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魔城
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最も巨大な大陸に、険しい山々が連なる壁で文明圏から隔絶された地がある。
一年中吹雪が吹き荒れ、それが止んだ時だけ白銀に輝く美しくも生の無き死の幻想世界が姿を現す大地が。
雪と氷と暗雲が覆う、標高四千メートルを超えた、平地としてはこの世界でも最高度となる、誰も顧みない僻地の中の僻地。
そこに巨大な城塞があった。
禍々しく、ねじくれ、悪意と邪悪で塗り固められた、途方もなく巨大な城塞が。
この世界にある国家全ての敵である魔王軍……その首領が住まう城が。
石柱が立ち並ぶ、暗く巨大な、神殿のごとき部屋。
そこに三つの人影があった。
三つとも、背も体格も全く同じに見える。
三つとも、フード付きのローブを身に纏い、顔かたちは全くわからない。
赤いフードローブを纏った者が驚愕し、叫んだ。
「なにぃ!? アルタルフがやられただと?」
青いフードローブを纏った者が静かな声で告げる。
「そうだ。相手は白銀級機率いる二機の改造青銅級機。それに戦艦一隻の小隊だ」
「ぬう……よもやそのような事が……」
動揺を隠せない、赤いローブ。
だが黄色いローブの者は、小馬鹿にしたように笑いを漏らす。
「ククク……アルタルフめ、不甲斐ない。奴は四天王でも最弱……我らの面汚しよ」
三人はそこで会話を止めた。
三人はいっせいに振り返る。闇に閉ざされた部屋の奥を。
そこから乾いた足音を立てて出てくる者を、三人は黙って待っていた。
足音の主が姿を見せた時、三人はいっせいに頭を垂れる。
「「「闇黒大僧正!」」」
三人は足音の主、彼らの主の名を口にした。
その者――闇黒大僧正は灰色のフードローブに身を包んでいた。
他の三人と異なるのは……その周囲の空間が、歪んで見えること。
陽炎のように……波打つように……あるいは色彩が滲んで混ざり合うかのように。
それはその者の放つなんらかの「気」による迫力かもしれないし、本当に空間に干渉する魔力が漏れ出ているのかもしれない。
ただ、他の者とは根本的に何かが違う。
それだけは確かだった。
青いローブが正面を向いて告げる。
「海戦大隊は解体し、他の三軍に配属。黄金級機は我らが奪います。万が一、それより先に完成したならば……」
黄色いローブが怒鳴った。
「俺が粉と砕いてくれるわ!」
それに対し、灰色のローブ……暗黒大僧正は。
何も言わない。ただ黙っている。
だがやがて、小さく、一度だけ頷くと……そのまま踵を返し、闇の中へと戻って行った。
後には三人が残されるのみ。
赤いローブが溜息をつく。
「……肚の見えぬ方よ」
青いローブは淡々と応えた。
「そんな物を見る必要はない。我らが見るべきは軍の勝利のみ」
黄色いローブが大声で怒鳴る。
「おお、その通り! 半端な中堅国家など、すぐに全滅させてくれるわ。お前達は見ていろ!」
人類の生息圏から遠く離れた、この時代の邪悪の中枢。
吹雪が吹きつける城塞の、その中の奥で。大幹部達による次なる攻撃は、まさに始まろうとしていたのだ。
一年中吹雪が吹き荒れ、それが止んだ時だけ白銀に輝く美しくも生の無き死の幻想世界が姿を現す大地が。
雪と氷と暗雲が覆う、標高四千メートルを超えた、平地としてはこの世界でも最高度となる、誰も顧みない僻地の中の僻地。
そこに巨大な城塞があった。
禍々しく、ねじくれ、悪意と邪悪で塗り固められた、途方もなく巨大な城塞が。
この世界にある国家全ての敵である魔王軍……その首領が住まう城が。
石柱が立ち並ぶ、暗く巨大な、神殿のごとき部屋。
そこに三つの人影があった。
三つとも、背も体格も全く同じに見える。
三つとも、フード付きのローブを身に纏い、顔かたちは全くわからない。
赤いフードローブを纏った者が驚愕し、叫んだ。
「なにぃ!? アルタルフがやられただと?」
青いフードローブを纏った者が静かな声で告げる。
「そうだ。相手は白銀級機率いる二機の改造青銅級機。それに戦艦一隻の小隊だ」
「ぬう……よもやそのような事が……」
動揺を隠せない、赤いローブ。
だが黄色いローブの者は、小馬鹿にしたように笑いを漏らす。
「ククク……アルタルフめ、不甲斐ない。奴は四天王でも最弱……我らの面汚しよ」
三人はそこで会話を止めた。
三人はいっせいに振り返る。闇に閉ざされた部屋の奥を。
そこから乾いた足音を立てて出てくる者を、三人は黙って待っていた。
足音の主が姿を見せた時、三人はいっせいに頭を垂れる。
「「「闇黒大僧正!」」」
三人は足音の主、彼らの主の名を口にした。
その者――闇黒大僧正は灰色のフードローブに身を包んでいた。
他の三人と異なるのは……その周囲の空間が、歪んで見えること。
陽炎のように……波打つように……あるいは色彩が滲んで混ざり合うかのように。
それはその者の放つなんらかの「気」による迫力かもしれないし、本当に空間に干渉する魔力が漏れ出ているのかもしれない。
ただ、他の者とは根本的に何かが違う。
それだけは確かだった。
青いローブが正面を向いて告げる。
「海戦大隊は解体し、他の三軍に配属。黄金級機は我らが奪います。万が一、それより先に完成したならば……」
黄色いローブが怒鳴った。
「俺が粉と砕いてくれるわ!」
それに対し、灰色のローブ……暗黒大僧正は。
何も言わない。ただ黙っている。
だがやがて、小さく、一度だけ頷くと……そのまま踵を返し、闇の中へと戻って行った。
後には三人が残されるのみ。
赤いローブが溜息をつく。
「……肚の見えぬ方よ」
青いローブは淡々と応えた。
「そんな物を見る必要はない。我らが見るべきは軍の勝利のみ」
黄色いローブが大声で怒鳴る。
「おお、その通り! 半端な中堅国家など、すぐに全滅させてくれるわ。お前達は見ていろ!」
人類の生息圏から遠く離れた、この時代の邪悪の中枢。
吹雪が吹きつける城塞の、その中の奥で。大幹部達による次なる攻撃は、まさに始まろうとしていたのだ。
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