【完結】サーラの結婚

十井 風

文字の大きさ
22 / 33

第22話

しおりを挟む
 ハルハーンがスフェールに滞在している間に宿泊している宿の部屋に戻ると、側近である男が殺気を纏いながら彼を睨み付けた。
「おいおい、主人が帰ってきたというのに無愛想だなぁお前は」
 ハルハーンは軽い口調で話しかけた。彼の態度がより神経を逆撫でしたのだろう、側近は顔を真っ赤にして強い口調で話す。
「陛下、何度もお伝えしていますでしょう! 私に黙って出ていかないでください、と。御身に何かあったらどうするんですか!」
「カリカリするなよ、スィフィル」
 スィフィルと呼ばれた側近の男はため息をつく。美丈夫のハルハーンと並んでも負けないくらいスィフィルも端正な顔立ちをしているのだが、心労のせいかやつれていた。
「そりゃ怒りたくもなりますよ! 突然姿を消したと思えば数日帰ってこないんですから! こちらがどれだけハルハーン様を探したか……」
「お前もいい加減に俺の性格を理解しろ。何年護衛をやってんだ」
 スィフィルはハルハーンの幼馴染みでもあり、護衛兼側近である。小さい頃から振り回されているが、ハルハーンはサビア王でありいい加減に立場を弁えて欲しいというのがスィフィルの本音であった。

「それよりスフェールの狸爺はどう動くと思う?」
「……スフェールの性格上、争いは必ず避けようとするはずです。我が国を敵に回さず、上手くやり過ごす方法を考えているでしょう」
「だろうな。まぁ、こちらの思惑通り事が進んでくれそうだ。それとな、スフェールとシュトルヴァ領の国境付近で面白い奴が居た」
 スィフィルは怪訝そうにハルハーンを見た。彼の視線を受け、ハルハーンは面白そうに眉を上げる。
「フォルトゥス族の男でな。引き抜きたかったんだが、断られてしまった」
「陛下は何故、彼らフォルトゥス族に執着を?」
「俺は強い奴が好きなんだ。フォルトゥス族は大陸最強の戦闘民族と呼ばれる程、戦いに特化してるから好きだ。強さで言えばシュトルツ族も負けてないな」

 ハルハーンは椅子に座ると、窓から見える夜景に目を移した。高級宿の最高級宿泊部屋からは夜でも庭が見えるよう明かりが灯されている。
「スフェールの末娘にも会ってみたかったが……あの狸爺、俺が末娘を欲しがっていると勘づいたのだろうな。シュトルツ族へ嫁がせてしまった」
 彼は残念そうに大きく息を吐いた。
「陛下はフォルトゥス族やシュトルツ族のような少数民族を傘下に入れるおつもりですか?」
 スィフィルの言葉にハルハーンは口角を上げる。
「サビアは少数民族を嫌う傾向がある。国王の俺が表立って奴らを使えば、突っついてくる輩がいるだろうよ」
「確かにそうですが……」
「俺直轄の非公式の軍を作る」
 スィフィルはなるほどと頷く。非公式であれば、公式で戦闘民族を傘下にするより指摘を受けにくいだろう。

「強い奴等を集めた俺の軍隊……。最強の軍を率いて俺は大陸全土の王になる」
 ハルハーンは呟く。好戦的に笑いながら鋭い視線をシュトルヴァ領のある方角へ向けていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

【完結】嫌われ公女が継母になった結果

三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。 わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

完璧な政略結婚のはずでしたが、宰相閣下の“私の妻”扱いが甘すぎます

星乃和花
恋愛
政略結婚のはずでした。 家同士の利も、立場の釣り合いも、全部きちんと整った、完璧に合理的な結婚。 ……なのに、夫となった冷徹宰相は、なぜか人前で私を「最高の妻」と紹介し、暮らしを完璧に整え、他人に近づかれると不機嫌になってしまいます。 “天使”と噂される穏やかな令嬢フィオナもまた、 そんな不器用な優しさに少しずつ心をほどかれて――。 これは、条件で選ばれたはずの夫婦が、 いつの間にかお互いを“ただ一人”として欲しくなるまでの、甘くてやさしい政略結婚物語。 (毎日21:50更新ー全8話)

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

花言葉は「私のものになって」

岬 空弥
恋愛
(婚約者様との会話など必要ありません。) そうして今日もまた、見目麗しい婚約者様を前に、まるで人形のように微笑み、私は自分の世界に入ってゆくのでした。 その理由は、彼が私を利用して、私の姉を狙っているからなのです。 美しい姉を持つ思い込みの激しいユニーナと、少し考えの足りない美男子アレイドの拗れた恋愛。 青春ならではのちょっぴり恥ずかしい二人の言動を「気持ち悪い!」と吐き捨てる姉の婚約者にもご注目ください。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

処理中です...