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1章

3 旅立ち 1

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――山間の街道――


 ガイは肩越しに振り返り、ハアマの町を眺めた。
 今朝早くに出た町を。

 ガイは大切な物全てを背負い袋へ詰め、持ち出せない物は全て処分してきた。二年以上拠点にしてきた町へ、別れを告げて旅に出たのである。
 過去の自分と決別し、面倒な連中と離れるために。
(心機一転、新天地でやり直す。新たな旅立ちだ)

 同行者は妖精のイムのみ。彼女は決意漲るガイの肩に腰かけ、足をぶらぶらさせていた。
「いつか戻ってきて、イムの事も調べ直そうな」
 ガイがそう言うと、イムは笑顔で大きく頷いた。


――街道沿いの山中――


 怒りと落胆のあまり、魔王軍の雑兵どもから戦利品をかき集める事を忘れていたガイは、せっかく合成した珠紋石じゅもんせきのほとんどを無駄に消費してしまった。
 よって旅のペースを落とし、街道を外れては山に入って石の素材になる物を集める事にしたのだが――

「‥‥なんでこんな貴重な物がホイホイ見つかるんだ?」
 愕然とするガイ。
 イムはやはり積極的に手伝ってくれて、素材になる物を見つけては報せてくれた。
 すると出るわ出るわ、各種の魔法属性を持つ鉱石、薬効の高い草花に果実、滅多に見ない小動物や昆虫。
 イムを見つけた山には及ばないが、戦闘なしで集まる分としては考えられない貴重な素材の山が。

(なんか‥‥俺の知らない所で妙な事でも起こったのか?)
 ちょっと不安になるガイだが――やはり背に腹は代えられない。貴重な品を背負い袋に詰めながら、イムを見上げて礼を言う。
「ありがとうな。イムは幸運を呼ぶマスコットだぜ」
 褒められたイムは嬉しそうに宙で踊り出した。それを見ているとガイの胸にも暖かい物が湧いてくる。
(損得よりも有難いものがある、かな)
 荷物は増えても足取りは軽くなった。


――翌日――


 街道脇で野宿してから、昼前に最後の山を越える。
「イム、そろそろヤーヅの町が見えるぞ」
 ガイは斜面の向こうを指さした。

 イムを肩に乗せて町を見下ろすガイ。ヤーヅの町は――燃えていた。

 身長18メートルに達する巨人が十機以上、入り乱れて戦っている。生体素材のボディに金属の鎧を身に纏う、人の乗る人造の巨人‥‥ケイオス・ウォリアーが。
 剣といしゆみで武装した巨人型、牙を剥く狼男型、大砲を担いだ甲虫戦士型、爪で切り裂くトカゲ人型‥‥いずれも量産型の機体である。
 その一派は魔王軍の旗の下、町を攻めている。
 それを必死に迎え撃つのは町の防衛隊。
 巨人の周囲では百人以上の歩兵達がぶつかり合っている。
 町の壁は破壊され、外と中で火の手が上がっていた。

いくさだってぇ!?」
 目を丸くするガイ。呆然と眺めていたが、やがて我を取り戻す。
(やべぇ! 巻き込まれるわけにはいかないぞ)
 ガイとてケイオス・ウォリアーがあれば乗れるが、パーティ唯一の機体――中古の量産機は当然パーティの連中が持って行った。
 仕方なくガイは街道を別方向に進む。次に近い町へと。


――翌日――


 街道脇で野宿してから、昼前に最後の山を越える。
「イム、そろそろクヤチマの町が見えるぞ」
 ガイは斜面の向こうを指さした。

 イムを肩に乗せて町を見下ろすガイ。クヤチマの町は――燃えていた。

 やっぱり魔王軍の旗の下、町を攻める量産型ケイオス・ウォリアーの部隊。
 当然それを必死に迎え撃つ、町の防衛隊の量産型ケイオス・ウォリアー部隊。
 当たり前だがそれらの周囲で戦う歩兵達。
 ここでも町の壁は破壊され、外と中で火の手が上がっていた。

「あそこでもいくさだってぇ!?」
 目を丸くするガイ。呆然と眺めていたが、やがて我を取り戻す。
(まさか、俺が旅している間に魔王軍が総攻撃でもかけてきたってのか!?)
 仕方なくガイは街道を別方向に進む。次に近い町へと。


――荒野の街道、川沿いの道――


 大河に沿って荒野の向こうへ続く道をガイは行く。この川はケイト帝国を支える生命線の一つ。生活用水としてだけでなく、普段から様々な船が上下流へ行き来し、人と物を運んでいる。
 なのに今日は船を見ない。

(やはり何かあったのか?)
 ガイが考えていると、上流から何かが流れてくるのが見えた。
 船か‥‥と思いきや、大きな残骸である。しかも一つや二つではない。それが何か、工兵エンジニアの知識でガイにはわかった。

「これ、ケイオス・ウォリアーの部品!? なんでこんな物がここに?」

 破壊された量産型機とその部品が、列をなすかのごとく流れてくる。この川沿いのどこかで規模の大きい戦闘があったのだ。
 そしてガイはその残骸の中に、馬車ぐらいの大きさの甲虫を見つける。改造されたその甲虫の機能も、工兵エンジニアの知識の中にあった。

(逃走用の小型機‥‥という事は、中に誰かいるのか?)

 大きな残骸を足場に、甲虫へ跳び乗るガイ。
 そのハッチは外からでも開いた。操縦席には誰もいないが、座席後部の奥には中で人が横たわれるほど大きい金属の箱がある。

(仮死状態にしての延命装置! こりゃあ普通じゃないぞ)
 ガイは座席に座ると機体を操縦し、岸の上に上がらせた。


 陸上に着いてから、ガイは箱を開けにかかる。蓋は閉じられていたものの、鍵はかかっていなかった。操縦者がいない事といい、脱出ポッドとして使われたのだろう。
 蓋を開けると――

 中には若い女性が眠っていた‥‥!
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