フェアリー・フェロウ~追い出されたフーテン野郎だが、拾い物でまぁなんとか上手くいく~

マッサン

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1章

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 その日の朝。ガイは下町の安宿で目を覚ました。
 窓から射す光が快晴を告げている。

(今日から俺一人か)
 天気に反してどんより曇った胸の内で考えながら、ガイは寝床から起き上がった。

(まさかタリンが俺の職業クラスと役割を全く理解してないとはなあ‥‥いや、薄々そうかもと思う時もあったけど)
 装備を身に付けながら、貴族お抱えの聖勇士パラディンに媚びへつらっていた両手剣の戦士――元パーティリーダーのタリンを思い出す。
 ぐいぐいと皆を勢いで引っ張ろうとする性格だからリーダーの座にいたが、あまり考えの深いタチではなかった。

 それにしても、工兵エンジニア職業クラス特性は何度も説明したのだが‥‥。

 それとも、あれは英雄候補にして既に手柄も立てている聖勇士パラディンを前に舞い上がっていたという事だろうか。
 聖勇士パラディンの存在‥‥そして彼らを強者たらしめるパワーについて、自分の掌を見つめて考えた。
異界流ケイオス‥‥か。俺にももう二、三レベルあれば、出て行けとは言われなかったかな? ケイオス・ウォリアーの操縦はできるんだけど)


 異界流ケイオスとはこの世界に存在する事で住人達が持つ、内的なエネルギーである。他の世界で氣・オーラ・プラーナ等と呼ばれる物に近い。
 無論、そのパワーはインタセクシルの住人も持っているが――この世界の召喚魔法はそれを高く持つ者を厳選して召喚するので、聖勇士パラディンと呼ばれる転移者達は、この世界の住人の何倍もの能力を発揮する者達が大半なのだ。

 それを計測し、数値化する技術がこの世界にはある。
 ガイもその計測を受けた事があるが、結果は0~9の10段階評価で「1」だった。
 とはいえこの世界の住人の大半は0か1なのである。2以上あるのは、聖勇士パラディンかその血をひく混血だけだ。


(ま、仕方ない。どう身を振るにしろ、珠紋石じゅもんせきの在庫は増やしておくか)
 ガイは気持ちを切り替え、背負い袋の中の備蓄を確認した。そこには色とりどりの小さな結晶が入っている。すぐに使う物は、ベルトに吊るしてある別の小袋にも。
 これら【珠紋石じゅもんせき】はガイにとっての武器なのだ。


 魔法を封じ、呪文と同じ効果を発揮する道具は古来より多い。
 その一種が【珠紋石じゅもんせき】で、投げつける事で封じられた呪文を解放する消耗品である。魔法のポーションや巻物と同じような道具だが、消費期限も無いし字を読む必要も無く、小さくて量を持ち運べる。
 この世界ではポピュラーな道具で、町の道具屋や魔法店に行けば何種類かは売っている物だ。


 そして【珠紋石じゅもんせき】の素材を探すスキルも、採取するスキルも、制作するスキルも、ガイは全て習得していた。
 工兵エンジニア職業クラス特性には消耗品の製作もあり、ガイは【珠紋石じゅもんせき】関連を中心にそれらを学んでいた。
 背負い袋の中身も、大半は自分で作った物なのだ。


――郊外の山中――

 ガイは一人、木に登り、崖を超え、水の中をさらって素材を集める。
 野外での行動はガイの得意分野だ。

 しかし今は独りである。戦闘は避ける事にしていた。貴重な素材には手強いモンスターを倒して得る物も多いが、今回は考えない事にする。
 そうするとどこでも売っている低レベル呪文の珠紋石じゅもんせきの素材が中心になってしまうが‥‥それも今はやむなし。この世界の魔法は難易度や威力でレベル1~7の7段階に分けられているが、1~2レベル呪文の効果でも、数あればそれなりに役に立つ。

 と思いきや。
 意外にも中級の品を作るための素材もそこそこ見つかるではないか。
 崖の上に咲いていた黄電草を刈りとり、布で包んで背負い袋に仕舞う。町で他の材料を買い足せば、電撃属性のレベル3~4呪文を発動する珠紋石じゅもんせきを店売りの二、三割の値段で作る事ができる。
(今日は豊作だな。最近、採集に来る奴は減っているんだっけ)
 ガイは崖の上から町を眺めた。


 聖勇士パラディンのシロウが召喚されたのは、何年も前に現れて人類へ攻撃を開始した魔王とその軍に対抗するためだ。
 彼が召喚されてから、カゲウス子爵はその補佐として冒険者パーティを勧誘しだした。
 そこで手柄を立てれば領主の軍で相応の地位につける。運に恵まれればそのまま貴族社会への道も開ける可能性が‥‥。
 町の冒険者達は、名声になる仕事を一つでもこなそうと一生懸命になっていた。

 ガイ達のパーティーは中古の量産品とはいえ、ケイオス・ウォリアーを一台持っていた。それで大型の魔物を退治した事も少ないながらある。
 そのおかげで掴めたチャンスだ。他のメンバーの目の色が変わっても仕方が無い。もし出て行けと言われたのがガイ以外だった場合、果たして味方をしてやれたか?

 それを考え‥‥ガイは溜息一つで「仕方ないか」と呟いた。


 気を取り直し、ガイは素材の探索を開始する。
(ま‥‥俺みたいに丸一日を費やす奴は、元々あの町にはいないけど)
 アイテム収集・作成に加え、【道具効果増幅】のスキルまで持つ職業クラス。そんな物に就いている冒険者はごく少数派だ。田舎にはいない事も珍しくない。
 ハアマの町にはガイ一人だった。


――数刻後、山中の森の中――


(おかしい。なぜレアな素材がこんなに多いんだ?)
 何種類かの貴重な素材を順調に拾い続けたガイは、かえって不気味な物を感じていた。どれもこの山では初めて見る物ばかりである。
 何か異変でもあったのだろうか?
 しかし次の身の振り方に悩む今、中級のアイテム素材は魅力だ。

 装甲劣化呪文の素材になる砕金岩の欠片を手に、ガイは肚をくくった。
(ええい、ままよ!)
 そのまま山の奥へと進む。


――山中の森の奥――


 ガイは異様な場所を見つけた。
 森の中に広場があるのだ。中心にはクレーターがあり、その周辺では木が折れて倒されている。
 クレーターの中心には‥‥
「なんだ、ありゃあ!?」
 思わず声を出すガイ。

 中心には、焼け焦げた材木と、虹色の光彩を帯びた植物の実が落ちていた。

 警戒しながらガイは実に近づく。
 クレーターの端から窺い、慎重ににじり寄り、棒でつつき、手袋をしてから手に取って、匂いを嗅いで、指先を露出させて触れ、その指を舐めてみた。

(毒は無い。絶対に値打ち物だ。けど‥‥)
 メロンほどの大きさの、リンゴか梨のような虹色の実。ケイオス・ウォリアーに使う魔法の機器には似たような輝きを帯びる物もある。
 それを手に、足元の焦げた木片を、クレーター外の薙ぎ倒された木々を見渡した。
(天から落ちてきた、とでもいうのか?)

 そこで実の中から何かの感触を感じる。
 これは‥‥
(中に何か、いる!?)

 逡巡した後。
 ガイはクレーターから出てナイフを手にした。
 そして実の皮にそっと切れ目を入れてゆく。

 中に生き物がいるなら、今出した方がいい。
 もちろん危険の可能性は考えた上で、だ。
 帰還中に背負い袋の中から不意打ちされては危ない。そして危ない生き物を町中で解放しては迷惑がかかる。
(だったらここで‥‥)
 それなら最悪、犠牲者は一人だ。

 そして実の皮が切れて、中身が見えた。
 中身もゆっくり目を開け、ガイを見て‥‥縮めていた体を伸ばし、実の外へ身を乗り出す。
 それを前にガイは思わず声に出した。

「妖精!?」

 虹色の光彩を持つ翅をゆっくりと広げ、全裸の小さな女の子がガイを見上げていた。
 長い緑の髪と蒼い瞳をもつ妖精の少女が。
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