
「わたしも一緒に目指すわ」
ブレイブが顔を上げたのが分かった。
サーラはゆっくりと瞼を開ける。頬を濡らしたブレイブがこちらを真っ直ぐ見ていた。
「シュトルツ族が受け入れられる世界を作るの」
それに、とサーラは続けた。
「星忘病を治す良い方法だってきっとあるはず。両方叶えられるように一緒に頑張りましょう?」
ブレイブは涙を流しながら笑みを浮かべて頷いた。
「最初は角膜に白い斑点が浮かび上がったんだ。目が痒くて辛いとシャーリーは言っていた」
ブレイブは、シュトルツ族の医術師にシャーリーを診察してもらったという。
医術師は、シャーリーの症状を見るなり険しい表情を浮かべブレイブに告げた。
「シャーリーは星忘病に罹っていると医術師は教えてくれた。そして、症状が進行すれば自我が消えていくことも」
サーラはシャーリーに視線を移した。虚空を見つめ、何も反応しない彼女の自我はもう無いのだろうか。
「俺は必死に治療方法を探したんだ」
何度もシュトルヴァ領の外へ行き、星忘病についての情報を集めたという。治療法とされるものは全て試したが、どれも上手くいかなかった。その間も病はシャーリーを蝕んでいき、彼女はぼうっとする事が多くなった。
そんな中、有力な情報を国境付近に駐屯していたスフェール兵から聞いたという。
「星忘病の薬がサビアで開発された、とそいつは言っていた。だが、開発直後で数も少なくかなり高値で売買されると言っていた」
それからブレイブは、スフェールで宝玉を採掘する仕事に就き、毎日働いた。鉱夫だけでは稼げないので、夜は酒場の護衛をやったという。
昼も夜も働き続けて数年。やっと薬が買えるくらいまで金が貯まった。
「これで妹が助かると信じて、俺はサビアに向かった。だが、入国審査で『シュトルツ族』だからという理由で拒否されたんだ」
シュトルツ族が鉱夫として働く事が多いスフェールでは、スフェール人と同じように接する。少なくともサビアのように『シュトルツ族だから』という理由で入国を拒否することはない。
しかし、自国民が多いサビアでは、少数民族は冷遇される。
「妹が星忘病になったから薬を買いに来ただけだ、と何度説明しても危険人物をサビアに入国させることは出来ないと入国管理官は言うばかりだった。結局、俺は何も出来ずにシュトルヴァ領へ戻ったんだ」
彼が久しぶりにシュトルヴァ領に帰った時にはシャーリーは既に自我を失っていた。
「シャーリーはもう俺を見ない。認識も出来ない、ただ生きているだけの状態になってしまったんだ。俺は心から悔やんだよ。薬が手に入らないならずっとシャーリーの側に居てやれば良かった……」
ブレイブの大きな瞳から雫が溢れた。
「シュトルツ族だからなんだ、見た目が外界の人間と少し違うだけなのに。俺達も生きているのに、大陸の人間達はまるで異物のように扱う」
サーラは目を閉じる。彼は、自分が泣いているのを見られたくないように顔を伏せたからだ。
「……俺は、シュトルツ族が今よりも自由を許容される世界を目指したい」
シュトルツ族という理由だけで拒絶されない世界。サーラも頷いた。拒絶される悲しみはサーラも痛いほど分かる。
「わたしも一緒に目指すわ」
ブレイブが顔を上げたのが分かった。
サーラはゆっくりと瞼を開ける。頬を濡らしたブレイブがこちらを真っ直ぐ見ていた。
「シュトルツ族が受け入れられる世界を作るの」
それに、とサーラは続けた。
「星忘病を治す良い方法だってきっとあるはず。両方叶えられるように一緒に頑張りましょう?」
ブレイブは涙を流しながら笑みを浮かべて頷いた。
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