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1章

8 山中の死闘 6

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(いずれまたタリンに会うだろう。次はいつになるのか‥‥)
 悩みながらもガイは皆と一緒に村へ帰還した。
 負傷している者も多かったので、一同はまず村の寺院へ向かう。

 寺院では尼僧にディアが迎えてくれた。
「あ、皆さん。お疲れ様です。ケガをした人は奥へどうぞ」
 そういって奥へ案内する。


 寺院の中では既に治療を受けている者がいた。
 それとは別に、さらに意外な人物が治療の手伝いをしていた。
 驚くガイ。
「ミオン!?」

 そう、ガイの護衛対象にして同居人のミオンだ。
 彼女はガイににこにこと笑いかけながら、治療に使っていた包帯を傍のテーブルに置く。
「何か山の方で騒ぎがあったみたいだから、ガイもここへ寄ると思って。一緒に帰りましょうか」

 そしてガイを驚かせた事がもう一つ。
 寺院で治療を受けていたのは――
「タリン!?」
 そう、先刻まで戦っていた相手だったのだ。
 いずれ会うというガイの予感は、本人にも意外なほどの早さで実現した。

 そして――タリンは泣いていた。
「うおぉ‥‥うおぉ‥‥こんな、こんな事が許されるのか‥‥こ、この女性ひとは‥‥」
 そう言ってミオンを指さす。
 驚き訊ねるガイ。
「え? まさかミオンを知っているのか!?」
「いや、さっき会った」
 かぶりをふるタリン。残念ながら知人ではなかったようだ。

「というかなぜここに?」
 呟くスティーナ。

 なぜタリンがここにいるのか?
 狂乱した農民達に深手を負わされた彼は、一番近くの村へ傷の手当のため転がり込んだのである。
 事情を知らないディアはケガした旅人だと思って手当していただけなのだ。

 そしてタリンは泣いていた。
「この女性ひとが、ガイの! ガイの奥さん! ガイが器量良しのあねさん女房をもらっていやがるぅ! 毎晩、甘々可愛がられてやがるのかぁ!」
 赤くなりつつ焦ってミオンに詰め寄るガイ。
「な、何を教えたんだ?」
「私生活の事は別に何も‥‥。家事は得意ですかと訊かれたから、毎晩頑張ってます、と答えたけど」
 戸惑いながらミオンがそう言うと、一転、怒りで顔を真っ赤にしつつガイはタリンへ怒鳴る。
「じゃあお前の勝手な想像じゃねぇか!」

 するとタリンは。
 泣きべそかくのをやめ、ガイを鋭い目で睨んだ。
「でもお前のさっきの態度だと、人に聞かれたくない事ありありなんだろ」
 目を逸らすガイ。
「‥‥まぁそれは」
「新婚さんだもんね。想像通りです、と言うしかないわ」
 くすくすと悪戯っぽく、ミオンは笑った。

 ギリィ、と歯ぎしりするタリン。
「膝枕で耳かきやってんだ!」
 ミオンはクスリとほほ笑む。
「してるわねぇ」
「う、まぁ‥‥」
 ガイは非常にやりにくそうに目を逸らした。

 ギリィ、と歯ぎしりするタリン。
「風呂上りに肩寄せあって星を眺めたりするんだ!」
 ミオンはクスリとほほ笑む。
「そのままベッドまで運んでもらう時もあるわね」
「ミオンが寝そうな時は仕方なく‥‥」
 ガイは非常にやりにくそうに目を逸らした。

 ギリィ、と歯ぎしりするタリン。
「朝食は裸にエプロンで作ってるんだ!」
 ミオンはクスリとほほ笑む。
「下着ぐらいは着ますって」
「服着てからでいいって俺は言ってるし!」
 ガイはおおいに焦って叫んだ。

 タリンは勢いよく立ち上がる。
「うおぉぉ! ゆ、許せねー! こんな酷い事があっていいのか! 神も仏もありゃしねぇ!」
「お前は神仏に何を望んでいるんだよ! 女が欲しければリリでも持って行け!」
 ガイは元パーティーメンバーの女神官を指さした。
 さされた本人は露骨に顔をしかめて嫌がる。
「えー‥‥魔王軍の女の足ナメてた人とヨリは戻したくないなぁ」

 まぁそんな昔のオンナは目に入らないようで、タリンは両の拳を震わせた。
「オレは激怒した! 必ず、この 邪智暴虐じゃちぼうぎゃくの野郎を抹殺すると決意した!」
「自分が女好きなクセに、他人に女がいたら腹立てるのかよ」
 嫌悪感丸出しで呟くガイ。
 だがタリンはその両目に憎悪の炎を燃え上がらせるのだ。
「オレの今までの女全部合わせたより上物じゃねぇか! チクショウ! 地上は滅びるぞ! 俺の恨みと怒りでな!」

「その前にアンタが滅びろや」
 こき降ろされたも同然のリリが怒りのメイスを振り回す。
 それを大慌てで転がり逃げ回って、タリンは捨て台詞を吐いた。
「くそぅ! 癇癪おこる! 今日の事を忘れるんじゃねぇぞ!」
 そのまま寺院から走って出ていく。
 狂戦士化バーサークから冷めた村人達はそれを止める事もできず、むしろ慌てて避けてしまう。

 こうして魔王軍に寝返ったタリンは姿を消した。
 再びガイの前に立ち塞がる、その日まで‥‥


 それを見送ったイムが首を傾げる。
「あの人、なんで怒ってたの?」
「わからない方がいいよ」
 疲れきった顔でガイはそう呻いた。
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