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1章
3 旅立ち 2
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脱出用の小型機の中で眠っている女性。
(何かの罠、なんて事はないだろうけど‥‥)
そう思いつつも、ガイは女性をまず観察した。
歳は二十ぐらいか。色白で奇麗に整った容姿の、どこか落ち着きを感じさせる女性だった。長い髪をツーテールに分け、その根元は団子状のシニョンにしてある。
着ている物は‥‥白く簡素な、病院の患者が着るような服だ。
ガイの予想通り、体温は生きている人間と思えないほど低い。箱の中自体がひんやりと冷たい。仮死状態と保存、二つの魔法を長く持続できるようにしてあるのだ。これにより何ヵ月もの間、箱の中の人物は眠り続ける事ができるのである。
こんな延命装置を使えるのは、結構な財力のある証拠だ。
そして使っているという事は、救助の宛てが無い状況から脱出してきたという事であろう。
ガイはこの状態から救助する方法を必死に思い出した。
本来は仮死状態にする魔法を解除するのだが、そんな魔術は習得していない。となると‥‥とにかく体力を回復させるしかないだろう。
(ポーション造りはあんまり得意じゃないんだけど‥‥)
そう思いつつも、ガイは自作の物からできるだけ強力な効果のポーションを惜しげもなく女性に使った。
やがて女性がかすかに呻き、ゆっくりと目を開ける。
横たわったまま呆けて空を眺めている女性に、ガイは声をかけた。
「気がつきましたか?」
「ここは‥‥?」
そう呟きながら、女性はのろのろと身を起こした。
座ったまま、なおも呆然としている女性‥‥ガイは話しかけてみる。
「えっと‥‥貴女はどこのどなたでしょうか?」
女性はガイを見つめた。深い泉のような大きい瞳は、ガイの奥底まで見通すかのようだ。なんだかそわそわしてしまうガイへ、女性は訊いた。
「‥‥どこなの?」
「え?」
それを聞きたいのがガイなのだが‥‥女性は頭を抱える。
「わ、わからない‥‥私はどこの誰? 何か、手がかりは‥‥」
ガイは困って頭を掻いた。
(記憶喪失か! 仕方ないのかもな)
正しい蘇生手順ではないので、低確率ながらちょっとした後遺症が出る可能性はあったのだ。
しかし困った事である。
ガイの手持ちにも、恐怖や混乱など、呪文や魔物の特殊能力で起こる状態異常を回復させる薬はある。
しかし記憶喪失を治す物となると、流石に持ってはいない。
とはいえこの女性の記憶喪失は深刻な物ではなく、いずれは回復する筈なのだが‥‥。
(何か思い出すきっかけを探すほうが建設的だな)
そう判断し、ガイは脱出機の甲虫をよく調べてみた。家紋か何か、手がかりがある事を期待して。
確かに何かの紋章らしき物はあった、筈なのだが‥‥擦れて傷が入ってしまい、判別できない。
操縦席や箱の中を調べてみた。
結果‥‥小さな巾着が一つ落ちていた。「ミオン」と名前が刺繍されており、中には――小粒の宝石がいくつも入っていた。
腕組みするガイ。
「この巾着は君の物かな? じゃあこれが名前か」
「他に私みたいな人は?」
女性が訊くが、ガイは頭をふる。
「見当たりません。あ、けど、聞けばわかると思います」
「誰に?」
尋ねる女性に説明する。
「近くの町の、代官か貴族に。こんな機体を持っているのはまず行政か富裕層ですし、巾着の中に高価な物が入っているのも相応の身分だからでしょう」
そう言ってはみたが、そのままガイが顔を顰める。
「‥‥でもなんか、あちこちで戦になってるみたいなんですよね」
ガイは付近の町で起こっていた事を告げる。
「どうすっかな‥‥」
考え込むガイに、女性の方から提案があった。
「どこか安全な場所に、しばらく身を隠しましょう。その間、貴方が私を守ってくださると期待しても良いのでしょう?」
「俺ですか?」
いきなり頼られて驚くガイ。
だが女性は確信を持って頷く。
「ええ。貴方の知識といい、旅慣れている様子といい、冒険者の方と見たわ。私を護衛する事で利益が見込めるのであれば、貴方は私の味方になってくださるのでは?」
護衛業も冒険者の仕事としてはポピュラーな物だ。彼女が貴族の令嬢であれば、保護して縁者の下へ帰せば謝礼は出るだろう。ガイにしてみれば儲け話である。
だがそれをこの女性の方から持ち掛けて来た事には驚かざるを得ない。
彼女はなぜガイを安全な人間だと判断したのだろうか?
「えと、あの‥‥初対面の人間を警戒はしないんですか?」
正直に訊いてみるガイ。
すると女性は、にっこりと笑顔を見せた。
「貴方が私に狼藉を働く気なら、もうやっているでしょう?」
確かに女性の言う通りだ。金を持っている人間が無防備に気を失い、周囲に見ている者はいないのである。
しかしそれを笑いながら言ってのけるのを見て、ガイは感心するしかなかった。
(肝っ玉の据わった人だなぁ)
「では護衛さん、よろしくお願いします。さて、安全な場所に心当たりはないかしら?」
女性の中ではもう決まった話のようで、ガイに求める意見は今後の予定だった。
ガイも肚をくくる。彼女の護衛を引き受けよう、と。
しかし‥‥大きな戦が起こっているらしいこの状況で、安全な場所とは?
「正直、パッとは思いつきませんね。まぁ‥‥近くの村にでも行ってみましょうか」
この大河に沿って行けば必ず村がある。どうせそれらを通る予定だったのだ。
(何かの罠、なんて事はないだろうけど‥‥)
そう思いつつも、ガイは女性をまず観察した。
歳は二十ぐらいか。色白で奇麗に整った容姿の、どこか落ち着きを感じさせる女性だった。長い髪をツーテールに分け、その根元は団子状のシニョンにしてある。
着ている物は‥‥白く簡素な、病院の患者が着るような服だ。
ガイの予想通り、体温は生きている人間と思えないほど低い。箱の中自体がひんやりと冷たい。仮死状態と保存、二つの魔法を長く持続できるようにしてあるのだ。これにより何ヵ月もの間、箱の中の人物は眠り続ける事ができるのである。
こんな延命装置を使えるのは、結構な財力のある証拠だ。
そして使っているという事は、救助の宛てが無い状況から脱出してきたという事であろう。
ガイはこの状態から救助する方法を必死に思い出した。
本来は仮死状態にする魔法を解除するのだが、そんな魔術は習得していない。となると‥‥とにかく体力を回復させるしかないだろう。
(ポーション造りはあんまり得意じゃないんだけど‥‥)
そう思いつつも、ガイは自作の物からできるだけ強力な効果のポーションを惜しげもなく女性に使った。
やがて女性がかすかに呻き、ゆっくりと目を開ける。
横たわったまま呆けて空を眺めている女性に、ガイは声をかけた。
「気がつきましたか?」
「ここは‥‥?」
そう呟きながら、女性はのろのろと身を起こした。
座ったまま、なおも呆然としている女性‥‥ガイは話しかけてみる。
「えっと‥‥貴女はどこのどなたでしょうか?」
女性はガイを見つめた。深い泉のような大きい瞳は、ガイの奥底まで見通すかのようだ。なんだかそわそわしてしまうガイへ、女性は訊いた。
「‥‥どこなの?」
「え?」
それを聞きたいのがガイなのだが‥‥女性は頭を抱える。
「わ、わからない‥‥私はどこの誰? 何か、手がかりは‥‥」
ガイは困って頭を掻いた。
(記憶喪失か! 仕方ないのかもな)
正しい蘇生手順ではないので、低確率ながらちょっとした後遺症が出る可能性はあったのだ。
しかし困った事である。
ガイの手持ちにも、恐怖や混乱など、呪文や魔物の特殊能力で起こる状態異常を回復させる薬はある。
しかし記憶喪失を治す物となると、流石に持ってはいない。
とはいえこの女性の記憶喪失は深刻な物ではなく、いずれは回復する筈なのだが‥‥。
(何か思い出すきっかけを探すほうが建設的だな)
そう判断し、ガイは脱出機の甲虫をよく調べてみた。家紋か何か、手がかりがある事を期待して。
確かに何かの紋章らしき物はあった、筈なのだが‥‥擦れて傷が入ってしまい、判別できない。
操縦席や箱の中を調べてみた。
結果‥‥小さな巾着が一つ落ちていた。「ミオン」と名前が刺繍されており、中には――小粒の宝石がいくつも入っていた。
腕組みするガイ。
「この巾着は君の物かな? じゃあこれが名前か」
「他に私みたいな人は?」
女性が訊くが、ガイは頭をふる。
「見当たりません。あ、けど、聞けばわかると思います」
「誰に?」
尋ねる女性に説明する。
「近くの町の、代官か貴族に。こんな機体を持っているのはまず行政か富裕層ですし、巾着の中に高価な物が入っているのも相応の身分だからでしょう」
そう言ってはみたが、そのままガイが顔を顰める。
「‥‥でもなんか、あちこちで戦になってるみたいなんですよね」
ガイは付近の町で起こっていた事を告げる。
「どうすっかな‥‥」
考え込むガイに、女性の方から提案があった。
「どこか安全な場所に、しばらく身を隠しましょう。その間、貴方が私を守ってくださると期待しても良いのでしょう?」
「俺ですか?」
いきなり頼られて驚くガイ。
だが女性は確信を持って頷く。
「ええ。貴方の知識といい、旅慣れている様子といい、冒険者の方と見たわ。私を護衛する事で利益が見込めるのであれば、貴方は私の味方になってくださるのでは?」
護衛業も冒険者の仕事としてはポピュラーな物だ。彼女が貴族の令嬢であれば、保護して縁者の下へ帰せば謝礼は出るだろう。ガイにしてみれば儲け話である。
だがそれをこの女性の方から持ち掛けて来た事には驚かざるを得ない。
彼女はなぜガイを安全な人間だと判断したのだろうか?
「えと、あの‥‥初対面の人間を警戒はしないんですか?」
正直に訊いてみるガイ。
すると女性は、にっこりと笑顔を見せた。
「貴方が私に狼藉を働く気なら、もうやっているでしょう?」
確かに女性の言う通りだ。金を持っている人間が無防備に気を失い、周囲に見ている者はいないのである。
しかしそれを笑いながら言ってのけるのを見て、ガイは感心するしかなかった。
(肝っ玉の据わった人だなぁ)
「では護衛さん、よろしくお願いします。さて、安全な場所に心当たりはないかしら?」
女性の中ではもう決まった話のようで、ガイに求める意見は今後の予定だった。
ガイも肚をくくる。彼女の護衛を引き受けよう、と。
しかし‥‥大きな戦が起こっているらしいこの状況で、安全な場所とは?
「正直、パッとは思いつきませんね。まぁ‥‥近くの村にでも行ってみましょうか」
この大河に沿って行けば必ず村がある。どうせそれらを通る予定だったのだ。
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