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しおりを挟む「この子は?お前まさか…」
世良は瞬きする事なく、僕の目を見つめながら言った。その表情は僕に対して敵意というか軽蔑の感情が含まれているように感じた。それは日頃世良が僕に見せている顔とは違った。
全身が一気に熱を帯びるのを感じる。身体中の毛穴から嫌な汗が吹き出した。単純に焦ったし、声が上手く出なかった。
「あ…いや…あの、これはなっ…」
「お前さすがにこれは…洒落になんねーわ」
世良は彼女を目の前にしていても容赦なく言い放った。僕は頭が真っ白になっていく。そこで後ろにいた彼女が言った。
「会社の人?」
「ああ…そうだよ」僕は世良の顔を見ながら答えた。すると彼女は「いつもたっくんがお世話になってますぅ」と少し馬鹿っぽく言った。
「お、おいっ」僕は世良に向かって話し出した彼女を制止した。だが彼女は止めなかった。
「たっくんは会社でどんな感じなんですかぁ?親戚の中だと無口で陰気だから皆気にしてて…」
彼女の話を聞いて察した。
(あ…そういう感じでいく?)
「ああ、親戚の子だったの?何だ俺はてっきりこいつが……まぁいいや。一条は会社では全然そんな事ないよ。ま、そんなに目立つ方ではないけど」
「たっくんとはいとこなんです」
「へぇ。一条にこんな歳の離れたいとこがいたなんてな。高校生?」
世良は少し腑に落ちない感じではあったが、彼女の質問に愛想良く答えた。その間に僕はもみあげから垂れ落ちる脂汗をスーツの袖で拭った。
彼女は世良と少し談笑していたが、僕の耳には一切内容が入って来なかった。ただただ隣で世良の顔色を黙って伺う事しかできない。
「ぇ…ねぇ…ねぇってば!」
彼女に肩を小突かれて我に返った。
「あ、ああ…どうした?」
「早く撮ろうよ」
彼女はニコニコしながら僕に言う。世良は僕に目を向け「邪魔して悪かったな」と言い立ち去った。
汗を拭いながら世良の姿が人混みに消えるのを眺めた。徐々に胸の鼓動も収まりゆっくり彼女を見た。彼女はクスクスと笑っていた。
「たっくんのあんな顔初めて見た…焦った?」
彼女に釣られて僕も笑みをこぼす。
「すげー焦った。適当に話合わせてくれてありがとう。つかあいつ絶対援交だと思ってたな」
「そうだね。初めすごい引いた目してたもん。私もやばいって思った」
「瑠花ちゃんは別にやばくないだろ」
「ううん、そんな事ないよ。私たっくんの事好きだから自分のせいでたっくんに迷惑掛けちゃうのが嫌なの」
「そんな…別に気にしなくて良いよ。僕ももっと堂々としていれば良かった。気遣わせてごめんな」
「謝んないでよ。…さ、プリクラ撮ろ」
「そうだな」
そして僕達は気を取り直してプリクラを撮った。彼女は撮り終わってからの、いわゆる落書きを真剣にしていて、ここでかなり時間をくった。最新の機種で撮った僕の顔は宇宙人みたいになってしまった。
プリントアウトされたプリクラを彼女は備え付けのハサミでちょきちょきと半分に切り離して僕にくれた。
「はい、たっくんの分。たっくんがちょー焦った日の記念!」と彼女は笑った。
「うっせーよ」と僕はそれを受け取り財布にしまった。
それから僕達はようやく食料品コーナーへと進み、一週間分の食材を購入して家路についた。自宅に着いて購入した食材を二人で冷蔵庫にしまっていると彼女が僕に聞いた。
「ねぇねぇ、明後日は何の日?」
「明後日…?」今日は木曜だから明後日は土曜だ。
(ああ、出掛ける日か…)
分かっていたが知らん顔をして答えた。
「さぁ?休みだから一日中ゴロゴロする日?」
「なっ…!馬鹿ちんが!」そう言って彼女は笑いながら僕の股間を握った。
「いっ…!!」
「お出掛けの日でしょ!?」
彼女は僕が頷くのを待つようにして股間を揉み続けた。これによって二時間ほど前に彼女に抜いてもらったはずの性器は再び勃起した。
「あ…硬くなってきた…」
「そんな事されたら誰でも勃つよ」
「そんな事ってなぁに?」
彼女はそう言いながら今度は両手で優しく僕の性器をしごき始めた。
「瑠花ちゃんて痴女だよね」
「ちじょ?」
「うん、淫乱と似たような意味」
「なにそれムカつく、たっくんだからだよ?」
「はははっ、ほんとかな?わりと出だしからこんなだったと思うけど」
「うるさいっ、そういうお年頃なの!…ほら、脱いで」
僕は言われるがままスーツのベルトを緩めて、パンツと一緒に踝までズボンを下ろした。
「ビンビンじゃん」
彼女は膝をついて、露になった僕の性器を見つめ、亀頭の包皮に溜まった我慢汁をペロペロと舐めた。そして少し包皮を剥いて、亀頭を円を描くように入念に舌を這わせる。
「んっ…ん…はぁ…ん…きもちい?」
僕は仁王立ちのまま「うん」と頷いた。
「なにその立ち方?ちょー偉そうなんだけどっ」と彼女は笑い、徐々にフェラのスピードを上げた。
「もう出そう…」
「え?もう?…まだダーメ」
「じゃあもう少しゆっくりしてよ」
「ふふっ、それは無理」そう言って彼女は性器を咥えたまま激しく顔を前後に振った。フェラをされていると僕は徐々に挿れたくなった。そこで僕は腰を引いて彼女の口から性器を抜くと、彼女の脇に手を入れてその場に立たせた。
「…んっ…!?なに?どうしたの?」
そして彼女の身体を反転させ、こちらに尻を向けるようにして台所に立たせた。制服姿の彼女のスカート捲り上げると、ちょうど股間の高さにゼブラ柄のパンティが露になった。
「やぁん…あんまり見ないで…」
「今さら何言ってんの。さっき車で馬鹿みたいに脚広げてたろ」
「それはたっくんがぁ…」
「人のせいにしないの。見られてると思うと興奮するって自分から広げてたくせに」
僕は笑いながら彼女の尻を優しく叩いた。
「あんっ…もう…!叩かないでよ」
「こういうのは興奮しないの?パンティ丸見えで尻叩かれてるけど」
すると彼女は小さく溜め息を吐いて、顔を背けたまま恥ずかしそうに「……する…」と呟いた。容姿端麗な彼女のその姿に僕は大いに興奮した。
「じゃあ…挿れるよ?」
彼女のパンティをずり下ろして硬くなった性器を彼女の膣に挿入した。相変わらず彼女の膣の締まりは良く、ほぼ毎日セックスしているのにも関わらず、僕の性器はミチミチッと膣を裂いているような感覚で彼女の中に入った。
「んんん~……はぁ…っ!あん」
「痛くない?」
「あっ…うん…大丈夫だよ…たっくんいつも聞いてくれるね」
「瑠花ちゃんの中狭いから挿れる側は痛くないか気になるんだよ」
「はぁ…それって締まりが良いって事?」
「そうだね。締まりえぐいよ」
「えぐいって言われるとなんか…素直に喜べないよぉ」
「はは、ごめん…じゃあいくよ」
僕は膣奥に向かって性器を押し込んだ。
「はぁ…んっ!あぁん」
それから数分間、部屋中にパンッパンッと音を響かせながら僕達は乱れ合った。
翌日、会社に着いて出勤前の一服をしていると、世良がこちらにやって来るのが見えた。世良はにやつきながら喫煙ブースに入って来た。
「昨日は久しぶりに度肝抜かれたよ。お前にあんな可愛いいとこがいるなんて聞いてねーぞ?しかもJKだし」
「可愛いくてもいとこなんだから教えてもしかたねーだろ?」
「まぁ、そうだけどよ。瑠花ちゃんだっけ?あの子芸能の仕事とかしてるのか?」
「してねぇよ。ごく普通の高校生だよ」
「なんだぁ、そりゃ残念。芸能関係の可愛い人紹介してもらおうと思ってたのに」
「ったく、なんだよ。どうせそんな事だと思ったよ」
次から次へと口からでまかせが出る。僕は同僚を騙して必死に彼女との関係を隠している自分に嫌気が差した。
「なぁ、もう一回聞くけどさ。あの子本当にお前のいとこなんだよな?」
「ああ。何で聞く?」
「全く似てないからさ。経験上、いとこ同士って何かしら少しは似てる所があるだろ?顔の一部のパーツや雰囲気とかさ。けどお前とあの子はこれっぽっちも似ている所がない。不思議だよな」
「そうかな?」
「そうだよ。これだけ何一つ似てないいとこ同士は初めて見た」
世良は陽気に笑いながら言ったが、その目は一切笑っていなかった。
「兄妹じゃないからそこまで似てる似てないを気にした事ないわ」
「初め見た時はてっきりお前が援交してるのかと思ったよ」
「ははっ、援交ねぇ」
そう言いながら世良の顔を見ると、彼は疑りの眼差しを僕に向けていた。次第にこちらも苛立ちが募り始める。そしてとうとう開き直ってしまった。
「てか援交に見えたって…仮に僕が援交してたからってどうなの?」
「えっ…?」
「援交してたとして世良に何か問題ある?」
「い、いや別に。俺はその辺好きにすればいいと思うよ?多分社内にも経験者はいるだろうしさ。ただ援交はれっきとした犯罪だから同僚として見過ごせないなーって思うとこは少しあるな」
「同僚として見過ごせない…か。思うんだけど本人はそのリスクを承知で援交してるんだし関係なくね?放っておけばいいじゃん。おせっかいか?」
「おせっかい…?別にそんなつもりはねぇよ。ただ万が一それが表に出てそいつのせいで会社の評判が落ちたら風評被害食らうのは俺らじゃん」
「はは、風評被害なぁ。お前がそれほど会社に尽力してるタイプの人間だと知らなかったよ。僕は会社の看板なんてどうでもいいし、給料さえもらえればそれで良いタイプだけどね」
僕はあえて嫌な言い方をして世良に自分の苛立ちを察するように仕向けた。
「つかお前どうしたんだよ!?怒ってんの?」
「怒ってるとかじゃない。お前は僕と瑠花の事見て援交してるのかと思ったって言ったろ?いとこだから良かったものの、援交とかじゃなくて彼女だったらどう?ちょっと失礼だなーって思わねぇ?大人の会話として」
「彼女?」
「そう、彼女。ほら世の中には色んな人らがいるだろ?いくら見知った者同士だとしても、いきなり自分が感じたままの事を本人にストレートに言うのってどうかと思ったんだ。しかも悪いワードをさ。別に説教とかじゃねぇけど」
「別にそう見えたんだから言ったって良いんじゃね?ストレートに物言う俺より未成年に手出してる方がよっぽど問題だろ。そんな変態野郎にどう思われようがどうでもいいし」
「未成年と交際したら変態なのか?」
「十中八九変態だね。断言できる。おまけに汚ならしい犯罪者だ」
「はっはっはっ。すごい言われようだな」
僕はつい笑ってしまった。
「すごい言われようって…別にお前に言ってるんじゃねぇって」
「ああ、そうだな」
そして僕は最後のひと吸いで肺に煙を溜め込んで喫煙所を後にした。始業時刻を迎え、我ながら順調に仕事がはかどった。無意識の内に明日出掛けるのを楽しみにしている自分がいるのかもしれない。
昼休憩になると僕は彼女が作ってくれた弁当を取り出して、イヤホンを耳に着けて動画サイトを見ながら昼食をとった。世良は僕に近付く素振りを見せたが、僕が弁当を取り出したのを見て踵を返した。どうやら事務の高島とヒラメとランチに出掛けたようだ。
何気なくその後ろ姿に目を向けていると、こちらを振り返ったヒラメと目が合った。
昼休みが終わりに差し掛かった頃に、いつも通り喫煙所に向かうとそこに世良達がいた。世良は高島とヒラメに加え、数人の営業の男達と煙草を片手に談笑していた。
何となく喫煙ブースに入るのを躊躇したが、ここで煙草を我慢して仕事を再開するのに比べるとそんな事は苦にならなかった。
「おつかれす」
誰に向かって言ったとかはない。僕はただ声を掛けて喫煙ブースに身を入れた。すると談笑していた彼らは会話を止めた。その切り替わり方に違和感を覚えたが、僕は無視して煙草を吹かした。
静まり返った喫煙ブースはエレベーターの沈黙に似ている。ただ唯一の違いと言えばエレベーターでの私語はマナー的に禁止であって、喫煙所はそうではないという事だ。
普段ならここで二本煙草を吸い溜めするのだが、あまりにも居心地が悪く、一本だけ吸ってすぐに出ようと決めた。
僕が煙草を灰皿に押し消したタイミングで世良が沈黙を破った。
「今日は弁当持って来てたんだな」
彼らに背を向けていたが、世良の声のトーンと内容からして自分に話し掛けていると分かったので返事をした。
「うん、今日は持って来た」
「ふーん」
世良が言うと高島も会話に入って来た。
「愛妻弁当?」
「愛妻弁当?」ここでようやく振り返った。ゴシップ好きの高島はにやにやと嫌な笑みを浮かべていた。営業の男達と世良は知らん顔して煙草を吹かしていたが耳だけはこちらに向けている。
「別にそんなんじゃないですけど。そもそも彼女もいないし…夕飯の残りを詰めただけの弁当ですよ」
「へぇー。けど一人暮らしの独身の男の人が毎日お弁当持って来るかなぁ?実家暮らしならまだしも」
「人によるんじゃないですか?」
「まぁね。だけどイッチーがお弁当持って来はじめたのって最近だよね?それまではよく外でランチしてるの見た事あるけど」
「毎日外食じゃ食費がばかにならんでしょう?節約ですよ」
「今更になって節約ねぇ」
すると世良が隣で高島に言った。
「高島さん、そんな突っ込まなくても」
僕はその世良の気まずそうな顔を見て察した。こいつは多分高島達に余計な事を吹き込んだに違いない、と。
(ちっ、余計な事言いやがって…)
僕はたまらずジロリと世良を睨んだ。世良はばつが悪そうに顔を背け煙草の煙を吐いた。横で高島は好戦的な視線を向けながら続ける。
「世良に聞いたよ、昨日JKと遊んでたんだって?」
高島が言うとその場にいた世良以外の全員が僕に視線を向けた。ここで動揺してはいけない、僕は平然と答えた。
「ええ、いとこですけどね。世良には説明したけど」
「聞いた話じゃすごい美人なんだって?」
「僕が言うのもあれですけど…整った顔立ちをしてるんじゃないですかね」
「へぇ。写真とかないの?」
ある。僕の財布には昨日撮ったプリクラが入っている。だが見せる訳にはいかない。そこに写っている僕達はいとこではないと一目瞭然だからだ。何ならキスをしながら写っているカットもある。
「ないですね」
「昨日プリクラ撮ってたんでしょ?それは?」
(こいつ…何から何まで…!)
僕は再び世良を睨んだ。今度は目が合った。黙っていた世良が口を開く。
「普通いとこ同士でプリクラなんて撮るか?しかも相手は年頃だぞ?よくてもスマホでツーショットぐらいだろ」
世良の言葉にその場の全員が頷いた。それを見てとことん嫌気が差した。
「普通って何だよ?別にいとこ同士でもプリクラぐらい撮る人達もいるだろう。そんなくだらない事によく執着できるな」
するとずっと黙っていたヒラメが唖然としながら言った。
「いやいや…同姓ならまだ分かりますが、いとこ同士でも異性なら普通プリクラなんて撮りませんよ?しかも高校生でしょ?ただでさえそういうの嫌な年齢なのに」
「はぁ…そうか。普通は撮らないんだな。じゃあ僕達が少し変わってるのかもな。もうそれでいいよ」
その場の空気に疲れた僕は適当に答えた。高島は「は?なに開き直ってんの?」と言ったが「別に他人の僕がいとこと仲良くしてて何が悪いんです?」と言ってやった。腕時計に目をやると始業時刻を4分過ぎていた。
「じゃあ、僕はそろそろ戻ります」僕はそう告げて喫煙ブースを後にした。もうどうでも良いやと思った。
午後からは何も考えずに仕事に没頭した。オフィスでは時折、世良や高島、ヒラメと目が合ったが僕はその都度目を逸らして仕事に打ち込んだ。
おかげさまで僕が女子高生と如何わしい事をしているのを隠している噂は数時間の内にすぐに広まったようだ。僕に接する同僚の態度に違和感を覚えたからすぐに察した。
彼らには例え本当にいとこ同士であろうが女子高生と関わり合っている事自体が不自然で話のタネなのだろう。もうわざわざこちらから弁明する気力も無い。
幸いにもこの日らほとんど残業する事なくこの居心地の悪い会社を出る事ができた。
帰りの道中、車内で今日の事を思い返した。余計な事を言ってしまったと思う反面、あれで良かったんだと思う自分がいた。今後僕はどうなるのだろう?もちろん、こんなくだらない人間関係の傾きぐらいで会社を辞める気はさらさらないが。
帰りに明日持参する携帯充電器を買うはずだったが、それを忘れて気がつけば自宅の駐車場に車を止めていた。さすがにもう一度車を出して家電量販店に向かうのは面倒だったので、しかたなくその足でエントランスに向かい、キーを差し込みオートロックの玄関を開けて部屋へと向かった。
家に入ると玄関には見慣れた彼女のローファーが綺麗に揃えられている。それに今夜の夕食はカレーだ。玄関まで香りが漂っている。僕はその場で立ち止まり考えた。
今、僕はたしかに幸せだな。とひしひし感じている。だが、端から見れば僕の幸せは変態ロリコン野郎の性癖が満たされているだけの事と何ら変わりはない。
これがもし、彼女が女子高生ではなければこんなくだらない事で頭を抱えなくても良かったのに。ほんと不自由な世の中だ。
今更だが、やはり彼女の事を警察に相談して保護してもらった方がお互いの為なんじゃないだろうか?もし僕が世良に遭遇したみたいに彼女の知り合いに遭遇したら?彼女もパパ活や援交を疑われ交遊関係にひびが入るかもしれない。
やっぱり僕達は出会わない方が良かったのかもな、あの夜コンビニの駐車場で雨に濡れた彼女を他の通行人同様に無視していたらこんな事にはならなかった。
僕が玄関に突っ立ったまま考え事をしていると廊下の突き当たりの扉が開いて彼女が顔を覗かせた。
「たっくん…?…あ!たっくんおかえりぃ」
「ああ…ただいま」
僕が言うと彼女は一度台所に戻り、カチャッとコンロの火を止めてから僕の方へ向かって来た。そして僕に抱き付くと顔を見上げニコニコと笑った。
(ふっ、まるで犬だな…)
僕が微笑みながら彼女の頭を撫でると彼女は心配そうな顔をして言った。
「どうしたの?何か嫌な事あった?」
開き直って世良達に強気に出たものの、やはり多少のストレスは感じていた。良好だった人間関係に亀裂が入るのも怖かったし、気にしたくは無かったが自分の評判や世間の目が気になってしかたなかった。
僕は何も知らない、ただ僕を心配そうに見つめる彼女の純粋無垢な顔を見て少しだけうるっと来た。
「たっくん?大丈夫?」
「うん大丈夫…ちょっと疲れただけだよ」
(やっぱ僕の存在はこの子に取ってマイナスになるかな?それならせめて傷が浅い内に…)
そして僕が口を開こうとした時に彼女は言った。
「たっくん好きぃ~明日楽しみだね」
僕に抱き付く彼女は、まるで小さな女の子が自分より大きいぬいぐるみに抱き付いている姿を想像させた。その姿に僕はつい笑ってしまった。
「あはは!何だよ、赤ちゃんか」
「違うし!赤ちゃんは話せないでしょ!?」
「まぁな。ほんと子供だな、そんなに楽しみか?」
「当たり前じゃん!多分今日はあんま寝れない」
「馬鹿だなぁ」
「もうっ…!うるさい!」
「ははは!」
そして気が付くと僕は彼女に告げていた。雰囲気や脈絡など全て無視して感情のまま伝えた。
「付き合おうか」
突然僕が言ったもんだから彼女は僕を見上げたまま固まった。ただでさえ大きい瞳をさらに大きく見開けて相当驚いてる。そんな彼女を見て僕は意地悪をしたくなった。
「なに?やっぱやめとく?」
そう言うと彼女はにやにやしながら返事をした。
「しかたないなぁ」
それは僕の想像と少し違ったが、彼女は耳まで
真っ赤にして僕の胸に顔を埋めたまま離れない。
(これで…これで良いんだ。もし僕のせいで彼女が辛い目にあっても僕が側にいてあげればいい)
僕は彼女の身体を無理やり引き離して、キスをした。相変わらず彼女の唇からはリップクリームの桃の香りが漂い僕を落ち着かせた。そしてムラムラした僕はそのまま彼女の胸を優しく揉んだ。
「あんっ…」
彼女の小さな声で僕はすぐに勃起する。するとタイミングを計っていたかのようにチャイムが鳴った。
「ピンポーン…ピンポーン…」
僕はそれを無視して彼女の胸を揉んだ。が、あまりにもしつかったのでしかたなく応答した。
「はい…!?」
水を差された事で僕の苛立ちは声に表れる。カメラには数人の見知らぬ男が映っていた。
(ちっ、誰だよ?宗教の勧誘か?)
すると僕の後ろからモニターを覗いた彼女が顔をひきつらせて言った。
「やばい…お父さんだ。それに先生もいる…」
「え…?」
僕は振り返って彼女を見たまま固まった。それでもなおチャイムは鳴りやまなかった。
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