19 / 37
7 新生 1
しおりを挟む
朝。
ジンが目を覚ますと、驚いて自分を見つめているヴァルキュリナと目が合った。
「おはようさん」
「あ……おはよう」
そう応えたものの、ヴァルキュリナは戸惑って辺りを見渡す。
ここはジン達があてがわれた部屋。
左右の壁に二段ベッドが設置され、片方の上段には毛布に包まれたゴブオ、その下段に目を開けたまま鼻提灯を膨らましているダインスケイン。
反対側のベッドの上段にすやすやと寝息を立てるナイナイ。その下段に下着だけで布団を被って寝ていたのがヴァルキュリナだ。
「なぁ、ジン。その……なぜ貴方が床で?」
ジンは毛布にくるまり、床に転がっていた。胸元にはリリマナが潜り込み、毛布とジンの服に包まれるようにして眠っている。
「俺のベッドにあんたが寝てたからだが。まぁ仲良く寝てろとは言ったが、俺の考えた意味とはちょっとだけ違ったな……」
「ゲッゲー」
いつの間に起きていたのか、ダインスケンが鼻提灯を引っ込め首をジンの方に回して応える。
部屋に戻った時、皆をベッドに押し込んで消灯したのがダインスケンである。
ジンの言った通り、皆で仲良く寝るためだ。
素直な事は薄汚れた文明人の中で貴重な美徳なのだ。
朝食を終えてから、クルーの大半がブリッジに集まる。
彼らを前にヴァルキュリナが呼びかけた。
「皆、集まったようだな。これより今後のため会議を始める。まず目的だが、この艦は首都を目指す。そこで王宮に黄金級機設計図を納める」
改めて宣言するヴァルキュリナ。
しかしわかりきっていた筈のその言葉に、動揺ゆえのざわめきが少なからず起こった。
それにジンは違和感を覚えたが、ヴァルキュリナは言葉を続ける。
「もちろん、魔王軍は追撃をやめないだろう。基地が消滅して設計図が失われたと思い込んでくれれば別だが……そうでない事を我々は想定しなくてはならない。そのための戦力強化についてジンから提案があるとの事だ」
そこで手をあげ、発言するクルーがいた。
まだ若い青年乗員が、やや遠慮がちながらも言う。
「あの、強化もいいんですが……クルーには成り行きで仕方なく乗艦している者も少なくありません。軍の正式な許可も貰わないで重要な任務につくというのも、ちょっと」
その隣にいた女性乗員が訴える。
「最寄りの基地へ行きませんか? 人員を正当な手続きで決めてもらった方がいいと思います。ケイオス・ウォリアーに乗れるのも、そこの雇われ部外者しかいませんし……」
無論ジン達の事だ。
新鋭艦を入手できた所までは運が良かったのだが、ケイオス・ウォリアーに乗れる兵士は不運な事に他にはいないのである。
戦える者は基地を守るために出撃し、基地と運命を共にしてしまったのだ。
彼らの意見を聞きはしたが、ヴァルキュリナは言った。
「その意見は参考にさせてもらう。だがどこへ向かうにしても敵と遭遇する可能性はある。だから戦闘の準備は必要だ」
「そんな! 正規の騎士が一人もいないままなんて無茶です!」
クルーの一人が腹を立てて抗議する。
フン、とジンは鼻を鳴らした。
「ああ、無茶だ。だが泣きをいれれば敵は来ないでいてくれるのか。そんな弱い甘えは捨てて埋めろ」
その言葉に別のクルーが反感を剥き出しにする。
「どうして正規の軍人でもないあんたがそんな口を利くんだ!」
それに対し、ジンは――
「なら部屋に引き籠ってろ。次に文句を抜かした奴は顎を割って黙らせる。いいな、ヴァルキュリナ」
そう言って、異形の右拳を腰溜めに握りしめた。
ギリギリ……とでも形容すべき、革を締め付けるかのような音が低く響く。
その険しい目は、昨日までのジンとは明らかに違った。断固とした口調に相応しい、煮えた激情が奥底に流れる固い意志が窺える物だ。
「わかった」
静まり返ったブリッジにヴァルキュリナの声が通る。
その言葉が無くとも、決意の差を越えて盾突く度胸があるクルーなど一人もいなかったが。
ジンは説明を始めた。
「予定では白銀級機のSランスナイトを修理して使う事にしていたらしいが、あれは俺達の三機を強化する資材にしてもらう」
「貴光選隊の隊長機を!? 量産機の部品にするなんて……」
思わず叫ぶ兵士が一人。彼にとってはあり得ない事だったのだろう、先ほどのジンの警告があったにも関わらず、その言葉が出てしまった……言ってから慌てて手で口を塞いだが。
そこへクロカが口を挟む。
「するんだってさ。わざわざ夜中にそれを言いに来るなんてなー」
肩を竦め、視線をジンへと向けた。
「言っておくけど、Sランスナイトのパワーが33%ずつ貰えるなんて思うなよ? 効率的にはもっと落ちるからな?」
しかし言われたジンは断固とした口調で返す。
「だが一機だけ突出させても俺達には合わないからな。現状、俺達が使うという前提ありきで、それに最も合った形にしてもらいたいからよ。ついでに今まで倒した敵白銀級機のパーツも、流用できる物が残っていたら使ってくれ」
「はいはい。了解~。できるよ、できますともさ!」
諦めて、ふざけたようなヤケになったかのような返事をするクロカ。
まぁ両方なのだろうが。
実際、別の機体への部品や材料の流用は難しくはないのだ。
構造だけなら、ほぼ全てのケイオス・ウォリアーは同じなのである。また各パーツの接続部も共通の規格で作られている。
ただ実際にパーツや武装が稼働するかどうかは、人工頭脳ーー基本動作プログラムや各種適応値との相性があるので、無制限というわけにはいかない。共有できる物と個別の専用装備に分かれるのだ。
だが……
「せっかくの白銀級機がジャンクパーツ扱いだよ。こいつらの誰かが乗るだろうと思って回収させたのに……」
愚痴るクロカ。
この世界の住人にとって、白銀級機はただの武具ではない。名のある名刀、武家に伝わる甲冑のような物だ。
それらを扱う鍛冶屋にあたるのが、開発・整備する技術者達である。だからそれら職にはこの時代になってもドワーフ族が多い。
つまりジンの指示は、欠けた名刀を修理せずヘシ折り、無銘の刀を補強する材料にしろというのに近い。
この世界の職人には嫌がられて当然なのだが、文化に則した感情なので、ジンにはいまいち理解できないのだ。
肩を落とすクロカを他所に、ジンはさらに話を続ける。
「戦力の増強というより確認なんだが、ヴァルキュリナの今のステータスも見せてくれ。クロカ、あんたもだ」
「私も!? なんか私に要求多くね?」
驚くクロカ。
だがジンはさらりと言う。
「艦長の許可は得ている」
「え? そうだったか……?」
戸惑うヴァルキュリナ。
はっきりと頷くジン。
「昨日、好きにしろと自分で言ったろうが。なら俺の求める言葉を頼めば言ってくれる筈だな。結果が確定してるから過程を一部飛ばしたからよ」
「そこ飛ばすなよ!」
クロカが怒鳴った。
ヴァルキュリナ レベル17
格闘175 射撃163 技量192 防御151 回避96 命中111 SP94
ケイオス2 指揮官2 援護防御2
【プロテクション】【ブレス】
【プロテクション】短時間の間、被ダメージを75%軽減する。
【ブレス】味方一機に有効。次に倒した敵からの獲得資金が200%になる。
クロカ レベル17
【アナライズ】【フォーサイト】【ヒット】
【アナライズ】敵1機に有効。短時間の間、被ダメージが110%、与ダメージが90%になる。
【フォーサイト】味方一機に有効。一度だけ敵の攻撃を確実に回避する。
【ヒット】次の攻撃を確実に命中させる。
「なるほど。思った通りだ」
宙に投影された二人のステータスを見て考えるジン。
「二人の能力を知ってたの?」
不思議そうに訊くナイナイ。
ジンは頭をふった。
「そうじゃねぇ。俺の知らない能力を持っていたんだな、という事だ」
言ってため息を一つ。
「能力で劣る奴らが、味方の手札もよく知らない……じゃ、まぁ負け戦は当然だ。やっぱ俺らは必死さが足りてなかったんだな。心のどこかで他人事だと思ってたのかもしれねぇ」
「言っちゃなんだけど、あんたら聖騎士は元々他所者だからな。帰る手段さえあればさっさと帰る奴だって多いだろ」
クロカのその言葉に、ジンは頷いた。
「その通りだ。だからここからは意識を変える。これは俺が買った戦いだ。勝つためにできる事は全部するからよ」
そう言って視線をクロカへと落とした。
「次の戦闘からは、お前さんもブリッジにいてくれ。副官だか参謀だか、建前は何でもいい」
「おいィ!? その流れで何で私への要求になるよ!?」
仰天して叫ぶクロカ。
ヴァルキュリナも首を傾げる。
「ジン? クロカは整備班の人間で、戦闘は専門外なんだが……」
「ああ。だから指揮は今まで通りヴァルキュリナがとる。ただメカニックの観点からアドバイスできる事も見抜ける事もあるだろ。そこら辺は現場で判断して――スピリットコマンドを活かしてくれ」
うーん、と悩んで眉を顰めるヴァルキュリナ。
「言いたい事はわかるが……ちょっと変則的だな。私に上手くやれるだろうか」
「そこは頑張ってくれとしか言いようがない。俺の求める事はやってくれる筈だな?」
「お前、いくつ要求すんだよ!」
憤慨するクロカ。真面目な顔でそれにいけしゃあしゃあと応えるジン。
「このミッションを突破するまで――王都に黄金級機設計図を届けるまで、いくつでもだ。勝つためにできる事は全部するとさっき言ったからよ」
「お前がするんじゃないのかよ!」
クロカの目が吊り上がった。
だがジンはキリリと表情を引き締める。
「要求するのも俺のアクションのうちという解釈だ。ブリッジのピクシーになってくれ、クロカ」
「酷い屁理屈聞いたぞ! 帰投した機体の修理補給はどうすんだ?」
青筋を立てるクロカに、ジンは真顔を崩さない。
「お前さんが合流するまでも問題なくやっていた。この艦の修理班が著しくレベルダウンでもしていない限り、問題ない筈だ」
いよいよクロカは頭を掻き毟った。
「戦闘中の修理に私は要らないってか! クソ!」
「そうだな。その気持ちはわかる。だが今はいいんだ。重要な事じゃないからよ」
二人の認識の差がここまでとは誰も思わなかった……!
クロカが引付を起こしかけて仰け反り、ヴァルキュリナがそれを支えて「しっかりして!」と励ますのを尻目に、ジンはナイナイとダインスケンに呼び掛ける。
「そして俺達の方だ。こちらは新たなコンビネーションを編み出す。構想自体はもうある。ナイナイ、ダインスケン。今からでも特訓に入りたいんだが」
「ジンがしたいなら、僕はいいよ」
「ゲッゲー」
二人に異論があろうはずも無かった。
ジンが目を覚ますと、驚いて自分を見つめているヴァルキュリナと目が合った。
「おはようさん」
「あ……おはよう」
そう応えたものの、ヴァルキュリナは戸惑って辺りを見渡す。
ここはジン達があてがわれた部屋。
左右の壁に二段ベッドが設置され、片方の上段には毛布に包まれたゴブオ、その下段に目を開けたまま鼻提灯を膨らましているダインスケイン。
反対側のベッドの上段にすやすやと寝息を立てるナイナイ。その下段に下着だけで布団を被って寝ていたのがヴァルキュリナだ。
「なぁ、ジン。その……なぜ貴方が床で?」
ジンは毛布にくるまり、床に転がっていた。胸元にはリリマナが潜り込み、毛布とジンの服に包まれるようにして眠っている。
「俺のベッドにあんたが寝てたからだが。まぁ仲良く寝てろとは言ったが、俺の考えた意味とはちょっとだけ違ったな……」
「ゲッゲー」
いつの間に起きていたのか、ダインスケンが鼻提灯を引っ込め首をジンの方に回して応える。
部屋に戻った時、皆をベッドに押し込んで消灯したのがダインスケンである。
ジンの言った通り、皆で仲良く寝るためだ。
素直な事は薄汚れた文明人の中で貴重な美徳なのだ。
朝食を終えてから、クルーの大半がブリッジに集まる。
彼らを前にヴァルキュリナが呼びかけた。
「皆、集まったようだな。これより今後のため会議を始める。まず目的だが、この艦は首都を目指す。そこで王宮に黄金級機設計図を納める」
改めて宣言するヴァルキュリナ。
しかしわかりきっていた筈のその言葉に、動揺ゆえのざわめきが少なからず起こった。
それにジンは違和感を覚えたが、ヴァルキュリナは言葉を続ける。
「もちろん、魔王軍は追撃をやめないだろう。基地が消滅して設計図が失われたと思い込んでくれれば別だが……そうでない事を我々は想定しなくてはならない。そのための戦力強化についてジンから提案があるとの事だ」
そこで手をあげ、発言するクルーがいた。
まだ若い青年乗員が、やや遠慮がちながらも言う。
「あの、強化もいいんですが……クルーには成り行きで仕方なく乗艦している者も少なくありません。軍の正式な許可も貰わないで重要な任務につくというのも、ちょっと」
その隣にいた女性乗員が訴える。
「最寄りの基地へ行きませんか? 人員を正当な手続きで決めてもらった方がいいと思います。ケイオス・ウォリアーに乗れるのも、そこの雇われ部外者しかいませんし……」
無論ジン達の事だ。
新鋭艦を入手できた所までは運が良かったのだが、ケイオス・ウォリアーに乗れる兵士は不運な事に他にはいないのである。
戦える者は基地を守るために出撃し、基地と運命を共にしてしまったのだ。
彼らの意見を聞きはしたが、ヴァルキュリナは言った。
「その意見は参考にさせてもらう。だがどこへ向かうにしても敵と遭遇する可能性はある。だから戦闘の準備は必要だ」
「そんな! 正規の騎士が一人もいないままなんて無茶です!」
クルーの一人が腹を立てて抗議する。
フン、とジンは鼻を鳴らした。
「ああ、無茶だ。だが泣きをいれれば敵は来ないでいてくれるのか。そんな弱い甘えは捨てて埋めろ」
その言葉に別のクルーが反感を剥き出しにする。
「どうして正規の軍人でもないあんたがそんな口を利くんだ!」
それに対し、ジンは――
「なら部屋に引き籠ってろ。次に文句を抜かした奴は顎を割って黙らせる。いいな、ヴァルキュリナ」
そう言って、異形の右拳を腰溜めに握りしめた。
ギリギリ……とでも形容すべき、革を締め付けるかのような音が低く響く。
その険しい目は、昨日までのジンとは明らかに違った。断固とした口調に相応しい、煮えた激情が奥底に流れる固い意志が窺える物だ。
「わかった」
静まり返ったブリッジにヴァルキュリナの声が通る。
その言葉が無くとも、決意の差を越えて盾突く度胸があるクルーなど一人もいなかったが。
ジンは説明を始めた。
「予定では白銀級機のSランスナイトを修理して使う事にしていたらしいが、あれは俺達の三機を強化する資材にしてもらう」
「貴光選隊の隊長機を!? 量産機の部品にするなんて……」
思わず叫ぶ兵士が一人。彼にとってはあり得ない事だったのだろう、先ほどのジンの警告があったにも関わらず、その言葉が出てしまった……言ってから慌てて手で口を塞いだが。
そこへクロカが口を挟む。
「するんだってさ。わざわざ夜中にそれを言いに来るなんてなー」
肩を竦め、視線をジンへと向けた。
「言っておくけど、Sランスナイトのパワーが33%ずつ貰えるなんて思うなよ? 効率的にはもっと落ちるからな?」
しかし言われたジンは断固とした口調で返す。
「だが一機だけ突出させても俺達には合わないからな。現状、俺達が使うという前提ありきで、それに最も合った形にしてもらいたいからよ。ついでに今まで倒した敵白銀級機のパーツも、流用できる物が残っていたら使ってくれ」
「はいはい。了解~。できるよ、できますともさ!」
諦めて、ふざけたようなヤケになったかのような返事をするクロカ。
まぁ両方なのだろうが。
実際、別の機体への部品や材料の流用は難しくはないのだ。
構造だけなら、ほぼ全てのケイオス・ウォリアーは同じなのである。また各パーツの接続部も共通の規格で作られている。
ただ実際にパーツや武装が稼働するかどうかは、人工頭脳ーー基本動作プログラムや各種適応値との相性があるので、無制限というわけにはいかない。共有できる物と個別の専用装備に分かれるのだ。
だが……
「せっかくの白銀級機がジャンクパーツ扱いだよ。こいつらの誰かが乗るだろうと思って回収させたのに……」
愚痴るクロカ。
この世界の住人にとって、白銀級機はただの武具ではない。名のある名刀、武家に伝わる甲冑のような物だ。
それらを扱う鍛冶屋にあたるのが、開発・整備する技術者達である。だからそれら職にはこの時代になってもドワーフ族が多い。
つまりジンの指示は、欠けた名刀を修理せずヘシ折り、無銘の刀を補強する材料にしろというのに近い。
この世界の職人には嫌がられて当然なのだが、文化に則した感情なので、ジンにはいまいち理解できないのだ。
肩を落とすクロカを他所に、ジンはさらに話を続ける。
「戦力の増強というより確認なんだが、ヴァルキュリナの今のステータスも見せてくれ。クロカ、あんたもだ」
「私も!? なんか私に要求多くね?」
驚くクロカ。
だがジンはさらりと言う。
「艦長の許可は得ている」
「え? そうだったか……?」
戸惑うヴァルキュリナ。
はっきりと頷くジン。
「昨日、好きにしろと自分で言ったろうが。なら俺の求める言葉を頼めば言ってくれる筈だな。結果が確定してるから過程を一部飛ばしたからよ」
「そこ飛ばすなよ!」
クロカが怒鳴った。
ヴァルキュリナ レベル17
格闘175 射撃163 技量192 防御151 回避96 命中111 SP94
ケイオス2 指揮官2 援護防御2
【プロテクション】【ブレス】
【プロテクション】短時間の間、被ダメージを75%軽減する。
【ブレス】味方一機に有効。次に倒した敵からの獲得資金が200%になる。
クロカ レベル17
【アナライズ】【フォーサイト】【ヒット】
【アナライズ】敵1機に有効。短時間の間、被ダメージが110%、与ダメージが90%になる。
【フォーサイト】味方一機に有効。一度だけ敵の攻撃を確実に回避する。
【ヒット】次の攻撃を確実に命中させる。
「なるほど。思った通りだ」
宙に投影された二人のステータスを見て考えるジン。
「二人の能力を知ってたの?」
不思議そうに訊くナイナイ。
ジンは頭をふった。
「そうじゃねぇ。俺の知らない能力を持っていたんだな、という事だ」
言ってため息を一つ。
「能力で劣る奴らが、味方の手札もよく知らない……じゃ、まぁ負け戦は当然だ。やっぱ俺らは必死さが足りてなかったんだな。心のどこかで他人事だと思ってたのかもしれねぇ」
「言っちゃなんだけど、あんたら聖騎士は元々他所者だからな。帰る手段さえあればさっさと帰る奴だって多いだろ」
クロカのその言葉に、ジンは頷いた。
「その通りだ。だからここからは意識を変える。これは俺が買った戦いだ。勝つためにできる事は全部するからよ」
そう言って視線をクロカへと落とした。
「次の戦闘からは、お前さんもブリッジにいてくれ。副官だか参謀だか、建前は何でもいい」
「おいィ!? その流れで何で私への要求になるよ!?」
仰天して叫ぶクロカ。
ヴァルキュリナも首を傾げる。
「ジン? クロカは整備班の人間で、戦闘は専門外なんだが……」
「ああ。だから指揮は今まで通りヴァルキュリナがとる。ただメカニックの観点からアドバイスできる事も見抜ける事もあるだろ。そこら辺は現場で判断して――スピリットコマンドを活かしてくれ」
うーん、と悩んで眉を顰めるヴァルキュリナ。
「言いたい事はわかるが……ちょっと変則的だな。私に上手くやれるだろうか」
「そこは頑張ってくれとしか言いようがない。俺の求める事はやってくれる筈だな?」
「お前、いくつ要求すんだよ!」
憤慨するクロカ。真面目な顔でそれにいけしゃあしゃあと応えるジン。
「このミッションを突破するまで――王都に黄金級機設計図を届けるまで、いくつでもだ。勝つためにできる事は全部するとさっき言ったからよ」
「お前がするんじゃないのかよ!」
クロカの目が吊り上がった。
だがジンはキリリと表情を引き締める。
「要求するのも俺のアクションのうちという解釈だ。ブリッジのピクシーになってくれ、クロカ」
「酷い屁理屈聞いたぞ! 帰投した機体の修理補給はどうすんだ?」
青筋を立てるクロカに、ジンは真顔を崩さない。
「お前さんが合流するまでも問題なくやっていた。この艦の修理班が著しくレベルダウンでもしていない限り、問題ない筈だ」
いよいよクロカは頭を掻き毟った。
「戦闘中の修理に私は要らないってか! クソ!」
「そうだな。その気持ちはわかる。だが今はいいんだ。重要な事じゃないからよ」
二人の認識の差がここまでとは誰も思わなかった……!
クロカが引付を起こしかけて仰け反り、ヴァルキュリナがそれを支えて「しっかりして!」と励ますのを尻目に、ジンはナイナイとダインスケンに呼び掛ける。
「そして俺達の方だ。こちらは新たなコンビネーションを編み出す。構想自体はもうある。ナイナイ、ダインスケン。今からでも特訓に入りたいんだが」
「ジンがしたいなら、僕はいいよ」
「ゲッゲー」
二人に異論があろうはずも無かった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる