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第32話
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ハルハーンはスフェールとシュトルヴァ領の国境付近に設営された天幕から戦の様子を見ていた。
望遠鏡を片目にあて、サビア軍とシュトルツ族、エゲリアの兵が戦っているのを静かに見やる。
「エゲリアとの連合軍で立ち向かう選択をするとは。数はややこちらの方が有利といったところか。しかし、エゲリアまで付いてくるとは少し意外だったな」
あの女帝が首を縦に振るなんて、とハルハーンは楽しげに笑った。予想外の展開になっている事を楽しんでいるように見える。
スィフィルが隣に立って集めた情報を報告した。
「エゲリアは、エゲリア軍としてではなく、女帝直属の軍とのことです。正確には帝都ユノ所属の軍ですね」
「成る程。国家として協力するのでは、あくまで都市同士の協力関係か。国として行動すると、一部の少数民族に肩入れをしているだとか、他の少数民族から助力を請われる事が増えるだろうからなぁ。まぁ、帝都として行動しても他の少数民族から助力を請われるだろうがな」
今後の事も考慮した上で利益があるとミネルヴァは読んだのだろう、とハルハーンは続けた。
「おや? フォルトゥス族のお姫様が居ないぞ」
ハルハーンは望遠鏡をあちらこちらに向ける。
スィフィルは淡々と答えた。
「戦が始まる前には既に姿は確認出来ませんでした。どこかに避難しているのかもしれません」
「いやいや。あのお姫様は戦闘民族だぞ? 逃げはしないさ」
ハルハーンは何かに気付いたのか口の端を上げ、持っていた望遠鏡をスィフィルへ渡した。
怪訝そうな表情を浮かべるスィフィルに、ハルハーンは望遠鏡を覗くよう指示しながら話す。
「この戦、俺達に分が悪いな」
「と言いますと?」
「あのお姫様が味方に出来るのはエゲリアだけじゃない」
ハルハーンの言葉にスィフィルは顔を青くする。急いで望遠鏡を覗き込み、ハルハーンが見ていた方角に向けた。
「まさか……」
「そのまさかだよ」
スィフィルは、ハルハーンが笑みを浮かべているだろうと思った。
*
倒してもやって来るサビア兵を相手にし続ける。
ブレイブの息はもう上がっていた。人化で戦う限界が近付いているのを感じる。
「おい、後ろも注意しろよな!」
リアンの声が背後から聞こえると同時にガシャリと鈍い音を立てて崩れ落ちる音がした。
振り返ると、ブレイブの背中を狙っていたサビア兵をリアンが倒してくれた。
「その腕……!」
リアンに礼を言おうとした瞬間、彼の腕が真っ赤に染まっているのを見て、ブレイブは叫んだ。
慌てるブレイブをよそに、リアンは至って冷静だった。
「大丈夫、かすり傷だって。それよりもこの数は厳しすぎるぜ……」
「このままじゃ埒があかない」
その時だった。
ブレイブの耳に入ってきた馬の蹄の音。それも一頭だけではない。何頭、いや何十頭もの蹄の音が聞こえる。耳が良いシュトルツ族の兵達は皆気付いた様子だった。
シュトルツ族が気付いてから遅れて数分、エゲリアの兵士も何かが戦場に向かっているのに気付いたようだ。
ブレイブは馬の蹄を鳴り響かせる人物を見ると、にやりと笑った。そして、目を閉じ神経を集中させ、人化から獣化に姿を変える。
ゆっくりと姿を現したのは、白銀の獅子。美しい白い毛並みは輝きを放ち、風になびくたてがみは王者の威厳を漂わせた。
「シュトルツの戦士達よ! 我が妻サーラが大陸最強のフォルトゥス族を率いて我々と共に戦っている。異なる国の騎士、違う民族の戦士達がみなシュトルヴァ領を守るために命を懸けている! 俺達も故郷を守るために命を懸けるぞ!」
ブレイブの言葉にシュトルツ族達は雄叫びを上げながら、獣型へと姿を変えていく。
リアンは、オオタカに姿を変え、青空へと飛び上がる。
鳥のシュトルツ族を狙おうと、サビア軍は矢を射ようとした。一瞬の隙を狙い、地を走る獣達が次々にサビア軍に喰らいついていった。
望遠鏡を片目にあて、サビア軍とシュトルツ族、エゲリアの兵が戦っているのを静かに見やる。
「エゲリアとの連合軍で立ち向かう選択をするとは。数はややこちらの方が有利といったところか。しかし、エゲリアまで付いてくるとは少し意外だったな」
あの女帝が首を縦に振るなんて、とハルハーンは楽しげに笑った。予想外の展開になっている事を楽しんでいるように見える。
スィフィルが隣に立って集めた情報を報告した。
「エゲリアは、エゲリア軍としてではなく、女帝直属の軍とのことです。正確には帝都ユノ所属の軍ですね」
「成る程。国家として協力するのでは、あくまで都市同士の協力関係か。国として行動すると、一部の少数民族に肩入れをしているだとか、他の少数民族から助力を請われる事が増えるだろうからなぁ。まぁ、帝都として行動しても他の少数民族から助力を請われるだろうがな」
今後の事も考慮した上で利益があるとミネルヴァは読んだのだろう、とハルハーンは続けた。
「おや? フォルトゥス族のお姫様が居ないぞ」
ハルハーンは望遠鏡をあちらこちらに向ける。
スィフィルは淡々と答えた。
「戦が始まる前には既に姿は確認出来ませんでした。どこかに避難しているのかもしれません」
「いやいや。あのお姫様は戦闘民族だぞ? 逃げはしないさ」
ハルハーンは何かに気付いたのか口の端を上げ、持っていた望遠鏡をスィフィルへ渡した。
怪訝そうな表情を浮かべるスィフィルに、ハルハーンは望遠鏡を覗くよう指示しながら話す。
「この戦、俺達に分が悪いな」
「と言いますと?」
「あのお姫様が味方に出来るのはエゲリアだけじゃない」
ハルハーンの言葉にスィフィルは顔を青くする。急いで望遠鏡を覗き込み、ハルハーンが見ていた方角に向けた。
「まさか……」
「そのまさかだよ」
スィフィルは、ハルハーンが笑みを浮かべているだろうと思った。
*
倒してもやって来るサビア兵を相手にし続ける。
ブレイブの息はもう上がっていた。人化で戦う限界が近付いているのを感じる。
「おい、後ろも注意しろよな!」
リアンの声が背後から聞こえると同時にガシャリと鈍い音を立てて崩れ落ちる音がした。
振り返ると、ブレイブの背中を狙っていたサビア兵をリアンが倒してくれた。
「その腕……!」
リアンに礼を言おうとした瞬間、彼の腕が真っ赤に染まっているのを見て、ブレイブは叫んだ。
慌てるブレイブをよそに、リアンは至って冷静だった。
「大丈夫、かすり傷だって。それよりもこの数は厳しすぎるぜ……」
「このままじゃ埒があかない」
その時だった。
ブレイブの耳に入ってきた馬の蹄の音。それも一頭だけではない。何頭、いや何十頭もの蹄の音が聞こえる。耳が良いシュトルツ族の兵達は皆気付いた様子だった。
シュトルツ族が気付いてから遅れて数分、エゲリアの兵士も何かが戦場に向かっているのに気付いたようだ。
ブレイブは馬の蹄を鳴り響かせる人物を見ると、にやりと笑った。そして、目を閉じ神経を集中させ、人化から獣化に姿を変える。
ゆっくりと姿を現したのは、白銀の獅子。美しい白い毛並みは輝きを放ち、風になびくたてがみは王者の威厳を漂わせた。
「シュトルツの戦士達よ! 我が妻サーラが大陸最強のフォルトゥス族を率いて我々と共に戦っている。異なる国の騎士、違う民族の戦士達がみなシュトルヴァ領を守るために命を懸けている! 俺達も故郷を守るために命を懸けるぞ!」
ブレイブの言葉にシュトルツ族達は雄叫びを上げながら、獣型へと姿を変えていく。
リアンは、オオタカに姿を変え、青空へと飛び上がる。
鳥のシュトルツ族を狙おうと、サビア軍は矢を射ようとした。一瞬の隙を狙い、地を走る獣達が次々にサビア軍に喰らいついていった。
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