フェアリー・フェロウ~追い出されたフーテン野郎だが、拾い物でまぁなんとか上手くいく~

マッサン

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2章

22 ホン侯爵家 1

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――ホン侯爵家――

 大きな石造りの防壁に城下町ごと囲まれた城塞都市。その奥に侯爵邸があった。
 ガイ達を引き連れ、ポリアンナは警備の兵達に有無を言わせず街の中へ、侯爵邸の中へと押し通る。
 戸惑う兵達を振りきり、侯爵の私室へと真っすぐ向かった。

「父上! 母上! ポリアンナが戻りました!」
 大きな声で告げ、ノックもそこそこに部屋へ入るポリアンナ。
 上質だがあまり飾り気は無い調度品の並ぶ部屋に、上品な初老の夫妻がいた。
 
「どうした? 何やら荒れているようだが」
 戸惑いながら訊くホン侯爵。
 厳めしい顔と歳のわりには広い肩幅が、若い頃は武術をたしなんでいたのだろうと思わせる。
 だが鋭いその目は、すぐに驚愕で見開かれた。
「し、シャンリー様!?」
「生きておられたのですか!」
 夫の後ろで奥方も仰天する。
 世間では魔王軍の手にかかって死んだと言われているのだ。当然の反応だろう。

 そんな二人に礼儀正しく一礼するシャンリー。
「お久しぶりです、侯爵殿」
 その声、そのふるまい。
 それだけで侯爵夫妻はこれが本物である事を確信した。

 混乱冷めやらぬ夫婦に娘のポリアンナが訴えるかのように訊く。
「もし私の間違いでしたらお叱りください。兄上は……もはや人ならざる物なのですか!?」

「そうか。知ったか」
 その呻くような一言。
 蒼白な顔色。
 後ろで「ああ!」と嘆く夫人。
 それらでポリアンナは事実を察した。
「そんな!」
 魔物にたぶらかされているのでは、というは、あっさり打ち砕かれた。


「ホン侯爵家もここまでか……」
 そう言って侯爵は側の椅子に腰かける。
 深々と溜息を吐いたその顔は、一気に何年も老け込んだかのようだ。
 たまらなくなってポリアンナが父に詰め寄った。
「兄上が魔王軍に降ったのは、勝ち目無しと判断して、家と領民をせめて戦火から守るために恥を飲んだのだと思いました。けれど違ったという事ですか! 密かに始末され、おぞましい不死者アンデッドにされて、操り人形にされていたと。そうだったのですか!」
 侯爵が跳ねるように顔を上げた。
「おぞましいなどと言うな!」
 一喝。
 若い頃に鍛えていた体からの怒鳴り声は部屋中を揺さぶった。

「!?」
 わけがわからず硬直するポリアンナ。
 彼女だけではない。ガイ達一行も、自分が怒られたわけではないのに動きを止めていた。
 それを見た侯爵が再び項垂うなだれる。
「……すまない」
 先ほどが嘘だったかのように、声から力が失われた。
「全ては、私が無知だった故なのだ」


 しばらく沈黙した後。
 侯爵は力なく顔をあげる。
「シャンリー様。帝国はこの侯爵家とあの子……ユーガンの事を、どこまで知っておられますか?」

 問われたシャンリーはややゆっくりと話し出す。この部屋にいる皆がちゃんと聞き取れるように。
「大昔、ケイト帝国を蹂躙した魔竜ラヴァフロウを討伐した聖勇士パラディンがいました。それが帝国の皇族から妻をもらい、この地を与えられたのがホン侯爵家ですね」

 驚くガイ。
「え? 倒した方?」
 その竜を改造して使っているのが侯爵家末裔だというのに、だ。
 しかしシャンリーは頷いた。
「ええ。表向きは。正確には倒して、この地に……代々それを管理し、研究も続け、いつの日か帝国が使えるようになる事を期待して」

「おいおい……超強え魔物をコントロールしたいとか、それ失敗して惨事になる布石だろ」
 呆れるタリン。
 だがシャンリーは振り返りもせずに告げる。
「似たような封印は帝国各地にあるわ。長い歴史の中で封印した脅威……特別に強大な魔物や暴走した魔法装置とかが。いつか自分達のものにできる日が来るのではないかと。帝国の有力貴族にはその監視者を担っている一族がいくつもあるの」
「あんなドラゴン、どこから持ってきたのかと思ったら……最初からアイツの地元に埋まってたのか」
 レレンは納得していた。

 シャンリーが「ふう」と溜息一つ。
「そして魔竜ラヴァフロウの制御は……魔王軍と結びつき、改造する事で成功したようね」
「帝国が壊滅したんじゃ何の意味が……」
 スティーナが言い難そうに呟いた。

 そこでポリアンナが「はっ」と気づく。
「まさか! 魔王軍と手を組んだのは、魔竜の力を手にするため? 帝国への反意はその前からあったとでも……」


 一同の目が侯爵に注がれた。
 侯爵は床を見つめたまま、力の無い声で話した。
「あったのかもしれんし、魔王軍が切欠で生まれたのかもしれん。あの子は自分の出生で苦しんでおったからな」
 そして顔をあげ、目を向ける。シャンリーへと。
「息子については、どこまでご存じか?」
 動じる事なく真正面から告げるシャンリー。
「数年ぶりに会ったら吸血鬼ヴァンパイアになっていました。帝国にはまだ何も伝えていません」

 侯爵はまた床に目を落した。
 ゆっくりとかぶりをふる。
のではありません。あの子は元から、吸血鬼ヴァンパイアと人の間に生まれた子なのです」
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