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ブラックホーク ラメント
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「帰るぞ」
いつの間にか、再び降り始めた雨の中。
アリス、小町、エミリア、千里の四人は、無言で俺の後についてくる。
その全身をずぶ濡れにしながら。
「風呂に入るとしよう」
いつもなら勝手なことを言い出す四人も、今は俺に黙って従う。
五人で浴槽につかり、雨に冷えた身体を温める。
しかし心はなかなか温まらない。
「今日はもう寝るとするか」
それぞれの寝間着に着替えた四人は俺に従い、黙ってそれぞれの布団に入る。
「お休み」
「おやすみなさい」
四人の布団の中から、か細い返事が聞こえた。
すすり泣きが四方から聞こえる。
「お前ら、みんなこっちにこい」
その後、四方からのすすり泣きは、しがみつくような号泣に変わった。
それは先ほどのこと。
近くの山林に、明らかにこの国のものではない、UH-60系ヘリコプターが墜落してきた。
その場に居合わせた俺たちは、胞子力によってそのヘリコプター、通称「ブラックホーク」の火災を消火し、乗員三人を救った。
しかし俺にだってわかる。
彼らがここに存在してはいけないということくらいは。
多分極秘の飛行訓練か何かだったのだ。
夜間、しかもこれほどの山奥ならば、一般市民に目撃されることもないと判断されたのだろう。
しかし彼らは墜落した。
乗員達は、かろうじて生きてはいるが、意識不明の重体。
出血は見られないが、体内を相当やられているのであろう。
しかし村に医者はいない。
彼らを救うには、彼ら自身で彼らの基地にお帰りいただくしかない。
そして俺はそれをさせることができる。
強制的に「ブラックホーク」を「付喪化」させることによって。
だがそれは、アリス達に言わせれば
「愛する男を守るために、その目の前で見知らぬ男に犯されるようなもの」
だという。
しかし千里はブラックホークの意思を感じ、俺にブラックホークの付喪化を願った。
ブラックホークの、乗員達を救いたいという想いをすくい取って。
主輪シャフトの隙間へ強引にエネルギー充填を完了させると、壊れた機体は軍服を纏った女性の姿に変化していた。
束の間の沈黙。
すると目の前の、銀髪を短く切りそろえた青い瞳の女兵士が俺に頭を下げた。
「無理を言って済まなかった」
その後、女兵士は自らの分身を作り出し、手伝おうという俺たちの申し出も丁寧に断り、一人で乗員達を機内の担架に固定した後、自らの分身に乗り込んでいった。
最後まで無表情を貫いて。
自らの分身を駆るのだ。
彼女は日本の空など、苦も無く飛行していくだろう。
乗員達の命は多分救われる。
うまくすれば彼女自身も修理され、再び彼女が愛する乗員達を乗せて、大空を闊歩するのだろう。
だけどアリスは泣く。
小町は泣く。
エミリアは泣く。
千里は泣く。
飛び去って行った女兵士のために。
強制的に俺の付喪にされたブラックホークは、一般に「手に馴染む」と表現される使用者との「絆」を、永遠に失うことになってしまうらしい。
つまり彼女は「道具」としての幸福を、永遠に得ることができなくなってしまったのだ。
これはどうしようもない。
だからせめて思う存分泣け。
翌日は、昨晩とはうって変わっての青空が広がっている。
昨日の豪雨がまるで夢だったかのように。
何事もなかったように、四人とも起きだした。
小町とエミリアだけではなく、アリスと千里も。
小町が朝食の準備をし、エミリアが洗濯をしている間、アリスはパソコンを開いて何やらやっている。
「ちょっとボク、走ってくるね」
「おう、行って来い」
千里は多分昨日の現場に向かったのだろう。
幸いなことに、村人たちが昨日の出来事に気づいた様子はない。
村を襲った豪雨がうまく隠してくれたようだ。
「変わりなかったよ。跡には何も残されてなかった」
「そうか千里、ありがとな」
こうして普段通りの一日がまた始まった。
朝はあれだけの青空が広がっていたのに、昼過ぎには再び厚い雲が空を覆いだした。
「また降りそうですね」
「そうだな」
「ゲンボクちゃん、家に洗濯物を先に取り込んでくるからね!」
「ああ、私用外出を許可する」
「お惣菜も売り切れたの」
「そうか、それじゃあ販売所も終了だ」
「ゲンボクちゃん、台風が近くを通過するかもってさ!」
「そりゃまずいな」
よし、今日は早めにたたんで村を巡回してから帰るとしよう。
夕方から再び雨。
雨足が徐々に強くなり、風とともに壁を叩く音も徐々に大きくなっていく。
今日の夕食はコロッケ。
小町に言わせると「台風の日はコロッケ」らしい。
なんだかよくわかんねえけれど。
台風に備えて、今日は晩酌をやめておくとする。
すると俺は妙な気配を感じた。
千里も同様に感じたようで、俺と同じ方向を見つめている。
誰かが玄関に立っている。
この土砂降りの中で。
しかしそれ以上は進もうとしない。
ただただ立っている。
何かに迷うように。
悲しい気配を俺と千里に伝えながら。
千里がそっとドアを開けると、そこにはあの女兵士が立っていた。
土砂降りに打たれ、表情を切なそうにゆがめながら。
千里が女兵士を家に招き入れた。
すぐにアリスも反応し、たっぷりのタオルを用意してくる。
「こんなに濡れてしまって……」
続けてエミリアが、急いで着替えになるようなものを持ってきた。
「ほら、とりあえず着替えな」
間をおかずに小町がカップを持ってきた。
「ホットミルクにしたの。あったまるの」
ホットミルクを口にして、こわばりが取れたのだろうか。
「すまない」
それが女兵士がやっと絞り出した第一声だった。
その後、ぽつりぽつりと彼女の言葉が続く。
少しずつ何かを吐き出すように。
そして彼女が話し終えた後、アリスは彼女の頭をその胸に抱えていた。
女兵士はそれを拒絶することもなく、ただただ無言で涙を流していた。
彼女は無事に乗員達を彼女たちの基地に連れ帰った。
恐らくは、彼女が適切な応急処置をしたのだろう。
途中で乗員達の意識が戻ったらしい。
しかし重体の彼らは安全のため、身体を固定されている。
だから彼らは多少なりとも自由になる目と耳で感じた。
自分たちを救ってくれようとしている存在が何者なのかと。
Valkyrie
乗員の誰かが、そうつぶやいた。
ブラックホークの帰還後、基地の救護班は直ちに乗員達の病院搬送を始めた。
そして当然気づく。
このヘリに搭乗していったのは三名。
ここで安全固定されていたのは三名。
では誰がこのヘリを操縦してきたのだ?
すぐさま基地内では戒厳令が敷かれた。
侵入者捜索のために。
一方で女兵士は三人が無事救護されたのを確認すると、その身を本体に戻した。
ある山中に墜落した本来の姿へと。
整備班は驚愕した。
残されたヘリの無残な姿に。
飛行できるはずもないその姿に。
そしてそれは兵の間で、まことしやかに囁かれることになる。
「奴らは戦乙女に救われた」と。
彼女は無残な本体の姿のまま、格納庫にその身を横たえていた。
修理班を待ちながら。
修理後に再び彼女を大事にしてくれる搭乗員たちと、大空を駆け巡ることを夢見ながら。
見知らぬ男の付喪となってしまったことも忘れてしまったかのように。
しかし絶望はふいに訪れた。
速やかな解体。
それが彼女の身に下された決定事項。
さらには彼女の解体を耳にした乗員三名が、車椅子姿で格納庫に立てこもり、身を挺して彼女の解体に抵抗したところ、彼らは精神に異常ありと診断され、強制帰国が決定された。
彼女には何も残らなかった。
衛生兵によって強引に連れ去られていく乗員達が、彼女に向けた最後の叫び以外には。
それは彼らの最後の願いだったのだろう。
Valkyrie, Be free!
彼女はその凛とした姿を己の分身と共に現した。
そして基地内が騒然となる中、分身に乗り込んだ彼女は、乗員達が押し込められた精神病棟に飛来し、操縦席からその雄姿を彼らに披露した。
彼らに向けた感謝の微笑みとともに。
そして彼女は飛び去った。
背後からの対空攻撃をあざ笑うかのように躱しながら。
勝利の女神が戦場を見捨てるかのように。
黒き鷹の嘆き を残して。
いつの間にか、再び降り始めた雨の中。
アリス、小町、エミリア、千里の四人は、無言で俺の後についてくる。
その全身をずぶ濡れにしながら。
「風呂に入るとしよう」
いつもなら勝手なことを言い出す四人も、今は俺に黙って従う。
五人で浴槽につかり、雨に冷えた身体を温める。
しかし心はなかなか温まらない。
「今日はもう寝るとするか」
それぞれの寝間着に着替えた四人は俺に従い、黙ってそれぞれの布団に入る。
「お休み」
「おやすみなさい」
四人の布団の中から、か細い返事が聞こえた。
すすり泣きが四方から聞こえる。
「お前ら、みんなこっちにこい」
その後、四方からのすすり泣きは、しがみつくような号泣に変わった。
それは先ほどのこと。
近くの山林に、明らかにこの国のものではない、UH-60系ヘリコプターが墜落してきた。
その場に居合わせた俺たちは、胞子力によってそのヘリコプター、通称「ブラックホーク」の火災を消火し、乗員三人を救った。
しかし俺にだってわかる。
彼らがここに存在してはいけないということくらいは。
多分極秘の飛行訓練か何かだったのだ。
夜間、しかもこれほどの山奥ならば、一般市民に目撃されることもないと判断されたのだろう。
しかし彼らは墜落した。
乗員達は、かろうじて生きてはいるが、意識不明の重体。
出血は見られないが、体内を相当やられているのであろう。
しかし村に医者はいない。
彼らを救うには、彼ら自身で彼らの基地にお帰りいただくしかない。
そして俺はそれをさせることができる。
強制的に「ブラックホーク」を「付喪化」させることによって。
だがそれは、アリス達に言わせれば
「愛する男を守るために、その目の前で見知らぬ男に犯されるようなもの」
だという。
しかし千里はブラックホークの意思を感じ、俺にブラックホークの付喪化を願った。
ブラックホークの、乗員達を救いたいという想いをすくい取って。
主輪シャフトの隙間へ強引にエネルギー充填を完了させると、壊れた機体は軍服を纏った女性の姿に変化していた。
束の間の沈黙。
すると目の前の、銀髪を短く切りそろえた青い瞳の女兵士が俺に頭を下げた。
「無理を言って済まなかった」
その後、女兵士は自らの分身を作り出し、手伝おうという俺たちの申し出も丁寧に断り、一人で乗員達を機内の担架に固定した後、自らの分身に乗り込んでいった。
最後まで無表情を貫いて。
自らの分身を駆るのだ。
彼女は日本の空など、苦も無く飛行していくだろう。
乗員達の命は多分救われる。
うまくすれば彼女自身も修理され、再び彼女が愛する乗員達を乗せて、大空を闊歩するのだろう。
だけどアリスは泣く。
小町は泣く。
エミリアは泣く。
千里は泣く。
飛び去って行った女兵士のために。
強制的に俺の付喪にされたブラックホークは、一般に「手に馴染む」と表現される使用者との「絆」を、永遠に失うことになってしまうらしい。
つまり彼女は「道具」としての幸福を、永遠に得ることができなくなってしまったのだ。
これはどうしようもない。
だからせめて思う存分泣け。
翌日は、昨晩とはうって変わっての青空が広がっている。
昨日の豪雨がまるで夢だったかのように。
何事もなかったように、四人とも起きだした。
小町とエミリアだけではなく、アリスと千里も。
小町が朝食の準備をし、エミリアが洗濯をしている間、アリスはパソコンを開いて何やらやっている。
「ちょっとボク、走ってくるね」
「おう、行って来い」
千里は多分昨日の現場に向かったのだろう。
幸いなことに、村人たちが昨日の出来事に気づいた様子はない。
村を襲った豪雨がうまく隠してくれたようだ。
「変わりなかったよ。跡には何も残されてなかった」
「そうか千里、ありがとな」
こうして普段通りの一日がまた始まった。
朝はあれだけの青空が広がっていたのに、昼過ぎには再び厚い雲が空を覆いだした。
「また降りそうですね」
「そうだな」
「ゲンボクちゃん、家に洗濯物を先に取り込んでくるからね!」
「ああ、私用外出を許可する」
「お惣菜も売り切れたの」
「そうか、それじゃあ販売所も終了だ」
「ゲンボクちゃん、台風が近くを通過するかもってさ!」
「そりゃまずいな」
よし、今日は早めにたたんで村を巡回してから帰るとしよう。
夕方から再び雨。
雨足が徐々に強くなり、風とともに壁を叩く音も徐々に大きくなっていく。
今日の夕食はコロッケ。
小町に言わせると「台風の日はコロッケ」らしい。
なんだかよくわかんねえけれど。
台風に備えて、今日は晩酌をやめておくとする。
すると俺は妙な気配を感じた。
千里も同様に感じたようで、俺と同じ方向を見つめている。
誰かが玄関に立っている。
この土砂降りの中で。
しかしそれ以上は進もうとしない。
ただただ立っている。
何かに迷うように。
悲しい気配を俺と千里に伝えながら。
千里がそっとドアを開けると、そこにはあの女兵士が立っていた。
土砂降りに打たれ、表情を切なそうにゆがめながら。
千里が女兵士を家に招き入れた。
すぐにアリスも反応し、たっぷりのタオルを用意してくる。
「こんなに濡れてしまって……」
続けてエミリアが、急いで着替えになるようなものを持ってきた。
「ほら、とりあえず着替えな」
間をおかずに小町がカップを持ってきた。
「ホットミルクにしたの。あったまるの」
ホットミルクを口にして、こわばりが取れたのだろうか。
「すまない」
それが女兵士がやっと絞り出した第一声だった。
その後、ぽつりぽつりと彼女の言葉が続く。
少しずつ何かを吐き出すように。
そして彼女が話し終えた後、アリスは彼女の頭をその胸に抱えていた。
女兵士はそれを拒絶することもなく、ただただ無言で涙を流していた。
彼女は無事に乗員達を彼女たちの基地に連れ帰った。
恐らくは、彼女が適切な応急処置をしたのだろう。
途中で乗員達の意識が戻ったらしい。
しかし重体の彼らは安全のため、身体を固定されている。
だから彼らは多少なりとも自由になる目と耳で感じた。
自分たちを救ってくれようとしている存在が何者なのかと。
Valkyrie
乗員の誰かが、そうつぶやいた。
ブラックホークの帰還後、基地の救護班は直ちに乗員達の病院搬送を始めた。
そして当然気づく。
このヘリに搭乗していったのは三名。
ここで安全固定されていたのは三名。
では誰がこのヘリを操縦してきたのだ?
すぐさま基地内では戒厳令が敷かれた。
侵入者捜索のために。
一方で女兵士は三人が無事救護されたのを確認すると、その身を本体に戻した。
ある山中に墜落した本来の姿へと。
整備班は驚愕した。
残されたヘリの無残な姿に。
飛行できるはずもないその姿に。
そしてそれは兵の間で、まことしやかに囁かれることになる。
「奴らは戦乙女に救われた」と。
彼女は無残な本体の姿のまま、格納庫にその身を横たえていた。
修理班を待ちながら。
修理後に再び彼女を大事にしてくれる搭乗員たちと、大空を駆け巡ることを夢見ながら。
見知らぬ男の付喪となってしまったことも忘れてしまったかのように。
しかし絶望はふいに訪れた。
速やかな解体。
それが彼女の身に下された決定事項。
さらには彼女の解体を耳にした乗員三名が、車椅子姿で格納庫に立てこもり、身を挺して彼女の解体に抵抗したところ、彼らは精神に異常ありと診断され、強制帰国が決定された。
彼女には何も残らなかった。
衛生兵によって強引に連れ去られていく乗員達が、彼女に向けた最後の叫び以外には。
それは彼らの最後の願いだったのだろう。
Valkyrie, Be free!
彼女はその凛とした姿を己の分身と共に現した。
そして基地内が騒然となる中、分身に乗り込んだ彼女は、乗員達が押し込められた精神病棟に飛来し、操縦席からその雄姿を彼らに披露した。
彼らに向けた感謝の微笑みとともに。
そして彼女は飛び去った。
背後からの対空攻撃をあざ笑うかのように躱しながら。
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黒き鷹の嘆き を残して。
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