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7 新生 2

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 新たに旅が再開され、数日。
 Cガストニアは山間部や森の中など、わざと進む速度の遅いルートを通っていた。
 理由は単純、見つかり難さを優先していたからである。
 クルーにはどこかの基地で降りたがっている者も少なくないが、正式な手続きができてスイデン国外にある基地となると、近くには無かった。結局スイデン国へ直接向かうのが一番早く、それを言い聞かされ、不満を持つクルー達も表向きはきちんと働いていた。
 そういうわけで、艦の雰囲気は決して良くない。

 だがそんな事はお構いなしに、ジン達は特訓を続けていた。
 パンゴリンに有った物と全く同じ訓練室の、魔法によるシミュレーター。午前中はそれに座り、互いの連携をより高めるべく練習に励む。
 午後は格納庫に出向き、自機の各種点検や運転を行う。
 ロクな娯楽もない毎日だったが、ジン達に嫌気や倦怠感は見られなかった。

 もうじき、来る。そんな予感が三人にはあったからだ。

 そしてついに……ある日、午前訓練の途中で。
 艦内に警報が鳴り響いた。敵襲を意味する音が!

「おいでなすったか……」
 言ってジンは座席から立ち上がる。慌てた様子など全く無い。
「もう、このままこっちに気づかなければいいのにィ!」
「こんな大きい物が動いてるんだし、仕方ないよ」
 愚痴るリリマナを宥めるナイナイも同様だ。一波乱も無く安全な所にたどり着けるなど、始めから全く期待していなかった。

 三人が格納庫に走り込むと、クロカ達整備班がジン達の機体を調整していた。
 操縦席へ真っすぐ向かうジンに声をかける。
「模擬戦闘もしないで大丈夫か?」
「慣らし運転は何回かさせてもらったからよ。初陣を思えば恵まれたもんだ」
 ジンの目の前にある自機――それはもうランクBの量産機では無かった……!

 体を覆うアーマーが違う。白銀級機シルバークラスの鎧のような、今までとは一線を画す強度と輝きを誇る物に。肩当ては大きくなり、生体部品が露出していた腹部も装甲で守られている。
 左の手甲ガントレットには半透明の半球が三つ埋め込まれている。肩に背負っていた大砲は背中に回され、腰には鈍器が装備されていた。

 生まれ変わった機体の操縦席に飛び込むジン。
「じゃあブリッジは頼むぞクロカ。あのスキルもヴァルキュリナに渡しておいてくれ」
「はいはい、わかったよ……」
 不承不承、了解するクロカ。
 話しているとジンの肩にリリマナが飛んできて座った。ジンはシートベルトを締めるとハッチを閉じる。
「こちらジン、出るぞ!」
 クロカは機体から離れ、格納庫の扉が開き、小さな木々が目の前を流れていく。
 その中へジンのケイオス・ウォリアーは飛び降りた!

 木々を押しのけ、重々しく着地するジンの機体。すぐにナイナイ機もダインスケン機も飛び出してきた。
 三機が着地してからガストニアも足を止める。
 そこへヴァルキュリナの焦り声が、通信機ごしに響いた。
『敵は南北に展開している。挟まれたぞ!』

 ジンは戦闘MAPで確認した。
 十機程度ずつ……同じ数だけ、二つの部隊が自分達を挟んで展開しているのを。
 それぞれの後ろには隊長機であろう機影が1機ずついるのを。

 その隊長機の一つから『ガハハハ』と笑い声が届いた。
『愚かな連中だ。どうせ逃げるなら黄金級機ゴールドクラス設計図を差し出しておれば見逃してもらえたものを。その愚行が我ら二人、魔王軍親衛隊最強の戦士に息の根を止められる事に繋がったのだ』
 己の強さを全く疑わない声。モニターにはギリシャ兵のような兜を被った男が映った。
 半ば呆れてジンは訊き返す。
「最強なのに二人なのかよ」
『親衛隊には一人でその強さを誇る者も多いが、我らはタッグでの最強に君臨するのでな』
 誇らしげに相手は答え、もう片方からも『ギャオォン!』と獣のような声が届いた。こちらは虎の獣人がモニターに映る。

 自称最強タッグの部下達が進軍を開始した。
 巨人と猛獣のBクラス機混成部隊が、南北から同時に襲い掛かってくるのだ。
『ジン! いっせいに来るよ!』
「チッ、固まって迎え撃つぞ!」
 ナイナイにそう指示を返し、ジンはいつも通り、艦を中心とした援護陣形を組む。

 それを見て再び『ガハハハ』と笑う北側の隊長機。
『このマスタークレバーの冷静なコンビネーションをそれで凌げるかな?』
「お前らはバラバラに後ろで見てるだけじゃねぇか」
 少し苛つきながら指摘するジン。だが北側の隊長――マスタークレバーは自信をもって言う。

『まだわからんか。挟み撃ちして壁を作る事を許さず、露出した弱い所を一早く叩く! 低HPの機体から順に次々と討ち取られる恐怖……降伏をするなら早い方が良いと忠告しておいてやろう!』

 昔プレイしたゲームを思い出し、ピンと来るジン。
「ああ……脆い奴をまず狙うルーチンで動くのな……」

 そしてマスタークレバーの言った通り、巨人型機の矢も猛獣型機の投げ短剣も、次々とナイナイの機体に向けられた!
『わわっ、なんか僕が狙われてる!?』
 慌てふためき、回避に、防御に徹するナイナイ。
 そこに割り込んでナイナイ機を庇いながら、ジンは味方に指示を飛ばす。
「今から陣形を組みなおしてくれ!」

 少し離れて北の山裾に機体を立たせる立つマスタークレバー。
 彼は操縦席のモニタで、ジン達が東側へ移動するのを確認していた。
 もちろん魔王軍もそれを追う。極力、北側と南側から挟み込むようなルートを選んで。
 それに対し、ジン達は北西に一機、南西に一機を置いて迎え撃つようだ。
(ほう……壁二枚で南北両側の部隊を止める気か。だが北側の、あのカノンピルバグは一機で持ちこたえられるかな?)
 南側には残りの二機も向かい、援護しながら戦う気が見える。
 だが北側は単騎しかいない。

 ジン達がチーム単位での戦いを重視すると聞いていたので、マスタークレバーは何かあるのではと疑いを持った。
 だが既に両軍はぶつかり始めている。
「脆い奴から狙え」と配下の兵達には指示を出したものの、攻撃範囲内にいるのが一機だけなら、当然、兵達はその一機へ襲い掛かる。

 北側の一機を、兵達の集中砲火が襲った。
 しかし――!
『おお! 一機でビクともせんとは!?』
 兜の下の目を見開くマスタークレバー!

 飛んで来る矢と短剣の雨がジン機に装甲に次々と突き刺さる。
 だがそれらはことごとく折れ、地面に落ちるのみだ。装甲に傷が入らないわけではないが、それはジン機を打ち倒す事はできない。
 モニターの戦闘ウインドに映るダメージ表記は――200から300程度。
 ジンが習得したスピリットコマンド【プロテクション】の威力により、短時間とはいえその乗機は鉄壁の堅さを誇るのだ!

ジン=ライガ レベル17
格闘177 射撃172 技量199 防御154 回避99 命中114 SP94
ケイオス3 底力7 援護攻撃1 援護防御1 H&A
スピリットコマンド【スカウト】【ウィークン】【ヒット】【プロテクション】
妖精

リリマナ レベル17 SP68 スピリットコマンド【サーチ】【ガッツ】【ウィークン】

 射撃武器の雨霰あめあられの中、ジン機は敵へ反撃を撃ち続ける。それらことごとく敵を捉えた。
 左上の三連半球からは細い光線が放たれ、敵を撃ち抜く。一撃ごとに3000を超えるダメージがモニタに表示され、敵機は装甲に穴が開き煙を吹いた。
(新武装、良燃費のビーム砲な。そして元々の大砲は……)
 ジンは敵との間合いに応じて、強化されたキャノン砲を撃ち込む。背中にマウントされている砲身は、ジョイント部の回転・稼働により、一瞬で肩へと担がれる。そこから発射された弾が当たると――爆炎とともに敵機が大きく仰け反り、装甲が弾け飛ぶ! 表示されるダメージは4000に達し、猛獣型機のBダガーハウンドにはそれだけで倒れ、動かなくなる機体もあった。
(よし、期待以上だ。ENエネルギー消費型武器と弾数式武器を両方使える事で、継戦能力は前と比べものにならねぇ)

ジン レベル17
BCカノンピルバグ
HP:3492/6250 EN:160/210 装甲:1810 運動:107 照準:163
射 ハンドビーム  攻撃3300 射程1-5
射 ロングキャノン 攻撃3800 射程2-7
格 ハードメイス  攻撃4300 射程P1

 BC青銅級カスタムとなった、ジンの乗機。もはや量産型ではない、戦場で生まれた実戦機である。
 その新たな力の前に、量産型兵機の軍は半壊しかけていた。三割ほどは撃墜され、残る機体も後一撃に耐えられない重傷である。
 それでも果敢に斬りかかってきた巨人型機を巨大なメイスで殴り倒し、噴き上がる煙を尻目に、ジンは後の三機に任せていた南側の状況をモニターで確認した。

 そこにも深く傷ついて、よろめき、或いは膝をつく人造の巨人達があった。何機かは無残にも深々と切り裂かれ、地面に横たわったままもはや動けない。
 傷ついた魔王軍を前に、前傾姿勢で「ケケェーッ!」と雄叫びをあげるダインスケン機。

 その機体もまたジン機同様、新たに強化されて輝く鎧状の装甲を纏っている。
 両腕の爪からは敵機の循環液が、まるで血のように滴っていた。
 両の手甲ガントレットからは魚のヒレを思わせる、鋭利な刃が伸びている。それはまるで脈打つかのように蠢いていた――あくまで斬撃を効果的に放つための稼働機能である筈なのに。

(よし! 南側も堪えたな。まぁ分の良い賭けではあったからよ)
 ジンにとって、南側の惨状も予想していた物だった。

ダインスケン レベル17
BCクローリザード
HP:4393/5750 EN:180/210 装甲:1610 運動:132 照準:163
射 スケイルシュリケン 攻撃3300 射程P1―4
格 ブレードクロー   攻撃3800 射程P1―2
格 スラッシュレザー  攻撃4300 射程P1―1

ダインスケン
レベル17
格闘179 射撃165 技量194 防御144 回避119 命中114 SP94
ケイオス3 底力6 援護攻撃1 援護防御1
スピリットコマンド【ヒット】【フレア】【アクセル】

 ダインスケンの回避力と、強化改造されたクローリザードの運動性。それらを元に被弾率を予測計算させると、雑兵程度の攻撃では一桁%±武器の命中補正……と出ていたのである。
 無論、ゼロではない。また敵も素早い相手には命中補正の高い武器を使いたがるだろう。そして短い時間に何度も狙われると逃げ場を失ってしまい、回避率は落ちて行くものだ。
 そこでジンはクローリザードに母艦を同行させ、指揮技能で回避をサポートしながら援護防御してカバーするよう頼んだのである。
 まぐれ当たりの被弾からは母艦に守ってもらい、ダインスケンは敵の攻撃を避けて反撃を繰り返した。その後に広がるのは切り刻まれた敵の群れ……。

 そしてジンは叫ぶ。
「ダインスケン、ヴァルキュリナ! こっちへ攻撃だ!」
 言いながらジンは傷ついた敵機をロングキャノンで撃ち抜いた。
『ゲッゲー!』
 ダインスケンも素早く北へ走り、傷ついて動きの鈍い敵機を切り刻む。
 そこへ戦艦Cガストニアも続いた。ヴァルキュリナが叫ぶ。
『騎獣砲、てーッ!』
『へいへい! やりゃいいんスね!』
 背中の甲板上を這うカタツムリから、半分ヤケクソで応えるゴブオ。少し離れた所でよろめいていた瀕死の敵機へ砲撃を撃ち込んでトドメをさす。
 攻撃力はガストニアの武装で最低ながら、独立した銃座という利点を活かし、移動の最中に離れた敵を狙える――武器としての有用性は決して低くは無い。
 結果的にゴブオは戦闘に駆り出され続けるのだ。

 弱り切っていた北側の敵軍を壊滅させたジン達。
 だが南側は?
「ナイナイ! ぶっ放せ!」
 ジンの指示にナイナイが応える。
『うん! デストロイウェーブ、撃つよ!』
 味方がいなくなり、目の前が開けた時、ナイナイは既にMAP兵器を撃つ準備を済ませていた。

ナイナイ レベル18
BCバイブグンザリ
HP:3744/5250 EN:190/210 装甲:1510 運動:122 照準:163
格 アームドナックル  攻撃3300 射程P1-2
射 ソイックショット  攻撃3300 射程1-5
射 デストロイウェーブ(MAP) 攻撃4300 射程1-5

ナイナイ=テインテイン レベル18
格闘167 射撃179 技量196 防御141 回避116 命中121 SP96
ケイオス3 底力5 援護攻撃1 援護防御1
スピリットコマンド【フォーチュン】【トラスト】【コンセントレーション】【フレア】

 他の二機同様、強化された鎧に身を包む魚人のごときケイオス・ウォリアー。その長い魚頭の左右に湾曲したアンテナが展開する。以前は三対……だが今は四対だ。
 それが輝き、アンテナ間にエネルギーの膜を張った。力場の傘から噴射する魔力が、大地を、空気を、その範囲内にいる物を高周波振動で分解する!
 魔力の輝きの中で崩れ、爆発を起こす魔王軍の量産機達。範囲内にいた機体は全滅――1機たりとて耐える事はできなかった。

「もう雑兵は残ってないからよ。そろそろお前らが戦う準備をしといた方がいい」
 僅かに残った残敵にカノン砲を撃ち込み、撃破しながら、ジンは南北の隊長機にそう告げる。
『むう……どうやらそのようだな。いいだろう、白銀級機シルバークラスの真の恐ろしさを地獄の土産話にするがいい』
 北側――マスタークレバーはそう言うと機体を南下させた。

 ジンはその機体――剣闘士のごとき井出達いでたちに、宝石のごとく輝く兜の巨人へスピリットコマンド【スカウト】を放つ。

マスタークレバー レベル20
Sダイヤハーキュリー
HP:15000/15000 EN:200/200 装甲:2000 運動:100 照準:155
格 ハンマーパンチ   攻撃3200 射程P1
射 レイビーム 攻撃3600 射程2―6
格 ブレイザーサイト  攻撃4200 射程2―7

マスタークレバー
レベル20
格闘186 射撃191 技量208 防御165 回避106 命中130 SP90
ケイオス4 ガード3 フルカウンター
※ガード3LV:気力130以上で被ダメージ15%減少
※フルカウンター:敵の攻撃時、先に自分の反撃を行う

(硬さで耐えて遠距離から撃ち続ける、いわば砲台型!)
 敵の特性をそう判断したジン。
 同時に南側から迫る、虎獣人のごとき機体。ジンはそちらへも【スカウト】を放った。

マスターマッド レベル20
Sカタールスミロドン
HP:14000/14000 EN:200/200 装甲:1500 運動:110 照準:155
射 ニードルショット 攻撃3200 射程P1―4
格 ツインカタール  攻撃3600 射程P1―2
格 ブレードストーム 攻撃4300 射程P1―2

マスターマッド
レベル20
格闘191 射撃186 技量208 防御165 回避106 命中130 SP90
ケイオス4 アタッカー フルカウンター
※アタッカー:気力130以上で与ダメージ20%上昇

(切り込んできて火力でねじ伏せる特攻型!)
 敵の能力から戦力を推し測るジンに、通信機からマスタークレバーの自信に満ちた声が届く。
『貴様らはスピリットコマンドでのデバフを得意とするらしいが、我らは二機! 片方にリソースをさけばもう片方に太刀打ちできん! 終わりだ!』

 南北から同時に迫る強敵。
 白銀級機シルバークラス単体ならば何度も倒した。だが二機同時を相手に、どうするのか……?
 ジンのとった行動は――

 全機、北上する事だった。

 操縦席で「フン」と鼻をならすマスタークレバー。
(やはりこちらに移動してきたか……遠距離攻撃を得意とする私との間合いを詰めるために。だがそうしている間にも、Sカタールスミロドンは貴様らを背後から切り刻む!)

 だがしかし。
 その背後から追いかけるカタールスミロドンへ、ジン達三機がいっせいに振り向く。
 そして――
『トライシュートォ!』
 ナイナイの掛け声で、三機同時射撃の合体技が放たれた。

 見事に命中し、三発の弾丸がスミロドンを撃ち抜く! 『ギャオォン!』と悲鳴をあげて吹き飛ぶ 白銀級機シルバークラス
『むう!?』
 驚愕するマスタークレバー。
 モニターに表示されたダメージは5600以上……その威力は明らかに、親衛隊達が知る過去のデータを超えていた!

射撃 トライシュート 攻撃5300 射程1―6 気力110 消費40

 そう……出力そのものの上昇により、合体技の威力もまた上がっていたのである。

 攻撃を仕掛けるのはジン達だけでは無かった。
 戦艦Cガストニアのブリッジでヴァルキュリナが叫ぶ。
『ファイヤーブレス! てーッ!』
 竜の吐き出す息ドラゴンブレスが炎の奔流となり、スミロドンを焼いた。4000を超えるダメージがブリッジのモニターに映される。

 親衛隊マスターマッドは回避を得意とする操縦者であり、Sカタールスミロドンは運動性に優れる機体である。
 だが命中率・回避率を30%上昇させるスピリットコマンド【コンセントレーション】をナイナイは習得しており、Cガストニアのブリッジには攻撃を必中にする【ヒット】を習得しているクロカがいた。
(よ、よし! なんとか当てるほう補正できたぞ……)
 ブリッジクルーに予測した敵の回避軌道を伝えたクロカは、仕事が果たせて薄い胸を撫でおろしていた。

「そして……トドメだ。トライシュートッ!」
 ジンの掛け声で再び放たれる合体技。ジン自身の【ヒット】により敵を的確に捉えたその攻撃は、再び5600以上のダメージを叩きだした。スミロドンから『ギャオォン!』と悲鳴があがる。

 スミロドンは爆発した。
 一瞬だけ立ったまま動こうとし、叶わずに……。

『マスターマッド!?』
 驚愕するマスタークレバー。
 だがジンにとっては驚く程の結果ではない。
(奴は攻撃が強力でも防御スキルは無かった。カウンターを得意としていても肝心の射程が短い。間合いと位置取りさえ注意すれば、気力を下げずとも倒せる)
 ジンは機体を振り向かせた。残る最後の敵機、Sダイヤハーキュリーへと。
(残るはお前だ)

『おのれ……ならば私にはどうするのか見せてもらおうか!』
 ダイヤハーキュリーの、その名の通り宝石のごとき輝きを放つ兜。その下の両眼から光線が放たれた! 発射直後に太く膨れ上がったその光線は、ケイオス・ウォリアーの上半身を丸ごと呑み込むほどの膨大なエネルギーの奔流となる!
 必殺のその光線が、ナイナイ機を焼き払おうとした。

 だがそこに割り込むジンのBCカノンピルバグ!
 光の束の中、火花が無数に飛び散り、機体が高熱にあぶられる。
 しかし――光線が通り過ぎた後、カノンピルバグは上体から煙をあげながらも立っていた。両腕を交差させた、防御に徹した姿勢で。
「ふう、冷や汗かいたァ!」
「ま、ガードに入るのは俺の仕事の定番だからよ」
 操縦席で軽口を叩きあうリリマナとジン。

 操縦席で歯がみするマスタークレバー。
(奴め、既にかなりのダメージを受けているのに! 防御したとはいえSダイヤハーキュリー最大の武器に耐えるとは……。装甲の厚さもあるが――奴自身の底力も侮れん)
 ケイオス・ウォリアーは操縦者の持つエネルギーに大きな影響を受ける。損傷により追い込まれつつあるが――いや、だからこそ――BCカノンピルバグの装甲は、今のジンの闘争心と戦意を受けて数値以上の防御力を発揮しているのだ。
 自身も高いケイオスレベルの持ち主ゆえに、マスタークレバーはそれを察した。

「でも流石にヤバいよ、ジン!」
 モニターを見て声を上げるリリマナ。
 表示されている現在HPはもう1000少々しかない。
「ああ……だが俺なりに考えてある。ヴァルキュリナ! 回復アイテムを!」
 ジンが叫ぶ。後半は通信機へ、母艦に向かって。
『わかった! リペアータンク、使用!』
 ヴァルキュリナが指示を飛ばす声が聞こえた。
 すぐに艦から小さな飛行物体が射出される。それは人間サイズの甲虫――金属板で造られた人造物だが――だった。

 甲虫はジン機にとりつき、腹部を開く。中には緑色に輝く透き通った球体が収納されており、それがジン機の腰部にあるアイテム収納部へ入れられた。
 すぐにジン機の全身を淡い緑の輝きが包む。瞬く間に塞がっていく装甲の損傷。
 操縦席のモニタでは、HP表示が完全回復を示していた。

 球体が回復・修復魔法を応用して造られた、応急修理用のアイテム【リペアータンク】。
 それを運んだのは小型ゴーレムの一種「サプライトル」。短距離の運搬しかできないが、飛行能力と制作コストの安さ故に戦闘中のアイテム受け渡し用の装備として使われている。
 このゴーレムを操作・運用するスキルが、この世界の戦場では【パーツ供給】という名で知られていた。ジンはそれをヴァルキュリナに習得するよう、クロカを通して頼んでいたのである。

 ジン自身はSP回復アイテム【ミッドナイトポーション】を一気飲み。【プロテクション】や【ヒット】のために消費したSPを取り戻していた。
 そして叫ぶ。
「そして【ウィークン】は……こっちにだ! リリマナ!」
「おっけー!」
 二人からスピリットコマンドが放たれ、不可視の大口がSダイヤハーキュリーを包んだ。
『クッ……私の【ガード3】を抑える気か!』
 奪われてゆく気力を感じて呻くマスタークレバー。
 だがそんな言葉には応えず機体を操作するジン。
 機体が装備していたアイテム【リカバータンク】からエネルギーが流れ込み、機体のENが回復していく。

 機体に装備できる容量には限界がある。
 ジンはそれを打開するため、ヴァルキュリナに新たなスキルを任せ、母艦の運搬車としての性能を高めてもらったのだ。

 さらに指示を出すジン。
「クロカ! 【アナライズ】だ!」
『え? あ? お、おう!』
 慌てながらもクロカは己のスピリットコマンドを放ち、同時にブリッジのモニターを一つ操作する。
 そこで得たデータを急いでジン達三機へと送信した。

 送られたデータは――敵機の分析データ。機体の最も脆い部分を見抜き、指示した物である。
「見えたぜ! 雨だれが穿つべき岩の一点!」
 そして放つ合体技、トライシュート!
 ダイヤハーキュリーの胸部装甲の継ぎ目にその三発が突き刺さる。モニターには5800を超えるダメージが表示された。
 大ダメージを受けて怯む巨人型機。

 それに向けて、ジンは機体を走らせた。【ヒット&アサルト】のスキルを活かし、射撃直後にバランスを取り戻させて。
 その横にはナイナイ機が、そしてダインスケン機もついてきている!

『ケケェー!!』
 ダインスケンが吠えた。
 それが新たなる合体技の掛け声だと、ジンとナイナイは一瞬で理解した。
 戦闘画面に新コンビネーションが武器として表示される!

格闘 トリプルウェーブ 攻撃5800 射程P1―3 気力120 消費40

 ジンのBCカノンピルバグがメイスを槍のように構え、肩から渾身の体当たりを叩きこんだ! 後方へ大きく仰け反る敵機。
 間髪いれずナイナイのBCバイブグンザリが飛び込む! ジン機の横を駆け抜け、ナックルガードで守られた正拳を敵機へ打ち込んだ。
 二連打で敵機の装甲に亀裂が走る。そこめがけて跳び込むダインスケンのBCクローリザード! 手甲ガントレットから生えた刃を用い、鋭利な手刀で敵機を深々と切り裂いた。

 流れるような三連撃。途切れる事なく放たれる攻撃の波は、6900を超えるダメージをモニターに表示させた。

『ま、まだ……倒れたわけでは、ない……』
「お前はここで止まれ!」
 呻くマスタークレバーに怒鳴るジン。

 そして重傷のSダイヤハーキュリーへ、戦艦Cガストニアが駆ける。
『ドラゴンタックル! 突撃!』
 地響きを立てて走る巨竜。その足が浮き、浮遊魔法を使ったホバリング能力で短時間・短距離だけ宙を滑る。頑丈な装甲版に覆われた背中、そこに列をなす剣呑な刃。ガストニアは巨大な凶器となって敵機へ飛んだ!

 それが激突し、ダイヤハーキュリーは砕けた破片をまき散らしながら宙に舞った。
『グ、ガハァッ!!』
 断末魔をあげ、大きく吹っ飛び、敵機は大地に叩きつけられる。
 爆発が起こり、四肢がバラバラに飛んで行った。

 もしガストニアが修理機能や補給機能を使っていたら、このタイミングでは攻撃できなかっただろう。
 修理用のアームや補給用の燃料パイプを外にいる機体へ接続しての作業には、どうしても多少の時間はかかる。
 修理や補給の機能は使うが、ここぞという時に速攻をかける――そのために、ジンはヴァルキュリナへ新たなスキルの習得を依頼しておいたのだ。

 マスタークレバーは脱出していた。
 だが重傷をおっており、大地に伏している。
 簡易の通信機は持っているらしく、ジンにその声が届いた。
白銀級機シルバークラス二機には……勝てぬはずではなかったのか……』
「そりゃ昨日までの話だからよ」
 ジンの返事は聞こえただろうか。
 敵からの応答は無かった。
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