異世界スペースNo1(ランクB)

マッサン

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 スクク基地はこの世から消滅した。
 そこから離れ行く竜型艦のブリッジで、ジンは冷や汗をぬぐう。
「間一髪だった、助かったぜ。で、なんで艦が変わってんだ?」
 ブリッジにいたのはヴァルキュリナとクロカ、ゴブオ。そして艦のクルー達……見覚えのある顔もあるが、そうでない者も。

 クロカがニンマリと笑う。
「シシシ……半分ドサクサ紛れさ。黄金級機ゴールドクラス設計図を運ぶために戦力増強する計画は前からあったけど、非常事態だから勝手に決定させてもらったワケ」
「あの場から脱出するには艦を選んでいられなかったという都合もある。後で処罰されるかもしれないが、それは私が受けるつもりだ」
 ヴァルキュリナの方は喜ぶ一方でも無かった。表情は暗い。
「切羽詰まっていたから仕方ないな。ところで……ケイドはどうなった。知っているか?」
 少し気になって訊くジン。
 その問いにクロカも一転して言い難そうに目を逸らす。
「機体は回収できたよ。バラバラだけどまぁ直せる。明日朝一で修理するつもりさ。操縦者は、その……気の毒したな」

 呆気ないものだった。
 どこぞの国で最高峰の騎士であろうが、もはや屍の一片も無い。
 魔法の存在する世界ではあるが、何も残っていないのでは蘇生など無理だろう――誰に聞いたわけでもないが、ジンは薄々そう感じていた。

「……この艦の能力を把握したい。見せてくれ」
「構わないが……」
 唐突とも言えるジンの頼みに、ヴァルキュリナがやや戸惑いながらも備え付けられた宝珠に手を触れ、宙にステータスウインドを出す。

 外観は四本足のずんぐりしたトカゲだ。
 だが胴体部――特に背中は頑丈な装甲版に覆われ、そこには鋭い刃が列をなして備え付けられていた。それを見て、ジンは故郷の古代生物を思い出す。
(恐竜……鎧竜とかいう種類みたいだな)

Cガストニア
HP:13500/13500 EN:230/230 装甲:1940 運動:85 照準:157
射 騎獣砲撃     攻撃2700 射程P1-3
格 格闘       攻撃3500 射程P1
射 ファイヤーブレス 攻撃4300 射程1-7
格 ドラゴンタックル 攻撃4800 射程P1
修理装置 補給装置

「うわぁ、なんか前より……僕らの機体よりも強いね?」
「ですよね。俺思うんスけど、もう俺が騎獣砲で出なくてもよくないスか?」
 ステータス表示を見て感心するナイナイ。ゴブオも調子を合わせ、ついでに砲座から降りられないか暗に訊く。

【騎獣砲撃】はゴブオが乗る砲撃カタツムリによる物であり、この艦の本来の武装ではない。パンゴリンに比べ攻撃力の上がっているこの艦では、火力という点で他の武装に数段見劣りする事になった。

 だがそんなか細い抗議に気がつきもしなかったのか、クロカが笑う。
「シシシ……この魔竜型艦Cガストニアは、あの基地にあった艦では最新型。スイデンでも指折りの上等品だから。居住性は据え置きで戦闘力は純粋にアップ。修理と補給用の装備もデフォで装備、さしずめ『戦艦』とでも呼んでいいね」

 戦艦とは文字通り戦力として使う目的の艦だ。そういう意味では、この世界には「戦艦」は少ない。
 魔法技術の発達により、鎧を巨大化・兵器化させる事に成功し、巨大な歩兵として使うようになったのがケイオス・ウォリアーである。操縦方法が人機一体型なのは、もともと人が着て動く物から発展したという経緯もあるのだ。
 ケイオス・ウォリアーの戦いは戦士同士の合戦をそのままスケールアップさせた物なので、艦を戦力の中核に置くという戦法は発展しなかった。なにせ海戦でさえ水上・水中戦闘可能なケイオス・ウォリアーで部隊を編成し、戦ってしまうのだから。艦の攻撃や砲撃も、戦車や船に備え付けた衝角や弩を使う感覚の延長に過ぎない。
 艦の分類「C」も運搬車 Carrier を意味する物なのだ。

 だがサイズとそれを動かすためのパワーが大きければ、戦闘力が高い艦も当然出てくる。
白銀級機シルバークラスにも負けてないし……これだけ強かったら、青銅級機ブロンズクラスのケイオス・ウォリアーなんて要らないんじゃ?」
 ナイナイのその疑問も尤もだった。
 だがクロカはチッチッチッと得意げに指をふる。
「そうはいかないんだよなー。この艦を建造するには白銀級機シルバークラスを造る数倍の費用がかかるそうだ。いくさをやるならどうしても数と力の合計になっちまうから、考えようによっちゃ戦力という点じゃ青銅級機ブロンズクラスに勝ってるとさえ言い難い。とはいえ搭載・運搬ができる移動拠点が必要だから、造らないわけにはいかないけど」
 つまり「兵器」として見た場合、手放しで褒められるほど強くは無いのだ。
「ま、それでも『これからの時代は戦艦だ!』とか言う奴もいなくは無いね。大昔、竜騎士ドラゴンナイトなんかドラゴン飼えるなら要らないだろとか言ってた奴らみたいな言い分だけどさ」
 クロカは「言う奴」を小馬鹿にしているかのような口ぶりだった。

 それまでステータスを眺めていたジンが、そこで口を挟んだ。
「メンバーの能力も再確認したい。いいか?」
 だがナイナイが大きな溜息をつく。
「……僕、疲れた……」
「そうだね。私もォ」
 リリマナも宙を漂いながら同意する。
 ヴァルキュリナはそれを聞いて頷いた。
「そうだな。まず休憩に入ろう。詳しい話は明日の朝にでも……」

「そういう事じゃないよ!」
 ナイナイが怒鳴った。ヴァルキュリナの言葉の途中で。
 彼女のみならず場の全員がぎょっとして硬直する。おとなしくて気の弱い彼が、急に怒りを露わに叫ぶなどと予想もしなかったのだ。
 そもそも怒るような事など何も無い場面の筈だ。

 だがナイナイの激昂は止まらなかった。
 声こそトーンを落としたが、その両手は感情を抑えきれず震えている。
「これからどうするのか知らないけど、僕らと関係なしに勝手にすればいいじゃないか。今日だけで僕らは何回死にそうになったのかわからないよ。けど……僕らの事はどうでもいいって、みんな思ってる」

 そう言われ、ジンは貴光選隊きこうせんたいと合流してからの事、スクク基地での事を思い出した。
「まぁ……嫌われてるようではあるな」
 それは認めるしかなかった。

 だが認めても……いや認めたが故にか。ナイナイは問い詰める。
「ジン! 敵に殺されそうになったのに、手当も適当にしかされなくて、なのに戦場に出たら、敵ばっかり強いのがいっぱい出てきて……嫌じゃないの? 平気なの!?」
 怒り。悔しさ。悲しさ。もはや止まらない。
 それをどう止めればいいか、ジンにはわからない。そもそも止めるべきかどうなのかも。
「まぁスジは通ってねぇな……」
 それはジン自身も感じる事なのだ。
 そしてそれを聞いて、ナイナイは……
「僕はジンがいなくなったら嫌だよ! もうこんな所、出よう! いっぱい戦ったじゃない!」
 泣いて訴えた。
 大きな目から、ぼろぼろと涙を零して。
 止められない感情のままに。

 誰も何も言えなかった。
 静かになったブリッジに、ナイナイがしゃくりあげる声だけが小さく響く。
 その肩を優しく叩く手が、一つ。
「ゲッゲー」
 ダインスケンが鳴いていた。小さな声で。

 続いてナイナイの肩にそっと触れる手。
「休憩、だったな? 部屋を教えてくれ」
 ジンである。
 ヴァルキュリナが黙って頷いた。何も言わない。その瞳には、辛さと苦しさが有りはしたが。

 案内された部屋は、パンゴリンの時同様、二段ベッドが両壁に設置された共同部屋だ。居住性はあくまで据え置き――向上しているわけではない。個室など艦長用に一つしかないのだ。

 煌々と輝く月が窓から見えている。
 片方の上段に寝そべり、ゴブオが不満も露わに言った。
「マジでどうします? 黄金級機ゴールドクラスまで出てくるんなら、もうこの部隊で働くのも潮時ッスよ。アニキらならどこかの街の防衛部隊にでも売り込めば……」
「いっそ冒険者になっちゃうのはどうかな? 傭兵みたいに思われてるけど、調査とか運搬とか、戦闘以外にもいろいろお仕事あるよ?」
 窓の側を飛びながら提案するリリマナ。だがゴブオはそれには不満そうだ。
「それだとあんま成り上がれねぇ気が……」

 やはり民衆が崇めるのは自分達を救ってくれる英雄だ。
 そうなるためには敵との戦闘は不可欠――リリマナの言う「それ以外」では、この世界のこのご時世、あまり有り難られないのである。

 ゴブオとリリマナが語り、後の三人は寝転んでいる、そんな部屋の戸がノックされた。
「入って、いいか?」
 ヴァルキュリナである。声には少し躊躇うような所があるが――
「いいぜ」
 ジンがベッドに寝転んだまま、どこか上の空で答えた。

 扉が静かに開く。中を窺いながら、ヴァルキュリナがおずおずと顔を覗かせた。
「何の用ですか」
 そう訊ねるナイナイには、どこか険悪な雰囲気があった。

 少し気おくれした様子を見せながらもヴァルキュリナは話し出す。
「私達は黄金級機ゴールドクラス設計図をまだ持っている。それを王都へ運ばなければならない。その任務はまだ続いている」
 ぷい、とそっぽを向くナイナイ。
「僕らはスイデン国民でも軍人でもないよ。死んでも戦えって言われたら嫌だ」
 うつむき加減でヴァルキュリナは頷く。
「そうだな。それに関しては、相応の報酬を出す……としか言えない」
「具体的には?」
 さほど興味なさそうに、寝転んだまま訊くジン。
「金と地位。それしか用意できない」
 ヴァルキュリナは言い辛そうにそう告げた。

 それを聞いて、ハーッ!とわざとらしく溜息をついて見せるゴブオ。
「おいおい、せいぜい傭兵の相場ぐらいの報酬もらって、騎士団だか何だかに入れるかも程度だろ。そんでどうせ入隊した先で化け物呼ばわり、またぞろ痴漢だの安い薬だのを押し付けられるんだろうが。俺はうっかりで斬り殺されてご臨終! はーつっかえ、王様貴族様の椅子でもなけりゃ命かける価値ねーよ」
 ゴブオは嬉しそうに勢いよく言い放つ。人を責める立場を得た時は、こいつが最も生き生きする時だ。
 責められたヴァルキュリナは――神妙に頷き、こう言った。
「そうだ。だから貴方達を貴族にする」

 思いがけない言い分に、一瞬言葉を失うゴブオ。やがて呻くように漏らす。
「お……おうおう、どうやって?」
 それに対しヴァルキュリナは、俯いていた顔を上げた。
 決意を込めて、ゆっくりと告げる。
「誰か一人を私の夫にする。次期フォースカー子爵当主になれば、この世界の貴族だ。他の者はその食客として終生居てくれればいい」

 部屋がしんと静まり返った。しかし――
「それを信じろというの?」
 ナイナイは上段のベッドから疑惑の眼差しを向ける。
「そ……そうだぜ。都合悪い事を、だんまり決め込んでた前科があるッスよ」
 ゴブオが気を取り直してそう続けた。言葉の後半はジンの同意を得ようと横目で見ながら。

 言われたヴァルキュリナは……自分の鎧に手をかけた。
 留め金を外し、装甲を一つずつ床に置いて行く。
 鎧を全て外すと、ボディラインがはっきりわかる薄手のアンダーウェアしか身に着けていなかった。
 それさえも脱ぎ、胸と腰を隠す僅かな下着だけになる。
 均整のとれた、すらりとしてはいても肉付きの良い健康的な肢体が露わになった。
 胸を巻く帯から大き目の乳房がこぼれそうになっており、それを片手で隠している。
 臍も太腿も晒され、下着とともにもう片方の手で股間を覆っている。
 再び俯き加減となり、羞恥で奇麗な顔が紅く染まっている。両の手も隠しようがなく震えていた。
 小さな声で、それでもはっきりと、必死に訴える。
「約束の証だ。この場で私を差し出す。好きにしてくれ……いや、そうしてください」

 ベッドの上段で跳ね上がるゴブオ!
「ゴブリンのおぉ! 本能うぅ!!」
 叫んで跳んだ! ヴァルキュリナへ、露わになった女騎士の肉体へ! 血走った眼で、涎をまき散らしながら!
「とあァッ!」
 リリマナが叫ぶ! そして飛ぶ! 宙のゴブオの側頭部に矢となってドロップキックが刺さった!
「ぶべらッ!」
 ゴブオが呻く! 宙でひっくり返り、床に頭から落ちた! 白目を剥いて痙攣! 嗚呼無残!
 一連、僅か数秒!

 ダインスケンがのそのそと動き、ゴブオを毛布でぐるぐる巻きにすると、ポイとベッド上段へ放り込んだ。

「よっこらせ」と呟きながら、ジンがベッドから身を起こす。
 ヴァルキュリナは一瞬びくりと震えたが、裸身を晒したに近い状態のまま、受け入れようとそこに立っていた。
 が……ジンは彼女を見て「ヒュウ」と口笛一つ吹きはしたものの、横を通り過ぎて廊下へ出てしまう。
 戸惑いながらその背を見るヴァルキュリナ。ジンは背中越しに言った。
「好きにしろ、と言ったな。艦長さんのお墨付きだ。そうさせて貰うからよ」
 そのまま廊下を歩いて行ってしまう……。

「ジン? 待ってよ!」
 わけがわからず混乱しながら、ナイナイが廊下へ追いかけて来た。
 隣へ走って来たナイナイを横目で見るジン。
「どうした? めくるめくオネショタハッスルだ。男にしてもらってこいよ」
 ナイナイは顔を紅潮させながらジンを睨む。
「そんな事言って、冗談で誤魔化そうとして……ジン、どうしてまだ戦うつもりなの?」

 ナイナイは確信していたのだ。
 ジンがまだこの艦に残り、戦い続ける気である事に。
 自分が癇癪を起したから部屋へ入ったものの、ヴァルキュリナが自分を差し出そうとする前から……艦やメンバーの能力を把握しようとしていた、その時から既に。

 そしてジンは、少し困ったように笑った。
「お前らにはわかっちまうか」
 それに「ゲッゲー」と答える鳴き声。
 ナイナイが後ろを見ると、ダインスケンもそこに着いて来ていた。

「でも、なんで戦う気なのかはわかんない……」
 言いながらナイナイはジンを見上げる。ともすれば泣き出しそうな、潤んだ瞳で。
 ジンは溜息まじりに頭を掻いた。
「ケイドの奴が出しゃばらなかったら、俺らは死んでたからな」

 それはナイナイにとってはあまりに意外な言葉だった。
「あの人、凄く嫌な奴だったじゃないか!」
 その声にはジンをも批難する響きがある。
 それでもジンは笑顔のままだった。少し困ったようなままではあったけど。
「ああ。でも軍の連中には慕われてたみたいだからな。同胞には良い奴だったのかもよ」
「その軍の人達だって、嫌な人ばかりだった……」
 納得できないナイナイ。少なくとも、彼に見せられた一面はそうだ。

 だからジンもそれは否定しない。

「ああ、ケイドみたいにな。だからあの連中も、仲間内じゃいい所の一つもあったのかもしれねぇ。まぁどうだか今となってはわからんが……大半は死んだ連中だ、今さら悪し様に言ってやらなくてもいいだろうよ」
 否定はしない、だが付け加えはする。
 そして廊下の壁にもたれ、天井を見上げた。魔法による照明はあっても、やはり薄暗い天井を。
「正直言えば、今でもケイドの野郎を好きになれるわけがねぇ。だからこそ、あんな嫌な奴に助けられっぱなしってのもどうにも面白くねぇ。ならどうするか……」
 そしてジンなりの結論に至ったのだ。

 ジンは壁から離れ、ナイナイを真っすぐに見る。
「あいつがやる筈だった大仕事を、代わりに果たしてやったら。借りは返せるし、あの世で奴は悔しがるだろうし、まぁ両方達成になるんじゃねぇか」

 ナイナイは言葉を失った。
 納得したわけではない。
 だがジンの気持ちを否定する側にまわりたくもなかった。
 そんなナイナイの胸の内を知ってか否か、ジンは少しお道化どけて肩を竦める。

「と言っても俺だけじゃどうにもならん話。お前らが一緒に来てくれないと、お強い魔王軍には勝てんわ」

「だから一緒に来いって言うんだ」
 ナイナイはぷいと横を向いた。ジンの言い分はわかったが、乗り気になれるかどうかはまた別だ。
 ジンはまたポリポリと後頭部を掻く。
「無理強いはできねぇ。する気もねぇ。お前の道はお前が好きに決める事だからな。嫌ならどうしようもねぇ」
 そう言ってから、またナイナイを見つめた。

 今まで――この廊下の事ではない。共に目覚めて旅を始めてからだ――よりも。これまでで一番、真剣な眼差しで。

「その上で言わせてもらう。お前らが必要だ。一緒に来てくれ」

 動機に共感してもらえたわけではない。ジンの勝手な我儘である。その我儘を「正しい事」だと理屈をつけるつもりはジンには無かった。
 だから頼むしかないのだ。駄目で元々であっても。

 そんなジンの前で、ナイナイは……。
 視線を落としていた。自分の足元へ。己のつま先を眺めて。
「……故郷じゃ、馬と剣が下手な男は役立たずだったんだ。僕の部族で一番下手なのは僕だったんだ」

 それでも仕事は与えられた。
 働けない者を食わせていけるほどの文明レベルでは無い世界だったから。
 だがそこでの扱いは――

「お前みたいな弱い男は要らないって、何度も言われた」

 求められる強さが限られている、というのは辛い事だ。
 そこからこぼれ落ちた者には。
「大きな人形で戦うこの世界では、僕も変わったって。強い人になったかなって、そう思ったんだ」

 環境が変わった事で期待があったのだ。
 元が、どこまでも続く低い道だったから。

「でもそう思っただけで、あんまり変わってなかった。やっぱり僕なんか全然で、弱くて。変わったのはこの変な体だけだよ……」

 その弱く苦い思いを口にして、暗に否定している。
 一緒に来いというジンの頼みを。
 自分に期待してくれるな、と。

 それを聞いた、ジンの言い分は……

「俺にとってのお前は出会ってからのお前が全部だ。それより前は知らねぇ。どうでもいい」

 ジンもナイナイの言い分を否定した。

「今のお前が俺には必要だからよ」

 弱かろうが変だろうが、全てひっくるめての話だ。

「お前や俺より強い奴はこの先も出てくる。そいつらを押しのけるために、俺にはお前が要るんだ」


 ナイナイは、小さく頷いた。
 何度も。
 声は出さなかった。
 泣き声になってしまうから。

 駆け引きや裏なんぞ欠片も無い交渉は終わった。


 三人並んで壁にもたれ、少しの間、佇む。
 やがてナイナイがちらとジンを横目で見た。
 涙は収まったようだと見て、ジンは壁から離れた。
「じゃあちょいと言ってくる。お前らは寝とけ」
「ゲッゲー」
 鳴くダインスケン。
「ヴァルキュリナさんは……」
 そう訊くナイナイに、ジンは背中ごしに軽い声で答えた。
「一緒に寝てりゃいいんじゃねぇの。あちらさんが良しと言ってくれてんだからよ」


 一人、目当ての部屋に来たジン。扉を何度かノックする。
 最初は何の反応もなかったが、やがて根負けしたように扉がゆっくりと隙間を開けた。
 中から覗き見た目が驚きに丸くなり、動揺した声が漏れる。
「え!? な、何? 夜中に女の部屋に来るなんて、お前、ちょっと……」
 クロカである。ジンは彼女の部屋に来たのだ。既に就寝前だったらしく、野暮ったい灰色のパジャマに着替えてしまっていた。

 ジンは「悪い」と言って頭を下げる。何がなにやらと困惑するクロカに、頭を上げるやはっきりと告げた。
「艦長さんから許可ももらってある。悪いとは思うが、ざっと話だけでも聞いてくれるか」
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