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第一章:魔剣いっこ拾う
見覚えのある人とまた会う日
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「あれが残った船で最大の物でしょう。ラストアイランドへ辿り着く事ができる船はあれぐらいかと。しかし船員が集まるかどうか」
バルチェ達を港へ先導してきた騎士が、桟橋に横づけされたまま佇む船を前にし、難しい顔でそう告げた。
騎士の鎧はひび割れている。オウガの一撃による物だ。この騎士、森間の街道で倒された部隊を率いていた男である。
狂信的に王子を讃えていた男が、なぜ今バルチェ達を案内しているかと言うと――
話は森の街道まで一旦さかのぼる。
「そろそろ行きましょうか。この子の親御さんも探さないとね」
ラザリアはエルフの子の手をひき、男達三人を促した。頷く三人。だが騎士長は剣を杖替わりにしてよろよろと立ち上がる。
「王子に盾突いた下郎どもが、このオウセン国を無事に通れるものか。この国の騎士団が総力をあげて貴様らを討ち取るだろう……」
そうは言うものの、本人にはもう戦う力など残っていないのは明白だ。一行は彼を置いてこの場を去ろうとした。だがふとバルチェが仲間へ告げる。
「近くに……誰かいるよ。多分一人。森の中を彷徨っているみたいだけど……」
母方種族譲りの、そして盗賊職で鍛えた知覚力。微かな音と気配で側にいる者の存在を察知した。ラザリアがエルフの子を見る。
「この子の仲間かも。でも敵の可能性を考えたら慎重に近づいた方がいいかもしれないわ」
「敵なら倒せばいいだけだろう。さっさと見極めた方がいい」
オウガはそう言い。森の中へ叫んだ。
「エルフの子ならここにいるぞ!」
いるぞーいるぞーいるぞー……昼なお薄暗い森の中を声がこだまする。呆れて溜息をつくラザリア、苦笑するバルチェ。
「さて、鬼が出るか蛇が出るかですが……」
アーサーはメガネを弄りながら森の奥へ目を向けた。
ややあって木陰に姿を現す者が一人。それは――期待通り、エルフの女性だった。
白い肌に緑の髪、優しく穏やかで大きな瞳。見た目は人間なら二十あたりといった所だが、なにせ寿命の長い種族なので実際の所はわからない。ゆったりした下着に薄桃色の外套を羽織っていた。
女性は木陰から警戒していたが、子供の姿を見とめると、決意した顔でゆっくりと出てきた。
「その子――ルルは私の娘です。こちらへ返していただけますでしょうか」
「はい! もちろんです」
笑顔でそう言い、バルチェはエルフの子――ルルの肩を優しく押す。ルルは一行を見渡した後、母親の元へ駆け、抱き着いた。母親はルルを優しく抱きしめる……。
「――そうですか。魔王を討伐する勇者様なのですね」
街へ向かいながら、バルチェ達一行はエルフの母娘と互いの身の上を話し合った。母エルフ――名をハルエットという――は、夫を魔王軍の侵攻で亡くしたらしかった。
「世界に平和が戻ればあの人も浮かばれるでしょう。シャイン王子も無茶な政策をやめて、私達も以前のように人間達とお付き合いできるようになると思います。それをぜひ期待させてください」
「はい! もちろんですとも!」
意気揚々とそう返事をした――が、それはバルチェでもラザリアでもない。他の二人でもない。
他の騎士や兵士を置いてのこのこ付いてきた騎士長である。
「あのね、なんでアンタが一緒にいるわけ?」
ラザリアが険悪な目で騎士長を睨んだ。彼はキリッと真面目な顔でハルエットの方を向く。
「むろん、隣人との友愛のためです。我々オウセン国がエルフとの友好を捨てたのはあくまで戦いのための国策。ならば互いの愛のために巨悪を一刻も早く討つのは当然でありましょう。奥さん、私の愛を信じてください」
「は、はぁ……」
ハルエットは困惑して彼の馬を見た。騎士長は今歩いており、馬上にあるのはルルである。幼い娘は鞍の上で無邪気にはしゃいでいた。
「ねえ、こいつ今すぐ叩きのめしてくれない?」
ラザリアが苛々しながらオウガに言う。だが彼はフッと笑った。
「港まで案内してくれると言うではないか。ならばしばらくやらせておこう。裏切って妙な真似をしでかすなら、その時に粉砕すればいい。俺の拳でな」
「まぁ……攻撃してこないなら、こっちからというのもやりにくいよ」
バルチェも一応はオウガに賛成しておく。身分のある騎士が同行していれば、さきほどの揉め事で咎められずに済むのではないか――そんな期待もあった。
「関所が見えてきましたよ」
アーサーが前方を指さす。
街道には当然、地域ごとに関所がある。そこで通行税を取られたり、簡単な検閲を受けたりするのだ。
「――というわけで魔王討伐の勇者一行である。通すといいだろう」
「あっはい」
騎士長が簡単に説明しただけで、金も取り調べも不要だった。
「――というわけで魔王討伐の勇者一行である。通すといいだろう」
「あっはい」
都市の出入りも顔パスだった。
「――というわけで魔王討伐の勇者一行である。通すといいだろう」
「あっはい」
同じようなやりとりを数カ所の関所と都市でやった挙句、目的の港町カタイにも入れた。
「なんか……ちょっと緩すぎないかな」
港町を歩きながら逆に不安になるバルチェ。アーサーがメガネを弄りながら微笑む。
「どうやら身分の高い騎士だったようですね。まだ名前も知りませんが」
「こんなのが高官で、規則丸無視できるなんて……この国、魔王以前に長くないんじゃない?」
呆れるラザリアの視線の先には、戸惑うハルエットにクソ真面目な顔で話しかける騎士。
「奥さん、この港町も魔王が現れる前の半分も活気がありません。魔王が海の向こうにいるために魔物が増え、漁や貿易に大きな支障が出ているのです。私の親がこの街に別荘を持っているので子供の頃から親しんだこの街を、私も救いたい気持ちでいっぱいなのです。ところで奥さん、その別荘に来ませんか。見晴らしの良さは今でも自慢できますし、温泉も湧きます。家の金で良い魚も取り寄せられます。ゆっくりしていってくださって結構、なんなら一生――」
「あの……港に案内してくれるんじゃ……」
バルチェが騎士をつついた。
「ん? ああ、別荘は諸君が船出した後だ。心配はいらない」
真面目な顔で騎士は言う。ハルエットの方から振り向かないまま。げんなりするラザリア。
「子供を追い回していたくせに、よくもまぁ堂々と色目使えるもんだわ……」
「フフ……人間としては褒められませんが、我々も彼が同行してからの食事は全て金を出してもらっていますからね。タダで食う飯は美味いもの。完全な人間はいないという事で、少しは愚行に目を瞑っても良いでしょう」
アーサーがメガネを弄りながら微笑む。
「わかったわかった。ほら、もう港が見えたぞ」
面倒くさそうに言う騎士長。指さすその先は広い割に人通りの少ない、活気の無い通りの奥。そこに水平線と波止場、灯台が見えていた。
こうして一行は港へ辿り着いたのだ。
「あれが今使える船で一番大きなリョーハ号だ。だが船員を集めるには時間がかかるようだな」
港の管理所から戻ってきた騎士長が、大きな貨物船を指さして言う。海賊や魔物と戦うためか弩も何基か備え付けてあり、バルチェの目にはなかなか頼もしく見えた。
「時間かあ……それに人を集めるにはお金も必要だね。この街の冒険者ギルドで何かクエストを引き受ける?」
バルチェが皆に相談しようとした、その時。
「カミトのギルドをブッ潰しておいて何を言ってやがる。やっぱり狼藉者ってお前か、バルチェ」
聞きなれた声に話かけられた。
驚いて振り向いたバルチェ。そこいたのは数十名の騎士や兵士、冒険者。それを率いるのは二人の男。片方はよく知る顔だった。
「ザーゴル……何でここに?」
驚くバルチェの呟きに、彼をパーティから追放したリーダー・魔道騎士のザーゴルは歯軋りする。
「カミトのギルドが無くなったから次の拠点を探してたんだよ! 魔王城により近い場所へ移ろうとこの国の都へ来たら、騎士団を攻撃した逃亡犯の追撃で冒険者の募集をしててな。詳細を聞いたらお前らまんまじゃねぇか!」
「ほう? 逃亡犯とはな。だが俺達は逃亡した覚えなど無い。ならば何かの誤解だ、つまり俺達ではない」
オウガが腕組みしながら横目で口を挟む。ザーゴルは頭を掻きむしった。
「騎士団ブチのめしてどこかへ行ったのをそう表現してんだよ! わかれよ! つーかラザリア! お前なんでバルチェと一緒なんだ!? お前、俺の女だろ!」
言われたラザリアはバツが悪そうに目を逸らす。
「そういう言い方、やめてよね。だいたい、あんたと私は……その……」
言葉を探して口籠るラザリア。どうも周囲の目を気にしているようだ。
そこまでのやり取りを見て、もう一人の男が溜息をついた。
「ま、昔の私怨はどうでもいいだろう。我が国で私に盾突いた者がおり、その手に伝説のアーティファクトがある。肝心なのはそこだ」
その男を前に、騎士長が震えた。
「シャイン王子……貴方が自らこんな所へ……」
堂々とした大きな白馬に跨る男。身に着けるは、金と橙の合間のような色合いで輝く魔法合金の鎧。潮風に靡く長い金髪。鋭い目をバルチェ達に向ける美丈夫こそ、この国の王子にして最強の魔法戦士、シャイン=オウセンだった。
「私自ら来もする。伝説の聖魔剣が、しかも複数あると聞いてはな」
その目はバルチェ達に向けられている。美しい瞳に欲望を籠めながら。
「お前が持っても使える物ではないぞ。その男が焼かれた話を聞かなかったのか」
オウガがザーゴルを横目で見ながら言う。しかしシャイン王子はニヤリと冷たく笑った。
「聞いたからここに来たのだ。使うさ。ギアス、フォースト、パワーコントロール……操作系の呪文ぐらい私も知っている。お前の知る誰よりも強力なレベルでな」
傲慢。物事は自分の思い通りになって当然と思っている男だ。
(やっぱり……彼、かな……)
この世界に生まれる前に知っていた、三年間嫌々付き合わされた同級生の事をバルチェは思いだしていた。顔は違う、声も違う、口調も違う。なのにどうしても「知っている」気がしてならないのだ。
シャイン王子は抜刀し、部下と雇われ人達に攻撃を命じようとした。
しかし乱入は二度行われる。
「フヒヒ、大物がおりますね。私も腕がなりまする」
実に嬉しそうに陰湿な声が響く。王子の部下達はその主を探して周囲を見た。しかし揉め事を察し、周囲の人は遠い物陰に逃げている。
「……海だ!」
バルチェが気配を察して叫んだ。途端に海から巨大な頭が飛沫をあげて現れる!
「ご名答! 役立たずだったクセに生意気ですねバルチェ!」
三眼の巨大な海蛇。その頭に乗っている男は――かつてザーゴルのパーティにいた、高位神官のザダラン!
「おや? あの蛇は魔王が海に放った魔物。それに乗っているという事は、あの神官は……」
アーサーの呟きにザダランは笑う。
「そうだ! 役立たずのせいでギルドは壊滅、頼ってやっていたリーダーは何もできずに無様を晒しただけ! 他所のパーティに入り直して新人としてまたコツコツと無能のケガを治してやるのかとムカついていたが……私にも運が向いてきた! 私こそは魔王軍・超魔神大隊最強の戦士、ザダラン!」
ザダランの僧衣は赤字に禍々しい黒い紋様が描かれていた。首からさげる聖印は名状し難き魔界の邪神。
「途中がすんなり行ったぶん、厄介事がまとめて来たわね……」
後ろにハルエット親子を庇いながら、苦い顔でラザリアが呟いた。
バルチェ達を港へ先導してきた騎士が、桟橋に横づけされたまま佇む船を前にし、難しい顔でそう告げた。
騎士の鎧はひび割れている。オウガの一撃による物だ。この騎士、森間の街道で倒された部隊を率いていた男である。
狂信的に王子を讃えていた男が、なぜ今バルチェ達を案内しているかと言うと――
話は森の街道まで一旦さかのぼる。
「そろそろ行きましょうか。この子の親御さんも探さないとね」
ラザリアはエルフの子の手をひき、男達三人を促した。頷く三人。だが騎士長は剣を杖替わりにしてよろよろと立ち上がる。
「王子に盾突いた下郎どもが、このオウセン国を無事に通れるものか。この国の騎士団が総力をあげて貴様らを討ち取るだろう……」
そうは言うものの、本人にはもう戦う力など残っていないのは明白だ。一行は彼を置いてこの場を去ろうとした。だがふとバルチェが仲間へ告げる。
「近くに……誰かいるよ。多分一人。森の中を彷徨っているみたいだけど……」
母方種族譲りの、そして盗賊職で鍛えた知覚力。微かな音と気配で側にいる者の存在を察知した。ラザリアがエルフの子を見る。
「この子の仲間かも。でも敵の可能性を考えたら慎重に近づいた方がいいかもしれないわ」
「敵なら倒せばいいだけだろう。さっさと見極めた方がいい」
オウガはそう言い。森の中へ叫んだ。
「エルフの子ならここにいるぞ!」
いるぞーいるぞーいるぞー……昼なお薄暗い森の中を声がこだまする。呆れて溜息をつくラザリア、苦笑するバルチェ。
「さて、鬼が出るか蛇が出るかですが……」
アーサーはメガネを弄りながら森の奥へ目を向けた。
ややあって木陰に姿を現す者が一人。それは――期待通り、エルフの女性だった。
白い肌に緑の髪、優しく穏やかで大きな瞳。見た目は人間なら二十あたりといった所だが、なにせ寿命の長い種族なので実際の所はわからない。ゆったりした下着に薄桃色の外套を羽織っていた。
女性は木陰から警戒していたが、子供の姿を見とめると、決意した顔でゆっくりと出てきた。
「その子――ルルは私の娘です。こちらへ返していただけますでしょうか」
「はい! もちろんです」
笑顔でそう言い、バルチェはエルフの子――ルルの肩を優しく押す。ルルは一行を見渡した後、母親の元へ駆け、抱き着いた。母親はルルを優しく抱きしめる……。
「――そうですか。魔王を討伐する勇者様なのですね」
街へ向かいながら、バルチェ達一行はエルフの母娘と互いの身の上を話し合った。母エルフ――名をハルエットという――は、夫を魔王軍の侵攻で亡くしたらしかった。
「世界に平和が戻ればあの人も浮かばれるでしょう。シャイン王子も無茶な政策をやめて、私達も以前のように人間達とお付き合いできるようになると思います。それをぜひ期待させてください」
「はい! もちろんですとも!」
意気揚々とそう返事をした――が、それはバルチェでもラザリアでもない。他の二人でもない。
他の騎士や兵士を置いてのこのこ付いてきた騎士長である。
「あのね、なんでアンタが一緒にいるわけ?」
ラザリアが険悪な目で騎士長を睨んだ。彼はキリッと真面目な顔でハルエットの方を向く。
「むろん、隣人との友愛のためです。我々オウセン国がエルフとの友好を捨てたのはあくまで戦いのための国策。ならば互いの愛のために巨悪を一刻も早く討つのは当然でありましょう。奥さん、私の愛を信じてください」
「は、はぁ……」
ハルエットは困惑して彼の馬を見た。騎士長は今歩いており、馬上にあるのはルルである。幼い娘は鞍の上で無邪気にはしゃいでいた。
「ねえ、こいつ今すぐ叩きのめしてくれない?」
ラザリアが苛々しながらオウガに言う。だが彼はフッと笑った。
「港まで案内してくれると言うではないか。ならばしばらくやらせておこう。裏切って妙な真似をしでかすなら、その時に粉砕すればいい。俺の拳でな」
「まぁ……攻撃してこないなら、こっちからというのもやりにくいよ」
バルチェも一応はオウガに賛成しておく。身分のある騎士が同行していれば、さきほどの揉め事で咎められずに済むのではないか――そんな期待もあった。
「関所が見えてきましたよ」
アーサーが前方を指さす。
街道には当然、地域ごとに関所がある。そこで通行税を取られたり、簡単な検閲を受けたりするのだ。
「――というわけで魔王討伐の勇者一行である。通すといいだろう」
「あっはい」
騎士長が簡単に説明しただけで、金も取り調べも不要だった。
「――というわけで魔王討伐の勇者一行である。通すといいだろう」
「あっはい」
都市の出入りも顔パスだった。
「――というわけで魔王討伐の勇者一行である。通すといいだろう」
「あっはい」
同じようなやりとりを数カ所の関所と都市でやった挙句、目的の港町カタイにも入れた。
「なんか……ちょっと緩すぎないかな」
港町を歩きながら逆に不安になるバルチェ。アーサーがメガネを弄りながら微笑む。
「どうやら身分の高い騎士だったようですね。まだ名前も知りませんが」
「こんなのが高官で、規則丸無視できるなんて……この国、魔王以前に長くないんじゃない?」
呆れるラザリアの視線の先には、戸惑うハルエットにクソ真面目な顔で話しかける騎士。
「奥さん、この港町も魔王が現れる前の半分も活気がありません。魔王が海の向こうにいるために魔物が増え、漁や貿易に大きな支障が出ているのです。私の親がこの街に別荘を持っているので子供の頃から親しんだこの街を、私も救いたい気持ちでいっぱいなのです。ところで奥さん、その別荘に来ませんか。見晴らしの良さは今でも自慢できますし、温泉も湧きます。家の金で良い魚も取り寄せられます。ゆっくりしていってくださって結構、なんなら一生――」
「あの……港に案内してくれるんじゃ……」
バルチェが騎士をつついた。
「ん? ああ、別荘は諸君が船出した後だ。心配はいらない」
真面目な顔で騎士は言う。ハルエットの方から振り向かないまま。げんなりするラザリア。
「子供を追い回していたくせに、よくもまぁ堂々と色目使えるもんだわ……」
「フフ……人間としては褒められませんが、我々も彼が同行してからの食事は全て金を出してもらっていますからね。タダで食う飯は美味いもの。完全な人間はいないという事で、少しは愚行に目を瞑っても良いでしょう」
アーサーがメガネを弄りながら微笑む。
「わかったわかった。ほら、もう港が見えたぞ」
面倒くさそうに言う騎士長。指さすその先は広い割に人通りの少ない、活気の無い通りの奥。そこに水平線と波止場、灯台が見えていた。
こうして一行は港へ辿り着いたのだ。
「あれが今使える船で一番大きなリョーハ号だ。だが船員を集めるには時間がかかるようだな」
港の管理所から戻ってきた騎士長が、大きな貨物船を指さして言う。海賊や魔物と戦うためか弩も何基か備え付けてあり、バルチェの目にはなかなか頼もしく見えた。
「時間かあ……それに人を集めるにはお金も必要だね。この街の冒険者ギルドで何かクエストを引き受ける?」
バルチェが皆に相談しようとした、その時。
「カミトのギルドをブッ潰しておいて何を言ってやがる。やっぱり狼藉者ってお前か、バルチェ」
聞きなれた声に話かけられた。
驚いて振り向いたバルチェ。そこいたのは数十名の騎士や兵士、冒険者。それを率いるのは二人の男。片方はよく知る顔だった。
「ザーゴル……何でここに?」
驚くバルチェの呟きに、彼をパーティから追放したリーダー・魔道騎士のザーゴルは歯軋りする。
「カミトのギルドが無くなったから次の拠点を探してたんだよ! 魔王城により近い場所へ移ろうとこの国の都へ来たら、騎士団を攻撃した逃亡犯の追撃で冒険者の募集をしててな。詳細を聞いたらお前らまんまじゃねぇか!」
「ほう? 逃亡犯とはな。だが俺達は逃亡した覚えなど無い。ならば何かの誤解だ、つまり俺達ではない」
オウガが腕組みしながら横目で口を挟む。ザーゴルは頭を掻きむしった。
「騎士団ブチのめしてどこかへ行ったのをそう表現してんだよ! わかれよ! つーかラザリア! お前なんでバルチェと一緒なんだ!? お前、俺の女だろ!」
言われたラザリアはバツが悪そうに目を逸らす。
「そういう言い方、やめてよね。だいたい、あんたと私は……その……」
言葉を探して口籠るラザリア。どうも周囲の目を気にしているようだ。
そこまでのやり取りを見て、もう一人の男が溜息をついた。
「ま、昔の私怨はどうでもいいだろう。我が国で私に盾突いた者がおり、その手に伝説のアーティファクトがある。肝心なのはそこだ」
その男を前に、騎士長が震えた。
「シャイン王子……貴方が自らこんな所へ……」
堂々とした大きな白馬に跨る男。身に着けるは、金と橙の合間のような色合いで輝く魔法合金の鎧。潮風に靡く長い金髪。鋭い目をバルチェ達に向ける美丈夫こそ、この国の王子にして最強の魔法戦士、シャイン=オウセンだった。
「私自ら来もする。伝説の聖魔剣が、しかも複数あると聞いてはな」
その目はバルチェ達に向けられている。美しい瞳に欲望を籠めながら。
「お前が持っても使える物ではないぞ。その男が焼かれた話を聞かなかったのか」
オウガがザーゴルを横目で見ながら言う。しかしシャイン王子はニヤリと冷たく笑った。
「聞いたからここに来たのだ。使うさ。ギアス、フォースト、パワーコントロール……操作系の呪文ぐらい私も知っている。お前の知る誰よりも強力なレベルでな」
傲慢。物事は自分の思い通りになって当然と思っている男だ。
(やっぱり……彼、かな……)
この世界に生まれる前に知っていた、三年間嫌々付き合わされた同級生の事をバルチェは思いだしていた。顔は違う、声も違う、口調も違う。なのにどうしても「知っている」気がしてならないのだ。
シャイン王子は抜刀し、部下と雇われ人達に攻撃を命じようとした。
しかし乱入は二度行われる。
「フヒヒ、大物がおりますね。私も腕がなりまする」
実に嬉しそうに陰湿な声が響く。王子の部下達はその主を探して周囲を見た。しかし揉め事を察し、周囲の人は遠い物陰に逃げている。
「……海だ!」
バルチェが気配を察して叫んだ。途端に海から巨大な頭が飛沫をあげて現れる!
「ご名答! 役立たずだったクセに生意気ですねバルチェ!」
三眼の巨大な海蛇。その頭に乗っている男は――かつてザーゴルのパーティにいた、高位神官のザダラン!
「おや? あの蛇は魔王が海に放った魔物。それに乗っているという事は、あの神官は……」
アーサーの呟きにザダランは笑う。
「そうだ! 役立たずのせいでギルドは壊滅、頼ってやっていたリーダーは何もできずに無様を晒しただけ! 他所のパーティに入り直して新人としてまたコツコツと無能のケガを治してやるのかとムカついていたが……私にも運が向いてきた! 私こそは魔王軍・超魔神大隊最強の戦士、ザダラン!」
ザダランの僧衣は赤字に禍々しい黒い紋様が描かれていた。首からさげる聖印は名状し難き魔界の邪神。
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