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第一章:魔剣いっこ拾う
魔王最期の日
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「こんな事がありえる筈がねぇ! 失敗だ! 魔法が失敗したんだ!」
叫ぶ魔王ヨウサイ。その右目の辺りには真新しい火傷がある。
満身創痍で膝をつき、禿げ頭に網目のごとく青筋を浮かべながら。
「そうなのかどうか……地獄でゆっくり考えるがいい」
オウガは真正面から言い放った。
傷ついている事では対峙している魔王とさほど変わらない。だがその全身には気迫が満ちており、闘気が揺らめく陽炎のごとく立ち昇っていた。
(魔王の、最期だ……)
二人を見つめながら、バルチェはそう確信していた。
オウガが再び立ち上がり、魔王ヨウサイの前に進み出た時。魔王は怒りに目をギラつかせながらも口元には笑みを浮かべていた。
「テメェのしぶとさは確かに見ぬけていなかったな。ああ、認めてやるよ。バカな奴だぜ……また殴られるために立ってくるとはな! いちいち鬱陶しいヤロウだ!」
魔王の掌に魔力の熱が収束する。
オウガは大股で魔王へと歩き続けた。
魔王は魔力の弾を容赦なくオウガへ撃ち込む……!
その弾を、オウガは歩みを止める事なく拳で叩いた。
魔力の弾は派手な音とともに宙で爆ぜる!
爆炎が巻き起こり――そこから、オウガが、速さを変える事なく進み出た。
「な、なにィ!?」
魔王が目を見開く!
先刻までは一撃ごとにオウガを打ちのめし、血反吐をはかせていたはずだ。
だが打って変わってまるで通じないとは――?
ついにオウガが手の届く間合いまで来た。
バルチェは見た。オウガが腰だめに構え、拳を魔王へ打つのを。同時に魔王が巨大な拳骨でオウガを殴るのを。
そして見た。
オウガの拳が魔王の胸板へめり込み、魔王の拳骨は最小限の動きで僅かに避けたオウガの顔の横を掠めるのを……!
「ガハッ!」
魔王が仰け反り、苦悶の声をあげて後ろによろめいた。その胸には痛々しい痣が刻まれている。踏ん張って体勢を立て直し、魔王ヨウサイは怒りで顔を引き攣らせる。
「ありえねぇ! こんな事はありえねぇ!」
たったの一撃ではあるが、オウガの拳は見事に砕いていた。魔王の余裕を、その自尊心を。
「ありえねぇ!!」
魔王が拳骨の雨を降らせ、次々と蹴りを放った。オウガは――
獣のごとく咆哮し、拳の雨を、無数の蹴りを放った!
無数の攻撃が火花を散らして交錯する!
そして、無数の打撃を打ち込まれ、魔王の巨体が吹き飛んだ! 半ばから折れた柱にブチ当たり、それを粉々に砕く! 瓦礫とともに床へ転がる魔王ヨウサイ。
「どういう事だ? 何がどうなってやがる……?」
呻きながら、それでも魔王は立った。
「どうなってやがるー!!」
叫びながら、その掌に膨大な魔力が収束していく。この階を吹き飛ばした爆裂波である。
「吹き飛べぇー!」
再び致命的な破壊力の魔力が爆発した!
その爆発を、オウガは両腕で真っ向から食い止めた! 魔王、驚愕!
「なにィ!? 受け止めるだとぉ?」
「お前のパワーは十分にわかった。お前を倒すならその上を行けばいい事もな……!」
踏ん張りながらそう言い、オウガは両腕に力を籠めた。魔力の爆発が抑え込まれ、腕の間で弾けて消える――! なおも燻ぶるエネルギーの真っただ中で、オウガは再び身構えた。
『どういう事? 魔王とのレベル差は十倍以上あるというのに……』
信じられない光景にラザリアが剣の内から漏らす。
「そうだ、その筈だ。何かが狂ってやがる……」
魔王ヨウサイがそう呟くと、その右目の前に小さな魔法陣が生じた。【スキャニング】の魔法と同じ効果を生み出したのである。そこにはオウガの能力値がレベルとともに映し出されていた。
魔王の目が見開かれる。
全ての数値が目まぐるしく変化していた。150万――200万――300万――500万――恐ろしい勢いでレベルが上昇している!
「こ、こいつ! 戦闘中にレベルを激しく変化させやがる!?」
表示されているレベルが1000万を上回った、その瞬間。魔法陣が急激な負荷に耐え切れず爆発した!
痛みに叫びながら右目を抑える魔王。
『え……あいつのレベルって何なの?』
呆気にとられながらも呟くラザリア。だがアーサーはメガネを弄りながら笑った。
「フフ……そもそも『レベル』とは個人の総合能力を数値化したにすぎませんからね。確かに手段は稀ですが、一時的変化を起こす手段が皆無というわけではありません」
人間は潜在能力の三割程度しか使っていないという事は有名な話である。
古代カラテのタツジン・ウイリイは普段眠らせているその力を活用する手段を模索し、動物が冬眠し生体活動を停止・再開させる事を参考にした。眠っている力を貯め続け、危機的状況において一気に着火させる技術を構築したのである。これにより眠っている約七割を数回分蓄積し、ここぞという時に三十割・四十割として爆発させる事に成功した。
これは己の循環機能と神経系統を極限まで活用する事で可能となる秘技であり、ウイリイは真冬の深山で冬眠中のクマを起こして戦う荒行の中で体得した。この秘技を体得せんがため、現代のカラテカにもクマと戦う者は後を絶たない――
(古代網躁賢者学院刊行「死かくいジャングル」より)
「こんな事がありえる筈がねぇ! 失敗だ! 魔法が失敗したんだ!」
叫ぶ魔王ヨウサイ。その右目の辺りには真新しい火傷を負いながら。満身創痍で膝をつき、禿げ頭に網目のごとく青筋を浮かべながら。
「そうなのかどうか……地獄でゆっくり考えるがいい」
オウガは真正面から言い放った。全身には気迫が満ちており、闘気が揺らめく陽炎のごとく立ち昇っていた。
(魔王の、最期だ……)
二人を見つめながら、バルチェはそう確信していた。
「オレは、オレは今までで最強の魔王だ! 人間ごときにやられるわけがねぇー!!」
魔王ヨウサイは吠えた。魔力が紅炎のごとく吹き出し、その禿頭に流れこむ。魔王の禿頭は灼熱の恒星となった。
腰を落し、闘牛かのごとく頭から突っ込む魔王。
「オレの最大最強の奥義! 灼熱落陽弾―!」
あまりの高熱に大気が歪み、魔王の足元が溶けて飛沫さえ上げる!
「むう! 高熱に炙られた分子と電子がことごとく弾けている! あの超高熱の頭突きを受けた物体は原子分解を起こして消滅します!」
威力を正確に見抜いたアーサーが叫んだ。
そして、オウガは――
「俺は地上最強の男だ!
乱凰飛翔拳――!!」
DOGOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!
不死鳥が飛ぶ! 全てが砕ける!
渾身の正拳と頭突きが激突! 結果は――魔王の頭が陥没した。毛が無くてもケガが無いというわけにはいかず、絶対を誇った魔王ヨウサイの屈強な肉体が、真正面から打ち抜かれ、その無限の威力で真上に吹っ飛ぶ。
「チク……ショウ……!」
怒りと絶望の呻き声。それが魔王の断末魔。頭を下に落下! 体は壁を失っていた城の外へ落ち、崖下の海で盛大な飛沫をあげる。
荒れる波の間を、魔王の巨体がうつ伏せで漂っていた。
この世界を二十年に渡り苦しめ、破壊を振りまいていた最強の魔王の、それが最期だった。
この日、その世界最大の戦いは終わった。
「勝ったんだね。本当に、本当に……」
感無量。バルチェがうっすら涙を浮かべて呟く。その手から聖魔剣が落ち、床に触れるやラザリアの姿となった。
「はぁ……とんでもない事に巻き込まれた数日だったわ。おめでたい日だけど、滅茶苦茶過ぎてどう喜べばいいのやら。ともかく、戦いが終わったなら帰りましょうよ」
疲れきった声を漏らすラザリア。
だが……低く不気味な笑い声が響く。驚きのあまり叫ぶバルチェ。
「魔王、ヨウサイ!?」
そう、波間に屍を浮かべる魔王の声である。
『終わっただと? 今まで何度も魔王がやってきたこの世界で、なんで俺が最後だと思いやがる。来るぜ……次の魔王が、いずれな。それまでせいぜい浮かれてやがれ……』
声は消えた。バルチェは慄いて息を呑む。
「そうなんだ? その時はまた大きな戦いになるんだね……それがいつなのかはわからないけど……」
「百年後なのか二百年後なのかは知らないけど、その時は流石のあんた達もこの世にいないんじゃない? せいぜい聖魔剣を大切に保管しておきなさいよ。あ……私、まさか剣になって何百年も封印されたりしないわよね?」
ラザリアが不安そうにそう言った。
その時。
天が鳴動した。暗雲が今まで以上に濃くなり、遥か遠く――海の向こうに見えている本土の山脈に、無数の稲光が煌めく! バルチェの背筋にぞっとする寒気が走り……そして不気味な声が響いた。
『ここがかつて魔王ヨウサイが退けられた地か。だがもはや滅亡は免れん。この私が来たからにはな……』
そう言うと声は消えた。アーサーがメガネを弄りながら告げる。
「来ましたね。次の魔王が」
「早すぎるでしょうがあぁあ!」
怒鳴るラザリア。アーサーはそれに頷きはするが……
「まぁ五分でも『いずれ来る』には矛盾していませんし」
辛い事実である。
「あーのーねー! 魔界の出口で出番待ちでもしてたっていうの!?」
怒鳴りながら地団駄を踏むラザリア。腕組みをしつつ、その後ろでオウガが笑う。
「フッ……新たな戦いの火蓋がきられたようだな。俺達が行くしかあるまい」
そう言ってバルチェへ視線を落とす。予想外の事に呆然としていたバルチェだったが、その視線を受け、上目づかいの苦笑を返す。
「うん。僕達が行こうよ!」
この日、その世界最大の戦いが始まった。
笑顔で闘志を誓い合う聖魔剣士三人。
その傍らでしゃがみ込み、頭を抱えるラザリア。
「もうダメ。アタマ変になるわ……」
叫ぶ魔王ヨウサイ。その右目の辺りには真新しい火傷がある。
満身創痍で膝をつき、禿げ頭に網目のごとく青筋を浮かべながら。
「そうなのかどうか……地獄でゆっくり考えるがいい」
オウガは真正面から言い放った。
傷ついている事では対峙している魔王とさほど変わらない。だがその全身には気迫が満ちており、闘気が揺らめく陽炎のごとく立ち昇っていた。
(魔王の、最期だ……)
二人を見つめながら、バルチェはそう確信していた。
オウガが再び立ち上がり、魔王ヨウサイの前に進み出た時。魔王は怒りに目をギラつかせながらも口元には笑みを浮かべていた。
「テメェのしぶとさは確かに見ぬけていなかったな。ああ、認めてやるよ。バカな奴だぜ……また殴られるために立ってくるとはな! いちいち鬱陶しいヤロウだ!」
魔王の掌に魔力の熱が収束する。
オウガは大股で魔王へと歩き続けた。
魔王は魔力の弾を容赦なくオウガへ撃ち込む……!
その弾を、オウガは歩みを止める事なく拳で叩いた。
魔力の弾は派手な音とともに宙で爆ぜる!
爆炎が巻き起こり――そこから、オウガが、速さを変える事なく進み出た。
「な、なにィ!?」
魔王が目を見開く!
先刻までは一撃ごとにオウガを打ちのめし、血反吐をはかせていたはずだ。
だが打って変わってまるで通じないとは――?
ついにオウガが手の届く間合いまで来た。
バルチェは見た。オウガが腰だめに構え、拳を魔王へ打つのを。同時に魔王が巨大な拳骨でオウガを殴るのを。
そして見た。
オウガの拳が魔王の胸板へめり込み、魔王の拳骨は最小限の動きで僅かに避けたオウガの顔の横を掠めるのを……!
「ガハッ!」
魔王が仰け反り、苦悶の声をあげて後ろによろめいた。その胸には痛々しい痣が刻まれている。踏ん張って体勢を立て直し、魔王ヨウサイは怒りで顔を引き攣らせる。
「ありえねぇ! こんな事はありえねぇ!」
たったの一撃ではあるが、オウガの拳は見事に砕いていた。魔王の余裕を、その自尊心を。
「ありえねぇ!!」
魔王が拳骨の雨を降らせ、次々と蹴りを放った。オウガは――
獣のごとく咆哮し、拳の雨を、無数の蹴りを放った!
無数の攻撃が火花を散らして交錯する!
そして、無数の打撃を打ち込まれ、魔王の巨体が吹き飛んだ! 半ばから折れた柱にブチ当たり、それを粉々に砕く! 瓦礫とともに床へ転がる魔王ヨウサイ。
「どういう事だ? 何がどうなってやがる……?」
呻きながら、それでも魔王は立った。
「どうなってやがるー!!」
叫びながら、その掌に膨大な魔力が収束していく。この階を吹き飛ばした爆裂波である。
「吹き飛べぇー!」
再び致命的な破壊力の魔力が爆発した!
その爆発を、オウガは両腕で真っ向から食い止めた! 魔王、驚愕!
「なにィ!? 受け止めるだとぉ?」
「お前のパワーは十分にわかった。お前を倒すならその上を行けばいい事もな……!」
踏ん張りながらそう言い、オウガは両腕に力を籠めた。魔力の爆発が抑え込まれ、腕の間で弾けて消える――! なおも燻ぶるエネルギーの真っただ中で、オウガは再び身構えた。
『どういう事? 魔王とのレベル差は十倍以上あるというのに……』
信じられない光景にラザリアが剣の内から漏らす。
「そうだ、その筈だ。何かが狂ってやがる……」
魔王ヨウサイがそう呟くと、その右目の前に小さな魔法陣が生じた。【スキャニング】の魔法と同じ効果を生み出したのである。そこにはオウガの能力値がレベルとともに映し出されていた。
魔王の目が見開かれる。
全ての数値が目まぐるしく変化していた。150万――200万――300万――500万――恐ろしい勢いでレベルが上昇している!
「こ、こいつ! 戦闘中にレベルを激しく変化させやがる!?」
表示されているレベルが1000万を上回った、その瞬間。魔法陣が急激な負荷に耐え切れず爆発した!
痛みに叫びながら右目を抑える魔王。
『え……あいつのレベルって何なの?』
呆気にとられながらも呟くラザリア。だがアーサーはメガネを弄りながら笑った。
「フフ……そもそも『レベル』とは個人の総合能力を数値化したにすぎませんからね。確かに手段は稀ですが、一時的変化を起こす手段が皆無というわけではありません」
人間は潜在能力の三割程度しか使っていないという事は有名な話である。
古代カラテのタツジン・ウイリイは普段眠らせているその力を活用する手段を模索し、動物が冬眠し生体活動を停止・再開させる事を参考にした。眠っている力を貯め続け、危機的状況において一気に着火させる技術を構築したのである。これにより眠っている約七割を数回分蓄積し、ここぞという時に三十割・四十割として爆発させる事に成功した。
これは己の循環機能と神経系統を極限まで活用する事で可能となる秘技であり、ウイリイは真冬の深山で冬眠中のクマを起こして戦う荒行の中で体得した。この秘技を体得せんがため、現代のカラテカにもクマと戦う者は後を絶たない――
(古代網躁賢者学院刊行「死かくいジャングル」より)
「こんな事がありえる筈がねぇ! 失敗だ! 魔法が失敗したんだ!」
叫ぶ魔王ヨウサイ。その右目の辺りには真新しい火傷を負いながら。満身創痍で膝をつき、禿げ頭に網目のごとく青筋を浮かべながら。
「そうなのかどうか……地獄でゆっくり考えるがいい」
オウガは真正面から言い放った。全身には気迫が満ちており、闘気が揺らめく陽炎のごとく立ち昇っていた。
(魔王の、最期だ……)
二人を見つめながら、バルチェはそう確信していた。
「オレは、オレは今までで最強の魔王だ! 人間ごときにやられるわけがねぇー!!」
魔王ヨウサイは吠えた。魔力が紅炎のごとく吹き出し、その禿頭に流れこむ。魔王の禿頭は灼熱の恒星となった。
腰を落し、闘牛かのごとく頭から突っ込む魔王。
「オレの最大最強の奥義! 灼熱落陽弾―!」
あまりの高熱に大気が歪み、魔王の足元が溶けて飛沫さえ上げる!
「むう! 高熱に炙られた分子と電子がことごとく弾けている! あの超高熱の頭突きを受けた物体は原子分解を起こして消滅します!」
威力を正確に見抜いたアーサーが叫んだ。
そして、オウガは――
「俺は地上最強の男だ!
乱凰飛翔拳――!!」
DOGOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!
不死鳥が飛ぶ! 全てが砕ける!
渾身の正拳と頭突きが激突! 結果は――魔王の頭が陥没した。毛が無くてもケガが無いというわけにはいかず、絶対を誇った魔王ヨウサイの屈強な肉体が、真正面から打ち抜かれ、その無限の威力で真上に吹っ飛ぶ。
「チク……ショウ……!」
怒りと絶望の呻き声。それが魔王の断末魔。頭を下に落下! 体は壁を失っていた城の外へ落ち、崖下の海で盛大な飛沫をあげる。
荒れる波の間を、魔王の巨体がうつ伏せで漂っていた。
この世界を二十年に渡り苦しめ、破壊を振りまいていた最強の魔王の、それが最期だった。
この日、その世界最大の戦いは終わった。
「勝ったんだね。本当に、本当に……」
感無量。バルチェがうっすら涙を浮かべて呟く。その手から聖魔剣が落ち、床に触れるやラザリアの姿となった。
「はぁ……とんでもない事に巻き込まれた数日だったわ。おめでたい日だけど、滅茶苦茶過ぎてどう喜べばいいのやら。ともかく、戦いが終わったなら帰りましょうよ」
疲れきった声を漏らすラザリア。
だが……低く不気味な笑い声が響く。驚きのあまり叫ぶバルチェ。
「魔王、ヨウサイ!?」
そう、波間に屍を浮かべる魔王の声である。
『終わっただと? 今まで何度も魔王がやってきたこの世界で、なんで俺が最後だと思いやがる。来るぜ……次の魔王が、いずれな。それまでせいぜい浮かれてやがれ……』
声は消えた。バルチェは慄いて息を呑む。
「そうなんだ? その時はまた大きな戦いになるんだね……それがいつなのかはわからないけど……」
「百年後なのか二百年後なのかは知らないけど、その時は流石のあんた達もこの世にいないんじゃない? せいぜい聖魔剣を大切に保管しておきなさいよ。あ……私、まさか剣になって何百年も封印されたりしないわよね?」
ラザリアが不安そうにそう言った。
その時。
天が鳴動した。暗雲が今まで以上に濃くなり、遥か遠く――海の向こうに見えている本土の山脈に、無数の稲光が煌めく! バルチェの背筋にぞっとする寒気が走り……そして不気味な声が響いた。
『ここがかつて魔王ヨウサイが退けられた地か。だがもはや滅亡は免れん。この私が来たからにはな……』
そう言うと声は消えた。アーサーがメガネを弄りながら告げる。
「来ましたね。次の魔王が」
「早すぎるでしょうがあぁあ!」
怒鳴るラザリア。アーサーはそれに頷きはするが……
「まぁ五分でも『いずれ来る』には矛盾していませんし」
辛い事実である。
「あーのーねー! 魔界の出口で出番待ちでもしてたっていうの!?」
怒鳴りながら地団駄を踏むラザリア。腕組みをしつつ、その後ろでオウガが笑う。
「フッ……新たな戦いの火蓋がきられたようだな。俺達が行くしかあるまい」
そう言ってバルチェへ視線を落とす。予想外の事に呆然としていたバルチェだったが、その視線を受け、上目づかいの苦笑を返す。
「うん。僕達が行こうよ!」
この日、その世界最大の戦いが始まった。
笑顔で闘志を誓い合う聖魔剣士三人。
その傍らでしゃがみ込み、頭を抱えるラザリア。
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