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第2部 魔獣 救護所編
王城②
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「皆々様、大変なことになりました……」
王城の執政室にはいつものメンバー、3大臣と宰相ナード、それに国王マリフォルド8世が集められている。
呼び出したのはナードで、その手元には皇国の紋章が入った書状。先日、ナードが送った文に対する返書があった。
「まず柵については、これは意図的に壊したものではなく単なる老朽化であると。すぐに修理に取りかかるとの旨が記されております。とは言っても、完成までには2ヶ月程度かかるようですが」
「2ヶ月!そんなにかかるのか!」
「何でも、結界の術を定着させるまでにそのくらいかかるとか。魔力を持たない私には、それが本当かどうかも分からないのですが……」
「先方がそう言っている以上、受け入れる他あるまい。国境周辺には更なる援軍を送り込むよう計らおう。武官大臣、手筈を」
マリフォルド8世の言葉に、武官大臣イリアドが「はっ」と頭を下げる。
それに頷き返した国王が、ナードを振り返り。
「して、皇国からの知らせはそれだけか?」
「いえ、問題はこの後にございます。皆様、皇国からの最も最近の“亡命者”について、覚えていらっしゃいますでしょうか?」
「最も最近の亡命者?」
「確か、しばらくは来ていないはずだが……」
文官大臣と武官大臣が揃って首を捻る。その向かい側に座った医技官大臣だけは、何か思うところのある様子で顎に手を当てて考えていたが。
「もしかするとそれは今から7年前に送られてきた、あの子供のことか?」
「さすがは医技官大臣。その通りです」
ナードは首肯して。
「ただ、2大臣が記憶に薄いのも無理はない。この"亡命者"は、他とは少々違う道を辿りました。入国した時点で既に退魄症に冒されていたためです」
「そうだ。確か、事前に送られてきた人相書きと風貌が大きく異なっていたのだ」
「武官大臣、その通りです。しかも付き従ってきた者達が暗殺を警戒し、髪を染める、女児の格好をさせるなど様々な変装を施したことで、見誤った入国管理係の手違いにより、我々は一時彼らを見失いました」
「何と!それでは……」
「ご安心下さい、陛下。その後、彼らは治療院に現れたようですが、治療を受けることはできず亡くなったと。記録に書かれておりますこと、この医技官大臣ヒロノアが確認しております」
「そうか……ならば良かった」
ほうと息をついたマリフォルド8世は。
「して、その最も最近の亡命者が何だと?」
「はい。皇国より、その亡命者が間違いなく亡くなっているか、今1度確認せよと……」
「は?」
一瞬、その場の全員が言葉を失った。7年も前のことを?今更?
「いやいや、1年2年ならともかく7年も前のことなど、どうしろと言うのだ!記録を調べ直せば満足なのか。それとも墓でも暴けというのか!」
「陛下、亡命者の墓は共同墓地でございます。開けたところで、個人の分かるものは何も出てこぬかと」
「そもそも、そのようなこと、何故今になって言ってきたのか。ナード、その辺りのことは何か聞いておらぬか」
「それが理由については記されておらず……もしかすると柵のことを我々から指摘されたことに腹を立てたか……」
――子供か……。
誰も口には出さなかったが、皆、同じ気持ちだ。
「7年前はどうしたのだ。証拠として、髪の一房でも送ったのではないのか?」
「それが、流行り病にかかった者の遺物など、受け取る訳にはいかぬと、皇国側が拒否をいたしまして……」
「ならば、それで良いではないか!それが何故、今になって、そんなことを言ってくるのだ!!」
最初の疑問に戻ってきてしまった。それも、絶対に解けない疑問に。
「……腑に落ちない点はございますが、何もせぬという訳にもいかぬかと……」
ナードがそうまとめる。
「とにかく記録だけでも、もう1度見直して、その旨を送りましょう。治療院に関わることなので、医技官大臣にお願いしたいのですが、よろしいか。ヒロノア」
「それは構わぬが、しかし件の治療院があった場所は2年前に領地替えにあっておる。記録が残っていれば良いが……」
「亡命者についての記録が削除されていることはあるまい。今の領主は誰になるのだ?」
「は、ネイゴン伯爵公にございます」
「何、あそこもネイゴン卿の領地になるのか。随分と広げたものだな」
「最近、近隣諸侯の不祥事が相次ぎまして……。それを解決するのに卿が一役買っている模様にございます」
「なるほど。やり手な男なのだな」
ヒロノアの答えに、国王は1つ頷いて。
「誰か、ネイゴン卿をこれへ。これまでの治療院の記録を持って至急王城へ参るよう、急ぎ文を遣わせよ!」
王城の執政室にはいつものメンバー、3大臣と宰相ナード、それに国王マリフォルド8世が集められている。
呼び出したのはナードで、その手元には皇国の紋章が入った書状。先日、ナードが送った文に対する返書があった。
「まず柵については、これは意図的に壊したものではなく単なる老朽化であると。すぐに修理に取りかかるとの旨が記されております。とは言っても、完成までには2ヶ月程度かかるようですが」
「2ヶ月!そんなにかかるのか!」
「何でも、結界の術を定着させるまでにそのくらいかかるとか。魔力を持たない私には、それが本当かどうかも分からないのですが……」
「先方がそう言っている以上、受け入れる他あるまい。国境周辺には更なる援軍を送り込むよう計らおう。武官大臣、手筈を」
マリフォルド8世の言葉に、武官大臣イリアドが「はっ」と頭を下げる。
それに頷き返した国王が、ナードを振り返り。
「して、皇国からの知らせはそれだけか?」
「いえ、問題はこの後にございます。皆様、皇国からの最も最近の“亡命者”について、覚えていらっしゃいますでしょうか?」
「最も最近の亡命者?」
「確か、しばらくは来ていないはずだが……」
文官大臣と武官大臣が揃って首を捻る。その向かい側に座った医技官大臣だけは、何か思うところのある様子で顎に手を当てて考えていたが。
「もしかするとそれは今から7年前に送られてきた、あの子供のことか?」
「さすがは医技官大臣。その通りです」
ナードは首肯して。
「ただ、2大臣が記憶に薄いのも無理はない。この"亡命者"は、他とは少々違う道を辿りました。入国した時点で既に退魄症に冒されていたためです」
「そうだ。確か、事前に送られてきた人相書きと風貌が大きく異なっていたのだ」
「武官大臣、その通りです。しかも付き従ってきた者達が暗殺を警戒し、髪を染める、女児の格好をさせるなど様々な変装を施したことで、見誤った入国管理係の手違いにより、我々は一時彼らを見失いました」
「何と!それでは……」
「ご安心下さい、陛下。その後、彼らは治療院に現れたようですが、治療を受けることはできず亡くなったと。記録に書かれておりますこと、この医技官大臣ヒロノアが確認しております」
「そうか……ならば良かった」
ほうと息をついたマリフォルド8世は。
「して、その最も最近の亡命者が何だと?」
「はい。皇国より、その亡命者が間違いなく亡くなっているか、今1度確認せよと……」
「は?」
一瞬、その場の全員が言葉を失った。7年も前のことを?今更?
「いやいや、1年2年ならともかく7年も前のことなど、どうしろと言うのだ!記録を調べ直せば満足なのか。それとも墓でも暴けというのか!」
「陛下、亡命者の墓は共同墓地でございます。開けたところで、個人の分かるものは何も出てこぬかと」
「そもそも、そのようなこと、何故今になって言ってきたのか。ナード、その辺りのことは何か聞いておらぬか」
「それが理由については記されておらず……もしかすると柵のことを我々から指摘されたことに腹を立てたか……」
――子供か……。
誰も口には出さなかったが、皆、同じ気持ちだ。
「7年前はどうしたのだ。証拠として、髪の一房でも送ったのではないのか?」
「それが、流行り病にかかった者の遺物など、受け取る訳にはいかぬと、皇国側が拒否をいたしまして……」
「ならば、それで良いではないか!それが何故、今になって、そんなことを言ってくるのだ!!」
最初の疑問に戻ってきてしまった。それも、絶対に解けない疑問に。
「……腑に落ちない点はございますが、何もせぬという訳にもいかぬかと……」
ナードがそうまとめる。
「とにかく記録だけでも、もう1度見直して、その旨を送りましょう。治療院に関わることなので、医技官大臣にお願いしたいのですが、よろしいか。ヒロノア」
「それは構わぬが、しかし件の治療院があった場所は2年前に領地替えにあっておる。記録が残っていれば良いが……」
「亡命者についての記録が削除されていることはあるまい。今の領主は誰になるのだ?」
「は、ネイゴン伯爵公にございます」
「何、あそこもネイゴン卿の領地になるのか。随分と広げたものだな」
「最近、近隣諸侯の不祥事が相次ぎまして……。それを解決するのに卿が一役買っている模様にございます」
「なるほど。やり手な男なのだな」
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