16 / 18
第二章
第6話
しおりを挟む
作戦当日。
ギルが調べた情報によると、密輸団は既に私を狙っているらしい。モント公爵邸の近くをうろうろする不審な人物が何人か護衛に発見されている。私とギルは、護衛に敢えて捕まえるなと指示を出した。作戦の成功率を上げるにも、ここは泳がせないと。それに、おびき出すにはちょうどいい状況だ。
私は外套も被らずに街に出た。見つけてくれと言わんばかりに、目立つよう動く。背後を見ると、屋敷を出てからずっと同じ人物が私の後をついてきている。
街の外れに向かい、立ち止まる。彼らは待っていましたと言わんばかりに、すぐ行動に移した。
私を羽交い絞めにし、布を顔に押し当ててくる。布には毒物の匂いはしなかったから、悲鳴を響かせにくくするためのものだろう。と、冷静に考えながら私は攫われるフリをする。演技するのも意外と難しいな。悲鳴が棒読みだと怪しまれるので、出来るだけ臨場感を演出するよう心掛けた。これが成功したら女優を目指すのもいいかも。
人数は男二人だけのようだった。近くには荷馬車が停まっている。貴族の女性を攫うにはこれだけの人数で充分だろうと思っての事だろうか。
男に押さえられながら、私はもう一人の男に麻袋に入れられる。そして、荷物のように馬車の荷台へと乗せられた。
私は麻袋の中でブーツに手を伸ばす。前世ではそうでもなかったが、バーバラの体はとても柔らかいので軟体動物みたいに動ける。ブーツに仕込んでいた小型のナイフを手に取ると、麻袋の一部を切り裂いた。外の景色が見えるようにする為だ。
女だからと舐められているのか手足の拘束はない。私としても非常にありがたい事だった。馬車の荷台から見る景色は、森を抜け、ある古い屋敷に向かっていた。さすがにどこの屋敷なのかは、麻袋の中からは判別出来なかったが、場所に関しては別部隊に任せるとしよう。
馬車が停まり、男が御者台から降りてきて私を担ぐ。
屋敷に入ると、大広間に向かい、一番奥の壁の前までやって来た。男が壁を押すと、ゆっくりとへこみ、扉のように動かせるようになっていた。隠し部屋に繋がる扉らしい。
男は何の躊躇もなく、扉になった壁を左に動かし、中へ入る。
中は石造りになっていて、流れる空気がとても冷たい。チュチュ、とネズミが慌てて逃げる声が聞こえてきた。
石造りの部屋の中には、古びた鉄格子の牢屋がある。男は空いている牢に私を麻袋ごと入れる。
「大人しくしていろよ」
男は麻袋の中の私に声を掛けると、部屋を出て行った。
耳を澄まし、誰も居なくなったことを確認すると、先ほど手に取ったナイフで麻袋を思い切り切り裂き、外に出る。
牢屋は人が一人分しかないので狭い。私は鉄格子の扉を掴むと、揺らしてみた。さすがに鍵はかかっているようだ。
服の中に仕込んでいたピッキングツールを取り出す。中から鍵穴に工具を入れ、鍵を開けた。
脱出して部屋を確認すると、私の入っていた隣の牢に一人の女性が入れられていた。彼女は怯えきっていて、私が近付くと震えだす。
「安心して、私は貴女の味方よ。バーバラっていうの、貴女は?」
出来るだけ優しい声を出すように心がける。彼女が安心できるように。
「わ、わたしはルース男爵の娘です。かどわかされてここに入れられています」
彼女が行方不明になっていた貴族令嬢だ。敵に居場所を吐かせる前に見つけられた事に安堵する。少しやつれているが、特に怪我もしていないし、命に問題はなさそうだ。
私は彼女の牢の鍵を開ける。手慣れた様子にルース男爵令嬢は不思議そうに聞いてきた。
「何故、そんな事が出来るのですか?」
「昔、色々と仕込まれたから」
私は苦笑しながら答えた。万が一、国王が失脚し命を狙われた時、他国に逃げ出せるよう護身術やサバイバル術をこっそり仕込まれたのだ。絶対、人前ではやるなよと念押しされたから披露する事は無かったけど。
父は冷たい人だったが、こうした技術を身につけてくれたのは感謝している。まさかこんな所で役立つとは思っていなかったから。
私は男が入ってきた扉に耳を当て、外の音を聞く。
誰もいないのを確認すると、内側から外へ力強く押した。壁はゆっくりと動き、来た時のように動かせる状態の扉へと変身する。私は右に動かすと、外へ出た。
後ろにいるルース男爵令嬢に外へ出るよう合図する。
彼女は数日ぶりの光に、眩しそうに目を細めながらゆっくりと出た。
自由になった私達は、大広間を調べていく。
「見たところ、裕福な商人か貴族が住んでいた屋敷のようね。もしかしたら、脱出経路を作っていたかも」
私が言うと、ルース男爵令嬢は顔を曇らせて答えた。
「ここは、スタンディ伯爵家が昔住んでいた屋敷です」
「どうして分かったの?」
ルース男爵令嬢は震える体を両腕で押さえながら言う。
「スタンディ伯爵令嬢とわたしは幼馴染なんです。昔、この屋敷に来た事があって……」
人攫い集団が拠点に使っているという事は、スタンディ伯爵家とダタライ密輸団に繋がりがある?
「じゃあ、黒幕がスタンディ伯爵で貴女を誘拐するよう指示したのも伯爵?」
ルース男爵令嬢は暗い顔で言う。
「詳しくは分かりませんけど、伯爵の娘の機嫌を損ねてしまったから誘拐されたのだと思います。伯爵は娘の言う事なら何でも聞くので、わたしの事が気に食わないベロニカが伯爵にどうにかして、と言ったのでしょう」
それでルース男爵令嬢を攫ったと考えると、私は呆れて言葉も出なかった。
ギルが調べた情報によると、密輸団は既に私を狙っているらしい。モント公爵邸の近くをうろうろする不審な人物が何人か護衛に発見されている。私とギルは、護衛に敢えて捕まえるなと指示を出した。作戦の成功率を上げるにも、ここは泳がせないと。それに、おびき出すにはちょうどいい状況だ。
私は外套も被らずに街に出た。見つけてくれと言わんばかりに、目立つよう動く。背後を見ると、屋敷を出てからずっと同じ人物が私の後をついてきている。
街の外れに向かい、立ち止まる。彼らは待っていましたと言わんばかりに、すぐ行動に移した。
私を羽交い絞めにし、布を顔に押し当ててくる。布には毒物の匂いはしなかったから、悲鳴を響かせにくくするためのものだろう。と、冷静に考えながら私は攫われるフリをする。演技するのも意外と難しいな。悲鳴が棒読みだと怪しまれるので、出来るだけ臨場感を演出するよう心掛けた。これが成功したら女優を目指すのもいいかも。
人数は男二人だけのようだった。近くには荷馬車が停まっている。貴族の女性を攫うにはこれだけの人数で充分だろうと思っての事だろうか。
男に押さえられながら、私はもう一人の男に麻袋に入れられる。そして、荷物のように馬車の荷台へと乗せられた。
私は麻袋の中でブーツに手を伸ばす。前世ではそうでもなかったが、バーバラの体はとても柔らかいので軟体動物みたいに動ける。ブーツに仕込んでいた小型のナイフを手に取ると、麻袋の一部を切り裂いた。外の景色が見えるようにする為だ。
女だからと舐められているのか手足の拘束はない。私としても非常にありがたい事だった。馬車の荷台から見る景色は、森を抜け、ある古い屋敷に向かっていた。さすがにどこの屋敷なのかは、麻袋の中からは判別出来なかったが、場所に関しては別部隊に任せるとしよう。
馬車が停まり、男が御者台から降りてきて私を担ぐ。
屋敷に入ると、大広間に向かい、一番奥の壁の前までやって来た。男が壁を押すと、ゆっくりとへこみ、扉のように動かせるようになっていた。隠し部屋に繋がる扉らしい。
男は何の躊躇もなく、扉になった壁を左に動かし、中へ入る。
中は石造りになっていて、流れる空気がとても冷たい。チュチュ、とネズミが慌てて逃げる声が聞こえてきた。
石造りの部屋の中には、古びた鉄格子の牢屋がある。男は空いている牢に私を麻袋ごと入れる。
「大人しくしていろよ」
男は麻袋の中の私に声を掛けると、部屋を出て行った。
耳を澄まし、誰も居なくなったことを確認すると、先ほど手に取ったナイフで麻袋を思い切り切り裂き、外に出る。
牢屋は人が一人分しかないので狭い。私は鉄格子の扉を掴むと、揺らしてみた。さすがに鍵はかかっているようだ。
服の中に仕込んでいたピッキングツールを取り出す。中から鍵穴に工具を入れ、鍵を開けた。
脱出して部屋を確認すると、私の入っていた隣の牢に一人の女性が入れられていた。彼女は怯えきっていて、私が近付くと震えだす。
「安心して、私は貴女の味方よ。バーバラっていうの、貴女は?」
出来るだけ優しい声を出すように心がける。彼女が安心できるように。
「わ、わたしはルース男爵の娘です。かどわかされてここに入れられています」
彼女が行方不明になっていた貴族令嬢だ。敵に居場所を吐かせる前に見つけられた事に安堵する。少しやつれているが、特に怪我もしていないし、命に問題はなさそうだ。
私は彼女の牢の鍵を開ける。手慣れた様子にルース男爵令嬢は不思議そうに聞いてきた。
「何故、そんな事が出来るのですか?」
「昔、色々と仕込まれたから」
私は苦笑しながら答えた。万が一、国王が失脚し命を狙われた時、他国に逃げ出せるよう護身術やサバイバル術をこっそり仕込まれたのだ。絶対、人前ではやるなよと念押しされたから披露する事は無かったけど。
父は冷たい人だったが、こうした技術を身につけてくれたのは感謝している。まさかこんな所で役立つとは思っていなかったから。
私は男が入ってきた扉に耳を当て、外の音を聞く。
誰もいないのを確認すると、内側から外へ力強く押した。壁はゆっくりと動き、来た時のように動かせる状態の扉へと変身する。私は右に動かすと、外へ出た。
後ろにいるルース男爵令嬢に外へ出るよう合図する。
彼女は数日ぶりの光に、眩しそうに目を細めながらゆっくりと出た。
自由になった私達は、大広間を調べていく。
「見たところ、裕福な商人か貴族が住んでいた屋敷のようね。もしかしたら、脱出経路を作っていたかも」
私が言うと、ルース男爵令嬢は顔を曇らせて答えた。
「ここは、スタンディ伯爵家が昔住んでいた屋敷です」
「どうして分かったの?」
ルース男爵令嬢は震える体を両腕で押さえながら言う。
「スタンディ伯爵令嬢とわたしは幼馴染なんです。昔、この屋敷に来た事があって……」
人攫い集団が拠点に使っているという事は、スタンディ伯爵家とダタライ密輸団に繋がりがある?
「じゃあ、黒幕がスタンディ伯爵で貴女を誘拐するよう指示したのも伯爵?」
ルース男爵令嬢は暗い顔で言う。
「詳しくは分かりませんけど、伯爵の娘の機嫌を損ねてしまったから誘拐されたのだと思います。伯爵は娘の言う事なら何でも聞くので、わたしの事が気に食わないベロニカが伯爵にどうにかして、と言ったのでしょう」
それでルース男爵令嬢を攫ったと考えると、私は呆れて言葉も出なかった。
20
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?
由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。
皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。
ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。
「誰が、お前を愛していないと言った」
守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。
これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。
氷の公爵の婚姻試験
潮海璃月
恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
「愛想がなく可愛くない」と捨てられた私、最強の竜騎士に拾われる。「その美しさに僕だけが狂わされたい」と、愛の重さでベッドから下ろしてくれない
唯崎りいち
恋愛
夜会の最中、王子に「愛想がなくて可愛くない」と婚約破棄された無表情令嬢。
だが彼女の美しさに一目惚れした隣国最強の竜騎士に連れ去られ、
「君はもう僕のものだ」
と毎晩愛の重さでベッドから下ろしてくれない生活が始まる——。
どうぞお好きになさってください
みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。
婚約者の第一王子殿下は言った。
「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」
公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。
「好きになさればよろしいわ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる