異世界スペースNo1(ランクB)

マッサン

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3 死闘 2

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 出撃したジン達三機は、荒野の向こうから迫る巨大な生き物の群れを見た。
「なんだありゃあ?」

 ジンの目には、二足歩行の恐竜に見える。
 恐竜図鑑で見た、ワニの先祖とやらによく似ている。だが頭にはキノコみたいな突起物があるし、背筋を伸ばせばケイオス・ウォリアーと同じぐらいの大きさがありそうだった。

「明らかにこっちへ向かっているな……」
 恐竜の進行方向はどうも母艦へ向いている。苦く呟くジンの肩でリリマナが言った。
「ギガントリザードの一種だと思うけど……あのサイズのモンスター、今の魔王が現れてから急に増えたの。群れで動くようになったし、人里への被害も増えたし、絶対魔王が悪さしてるよ。やっちゃおう! 強化もされたし、がんばれ!」
 発破をかけるリリマナの声に押され、ジンは現在のステータスを確認する。

Bカノンピルバグ
HP:5250/5250 EN:180/180 装甲:1470 運動:94 照準:151
格 アームドナックル 攻撃2600 射程P1―1
射 ロングキャノン  攻撃3100 射程2-6

「本当にちょっとずつ満遍なく強化しちまってるな……メチャ中途半端な数値になってるぞ」
 そう呟きながら、ジンは周囲の地形を確認した。
 Cパンゴリンは陸上戦艦なので、できるだけ広い場所を通るようにしている。だから進行方向には遮蔽物は少ない。しかしここらは山がちな地形で、左右には山裾や森も見えた。
「左手側の森が近いな。トカゲどもと乱戦になる前に陣形も組める。あそこで迎え撃つぞ」
 ジンの指示に『了解!』『ゲッゲー』『わかった』と、味方からの返事が届いた。

 迫るトカゲにジン機と母艦が森の中から砲撃を仕掛け、傷つきながらも目の前に迫った個体をダインスケン機が斬り裂き倒す。
『騎獣砲座、撃てーっ!』
 ヴァルキュリナの声からワンテンポ遅れ、高角度からの射撃がトカゲを撃ち抜いた。艦装甲表面を這いながら、ゴブオの騎獣が放ったのである。足場の無い装甲もカタツムリの腹足ならば移動は自在だ。
(チクショウ! 楽してーなー)
 座席にいるゴブオは内心不満たらたらだったが。

(ゴブオの奴も張り切ってるようだな……なんとなく旅は順調だ。これなら……)
 援護防護でナイナイ機を守り、そのダメージを修理してもらう。そして瀕死のトカゲに近接武器・アームドナックルでトドメをさした。
 戦闘はすこぶる順調だ。勝つために必要な事を着実に進めている、完全な勝ちパターン。
(……不安だぜ)
 次々と動かなかくなるモンスターを前に、ジンは嫌な予感しかしなかった。

 最後のトカゲが倒れる。こいつらもまた『資金』になるのだろう。
 だが艦からヴァルキュリナが叫んだ。
『接近する物を感知! 敵増援の可能性が高い!』

(ふん。やっぱりな)
 何もかもが順調な事など無いと思い込んでいたジンは、その連絡にむしろ安心する。
 戦闘MAPに敵影が映った。しかし……初めて見るアイコンだ。
「あれは?」
「不死型ケイオス・ウォリアーの量産機だよ……まちがいなく魔王軍!」
 リリマナの返事を聞き、ジンはスピリットコマンド【スカウト】を使うべく念じる。モニターに敵のステータスが表示された。

Bシックルスカル
HP:4000/4000 EN:170/170 装甲:1200 運動:95 照準:145
HP回復(小)
格 ダガーショット 攻撃2500 射程1―4
射 デスサイズ   攻撃2800 射程P1

HP回復(小):一定時間ごとにHPが最大値の10%回復する。

 外観はまんまガイコツ兵士。表示された能力に溜息をつくジン。
「量産機のくせに自動回復能力って……しかもアンデットモチーフでか」
「モチーフだけじゃないよ。動力になる魔力もアンデッド作成の魔術を応用してあるんだ。だから乗ってる奴らも……」
 リリマナがそう言うので、表示される操縦者の顔を見てみた。
なるほど――干からびたミイラが欠けた兜を被っている。不死の魔物という奴だ。
「さすがファンタジー。次々と化け物がでやがる。美少女は出し渋るくせによ……」
 
  転移前に楽しんだファンタジー物では、次々と美少女キャラが出ては主人公に惚れて、いろいろ楽しませてくれた物だが……
(三人チームで女は0.5人、一人追加でオスゴブリンときた。半裸コスの女はこの世界にいねぇのか)

 溜息をつくジンのほっぺたにリリマナが軽い肘打ちを入れる。
「ちょっとォ! 私、けっこうイケてるつもりだよ?」
「全くだ! とりあえず張り切りますか!」
 苦笑半分ヤケクソ半分、ジンは叫んで気持ちを切り替えた。

 とは言っても戦い方は変わらない。森の中で地の利を活かし、近づくガイコツ型の敵機を叩く。
「無暗に反撃するな! 半端なダメージをバラ撒くより、一個一個確実に潰していくぞ!」
 味方に指示を出して敵を撃ち抜くジン。
 先のトカゲと戦って気力が上がっている事もあり、また武器を強化改造していた事もあって、援護も加えた攻撃を撃ち込めばほぼ一発でスカルは撃破されていく。

(いけるぜ! 初見の敵機だが、まぁなんて事はねぇ)
 苦境を乗り越えかけ、内心ではようやく一安心するジンだった。
 だが……

『敵増援、さらに2機!』
 母艦からヴァルキュナの有り難くない報告が届く。
 正直、ジンは苛ついた。優勢とはいえ、敵増援がしぶとい不死型という事もあり、残弾はもう心許ない。
「おかわりいらねぇぞ! まぁ2機ならなんとでも……」
 補給しながら戦えば乗り切れるだろう。
 そう思ったジンだが、戦闘マップに現れた敵アイコンを見て一瞬言葉に詰まった。

「あいつ、この前の……!」
 ようやく漏れたのはその呻き声。
 敵の片方は間違いなく、最初の戦闘で姿を見せただけの白銀級機・Sフェザーコカトリスだったのだ。
 もう片方は初めて見るアイコンだが――ジンはそれに【スカウト】を飛ばす。

マスターオシュアリィ レベル10
Sネイルグール
HP:13000/13000 EN:200/200 装甲:1600 運動:100 照準:155
HP回復(中)
格 ポイズンネイル  攻撃3200 射程P1―1
射 ウィルオウィスプ 攻撃3500 射程2-6
格 ラストクロー   攻撃4200 射程P1―1

HP回復(中):一定時間ごとにHPが最大値の20%回復する。

 嫌な予感は的中した。
「白銀級が2機ぃ!?」
 死刑宣告を受けた気がして、ジンは眩暈がしそうだった。
(ざけんな! 敵の強化速度が速すぎんだろが! どうしろっつうんだよ!)
 内心毒づく横で、ダインスケンが最後のスカルを斬り倒す。
 それを見届けたか、新顔の敵機から通信が届いた。

『我ら魔王軍から逃げきれると思う方が愚かなのだ。貴様らの躯も機体の残骸も、ワシが食らってやろう』

 妙にしゃがれた、老いた男の声。ステータス画面に表示されるのは、フードを深く被った容姿不明の相手だった。僅かに見える顎から、肌は皺だらけの灰色で髭が生えている事はわかる。
 そしてこの敵が、自分達を見逃す気は無い事も。
 鎧を纏い牙を剥きだす角の無い鬼といった外観の敵機……その目は欄々と輝いているかのようだ。

『ジン、どうしよう?』
 ナイナイからの気弱な声。
「……とにかく下手に動くな。距離がまだある、修理はしておけ。後は……運を天に祈れ」
 指示を出しながら、ジン自身も幸運を祈っていた。敵の動き次第では――まだ目があると踏んでいたからだ。
(果たして、そう都合よく行きますやら……)
 そんな事は無いだろう、と半ば諦めてもいたが。

 そして、敵はジン達へ機体を進めて来た。
 Sネイルグールが真っすぐに、暗雲の下の荒野をのし歩いて。
 それを後方で見送るもう一機の白銀級、Sフェザーコカトリス。そちらは様子見しているのか、前進して来なかった。

(まさか!? これなら……やれるかもしれねぇ!)
 同時に襲いかかられたら対処のしようが無かっただろう。
 だが敵は個別に向かってくるようだった。
 慎重なのか、組織内に派閥でもあるのか。どちらにしろ、これこそがジンの願っていた唯一の希望だったのだ。

 無造作に迫るSネイルグール。
 その態度から、ジンはこちらを侮っている事も察した。
(俺は相手の能力をスピリットコマンドで覗いているが……逆に考えれば、相手はまだ俺達の能力を把握していないのかもしれねぇ)
 そう考えながら、敵のステータスをさらに詳しく調べるようとモニターを見る。

マスターオシュアリィ レベル10
格闘167 射撃167 技量191 防御143 回避85 命中107 SP70
ケイオス4 気力+(ATK) 気力+(DEF)

気力+(ATK):攻撃を命中させると気力が余分に上昇
気力+(DEF):被弾すると気力が余分に上昇

「……なるほど。俺らの誰よりも強いな」
 呟きながらもジンは頭の中で戦法を組み立てる。
 一方、ナイナイは格上の敵の余裕ある態度に怯えていた。
『ど、どうする? もうお互いの射程に入っちゃうよ?』
 だいたいの進め方を考え、ジンは仲間へ指示を出す。
「そうだな。まずは少し下がろうか」

 ジン達が森の中を縁沿いに移動したのを、敵――マスターオシュアリィも自機の戦闘MAPで把握していた。だが僅かな距離を移動して自分を待ち構えている所を見るに、逃げずに迎え撃つ気だと察する。
 Sネイルグールの射程外ギリギリに出て止まっている……近づけば一気に間合いを詰め、接近戦に持ち込む位置取りだ。
(ふん、間合いを調整したか。小賢しい……だが見誤ったようだな。このネイルグールは接近戦で強みを発揮するというのに)
 白銀級機を駆る魔王軍の親衛隊は、自分の強さに絶対の自信があった。

 だがジンはまさに敵機の強さを――そして弱点を探っていたのだ。

 Sネイルグールが一瞬立ち止まる。だが次の瞬間、地を蹴って一気に突っ込んできた! 森の縁に沿って迫り、あっという間に距離は無となる。ジン達は木立の隙間から、ほんの数メートル先に敵機を見た。
 巨大兵器にとって、それは文字通り手を伸ばせば届く距離である。

 ネイルグールの爪が異様に伸び、禍々しいオーラを纏う。
 ジンはその武器の威力を知っていた。操縦者の能力と合わせれば、一撃でこちらを撃破するであろう事も。

 スピリットコマンドであらかじめデータを見たが故に。

格 ラストクロー 攻撃4200 射程P1―1
気力105 消費EN20 条件:ケイオス2
特殊効果:装甲ダウンLV2

 そして、その武器に「気力が一定以上」という使用条件がある事も。

「リリマナ! 敵の気力を下げろ!」
「らじゃッ!」
 二人して念じ、そして発動させるスリピットコマンド・ウィークン。異界流ケイオスが丸い大きな口となって、対象――マスターオシュアリィを飲み込む。それは放った者のみに見える不可視のイリュージョンだ。

 だがマスターオシュアリィは、自分の力が奇妙な干渉で抜けていくのを感じ取った。それにより機体の爪に籠めた呪力が維持できなくなり、霧散してしまった事も。
 それが相手のスリピットコマンドである事を、高いケイオスレベルの持ち主であるが故に見抜く。
『むう? 本当に小賢しい。だがそれで勝てると思うは浅はかよ!』
 そう叫んで爪に新たな呪力を籠めた。爪から暗緑色のねばついた液が滲み出る。

格 ポイズンネイル 攻撃3200 射程P1―1
気力― 消費― 
特殊効果:運動性ダウンLV2

 この武器もまたジンは先に能力を見ていた。これを防ぐ術は無く、ただ耐えるしか無い事も。
 敵の動きを封じる毒爪と装甲を腐食させる必殺の爪。これらを敵が息絶えるまで、再生能力で相手の攻撃に耐えながら、交戦中に気力を上げていくスキルで己の攻防を高めながら、ひたすらに繰り出す。
 それが魔王軍親衛隊員マスターオシュアリィの得意手なのだと、その能力から見当をつけていた。

 その毒の爪がジンを襲う。森の中へ踏み込み、ネイルグールが鋭い突きを見舞った。それは狙い過たずジンの乗るピルバグを貫く!

 だが――ジンの機体は、傷口から火花を散らしつつもその一撃に耐えた。
 表示されるHPは1000少々残っている。

 先の戦闘で受けたダメージをできるだけ修理しておいた。
 森の木々が邪魔で、爪の速度が完全ではなかった。
【ウィークン】により低下した気力では完全な攻撃力が発揮できなかった。
 Bカノンピルバグは量産機にしては装甲が厚く、しかも僅かとはいえ強化改造してあった。
 それら全てが重なり、ジンの機体を生き残らせたのだ。

 注入される毒素が機体の伝達系を侵食し、運動性を低下させる。だがそれに構わずジンは叫んだ。
「やるぞ! トライシュートォ!」
 モニターに表示される合体攻撃とその性能!

射 トライシュート 攻撃5100 射程1―6 命中+25 CRT+20
気力110 消費EN40 条件:合体攻撃

 爪を突き刺したままの至近距離で、ジン機の砲撃がネイルグールを撃つ!
『小癪な、アっ!?』
 機体を踏ん張らせてマスターオシュアリィが叫んだ、その声が発せられた瞬間――発射された爪と光の輪が、ジンに撃たれて煙を上げている箇所へヒットする!
 その威力でネイルグールが吹っ飛び、森の外へ押し出された。

 モニターに表示されるダメージ……5000以上!

「畳みかけろ!」
 ジンは叫んだ。高HPと再生能力を併せ持つ相手には、一気に押し切らないと勝ち目が無い。
『ケケェー!』
 ダインスケンが叫ぶ。それが次の攻撃の合図だとジンにはわかった。
 Bクローリザードから爪が発射され、敵の白銀級機に刺さる。一秒と遅れず、光の輪と砲撃がほぼ同じ個所に炸裂した!
 しかし――

『小癪なぁ!』
 怒りの声とともに、ネイルグールの左手に青白い炎が生じた。それは火の玉となり、蛇行しながら高速で宙を飛んでいく。

射 ウィルオウィスプ 攻撃3500 射程1―6 命中補正+60 クリティカル補正+15

 この炎の玉は追尾能力を持ち、生半可な運動性では回避する事は不可能。再生能力で敵の攻撃を打ち消しながら、敵には着実にダメージを与える。これにより幾多の敵を葬って来たのがSネイルグールという機体であった。
 その玉がダインスケン機を狙う。木々の間を潜り抜け、森の中を焦がしながら、恐ろしいほど正確に!

 大トカゲ、不死系ケイオス・ウォリアー。それらとの戦いで既にダメージを受けていたBクローリザードが鬼火を受ければ撃破されていたかもしれない。
 だがそれが機体を捉える直前。
 クローリザードがぎりぎりの間合いで身を捻った。
 それさえも追尾しようと軌道を変える鬼火だったが、変えた軌道のさらに先で、鬼火を上回る速度で避けられる。
 もはや追い切れず、ついに鬼火は大木に誤爆し、その木を大きな松明に変えた。
 炎に照らされながら眼を光らせるリザード。操縦者・ダインスケンのスピリットコマンド【フレア】が、一瞬だけ敵の攻撃を完全に見切らせた。

 渾身の反撃がまさかの空振りに終わり、動揺から一瞬、ネイルグールの動きが止まる。
 直後、ジン達の通信機に叫び声が届いた。
『トライシュートぉ! 撃つよ!』
 ナイナイである。光の輪がグールの僅かな隙を捉え、着弾した。白銀級機が吹っ飛ぶ間もなく、動く間もなく。砲弾と射出された爪も。

『び、Bクラスが! たった三機で!?』
 Sネイルグールは火花を盛大にあげ、操縦者のマスターオシュアリィは驚愕の声をあげ、そして……爆炎があがった。
 装甲が砕け、部品が吹き飛ぶ!

「か、勝っちゃった……」
 茫然と呟くリリマナ。
「ああ。お前がいてくれたおかげでよ」
 疲労の濃い声でそう呟き、ジンは機体の状態をチェックする。

 HPは残り少ない。ENエネルギーは尽きかけている。SPももう使い果たしてスピリットコマンドには頼れない。武器の弾もきれかけている。
 そして仲間も同じような状態だ。全能力を費やした、ギリギリの勝利だった。

 だが、敵の白銀級機はもう一機いるのだ。

 ジンは森の中で、あえて身構え直した。大砲をこれ見よがしに担ぎ、戦意がだけはする。勝ち目が無い事は重々承知で、それでも弱みを見せまいとポーズだけはとったのだ。

 敵の白銀級機から通信が入る。
 若い男の精悍な声で。

『……そちらの勝ちだ。今日は退くとしよう。だが諦めたわけではない、それは覚えておけ』

 白銀級機・Sフェザーコカトリスが翼を広げ、空へ飛んだ。再びジン達の前から去ってゆく。

(こちらのコンディションを見抜けなかったのか? 或いは……わかってて見逃したのか。何か理由があって?)
 釈然としない物を感じながらも、ジンは大きな息を吐いて汗をぬぐった。
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