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8 帰郷 3
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「しぶとい女だな……」
呆れて呟くジン。
戦闘終了後、ジン達三人はCガストニアへ帰艦していた。その艦もドックに戻り、現在は整備と修理の途中。ジン達も格納庫で一休みしている所である。
格納庫には専門職の治療術師達が呼ばれていた。
無論、盛られた毒を治療するためである。
ジンとダインスケンは毒に抵抗できたものの、他の者はほとんど全員が倦怠感でろくに力が入らない状態だったのだ。
ナイナイを含めて患者が列を作り、順番に治療を受けるのを、ジンとダインスケンは適当な箱を椅子にして眺めていた。
そんなジン達の前へ、戦利品の回収班が人を連れて戻って来たのだ。
両手を縛られて連行されているのは――街を襲撃した魔王軍の隊長、親衛隊のマスターコロンであった。
だが彼女に悪態をつくジンの声には、どことなく安心した響きもあった。
なんだかんだで、敵が死なずに済んだ事にほっと安心も覚えているのである。
無論、ここまでの戦いで多くの敵兵を葬っている事はわかっている。それを気に病んでいるわけでもない。
しかし敵とはいえ死に対して完全に割り切るには、ジンの故郷は平和過ぎたのだ。
「け、ケガ人をこれ以上痛めつけたりしないでしょうね?」
怯えて呻くマスターコロン。
そこへ治療を終えたヴァルキュリナが近づいた。
「魔王軍を率いて街を襲撃した以上、相応の罪には問われる。そこは覚悟してもらう。だがこの場ですぐに私刑を始めたりは――」
だがそこへ走りよる影が一つ。
ゴブオだ!
「ゴブリン式対雌下剋上ォォ!!」
叫んで跳んだ! マスターコロンへ、囚われの身となった女幹部へ! 血走った眼で、涎をまき散らしながら!
「ウェーイ!」
リリマナが叫ぶ! そして飛ぶ! 宙のゴブオの側頭部に矢となってドロップキックが刺さった!
「ぶべらっ!」
ゴブオが呻く! 宙でひっくり返り、床に頭から落ちた! 白目を剥いて痙攣! 嗚呼無残!
一連、僅か数秒!
ダインスケンがのそのそと動き、ゴブオを片手で掴むと、ポイと砲撃カタツムリの座席へ放り込んだ。
「敵の幹部を捕えたそうですが……」
言いながら騎士のディーンも姿を現した。
それを見て、マスターコロンの顔が半仮面の下でパッと輝く。
「あら、なかなかイケメン! 貴方とならいろいろ仲良くしちゃおうかしら?」
「あ、ああ……そうですか」
少々たじろぎはしたものの、ディーンはヴァルキュリナへ言った。
「有益な情報が手に入るかもしれません。彼女は捕えておき、後に尋問しましょう」
「ああ、頼む」
頷くヴァルキュリナ。
マスターコロンはそのままディーンに連行されていった。
体を擦りつけるようにして、甘えた声で何やら囁きながら。
(なんか慌ただしいな。そろそろ部屋に戻って……)
ジンがそう考えていると、別の足音が近づいて来る。
そちらを見てみれば、格納庫にはあまり相応しくない人物が二人来ていた。
身分の高そうな中年男女である。
男の方はやや肥えているが、柔和な笑みを浮かべており、つばの広い黒い帽子を被っていた。
着ている物も黒づくめで、葛模様が装飾された燕尾服を身に着けている。
女の方は……青い瞳に長い金髪の美女ではあるが、目つきといい表情といい随分とキツかった。
こちらは細身なうえ全身白づくめで、頭には日よけの白い帽子、着ているドレスも白い。広く大きなスカートには裾全面にやはり葛模様が装飾されている。
二人を前に、ヴァルキュリナが呟いた。
「父上、母上……」
それで二人が誰なのか、ジンにはわかった。
だが同時に疑問がわく。
(こんな所にお貴族の夫婦が?)
なにせ戦艦の格納庫である。
娘と話があるなら、この街にある実家ですればいい筈だ。
だがジンの疑問を他所に、男性――父親が言った。
「頼まれた手配はしておいた。明後日には出航できるよう段取りはしておく」
「ありがとうございます、父上」
軽く頭を下げるヴァルキュリナ。
それを見て、父親は微笑みながらも軽く溜息をついた。
「では……母さんと話してきなさい」
「はい」
そう応えるヴァルキュリナの顔が、ジンにはどこか硬いように見えた。
ジン達は部屋へ戻り、それぞれのベッドへ寝転がる。とはいえまだ就寝する時間には少しだけ早い。
各自がくつろいでいると、部屋の扉がノックされた。
「失礼するよ」
「どうぞ」
ナイナイが応えると、扉がゆっくりと開く。
その向こうにいたのは……
「ヴァルキュリナのお父さん!?」
驚くナイナイ。
ジンも意外な訪問客に戸惑いながら、身を起こしてベッドに腰掛け直した。
ダインスケンとゴブオは寝転んだままである。ゴブオはまだ興味深そうに見ているが、ダインスケンに至っては視線を向けもしない――複眼なのでどこを見ているのかわかり辛くはあるが。
そんなジン達に、ヴァルキュリナの父――フォースカー子爵は話しかけた。
「この中に『地球』から来たという者がいると聞いたんだが……」
「俺ですよ」
座ったままで応えるジン。
フォースカー子爵は期待をこめた目で、部屋の中に入ってきた。
「もしかして『日本』から来たのかね?」
その質問でピンとくるジン。
「はい。もしかして貴方も?」
訊ねながらも、おそらくそうなのだろうと半ば確信していた。
だが次にフォースカー子爵が出す質問は予想の範囲外だった。
「……怪獣や怪人が街を襲い、それを迎え撃つ勇者達がいたか?」
「え? いや、そういう事はありませんでしたが……」
あるわけがない。突飛な質問に戸惑うジン。
だがフォースカー子爵は落胆し、肩を落とした。
「そうか。では私とは違う地球か……」
それでジンは思いだした。
この世界には「人が乗れるロボットがある世界」から来たという地球人がいたらしい事を。
(並行世界……!)
ならば怪獣や怪人が姿を現し、それと戦う戦士達がいる地球も有っておかしくはない。
おそらく――いや確実に、フォースカー子爵はそんな地球から来たのだ。
そこでふと気づき、今度はジンが訊く。
「異世界から召喚された者という事は、貴方も聖勇士?」
子爵は頷いた。
「そうだ。そして二十数年前、当時の魔王軍と戦いもした」
(なんか……この世界って、ずっと魔王軍がわいて出るのな……)
変な所で感心してしまうジン。
だが子爵は苦笑する。
「まぁ私はこの地を守るのが精一杯で、魔王を退治した最強の勇者達一行とは何の縁も無い脇役だったがな。それでもこの街を守り、フォースカー子爵家に認められて婿入りするよう求められたのだ」
そこでジンは一つ思い至る。
「ならヴァルキュリナは地球人とのハーフ……!」
頷く子爵。
「そうだ。そしてあの子はこの地を守った聖勇士の血を引く者として、それに相応しくあろうとしている。女だてらに神官戦士となり、軍に入ってまでな」
そう言いながら、子爵はどこか浮かない顔だった。
「自分の道を自分の意思で決めてるって、凄く良い事だと思います」
二段ベッドの上から、遠慮がちにではあるがナイナイが言う。
それに子爵は頷いた……一応は。
「そうだな。だが妻はそれを苦く思っている。私も……あまり喜んではいない」
そしてどこか遠い目になる。
「大きな活躍はできず、脇に甘んじるしかなかった男を意識して、危険な道を選ばなくても……な」
その言葉で、ジンには察する事ができた。
彼は自分の実績に満足していない事が。
それは当時の主力と比べてかもしれないし、自分が見積もっていた自分の可能性と比べてかもしれない。
どちらなのかはわからないが……彼はきっと、過去に悔いか不満があるのだ。
この世界に来る前の来雅仁みたいに。
だからかもしれない。
ジンは黙ってられなかった。
「とはいえ、ヴァルキュリナがその道を選ばかったら、俺達はまだ目覚めてもいませんでした。そんな俺達が彼女の道を否定はできませんよ」
寝転んで上を見たまま、ダインスケンが「ゲッゲー」と鳴く。
それが肯定の意である事が、今のジンにはわかった。
それに励まされる思いで、さらに言葉を続ける。
「この街を守るのが精一杯だったと言いますがね、上等じゃないですか。俺らもついさっき、必死に戦ってやった事ですぜ。自分らのやった仕事に自分で泥をぶっかけたくはない。価値のある事だと言いましょうや」
どこか必死な――あるいは一生懸命な――ジンに続き、ナイナイもベッドの上から声をかける。
「あの、子爵様。貴方に助けられた人にとっては、貴方こそ勇者だったと思います。それがこの街の人達で、ヴァルキュリナさんはこの街で生まれて暮らして、だから……その娘だって事、すごく大切なんじゃないかなって……」
しばらく、子爵は黙って聞いていた。
だが小さく肩を竦める。
「困ったな。君達を利用すれば、あの娘を止められるかもしれないと期待してみたのだが」
そう言う顔は、穏やかに微笑んでいた。
ジンも笑ってみせる。
「その期待は無理ですが、今の任務達成の期待なら少しはできそうですぜ。黄金級機設計図を王都に届けるのは二十年前の英雄にも劣らない大仕事じゃないですかね。それをヴァルキュリナの指揮下でやってみようと、俺らは思っているんで」
そう言われた子爵は、困った顔で笑いながらわざとらしく溜息をついた。
「娘を守ってくれよ?」
親指を立てて見せるジン。
「そちらの期待になら、任務失敗してでも応えたいですからよ」
「がんばります!」
いつになく溌剌とナイナイも応えた。
翌日。
ジン達が食堂で朝食をとっていると、ヴァルキュリナも姿を現した。
彼女が側を通った時、ジンは話しかける。
「おはようさん。お母さんとはよく話したか?」
「ああ。いつも通り、平行線で終わった」
あまりよろしくない内容である。
だがヴァルキュリナの顔は、嫌がる様子もなく、腹を立てた様子もなく、嘆いている様子も無かった。
むしろ……どこか、さっぱりした所があった。
昔から何度も話した事で、互いに変わらない言い分なのである。
聖勇士の子でありたい娘と、この世界の女性としての幸せを望む母親との。
ある意味、親子のコミュニケーションなのだ。
自分が口を挟むべきでないラインを感じたジンが言う事は一つしかない。
「そっか」
納得するだけだ。
ヴァルキュリナが朝食の乗ったトレイを受け取りに離れる。
その背を眺めながら、テーブルの上でリリマナが考え込んでいた。
「ヴァルキュリナも結婚すれば戦士をやめるかなァ」
「そりゃまぁ多分そうだろうが……そうなるとあのディーンて男へ、兄貴の代わりに嫁入りでもするのか」
言いながらジンはディーンの事を思い浮かべる。
彼は兄と違い、ジン達に敵意や蔑視を向けた事は無い。ジンにしてみれば嫌う要素は全く無い。
家を継げないので軍にいる……と言っていたが、兄のケイド亡き今、やはり家へ戻るのではないだろうか。そうすれば家同士の結び付きという側面が強い婚姻を、ディーンが夫となって継ぐのはないかと思えた。
その割にはディーンにもヴァルキュリナにもそれらしい雰囲気が無いので、思い違いかもしれないが……。
ジンが考えていると、リリマナがその顔を覗き込んでくる。
「それだとこの街から出る事になっちゃいそう。やっぱり誰かさんがお婿入りしてあげればいいんだよ」
「だとよ、ナイナイ」
矛先を逸らすジン。
ナイナイはむすっと不機嫌になる。
「ジンはすぐそんな事言う……」
朝食を平らげたダインスケンが「ゲッゲー」と鳴いた。
ジン達がそんな話をしていると、当のディーンが何やら焦った様子で食堂へ入ってきた。
足早にジン達の隣のテーブルへ向かう――そこではヴァルキュリナが食事をとっていた。
彼女の側に来て、ディーンは頭を下げる。
「食事中にすいません。あの女親衛隊――マスターコロンが、いなくなりました」
「なんだって!?」
そう叫んだのはジン達だ。
思いがけない報告に驚き、思わず声に出てしまったのである。
そんなジン達へ振り返り、ディーンは話を続けた。
「申し訳ない。これから兵士を率いて捜索に入ります。というわけで私はこの街から動けません」
「いや、結構。必要な人員も揃いました。我らはこれより王都に向かいます」
そう答えたのはヴァルキュリナだ。
だがディーンが言うには――
「それなんですが……重ねてすいません、寄って欲しい所があるのです」
呆れて呟くジン。
戦闘終了後、ジン達三人はCガストニアへ帰艦していた。その艦もドックに戻り、現在は整備と修理の途中。ジン達も格納庫で一休みしている所である。
格納庫には専門職の治療術師達が呼ばれていた。
無論、盛られた毒を治療するためである。
ジンとダインスケンは毒に抵抗できたものの、他の者はほとんど全員が倦怠感でろくに力が入らない状態だったのだ。
ナイナイを含めて患者が列を作り、順番に治療を受けるのを、ジンとダインスケンは適当な箱を椅子にして眺めていた。
そんなジン達の前へ、戦利品の回収班が人を連れて戻って来たのだ。
両手を縛られて連行されているのは――街を襲撃した魔王軍の隊長、親衛隊のマスターコロンであった。
だが彼女に悪態をつくジンの声には、どことなく安心した響きもあった。
なんだかんだで、敵が死なずに済んだ事にほっと安心も覚えているのである。
無論、ここまでの戦いで多くの敵兵を葬っている事はわかっている。それを気に病んでいるわけでもない。
しかし敵とはいえ死に対して完全に割り切るには、ジンの故郷は平和過ぎたのだ。
「け、ケガ人をこれ以上痛めつけたりしないでしょうね?」
怯えて呻くマスターコロン。
そこへ治療を終えたヴァルキュリナが近づいた。
「魔王軍を率いて街を襲撃した以上、相応の罪には問われる。そこは覚悟してもらう。だがこの場ですぐに私刑を始めたりは――」
だがそこへ走りよる影が一つ。
ゴブオだ!
「ゴブリン式対雌下剋上ォォ!!」
叫んで跳んだ! マスターコロンへ、囚われの身となった女幹部へ! 血走った眼で、涎をまき散らしながら!
「ウェーイ!」
リリマナが叫ぶ! そして飛ぶ! 宙のゴブオの側頭部に矢となってドロップキックが刺さった!
「ぶべらっ!」
ゴブオが呻く! 宙でひっくり返り、床に頭から落ちた! 白目を剥いて痙攣! 嗚呼無残!
一連、僅か数秒!
ダインスケンがのそのそと動き、ゴブオを片手で掴むと、ポイと砲撃カタツムリの座席へ放り込んだ。
「敵の幹部を捕えたそうですが……」
言いながら騎士のディーンも姿を現した。
それを見て、マスターコロンの顔が半仮面の下でパッと輝く。
「あら、なかなかイケメン! 貴方とならいろいろ仲良くしちゃおうかしら?」
「あ、ああ……そうですか」
少々たじろぎはしたものの、ディーンはヴァルキュリナへ言った。
「有益な情報が手に入るかもしれません。彼女は捕えておき、後に尋問しましょう」
「ああ、頼む」
頷くヴァルキュリナ。
マスターコロンはそのままディーンに連行されていった。
体を擦りつけるようにして、甘えた声で何やら囁きながら。
(なんか慌ただしいな。そろそろ部屋に戻って……)
ジンがそう考えていると、別の足音が近づいて来る。
そちらを見てみれば、格納庫にはあまり相応しくない人物が二人来ていた。
身分の高そうな中年男女である。
男の方はやや肥えているが、柔和な笑みを浮かべており、つばの広い黒い帽子を被っていた。
着ている物も黒づくめで、葛模様が装飾された燕尾服を身に着けている。
女の方は……青い瞳に長い金髪の美女ではあるが、目つきといい表情といい随分とキツかった。
こちらは細身なうえ全身白づくめで、頭には日よけの白い帽子、着ているドレスも白い。広く大きなスカートには裾全面にやはり葛模様が装飾されている。
二人を前に、ヴァルキュリナが呟いた。
「父上、母上……」
それで二人が誰なのか、ジンにはわかった。
だが同時に疑問がわく。
(こんな所にお貴族の夫婦が?)
なにせ戦艦の格納庫である。
娘と話があるなら、この街にある実家ですればいい筈だ。
だがジンの疑問を他所に、男性――父親が言った。
「頼まれた手配はしておいた。明後日には出航できるよう段取りはしておく」
「ありがとうございます、父上」
軽く頭を下げるヴァルキュリナ。
それを見て、父親は微笑みながらも軽く溜息をついた。
「では……母さんと話してきなさい」
「はい」
そう応えるヴァルキュリナの顔が、ジンにはどこか硬いように見えた。
ジン達は部屋へ戻り、それぞれのベッドへ寝転がる。とはいえまだ就寝する時間には少しだけ早い。
各自がくつろいでいると、部屋の扉がノックされた。
「失礼するよ」
「どうぞ」
ナイナイが応えると、扉がゆっくりと開く。
その向こうにいたのは……
「ヴァルキュリナのお父さん!?」
驚くナイナイ。
ジンも意外な訪問客に戸惑いながら、身を起こしてベッドに腰掛け直した。
ダインスケンとゴブオは寝転んだままである。ゴブオはまだ興味深そうに見ているが、ダインスケンに至っては視線を向けもしない――複眼なのでどこを見ているのかわかり辛くはあるが。
そんなジン達に、ヴァルキュリナの父――フォースカー子爵は話しかけた。
「この中に『地球』から来たという者がいると聞いたんだが……」
「俺ですよ」
座ったままで応えるジン。
フォースカー子爵は期待をこめた目で、部屋の中に入ってきた。
「もしかして『日本』から来たのかね?」
その質問でピンとくるジン。
「はい。もしかして貴方も?」
訊ねながらも、おそらくそうなのだろうと半ば確信していた。
だが次にフォースカー子爵が出す質問は予想の範囲外だった。
「……怪獣や怪人が街を襲い、それを迎え撃つ勇者達がいたか?」
「え? いや、そういう事はありませんでしたが……」
あるわけがない。突飛な質問に戸惑うジン。
だがフォースカー子爵は落胆し、肩を落とした。
「そうか。では私とは違う地球か……」
それでジンは思いだした。
この世界には「人が乗れるロボットがある世界」から来たという地球人がいたらしい事を。
(並行世界……!)
ならば怪獣や怪人が姿を現し、それと戦う戦士達がいる地球も有っておかしくはない。
おそらく――いや確実に、フォースカー子爵はそんな地球から来たのだ。
そこでふと気づき、今度はジンが訊く。
「異世界から召喚された者という事は、貴方も聖勇士?」
子爵は頷いた。
「そうだ。そして二十数年前、当時の魔王軍と戦いもした」
(なんか……この世界って、ずっと魔王軍がわいて出るのな……)
変な所で感心してしまうジン。
だが子爵は苦笑する。
「まぁ私はこの地を守るのが精一杯で、魔王を退治した最強の勇者達一行とは何の縁も無い脇役だったがな。それでもこの街を守り、フォースカー子爵家に認められて婿入りするよう求められたのだ」
そこでジンは一つ思い至る。
「ならヴァルキュリナは地球人とのハーフ……!」
頷く子爵。
「そうだ。そしてあの子はこの地を守った聖勇士の血を引く者として、それに相応しくあろうとしている。女だてらに神官戦士となり、軍に入ってまでな」
そう言いながら、子爵はどこか浮かない顔だった。
「自分の道を自分の意思で決めてるって、凄く良い事だと思います」
二段ベッドの上から、遠慮がちにではあるがナイナイが言う。
それに子爵は頷いた……一応は。
「そうだな。だが妻はそれを苦く思っている。私も……あまり喜んではいない」
そしてどこか遠い目になる。
「大きな活躍はできず、脇に甘んじるしかなかった男を意識して、危険な道を選ばなくても……な」
その言葉で、ジンには察する事ができた。
彼は自分の実績に満足していない事が。
それは当時の主力と比べてかもしれないし、自分が見積もっていた自分の可能性と比べてかもしれない。
どちらなのかはわからないが……彼はきっと、過去に悔いか不満があるのだ。
この世界に来る前の来雅仁みたいに。
だからかもしれない。
ジンは黙ってられなかった。
「とはいえ、ヴァルキュリナがその道を選ばかったら、俺達はまだ目覚めてもいませんでした。そんな俺達が彼女の道を否定はできませんよ」
寝転んで上を見たまま、ダインスケンが「ゲッゲー」と鳴く。
それが肯定の意である事が、今のジンにはわかった。
それに励まされる思いで、さらに言葉を続ける。
「この街を守るのが精一杯だったと言いますがね、上等じゃないですか。俺らもついさっき、必死に戦ってやった事ですぜ。自分らのやった仕事に自分で泥をぶっかけたくはない。価値のある事だと言いましょうや」
どこか必死な――あるいは一生懸命な――ジンに続き、ナイナイもベッドの上から声をかける。
「あの、子爵様。貴方に助けられた人にとっては、貴方こそ勇者だったと思います。それがこの街の人達で、ヴァルキュリナさんはこの街で生まれて暮らして、だから……その娘だって事、すごく大切なんじゃないかなって……」
しばらく、子爵は黙って聞いていた。
だが小さく肩を竦める。
「困ったな。君達を利用すれば、あの娘を止められるかもしれないと期待してみたのだが」
そう言う顔は、穏やかに微笑んでいた。
ジンも笑ってみせる。
「その期待は無理ですが、今の任務達成の期待なら少しはできそうですぜ。黄金級機設計図を王都に届けるのは二十年前の英雄にも劣らない大仕事じゃないですかね。それをヴァルキュリナの指揮下でやってみようと、俺らは思っているんで」
そう言われた子爵は、困った顔で笑いながらわざとらしく溜息をついた。
「娘を守ってくれよ?」
親指を立てて見せるジン。
「そちらの期待になら、任務失敗してでも応えたいですからよ」
「がんばります!」
いつになく溌剌とナイナイも応えた。
翌日。
ジン達が食堂で朝食をとっていると、ヴァルキュリナも姿を現した。
彼女が側を通った時、ジンは話しかける。
「おはようさん。お母さんとはよく話したか?」
「ああ。いつも通り、平行線で終わった」
あまりよろしくない内容である。
だがヴァルキュリナの顔は、嫌がる様子もなく、腹を立てた様子もなく、嘆いている様子も無かった。
むしろ……どこか、さっぱりした所があった。
昔から何度も話した事で、互いに変わらない言い分なのである。
聖勇士の子でありたい娘と、この世界の女性としての幸せを望む母親との。
ある意味、親子のコミュニケーションなのだ。
自分が口を挟むべきでないラインを感じたジンが言う事は一つしかない。
「そっか」
納得するだけだ。
ヴァルキュリナが朝食の乗ったトレイを受け取りに離れる。
その背を眺めながら、テーブルの上でリリマナが考え込んでいた。
「ヴァルキュリナも結婚すれば戦士をやめるかなァ」
「そりゃまぁ多分そうだろうが……そうなるとあのディーンて男へ、兄貴の代わりに嫁入りでもするのか」
言いながらジンはディーンの事を思い浮かべる。
彼は兄と違い、ジン達に敵意や蔑視を向けた事は無い。ジンにしてみれば嫌う要素は全く無い。
家を継げないので軍にいる……と言っていたが、兄のケイド亡き今、やはり家へ戻るのではないだろうか。そうすれば家同士の結び付きという側面が強い婚姻を、ディーンが夫となって継ぐのはないかと思えた。
その割にはディーンにもヴァルキュリナにもそれらしい雰囲気が無いので、思い違いかもしれないが……。
ジンが考えていると、リリマナがその顔を覗き込んでくる。
「それだとこの街から出る事になっちゃいそう。やっぱり誰かさんがお婿入りしてあげればいいんだよ」
「だとよ、ナイナイ」
矛先を逸らすジン。
ナイナイはむすっと不機嫌になる。
「ジンはすぐそんな事言う……」
朝食を平らげたダインスケンが「ゲッゲー」と鳴いた。
ジン達がそんな話をしていると、当のディーンが何やら焦った様子で食堂へ入ってきた。
足早にジン達の隣のテーブルへ向かう――そこではヴァルキュリナが食事をとっていた。
彼女の側に来て、ディーンは頭を下げる。
「食事中にすいません。あの女親衛隊――マスターコロンが、いなくなりました」
「なんだって!?」
そう叫んだのはジン達だ。
思いがけない報告に驚き、思わず声に出てしまったのである。
そんなジン達へ振り返り、ディーンは話を続けた。
「申し訳ない。これから兵士を率いて捜索に入ります。というわけで私はこの街から動けません」
「いや、結構。必要な人員も揃いました。我らはこれより王都に向かいます」
そう答えたのはヴァルキュリナだ。
だがディーンが言うには――
「それなんですが……重ねてすいません、寄って欲しい所があるのです」
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【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎
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『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』
見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装…
俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
突然の事で戸惑うクラスメート達…
だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。
「またか…」
王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
そして俺はというと…?
『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
「それよりも不知火君は何を得たんだ?」
イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
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「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
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