フェアリー・フェロウ~追い出されたフーテン野郎だが、拾い物でまぁなんとか上手くいく~

マッサン

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2章

21 魔の領域 8

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 戦いが終わったガイ達は一先ず魔物の居留地へ戻った。
 魔物達がどう出るかと多少警戒はしたが、ダブルヘッドオーガの村長はにこやかに――オーガーなので凶悪なツラだが――出迎えてくれる。
「「いや皆さんお強い、流石です。この居留地を預かる者として頼もしく思いますぞ」」
 そこに敵意はいっさい見られなかった。

「あの影針えいしんという暗殺者について、知っている事を全部教えて欲しい」
 ガイがそう頼んでも、村長は二つの笑顔で頷く。 
「「承知しました。この居留地への被害を顧みなった時点で奴とは敵同士。ぜひ息の根を止めてくだされ」」
 そう前置きしてべらべらと喋り出す村長。

 結局、目新しい情報は無かったが……。

「「機体の修理と補給もやりましょうか」」
 さらにガイ達――というよりポリアンナに、村長は自ら申し出た。
「……それは街で行う事にする」
 そう言ってポリアンナが断わっても腹を立てはしない。
「「それは残念。ならば資金をいくらか包みますので足しにしてください」」
 自ら金目の物を渡しさえしたのだ。


――荒野を行くゾウムシ型運搬機の中――


「あの居留地の奴らは人間社会でやっていくつもりで、残党とは完全に別口になったのか?」
 街への帰路、ガイは疑問を口にする。
 それにあっさり頷くレレン。
「おそらくな。エイシンとは昔の同僚、それ以上ではない。滅んだ魔王軍にも別に未練は無いだろう」

 客人に用事があると言えば会わせてはやるし、戦うのも勝手にすればいいと考える。
 だがポリアンナには手出しをさせないし、居留地にも被害を与えるような戦法をとった今でははっきり敵視している。
 居留地の魔物達にとっては魔王軍残党はその程度の相手なのだ。

 だがそれを聞くとポリアンナは顔を歪めて額を抑えた。
「ならば人間社会に同化してくれればいいのですが……彼ら、街では暴力沙汰や窃盗が日常茶飯事なのです」
「他の社会を尊重しようという気は別に無い奴らばかりだからな。この世界の下級の魔物は、基本、強い奴が大将でそいつに従っているだけだ」
 そう言うレレンもかつて魔王軍でそういう連中を使っていた身なので、ちょっとバツが悪そうだった。


 神話の時代から延々と、魔王を名乗る悪の首領が現れてはそれに付き従って人類種族を攻撃し、魔王が敗れると僻地や地下に潜って次の機会に同じ事をする……下級の魔物はそんな生活を繰り返している種族達である。
 共生共存などという考え自体が存在していないのだ。
 そんな思考が芽生えた「異端児」は、彼らの社会から出て行ってしまう。


「あいつらにそのままでいいと、君の兄さんは認めているという事かい?」
 ガイの質問にポリアンナの顔はますます渋くなった。
「……基本的には。人間の街には人間の掟がある、と口頭では伝えた筈ですが……実際に取り締まろうとはしていません。けれど私が治安維持に乗り出す事は、知っても止めませんでした。留守にする事も多くて、兄が何を考えているのかもう私には……」
 苦悩する彼女に、側の席から呑気な声をかけるタリン。
「まぁ操られているなら何も考えてないんじゃねーか?」
 言っている事は呑気どころではないが。

 ポリアンナの顔はますます沈む一方だ。
「その黒幕を両親が知っている……そんな事、信じられませんが……」
「あの村長が嘘吐いてるのかもしれんぜ。心の中を読む魔法の珠紋石じゅもんせきは作ってねーのかよ?」
 タリンの質問はガイに向けられた。
 腕を組んで「ううむ」と考えるガイ。
「正直、作ろうとは思った。今回は黒幕がどこに潜んでいるかわからないからな。けれど材料の都合がつかなくてさ……」

 特殊な魔法には希少な素材が要る。
 植物由来の物ならほぼ無制限に入手できるようにはなったが、それ以外の、流通する数の少ない物となるとやはり難しい物も有るのだ。


――サイーキの街、治安維持部隊の本部――


 街に戻ると遅い時刻になっていたので、ガイ達はポリアンナの勧めもあって本部に泊めてもらう事にした。
 この国に入っている事を魔王軍残党に知られている以上、街の宿に泊まるのは危険と判断したのだ。

 夕食。食堂ではなく泊まる部屋にテーブルを持ち込み、一同皆で食事をとる。
 そうしながらシャンリーはここに来た経緯をポリアンナに話した。

 自分が魔王軍との戦いで記憶を失った事も、奇妙な縁でガイと行動を共にしている事も。

「そんな事になっていたんですか……」
 話の最中ずっと目を丸くしていたが、ポリアンナは納得したようだった。
 ケイト国の部隊をシャンリーが連れていない事も。
「ええ。ちょっと複雑な状況だけど、滞りなく侯爵夫婦に会えないかしら」
 そのシャンリーの意見にポリアンナは頷く。
「わかりました。一刻を争いますし、なんとかします」


――本部の庭の片隅――


 夕食後。
 ガイはイムを連れて庭の隅……小さな林にいた。
 月光の中、樹木に手を触れる。すると枝が見る間に実をつけた。
 サクランボの実が、いくつか。その樹木はサクラとは無関係な品種なのだが。
 イムはそれをもぐと、嬉しそうに食べ始めた。

 微かな足音を聞きつけて振り返るガイ。
 樹木の陰にスティーナが現れた。

「どうした? シャンリーさんが俺を呼んでるのかい?」
 自分を探しに来たのだろうと判断し、ガイは声をかける。
 だがスティーナはかぶりを振った。
「いいえ。ポリアンナさんと今後の相談をしています」

 それを聞いて、ガイはケイト帝国が壊滅する前に聞いた噂を思い出した。
「帝国のお姫さんは政治にも関わってなさると噂に聞いた事はあるけど、あれなら嘘でもないんだろうな」
 そんなガイをスティーナは大きな瞳で窺う。
「……いいんですか? 前と変わった気がしますけど」
「そりゃ変わるだろ。記憶が戻ったんだから」
 当然の事なので当然のように答えるガイ。

 だがスティーナは、やはりガイを窺っていた。
 一生懸命、何かを見通そうとして。
「師匠もちょっと……その……」

「肉体が変わったら、そりゃ精神も影響を受けるさ」
 ガイはそう答えておいた。
 だがそれはスティーナの求める言葉では無かったようだ。
「夫婦じゃなかった事はわかりました。けれど……不自然に思わないぐらい、二人は仲が良かったように見えました」
 彼女はそう訴える。
 頷くガイ。落ち着いて静かに告げた。
「俺は仲良くさせてもらってたよ。、シャンリーさんの事は好きだな」

 それも恐らくスティーナの求める答えではないだろうと、薄々思ってはいたが。

「変わりましたね、師匠」
 小さく。ぽつりと。そう呟いて。
 スティーナは一礼し、くるりと背をむけ、暗い林の中を静かに歩いて、明かりの灯る本部へ去って行った。


「?」
 スティーナの背を見送りつつイムが首を傾げる。彼女にはスティーナが何を言いたいのかわからないのだ。
 ガイの方は……自分の掌を見つめていた。
(正直、何とも言えない違和感が……少し、無いでもない)
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