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 出撃したジン達は山の斜面を登って来る敵軍を見た。
 岩場を、あるいは小さな森を抜けてくる敵影……戦闘MAPに映るは十体ほど。その後ろに控える機影が1機――これが隊長機だろう。
 しかしそれがけしかけてくるのは――

「なんだ? ケイオス・ウォリアーじゃないだと?」
 街の外周、廃墟となった通りから山の斜面を見下ろし呟くジン。
 迫って来るのは家屋ほどもある巨大なアリなのである。
 だがそのアリどもの頭は、半分がた気味の悪い薄緑の苔に覆われ、大きな複眼が完全に隠されてしまい、さながら覆面をしているようだった。

魔獣 レベル22
マスクドアンツ
HP:5000/5000 EN:180/180 装甲:1400 運動:80 照準:145
射 アシッドブレス 攻撃2700 射程1―5
格 牙       攻撃3000 射程P1

【スカウト】でモニターに映したステータスを見てジンは呟く。
「ちょいタフで接近戦を挑むタイプか。まぁ俺らが後れを取るような奴でも無いが……」

 それが聞こえたのか、そうでもないのか。
 最奥にいる敵隊長機から通信が入った。
『オレは魔王軍親衛隊最強の戦士……陸戦大隊マスターコルディセプス……』
 陰気で静かな声。ターバンのような布で顔をぐるぐる巻きにしており、人相は全くわからない。声で男だとはわかるが、年齢などは知る由も無い。
 その機体はアリ人間のごとき半人半虫の姿だが、頭には三度笠のような兜を被っていた。右手にはこれ見よがしに長い鞭を握っている。

「今度は魔物使いか。魔王の軍勢らしいじゃねぇか」
 ジンはそう声をかけたが、相手は何も答えない。ただ鞭で地面を叩だけだ。
 それが合図なのか、巨大アリどもがその進軍速度を速める。

『あのアリ共も普通のモンスターじゃないね。初めて見る魔物だよ』
 母艦Cガストニアからクロカの声が届いた。
「カビてる大型モンスターはやっぱり魔王軍がいじった変種か。今までの予想通りじゃねぇか」
 そう言いつつ、ジンは敵隊長機のステータスも調べる。

マスターコルディセプス レベル25
Sカイメラアント
HP:20000/20000 EN:200/200 装甲:1500 運動:90 照準:155
射 アント軍団 攻撃4000 射程1―7
格 毒胞子   攻撃4500 射程P1―3

「今さら苦戦しそうな奴でもないな。そこが逆に怪しいが……」
 嫌な予感にジンは襲われる。これまでの親衛隊より微妙に強力ではあるが、さほどの差は無い。
 だがただ弱いだけの敵が楽な戦いをさせてくれるために出てくる、などという事があるのだろうか?
「きっと私たちをナメてるのよ。こっちの強さを思いらせてやろ!」
 肩の上でリリマナが気楽な事を言う。
『マイダの街を攻めるつもりで、私達の存在は予想していなかったのかもしれない。だが各自気を抜かないように!』
 ヴァルキュリナが指示を飛ばす。
 話している間に、敵のアリどもはすぐそこまで迫っていた。
「いくぜ!」
 胸中の暗雲を払うべく、ジンは叫んで敵へ砲弾を撃ち込んだ。

 艦のファヤーブレスが敵を焼き、援護で飛んだナイナイ機のソニックショットが巨大蟻を粉砕する。
 猛攻を潜り抜けて街の外周――崩れた壁が虚しくも所々に残っている――へ潜り込もうとした個体を、ダインスケン機のスラッシュレザーが切り裂いた。
 蟻どもも蟻酸を吐きながら大顎で噛み付いてくるが、強化されつつある装甲や運動性により致命傷などそう受けない。そして……

「よっしゃ、頼むからよ!」
『まかせて! いくよ!』
 ジンの指示に元気よく応え、ナイナイはBCバイブグンザリ単体の最強武器・MAP兵器デストロイウェーブを放つ。
 魔力の輝きに覆われ、範囲内の蟻どもは次々と分解され、砕け散った。

『よし。アリは全滅したな』
 現状を確認するヴァルキュリナ。
 手堅く戦ったジン達の完全な勝利である。

 ……筈だった。

 だがマスターコルディセプスが陰気に呟く。
『抗うか。だが無駄なこと』
 その言葉ととも鞭が地面を叩く。すると彼の機体周辺の地面がボコボコと盛り上がった。
 いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!

『て、敵増援!』
『地面から出てきたよ!?』
 警告するヴァルキュリナに、ナイナイが狼狽えた声をあげる。
「落ち着け。問題ない相手だろ。さっきの要領で戦えば負けないからよ」
 そう言いながらも、ジンは何か違和感を覚えていた。

 そして街に迫る蟻たち。
 ほとんど同じ展開で戦闘が再開された。
 撃たれる弾丸、潜り抜ける巨大蟻、そしてMAP兵器の炸裂――

 ジンの言った通り、蟻達は晒す躯を増やしただけだった。

 だがしかし。
『抗うか。だが無駄なこと』
 マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
 いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!

『再度、増援だ!』
 焦って叫ぶヴァルキュリナ。
 ジンはブリッジへ通信を送った。
「……なあ。あの巨大アリの改造元になったモンスターがどんな奴らか、わからないか?」
『確定はできないが、想像はつくな……』
 答えたのはクロカだ。
 ジンは再度尋ねる。
「そいつらはうじゃうじゃと数で圧すタイプか?」
『まあね。さっさと全滅させないと延々仲間を呼ぶモンスターの一種さ……あ!』
 喋っている途中、クロカは気づいた。

 敵の戦法に、その狙いに。

 ジンは再度尋ねる。
「全滅しても召喚する奴がいる場合、どうなる?」
 質問ではあるが、わからないから訊いているのではない。
 己の想像が事実かどうか確認しているのだ。
 クロカは苦々しく答えた。
『召喚術師のMPが尽きるまで、いくらでも追加されるだろうね……』
 追加された敵増援は街のすぐ側まで迫っていた。

『ケケェーッ!』
 ダインスケンのBCクローリザードが最後の蟻を裂く。
 敵の増援はまたもや全滅した。
『抗うか。だが無駄なこと』
 マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
 いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!

 迫る蟻を破れた防壁の間から覗き見るジン。
「無限増援で押し潰す戦法だぞ、こいつは!」
『くっ……危険だが、敵の群れに飛び込んで術者を倒すしかないのか……』
 そう言いつつも、ヴァルキュリナの声には躊躇いがあった。
 その戦い方だと廃墟を盾にはできない。敵をかきわけるため、無駄と知りつつ蟻どもを倒しながら前進し、敵親衛隊の目の前で四方から叩かれながらの戦闘を強いられる。
 それこそ敵の狙いであり、思う壺だとわかっていたからだ。
 だがこの状況でそれ以外の選択肢は――

 ――ジンが口にした。
「いや、ここに立て籠もって迎え撃とう」
 通信機から『えっ!?』と漏れたのはクロカの声だ。
『相手のMP切れを狙うわけか。いつまでかかる事やら』
 だが一瞬の迷いの後、ヴァルキュリナは決断する。
『いや、この場所で迎え撃つ方が有利に戦えるのも確かだ。今しばらく、敵の増援にあえて付き合ってみよう』
 話がまとまった時、次の増援は街の目の前だった。

 BCカノンピルバグのメイスで、最後の蟻が叩き潰される。
『抗うか。だが無駄なこと』
 マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
 いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!

『いくらでも出るよ……』
 不安いっぱいのナイナイ。うんざりした声のクロカ。
『敵が魔力で召喚してるのは増援のうちの一匹だけだろうからね。他は仲間についてきた連中さ』
『最小限の消費で最大限の数を出せるからこその戦法か……』
 ヴァルキュリナが焦りながら言う。
 そんな自軍にジンは指示を出した。
「修理装置と補給装置はフル回転させるからよ。そのつもりでな」
「え? まだここに立て籠もるのォ?」
 リリマナが驚いている間にも、次の増援はそこまで迫っていた。

 Cガストニアの前足が最後の蟻を叩き潰す。
『抗うか。だが無駄なこと』
 マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
 いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!

『なあ、ジン……その、いつまで敵の増援と戦う気なんだ?』
 戸惑いながら訊くヴァルキュリナ。
 逆にジンが訊き返す。
「ヴァルキュリナ。お前さんはエースボーナスを獲得したか?」
『いや。ジン達に比べて撃墜数は少なめだから……』
 だいたい予想していた事である。だからジンは答えた。
「ならまだまだだな」
「ジ、ジン!?」
 リリマナが驚いている間にも、次の増援はそこまで迫っていた。

 今日何度目かの、バイブグンザリのMAP兵器が蟻どもを包み込んだ。
『抗うか。だが無駄なこと』
 マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
 いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!

『ジン! 僕のステータスになんか変なのが出てる』
 ナイナイに言われ、ジンはステータス画面を確認する。
「おお! グレートエースボーナス! よしよし、それもあったのか」
 昔プレイしていたゲームと同じ用語が出て喜ぶジン。後で特典を確認せねばならない。
 しかし今は戦闘中なので、ジンは敵を迎え撃つべくキャノン砲を構え直した。
『ジン?』
「俺ももうちょいでエースボーナスだからよ」
 戸惑うナイナイに応えるジン。次の増援はそこまで迫っていた。

 カノンピルバグのハンドビームが最後の蟻を撃ち抜く。
『抗うか。だが無駄なこと』
 マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
 いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!

「やったぞ! ダインスケン、お前はどうだ?」
『ゲッゲー』
 叫ぶジンに鳴くダインスケン。二人のステータス画面にはエースボーナスがある事を示すアイコンが表示されていた。
 その内容は――

ジン
エースボーナス:援護攻撃・合体攻撃のダメージ+20%、援護防御時のダメージ-20%

ダインスケン
エースボーナス:援護攻撃・合体攻撃のダメージ+20%、援護防御時のダメージ-20%

「どういう事だ? 俺ら三人、エースボーナスが全く同じだと!?」
 驚愕するジン。
 昔プレイしていたゲームでは、名無し一般兵でもなければ同じエースボーナスが並ぶ事など無かったが……。
(この世界では違うのか?)
 似た点が多くて感覚が麻痺していたのかと己を疑う。

 考えて見れば、ここインタセクシルは無数にある異世界の一つなのだ。共通点の多い他世界もあるだろう。だが全く同じなわけもない。

 そんなジンの肩でリリマナが疲れた声を出した。
「みんなエースになった? ならもうあの魔物使いを倒そうよゥ!」
 だが無情にもジンは却下する。
「いや、ヴァルキュリナがまだだ」
『なぁジン、目的が少しおかしくなっていないか……?』
 当のヴァルキュリナの声も疲労の色が濃かったが、次の増援はそこまで迫っていた。

 ゴブオの騎獣砲撃が弱った最後の蟻にとどめを刺した。
『抗うか。だが無駄なこと』
 マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
 いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!

『ジン、私もエースボーナスが出たぞ……』
『撃ったのはオレなんですがねぇ……』
 疲れたヴァルキュリナの声に、同じぐらい疲れたゴブオの声が重なる。
 ジンは急いでヴァルキュリナのステータス画面を確認した。

エースボーナス:スピリットコマンド【ブレス】が【ホープ】になる
【ホープ】味方一機に有効。HP50%回復、状態異常を解除。次に倒した敵からの獲得資金と経験値が200%になる。

「なにぃ!? 凄いぞヴァルキュリナ、俺が女でレズなら惚れるところだ!」
『あ? うん? 喜んで貰えているなら光栄だが……』
『ジンはすぐ変な事言う』
 大喜びのジン。反応に困るヴァルキュリナ。むすっとした声で呟くナイナイ。
『全員エースとはたいした部隊になったもんだ。満足したか?』
 クロカのだるそうな声。だがジンは――
「グレートエースボーナスがまだだからよ」
 次の増援はそこまで迫っていた。

 クローリザードのスケイルシュリケンが最後の蟻に突き刺さった。
『抗うか。だが無駄なこと』
 マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
 いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!

『ゲッゲー』
「おう、俺もようやくグレートエースだぜ!」
 鳴くダインスケンに喜び応えるジン。
『アニキ、そろそろ決着つける時じゃねッスか?』
 ゴブオが疲れた声で訊いてくる。
 一瞬考えるジン。
「いや……ヴァルキュリナ、そっちはまだグレートエースじゃないな?」
 もごもごと口籠ってから返事が来る。
『……確かにまだだが……ジン、その……クルーもだいぶ疲弊していて……』
「よし、もう一踏ん張りだからよ」
 即答するジン。次の増援はそこまで迫っていた。

 ゴブオの騎獣砲撃が弱った最後の蟻にとどめを刺した。
『抗うか。だが無駄なこと』
 マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
 いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!

『ジン、グレートエースだ……』
『アニキ……腕が痺れて感覚がねぇッス』
 声を絞り出すヴァルキュリナとゴブオ。
「おう、お疲れ。よくやってくれた。お前らはそこらの連中とは違うと俺は信じていたぞ」
 いけしゃあしゃあとねぎらうジン。
『これで万全だね!』
 ナイナイの声には安堵があった。
 しかし――
「ところでクロカ。俺らの機体三機と戦艦を10段階目までフル改造するとして、資金は足りるか?」
 奇妙な沈黙がジン達の間に満ちた。
 やがて物凄く嫌そうに、クロカから返事が来る。
『……10段階改造には一機90万~100万の資金が必要なんだぞ。今4段階目まで改造してるけど、差額は76万以上だ。それが4機ぶんだぞ? 量産型ケイオス・ウォリアーや巨大モンスターを1機倒しても2000から4000程度だぞ……』
 操縦席で頷くジン。
「つまりまだなんだな? なら決まった」
『その決まりは聞きたくねぇ!』
 クロカが叫ぶ。次の増援はそこまで迫っていた。

 今日何度目かの、バイブグンザリのMAP兵器が蟻どもを包み込んだ。
『抗うか。だが無駄なこと』
 マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
 いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!

『ジン。領主が食事の支度をしようと申し出てきたが……』
 か細い声で告げるヴァルキュリナ。
「全部おにぎりとサンドイッチ、水は水筒に入れてもらってくれ。全員持ち場で食べながら戦闘。聖勇士パラディンは修理・補給のために艦へ戻った際に操縦席へ持ち込んで、出撃してから隙を見て一個ずつ食おうや」
 てきぱきと指示を出すジン。
『アニキ! 手の感覚がもう無いッス!』
 悲鳴をあげるゴブオ。
「足で敵を撃て。がんばれ、お前ならできる。俺は信じているからよ」
 励ますジン。心温まるやりとりの中、次の増援はそこまで迫っていた。

 ジン機の撃ったロングキャノンが最後の蟻を吹き飛ばした。
『抗うか。だが無駄なこと』
 マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
 いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!

「チッ……鮭入りは一つも無しか。だがこの白い切り身は美味えな」
 敵が離れている間におにぎりを頬張るジン。肩の上ではリリマナがチーズの切れ端を齧っている。
『アニキ……俺、漏れそうッス』
 食事中に相応しくない相談がゴブオから飛んできた。
 だが出物腫物ところかまわず。ジンは嫌な顔一つせずに親身になって対応する。
「そこで出してろ。小だか大だか知らんが、どうせ戦闘中の装甲が奇麗なわけもねぇ。垂れ流したところで浴びるのは死んでいく蟻だけだからよ」
 開放型の操縦席ゆえの利点を活かしたナイスアドバイス。
 次の増援はそこまで迫っていた。

 それから何度、蟻の群れを全滅させただろうか。
 戦艦のファイヤーブレスが最後の蟻を焼き払った。
『抗うか。だが無駄なこと』
 マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
 いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!

『アニキ……疲れた。眠いッス』
 弱音を吐くゴブオ。
「昼を過ぎたぐらいで何を言ってる。ああ……お前は昼寝が日課だったな。まぁ寝ながら引き金をひけ」
「ムリだよォ、そんなの」
 ジンの指示を批難するリリマナ。
 しかしモニターで見ていると、ゴブオは焦点のあって無い目で鼻提灯を膨らませながら、蟻の頭へと散発的な射撃を繰り返している。だらしなく開いた口から汚い涎が戦艦の甲板に垂れ落ちていた。
「大体できてるじゃねぇか。別に100点は求めねぇからアレで良しとするからよ」
 言って手近な蟻にビームを撃つジン。

 それから何度、蟻の群れを全滅させただろうか。
 BCカノンピルバグのメイスで、最後の蟻が叩き潰される。
『抗うか。だが無駄なこと』
 マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
 いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!

『くっそ……いくら良コスパの魔物を召喚してるといってもMPありすぎだろ……』
 苛々と呟くクロカ。
 ふとジンは思い至った。
「MP消費を0にする手段はこの世界に無いのか? 消費軽減のスキルだとか、特定の魔法を無限に使えるマジックアイテムとかでよ」
 一瞬は静かになった。だが次にクロカは大声を張り上げる。
『……え!? あ、有るけど! 確かにあるな。ま、まさか……マスターコルディセプスの奴は……』
『ほ、本当に消費無しで召喚しているかもしれないのか!』
 おののくヴァルキュリナ。
『ねぇジン、どういう事?』
 ナイナイには理解できなかったようで、ジンに訊いてくる。
「マジで無限召喚ができるのかもな、て話だ」
 答えながらもジンには気づいた事があった。
(そうだとしても……無限召喚ではあるが、無制限召喚では無さそうだ)

 それから何度、蟻の群れを全滅させただろうか。
 昼過ぎの最も暑い日差しが弱まり出した中、クローリザードの爪で最後の蟻が斬り裂かれる。
『抗うか。だが無駄なこと』
 マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
 いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!

「ああもう、なんか足の踏み場が無くなってきてる!」
 文句を言うリリマナ。
 一面に転がる蟻の屍。ジンの機体がそれに足を取られて激しく揺れ、肩の上の彼女が落っこちそうになったのだ。
「我慢しな。スライムだけ何百年も倒してレベルアップだとか、日が暮れるまでの正拳突きを日課にするだとか、世間様には頭が下がる御仁もいるからよ。邁進の道に回り道は無ぇんだ」
 言いながら砲撃だけは止めないジン。
「もゥ、そんなに修行が好きなら滝にでも打たれちゃえ! 私はお湯を浴びて寝たい!」
 足をじたばたさせるリリマナ。もちろんそんな事を喚いても戦闘が中断されたりはしないのだ。

 それから何度、蟻の群れを全滅させただろうか。
 陽が傾き風に涼しさが混じり出した頃、BCクローリザードのブレードクローが最後の蟻を血祭にあげた。
『抗うか。だが無駄なこと』
 マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
 いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!

『ジン! ブリッジクルーの半数がダウン寸前だ! クロカもだ!』
 ヴァルキュリナの切羽詰まった声。
「回復魔法でなんとかなるだろ」
 ジンからのアドバイス。
『誰もが使える物じゃない! 私含め、使える者はみな使ってる! そして私も……いや、まだもう少しは……』
 後半の声は今にも途切れそうだ。責任感がなんとかヴァルキュリナを立たせているのだ。
「じゃあ10分ほどダウンさせて寝させるか。その間は起きてる奴らが倍頑張って、10分後には寝てた奴らが倍頑張るという事で」
 ジンの冷静な提案。
 ヴァルキュリナからの返事は無かった。
 ただ微かに寝息が通信機から聞こえるのみ。
『ジン、あれで戦艦は大丈夫なの?』
 心配で訊いてくるナイナイ。
 ジンはCガストニアを見上げた。まだ動いてはいる。
「大丈夫だろ多分。まぁこのぐらいで翼が折れてたらマイスターへの道は遠いからよ」

 それから何度、蟻の群れを全滅させただろうか。
 空の端に茜色が見える中、BCバイブグンザリのソニックショットが最後の蟻を吹き飛ばした。
『抗うか。だが無駄なこと』
 マスターコルディセプスが陰気に呟き、鞭が地面を叩いた。
 いくつもの土饅頭が膨れ上がり、次々と新たな蟻どもが姿を現す!

『あ……ジン、おはよう! 戦況はどうなっている!?』
 大慌てでヴァルキュリナが訊いてきた。
「おはようさん。長い10分だったな。倍頑張ってたクルーはまだ生きてるか?」
『え……あ……自主的に交代が繰り返されていたようだ。顔ぶれが一変している……』
 ジンの問いに、混乱しながら答えるヴァルキュリナ。
「なかなか優秀なクルー達だ。俺らの先行きも明るいからよ」
 満足するジンの肩でリリマナがへばった声をあげる。
「なんでジンはまだ平気なのォ? ナイナイもダインスケンも」
『僕はもうヘトヘトだけど……』
 ナイナイの声は確かに疲労の色が濃い。ダインスケンは『ゲッゲー』といつも通り鳴いていたが。

 それから何度、蟻の群れを全滅させただろうか。
 空に星が瞬き始めた頃――

『貯まった! フル改造費用ができたぞ、ジン! 行け! もう異論は聞かない! 行って敵の隊長を倒せよおぉ……』
 クロカが叫んだ。後半、ほとんど泣きそうな声で。
 それを聞いて声をあげるジン。
「よっしゃあ! 行くぜ!」
『やっとだよぉ……』
『ゲッゲー』
 疲れ果てた声でナイナイが、いつも通りにダインスケンが応えた。
 そして三機は街から飛び出す! そこへ戦艦も続いた。

 山の斜面をかけ登って来る戦闘のマスクドアントへ、ジンは出合頭のメイスを叩きつける。
『ジン!? 蟻を倒したらまた増援が……』
 焦るヴァルキュリナ。
 ジンは叫んだ。
「ここまでずっと守られて来たパターンだ! 奴は蟻が全滅しないと増援を出さねぇ! だから包囲されないよう一匹だけ残す。それ以外は倒す!」

 なぜ蟻が全滅する前に次の蟻を出さないのか、それはジンにもわからない。
 召喚術にそういう制限があるのかもしれないし、無尽蔵に増援を呼ぶためにペース配分が必要なのかもしれない。
 だが理由はどうあれ、その制限を破る事ができないのだろうとジンは長い戦闘の間にふんでいた。

 そしてジンの思った通り、一匹だけ残った蟻を尻目に白銀級機シルバークラスSカイメラアントへ挑むと、マスターコルディセプスはついに機体を動かして迎え撃つ。

 だが激突する前にジンは叫ぶ。
「リリマナ! 俺と【ウィークン】! クロカは【アナライズ】だ!」
「おっけー!」
『わかったよ……コンチクショウ……』
 二人の了解の声。
 そしてSカイメラアントをスピリッコマンドが襲った。その気力は大きく低下し、装甲の薄い箇所がジン達のモニターに映し出される。

 相手を射程に捉えるや、ジンは叫んだ。
「待たせたな! 受けろ! トライシュート!」
 機体の足が止まると同時に、一糸乱れぬ連携で撃たれる三射撃。
 それは狙い過たず魔王軍の親衛隊を撃ち抜く!

 モニターに表示されるダメージが9300を超えた。
 スピリットコマンドの効果にエースボーナスの補正を加え、その威力はかつてないほど高まっている!

 もちろんマスターコルディセプスとて黙って立っているわけもない。
 笠のような頭部から薄緑色の霧が散布された。それは悪意と凶悪な威力をもってダインスケン機を狙う。生体・金属の区別なく全てを腐食させる毒の胞子、それによる霧!

格 毒胞子 攻撃4500 射程P1―3
気力105 消費EN20 条件:ケイオス2
特殊効果:装甲ダウンLV2

 BCカノンピルバグの全身が浸食され、装甲が変色する。
 その毒素には装甲を腐食させ、崩壊させる効果もある――が、装備された【フルコーティングアーマー】の防御能力はそれを防ぎ、耐えた。
 ダメージそのものは決して小さくない、3400以上の値がモニターに表示されている。
 だが長期戦の中、こまめに修理を繰り返していたカノンピルバグは、それに耐えきった。

 一方、20000のHPを一撃で半分近く持って行かれ、Sカイメラアントは膝をついていた。
 その隙を見逃すわけもなく、ジン達は至近距離へ駆け込む。
 ジン機のメイスが打ちこまれ、ナイナイ機の打撃が続き、ダインスケン機が跳んだ。
 津波のごとく流れ込む怒涛の三連打、トリプルウェーブ!

 鞭を握るSカイメラアントの腕が千切れ飛んだ。
 表示されたダメージは先ほどを上回り、10800以上……!

 白銀級機シルバークラスはもはや立ち上がる事なく、傷口から火を吹きながら倒れ、動かなくなった。
 今までで最も頑丈な敵を、ジン達は二度の波状攻撃で倒したのだ。
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