異世界スペースNo1(ランクB)

マッサン

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5 不穏 3

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 ジン達は疲弊しきって艦に戻った。戦闘時間が短いぶん、体の疲れは今までの戦いよりマシの筈だが――精神的にはそうではない。
 帰還ついでに貴光選隊きこうせんたいの機体も持ち帰った。格納庫に入るや、それを床へ置く。
 操縦者は脱出装置で逃げた筈なので、じきに戻って来るだろう。そう考えてジン達は自機をハンガーに立たせるとそこから降りた。

 ジン達が降りるとほとんど同時に、貴光選隊きこうせんたいは戻って来た。
 ジンの予想とは違う形ではあるが。
 回収班の一部が彼らを拾い、急ぎ戻ってきたのだ。
 貴光選隊きこうせんたいは全員が重傷を負い、担架で運ばれていた。

 ジンは側にクロカを見つけ、彼女に訊く。
「あいつら全員が大ケガしてんのか。運が無さ過ぎねぇか?」
 何が面白いのかニヤケ顔を見せるクロカ。
「運もあるし、相手が悪かったのもある。何より脱出訓練を真面目にやってなかったみたいだし」

 自分達の力を過信し、勝つ事を前提にしていたのだ。そのツケを今回身をもって払う事になったのである。

「でもまぁ、連中は生きてるんだろ?」
「ああ。安静にしてれば命に別状は無いよ」
 ジンの問いに、今度はさして面白くも無さそうに答えるクロカ。
 しかしそれはそれで、ジンには疑問が生じる。
「回復魔法や蘇生魔法でお手軽再生……とはいかんのか?」
 それに対する答えは簡潔だった。
「使った上での話だっての」

「ねぇジン! あの人達が無事だったなら、ヴァルキュリナの所へ行こうよォ!」
 リリマナがジンを急かす。
(無事と言っていいのかどうか知らんが……まぁそうするか)
 リリマナの言い分に異論は無い。ジン達には問いただしたい事があるのだから。


 ジン達がブリッジにおしかけると、中にいた兵士の一人が慌てて追い出そうとした。だがヴァルキュリナはその兵士を止める。
「いい。私に用があるのだろう」
 そう言って彼女はジン達の方へ向き直った。

 リリマナが声を上げる。
「ヴァルキュリナ、ジン達が魔王軍に造られたって本当なの!?」
「そのようだ」
 頷くヴァルキュリナ。リリマナが怒りに目を吊り上げる。
「書類を艦に持ち帰った時、そんな事言って無かったよね?」
 ヴァルキュリナの方は怒る事も狼狽える事も無く、真っすぐにリリマナを見る。
「私にもわからなかったからな。本国に内容を伝えて、ジン達の体の情報もあると教えられた」
 そんなヴァルキュリナの返答も態度も、リリマナを納得させない。
「なんでそれを教えてくれなかったの?」

 その問いには、ヴァルキュリナは黙った。
 僅かばかり苦しそうな表情は何かを考えているようではある。

 それを見てナイナイが訊いた。
「ねえ、もしかして……それを教えたら僕らが魔王軍に行っちゃうかもって、そう思ったの?」
 やはり黙ったままのヴァルキュリナ。
 彼女のそんな態度を見てジンが呟く。
「俺らを雇って戦わせる必要もあったしな。貴光選隊きこうせんたいが来るまでの繋ぎだとしても」
「そんな! だからあの人達が来たら、みんなの態度が変わっちゃったの!? 大切な事を言わないで、要らなくなったら粗末にして、そんな……」
 信じられない、と首をふるナイナイ。
 それでも、ヴァルキュリナは黙っていた。

 それを見て、ジンは改めて訊ねる。
「俺らをそう扱っても仕方ないほど、黄金級機にはそれほどの価値があるんだな? 教えてくれるか」
「それはね……」
 リリマナが言おうとするが、ジンはそれを止めた。
「すまん。ヴァルキュリナの口から聞きたい」
 観念したように溜息をつくヴァルキュリナ。
「わかった」

黄金級機ゴールドクラス……ランクGはこの世界に存在する最強の兵器だ。青銅級機ブロンズクラス白銀級機シルバークラス以上の差が、白銀級機シルバークラス黄金級機ゴールドクラスにはある」
 言いながらヴァルキュリナは近くに設置された水晶玉に触れた。宙に映像が投影される。
黄金級機ゴールドクラスには一機で戦局を変える力がある。どころか――その一機に直接滅ぼされた国も、この世界の歴史には沢山あるのだ」
 そう言いながら操作し、映像に何かの年表を表示する。
 年度とどこかの地名。それがずらずらと、数えるのにも苦労するほど。
 大多数は赤く。いくつか、少数だけが青い。
「ケイオス・ウォリアーが生まれてから、歴史に名を轟かせる大帝国には必ず黄金級機ゴールドクラスがあった。時の魔王軍を打ち破った勇者の機体だった事もある。逆に魔王自らが乗り、最強最大の敵となった事もある」
 その言葉でジンは察した。
 赤が滅ぼされた地。青が黄金級機ゴールドクラスを有していた勢力なのだろうと。

 黄金級機ゴールドクラスのケイオス・ウォリアー……その有無はこの世界の戦局を左右する存在なのだ。

「そもそも黄金級機ゴールドクラスこそがケイオス・ウォリアーの起源オリジンだからね。白銀も青銅も、ランクC……軍艦も、全部黄金級機ゴールドクラスの技術を簡易デッドコピー、それを流用した子供達だから」
 声はジン達の後ろからした。
 いっせいに振り返ったジン達は、いつのまにかクロカが来ていた事を知る。彼女はニンマリと笑った。
「シシシ……悪いね。勝手に口を挟んでさ」

(チッ……まぁいいだろ。説明の内容自体は誰が教えてくれてもいいんだからな)
 内心不満はあったが、ジンはクロカへ訊く事にした。
「ちと不思議なのは、設計図が無いと国の総力あげても造れないのかって点なんだが」
「造れないよ。黄金級機ゴールドクラスの設計図は羊皮紙の束じゃない。記憶を詰めた宝珠なのさ」
 そう言うとクロカはポケットからゴルフボールみたいな珠を取り出す。
 それは透き通った材質でできており、中には赤・青・黄の光が瞬いていた。
「これは遥かに低ランクの市販品だが、ま、こんな感じ。黄金級機ゴールドクラスの設計図は遥かに……というかこの世界最高に上等な物で、複製できないよう防御措置が込められているし、容量が大きすぎて、紙に書くだの、ましてや人の頭で覚えるだのは到底無理な話でさ。そんなわけで、この設計図の取り合いで国同士が戦争した例なんて大昔からゴロゴロしてる」

 だが説明されてもジンには疑問が残る。
「今の技術で黄金級機ゴールドクラスをゼロから造れないのかよ?」
 そもそも人がその手で造った物なら、過去の製品を再生産するしかできないのは不自然ではないか。
 だがクロカの返答は素っ気ない物だった。
「うん、無理」
一応、その一言では終わらず、補足説明はしてくれる。
「特殊な金属で造られた魔剣の伝説とか、聞いた事ない? つまり……」
黄金級機ゴールドクラスには特殊な素材が必要、と」
 超金属を入手して最強剣を作成してもらう。そんなクエストをRPGで何度かやった事をジンは思いだした。
 クロカは不気味な笑顔を浮かべながら大きく頷く。
「そしてそれが何なのか、黄金級機ゴールドクラスで共通しているわけでもない。いや、共通素材はあるけど個々に特殊な物も必要になるというか」

 二人の話を聞いていたリリマナが、じれったそうに口を挟む。
「そもそもそんな事より、造るのが難しい一番の問題って、『心臓』に神蒼玉ゴッドサファイアが必要だからでしょ?」

「特別な一品物でも必要なのか」
 ジンが訊くとクロカは頷く。
「まぁね。この世に七つしかない神々のアーティファクトを、恐れ多くもエンジンに組み込んでいるから。かつては神の武具を召喚するための宝玉で、天の代行者に選ばれし七人の勇者が預かっていた……という物だった筈だけど。ケイオス・ウォリアーがこの世界に造られてからはその部品になっちまった」

 なぜ黄金級機ゴールドクラスを自ら開発しようとしないのか。
 それはできないからである。

「じゃあ設計図だけあっても造るのは無理なんじゃない! それなのに僕らを騙して、酷いよ……」
 抗議の声をあげるナイナイ。後半は泣き声も混じっていた。
 流石にヴァルキュリナも沈んだ目を伏せる。
「すまない……」

 そんなヴァルキュリナを見つめるジン。
「マスターウインドは言ってたな。元の体に戻せるのは魔王軍だけで、他所では治せないと。その事はわかってたんじゃないのか?」
「……そうだ」
 ジンの問いにヴァルキュリナは答えた。目を伏せたまま。
「だから教えなかったんだよな。それなら魔王軍へ行こう、と俺達が考えるかもしれないからよ」
「……」
 今度はヴァルキュリナも黙ったままだ。目を伏せたまま。
「そんな、ずるいよ……」
 呻くナイナイ。それに頷くジン。
「ああ。ちと汚いやり方だ。ヴァルキュリナ、そんな祖国に何とも思わないのか?」
 そう言われ、ようやくヴァルキュリナは顔を上げる。
「上には上の考えがある。不満があるなら現場責任者の私に向けてもらいたい」
 その目には意思の光が確かにあった。

 だがジンはどこかおどけたような調子で肩を竦める。
「つってもな……上の指示だって今認めたようなもんじゃねぇか」
「あ……」
 目を見開くヴァルキュリナ。

 汚いやり方。ジンがそう言った時、批難はスイデン国に向けられていた。
 目の前のヴァルキュリナへ問うたのは、指示に従った態度についてである。
 ヴァルキュリナも国からの指示があった事を踏まえて返事をしてしまった。

 実際、本国からの指示だったのだから。
 Cパンゴリンが持っていた戦力が壊滅したこと。拾ったジン達が親衛隊の白銀級機シルバークラスを撃破したこと。
 そして、廃墟となった要塞で拾った物の情報。
 それらを本国に伝えたのはヴァルキュリナである。
 そして本国からの指示が「黄金級機とジン達の体の事は伏せ、貴光選隊きこうせんたいと合流するまで味方として使うこと」だったのだ。

 それをついうっかり、ジンに認めてしまった。

「俺らが目覚めた直後に『魔王軍に行きたければ行けばいい』と言っていたヴァルキュリナの方針と食い違うからな。ま、誰かの指図じゃねぇかとは思った」
 そう言ってニヤリと笑うジン。
「で、上さんは俺らをどうする気だ? 始末でもするのか?」
「そこまでは私がさせない!」
 勢いよく叫ぶヴァルキュリナ。
「じゃあいつまで使って、最後はどうする気だったんだ?」
「……貴光選隊きこうせんたいが合流したのは、この後の護衛としてだ。ジン達は次に立ち寄る、我々の基地で降ろせとの事だった」
 訊ねるジンに、ヴァルキュリナはもう隠そうとせず上からの指示を正直に伝える。

 ふむ、と呟くジン。
「そこまでのギャラは出るな?」
「ああ。私は……その後も頼みたかったけど」
 言い難そうに、だがはっきりと伝えるヴァルキュリナ。
 少し困って頭を掻くジン。
「ありがとよ。でも無理だろ。スイデンの軍も俺達も、それは互いに嫌だと思ってるからよ」
 言って仲間二人の方を見た。
 ナイナイは黙って頷き、ダインスケンはそれを見て少し遅れて頷く。

「そう……だな。今までありがとう」
 名残惜しそうに言いながらも、ヴァルキュリナは僅かに微笑み、頭を下げようとした。
 片手をあげて止めるジン。
「その言葉はまだ早いからよ。その基地とやらに着くまでの数日はきっちりやらせてもらう。いいな、ナイナイ」
 再確認するジンに、ナイナイは……やや不承不承ながらも頷いた。
「うん……わかった。そこまでは、お仕事だから」
「ゲッゲー」
 ダインスケンも鳴いた。
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