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樽の上の少女
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今日のベースキャンプは、たまたま探索集団の集合と重なったのだろうか。
十数人のおっさんやにーちゃんどもが喧騒と共にたむろしている。
何やら騒然とした雰囲気に、アージュたち三人は普段よりも遠い位置でマジカルホースから降り、ベースキャンプの様子を見ながらゆっくりと近づいていった。
いつもは樽に腰かけているイーゼルとかいう少女も、今日は雰囲気に飲まれてなのか、樽の裏に隠れてしまっている。
そんな中、団長のパドが三人の姿を見つけると、主にアージュに対して声をかけてくる。
「おう、今日も来たか」
「パドさんまいどー」
「元気があってよろしい!」
アージュもパドの調子に合わせて返事を送る。
しかし会話は副団長ツァーグによって遮られた。
「団長、それどころじゃないでしょうが!」
いらつくツァーグの様子に何か起きたのだろうと推測した三人は、一旦マジカルホースを停止させ、おとなしく待っているかのような体で、聞き耳を立て、おっさんどもの動向を探ることにする。
ツァーグはアージュ達にも構わずおっさんどもに怒鳴っている。
「で、行方不明になったのはフンフとゼクスの二人で間違いないんだな!」
「へえ、副団長」
どうやらおっさんどもの中に行方不明者が出たらしい。
ツァーグに返事をした全身金属鎧で重装備のおっさんが、おどおどとした様子で報告を続ける。
「いつものように荒野を探索していたときに、フンフの野郎が便意をもよおしたんでさ。で、さすがに危なっかしくて一人で行かせる訳にはいかないもんで、ゼクスも見張り代わりに一緒に行かせたんです。ところがちいっとも帰って来やしねえ」
「で、どうしたんだ?」
いらつくツァーグにおっさんは焦りながらも報告を続ける。
「余りにも戻ってこないもんで、様子を見に行かせたら、二人とも消えていたんでさあ」
どうやらうんちをしに行ったおっさんと、その立会にいったおっさんが姿を消してしまったらしい。
それも何の痕跡も残さずに。
「あいつら逃げやがったか?」
パドがそう唸るも、ツァーグは首を左右に振る。
「フンフもゼクスも家族を組合で預かっていやすからね。そうそう逃げるわけがありませんや」
それに同調するかのように重装備のおっさんも首を縦に振っている。
「それじゃあハイエナハウンドを見つけて、それを追っかけていったか?」
「可能性とすればそっちの方でしょうな。獲物に見つからないために隠密で行動したってところでしょうや」
ツァーグの分析にパドはふんと鼻を鳴らすと、重装備のおっさんの方に身体を向ける。
「ってこたあ、こいつが無能ってことか?」
「そうっすね。ハイエナハウンドが出たなら、ここは移動せずにフンフとゼクスを待ちの一手でさあ。それをのこのこと帰って来やがってこの馬鹿野郎は」
途端に重装備のおっさんが顔を青くし、全身を震わせる。
「そ、そんなあ。二人も欠けちまったら、パーティとして機能しませんぜ! それをいつまでもあんな身を隠す場所もないところで待ってはいられませんや」
「ならこっちに使いを出せばいいだけだろう? 馬鹿が」
同時にパドは、右の拳をハンマーのように振り下げた。
ごきん。
哀れ重装備のおっさんは、頭にかぶった兜ごと、その頭をパドの拳につぶされてしまったのである。
やれやれといった様子で肩をすくめたツァーグは、目の前で起きた惨劇に直立不動の姿勢となっている連中に次の指示を出す。
「パーティを再編するぞ。まずはフンフとゼクスの後を追う。団長、それでいいっすね?」
「おう、任せた。それじゃあ俺も前線に行くとするかな」
続けてツァーグはアージュ達の方に振り返った。
「こういう訳でな、今は忙しいんだ。今日は悪いがサービスってことで明細と現品の照合は、お前達で済ませてくれ」
ツァーグに次回の発注書を手渡されながら無言でうなずく三人の様子を一瞥すると、パドは一味に宣言した。
「よっしゃあ、行くぞお前ら!」
ということで、パドはおっさんどもを引き連れて荒野に向かって行ったのである。
「さて、どーすっか」
「とりあえずお仕事を済ませちゃおうよ」
残されたアージュとクラウスはナイと三人で荷物を降ろすと、キャンプの中に商品を広げ、明細にチェックを入れてゆく。
現品を読み上げるのはナイ、チェックを入れるのはクラウス。
その間にアージュはテントの裏に回った。
いつの間にか、再び樽の上に腰かけ空を見つめている少女にアージュは話しかける。
「おいお前、お前はどーすんだ?」
が、少女は反応しない。
ただただ空を見つめるだけ。
「お前、イーゼルとかいったな。ここでなにしてんだ?」
すると少女は名前に反応するかのようにアージュの方に無言で振り向いた。
ふーん。
透き通るような白い肌、さらさらと流れる銀の髪に深紅の瞳。
ワンピースから伸びるほっそりとした真っ白い四肢は、今にも折れそうに見える。
しかしよく見ると白い肌はあちこちに赤い腫れを残している。
「お仕事……」
「何の仕事だ?」
「ここにいるの……。団長と遊ぶ……。皆と遊ぶ……。団長が言うから……」
そう呟くと少女は、アージュに興味を失ったかのように再び空を見上げ始める。
……。
「アージュ、終わったよ!」
「アージュ、これからどうしますか?」
……。
よっしゃ。
「ナイ、クラウス、ちょっと手伝え!」
アージュは二人に指示を出すと、目の前の少女に襲いかかったのである。
十数人のおっさんやにーちゃんどもが喧騒と共にたむろしている。
何やら騒然とした雰囲気に、アージュたち三人は普段よりも遠い位置でマジカルホースから降り、ベースキャンプの様子を見ながらゆっくりと近づいていった。
いつもは樽に腰かけているイーゼルとかいう少女も、今日は雰囲気に飲まれてなのか、樽の裏に隠れてしまっている。
そんな中、団長のパドが三人の姿を見つけると、主にアージュに対して声をかけてくる。
「おう、今日も来たか」
「パドさんまいどー」
「元気があってよろしい!」
アージュもパドの調子に合わせて返事を送る。
しかし会話は副団長ツァーグによって遮られた。
「団長、それどころじゃないでしょうが!」
いらつくツァーグの様子に何か起きたのだろうと推測した三人は、一旦マジカルホースを停止させ、おとなしく待っているかのような体で、聞き耳を立て、おっさんどもの動向を探ることにする。
ツァーグはアージュ達にも構わずおっさんどもに怒鳴っている。
「で、行方不明になったのはフンフとゼクスの二人で間違いないんだな!」
「へえ、副団長」
どうやらおっさんどもの中に行方不明者が出たらしい。
ツァーグに返事をした全身金属鎧で重装備のおっさんが、おどおどとした様子で報告を続ける。
「いつものように荒野を探索していたときに、フンフの野郎が便意をもよおしたんでさ。で、さすがに危なっかしくて一人で行かせる訳にはいかないもんで、ゼクスも見張り代わりに一緒に行かせたんです。ところがちいっとも帰って来やしねえ」
「で、どうしたんだ?」
いらつくツァーグにおっさんは焦りながらも報告を続ける。
「余りにも戻ってこないもんで、様子を見に行かせたら、二人とも消えていたんでさあ」
どうやらうんちをしに行ったおっさんと、その立会にいったおっさんが姿を消してしまったらしい。
それも何の痕跡も残さずに。
「あいつら逃げやがったか?」
パドがそう唸るも、ツァーグは首を左右に振る。
「フンフもゼクスも家族を組合で預かっていやすからね。そうそう逃げるわけがありませんや」
それに同調するかのように重装備のおっさんも首を縦に振っている。
「それじゃあハイエナハウンドを見つけて、それを追っかけていったか?」
「可能性とすればそっちの方でしょうな。獲物に見つからないために隠密で行動したってところでしょうや」
ツァーグの分析にパドはふんと鼻を鳴らすと、重装備のおっさんの方に身体を向ける。
「ってこたあ、こいつが無能ってことか?」
「そうっすね。ハイエナハウンドが出たなら、ここは移動せずにフンフとゼクスを待ちの一手でさあ。それをのこのこと帰って来やがってこの馬鹿野郎は」
途端に重装備のおっさんが顔を青くし、全身を震わせる。
「そ、そんなあ。二人も欠けちまったら、パーティとして機能しませんぜ! それをいつまでもあんな身を隠す場所もないところで待ってはいられませんや」
「ならこっちに使いを出せばいいだけだろう? 馬鹿が」
同時にパドは、右の拳をハンマーのように振り下げた。
ごきん。
哀れ重装備のおっさんは、頭にかぶった兜ごと、その頭をパドの拳につぶされてしまったのである。
やれやれといった様子で肩をすくめたツァーグは、目の前で起きた惨劇に直立不動の姿勢となっている連中に次の指示を出す。
「パーティを再編するぞ。まずはフンフとゼクスの後を追う。団長、それでいいっすね?」
「おう、任せた。それじゃあ俺も前線に行くとするかな」
続けてツァーグはアージュ達の方に振り返った。
「こういう訳でな、今は忙しいんだ。今日は悪いがサービスってことで明細と現品の照合は、お前達で済ませてくれ」
ツァーグに次回の発注書を手渡されながら無言でうなずく三人の様子を一瞥すると、パドは一味に宣言した。
「よっしゃあ、行くぞお前ら!」
ということで、パドはおっさんどもを引き連れて荒野に向かって行ったのである。
「さて、どーすっか」
「とりあえずお仕事を済ませちゃおうよ」
残されたアージュとクラウスはナイと三人で荷物を降ろすと、キャンプの中に商品を広げ、明細にチェックを入れてゆく。
現品を読み上げるのはナイ、チェックを入れるのはクラウス。
その間にアージュはテントの裏に回った。
いつの間にか、再び樽の上に腰かけ空を見つめている少女にアージュは話しかける。
「おいお前、お前はどーすんだ?」
が、少女は反応しない。
ただただ空を見つめるだけ。
「お前、イーゼルとかいったな。ここでなにしてんだ?」
すると少女は名前に反応するかのようにアージュの方に無言で振り向いた。
ふーん。
透き通るような白い肌、さらさらと流れる銀の髪に深紅の瞳。
ワンピースから伸びるほっそりとした真っ白い四肢は、今にも折れそうに見える。
しかしよく見ると白い肌はあちこちに赤い腫れを残している。
「お仕事……」
「何の仕事だ?」
「ここにいるの……。団長と遊ぶ……。皆と遊ぶ……。団長が言うから……」
そう呟くと少女は、アージュに興味を失ったかのように再び空を見上げ始める。
……。
「アージュ、終わったよ!」
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……。
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